Nランク[のじゃロリ天使姫]に転生した! 作:何処にでもある
ソシャゲに限りませんが、広く冒険する場合だと消えがちです。
帰宅が目標の主人公を数えたらきっと一大勢力が作れると思います。
エラトリア ワトシト皇國
精霊歴2000年 冬 「不可逆の時代」
「──無い」
吹雪の中、ヤマトがそう言い切る。
改変前の望みは絶たれていたと、そう認めた。
「そうだったらこの話は──」
「だから、今から創る」
だが──その程度で諦めるなら少し前に幾らでもチャンスが転がっていた。
ヤマトは己の心臓に手を当て──"白い炎の刀を抜き出した"。
燃える手も構わずに、リフターへと歩み寄る。
「わぁお…アンタ、スターの奴まで倒してたのね?」
「当然だ。時系列としてお前達「ディストリカ」が将軍より先に居る以上、失敗者を崇める集団として倒すのはお前達になる。どうだ? 他にある筈もないだろう」
「あら、今だと憲兵どもが代わりをしてくれてるわよ。集団の規模は寧ろ上がってると思いなさい」
「そうか」
ヤマトがリフターの背に浮かぶ円盤に白炎の刀を添える。
「で、何をするつもり? まさか、私をこの場で殺すのが今あなたが考えた最高の作戦って訳じゃないでしょうね?」
「不正解。やるのは脅しだ」
「あら、私にどうこう出来ると思ってるの?」
「出来るだろう。隠しているのは糸を見れば分かる」
リフターがため息を吐く。食えない奴だ、こちらの隠し事をサクサクと見破って白状するように迫って来る。
本当に改変前に自分を倒した相手なのだと、実感が遅れて湧いて来るような出来事だ。
「……はいはい降参。全く、ここに所属出来るように結構頑張ったってのに、これで何十年はあそこに一歩も入れない日々になりそうね」
「済まないが手段を選ぶ気はないんだ。永遠に燃やす神の火で永久に苦しみたく無いなら、嘘も隠しも無く喋れ」
「せっかちね、今直ぐ助けたい誰かでも居るっての?……あぁその顔、マジでそういう話なのね」
情報をサクサクと読みられるが、この場合は話が早く済んで助かるだけだ。
ボウっと炎の勢いを増やし、ヤマトは無言で催促した。
「まずは知識確認ね。異能が引き継がれる段階は?」
「3段階。センの『脳の眼』と『指の先』は其々2段階。死ねば終わりだ」
「そこで諦める気は?」
「ない。が、元々仲間意識はなくても有ったら助かる類いの力だ。お前なら助けるだろう」
「じゃあ結論から、センは確かに死んでるわ。但し、元から死体に転生する奴だったから、初めから生きてもいないって注釈が付くけど」
サクリと前言の意味を覆す言葉が加えられる。
やはり食えない奴だと、ヤマトはリフターのペテンの評価を上げた。
「といっても「
「完全に死んでいる。しかし意識は有る……あぁ、"普段の失敗者と同じ状態か"」
「御名答、100点中8点を付けてあげるわ」
「落第点か、辛口評価だな」
ヒントを出す前にそのくらい思いついて欲しかったわね。と、リフターはそういって肩を竦める。
期待していた程ではなかったと、多少は丁寧に解説する事にして…。
今後ヤマトに自分から会いに行く気が、リフターの中から消えた。
「異能は4文字まで成長すると、異能持ちに不死性を与える。輪廻すら好き勝手に出来る失敗者のようにね」
「だがアイツは2文字を二つだろう。成立するのか?」
「"普通はしない"。だけど"あの組み合わせならする"。そういう訳よ、理由は分かるかしら?」
リフターが問いかける。
『脳の眼』と『指の先』、この二つを組み合わせれば擬似的に不死に至れる。
魂すら壊されようと存続する精神的な不死性を。
それを……ヤマトは答えるのを放棄した。必要ないと断じたのだ。
「答えを知る必要はない。俺の大事な者を助けるのに必要な情報ではないだろう」
「それはどうかしら? もしかしたら片方には必要かも知れないわよ?」
「くど──」
「"持ち主の肉体に影響を与える、または受ける場合、異能は持ち主を異能の一部品と看做す"。言うだけ言ったから、私はもう責任取らないわよ」
「………」
早口にそう言うと、リフターはヤマトの望んだ説明に取り掛かった。
「物理的に有る物を異能にすると、それも破壊しないと異能は消えない。一部品となった本人も異能が消えない限り消えない。そうやって持ち主が消えないなら…完全に死なないなら、幾らでも蘇る手段はある」
リフターが影から取り出した砂時計を割ると、中身の砂がセンの遺体に降り注ぐ。
「起きなさい、アンタの友人お手製よ」
ギュルルル!
その言葉が皮切りとなったように遺体の時間が巻き戻り、赤子を経由して自分達より随分と
「ここは……」
「グッモーニング、セン。ベル秘蔵の"時間をたっぷり蓄えた砂糖"よ。望み通り"白炎に呪われてて家族愛のある奴"が来たから復活させてやったわ」
「あぁ……ああ、あれがこれで…なるほど……分かった。改変前の私は上手く伝言を残せたみたいだね」
センがリフターから貰った紐でボサボサの髪を纏めつつ、浮かせた円盤を傘にしてヤマトの白炎で暖を取る。全裸に大雪は流石に厳しいらしい。
「セン、約束は覚えているか?」
「異能の
「アンタも律儀よねぇ? あのまま数千年は寝てても良かったじゃない」
「リフターよりはちゃらんぽらんだよ。寝心地が良かったのは否定しないけど」
全てが順調だ。
ヤマトは今までの空振りがなんだったのかと思うほど上手く進む現状にそう強く思う。
機会を掴めるこの糸を見る眼がどれだけ凄まじいのか、今になって実感を強くしていた。
同時に、これに慣れてた自分に危機感も覚えた。
「だけどセン、アレはそこまで丁寧にやってやる必要は無いんじゃないの? 自分で時間を浪費した癖に今更焦るような、夏休みの宿題を最終日にやるような子供よ?」
「今はみんな子供だからいいんじゃ無いかな? どうやらその年齢の奴、カッカとしがちになる所があるようだし、心は広く持とう」
「あ、待った」
引っ掛かる言葉があったのか、ここまで静かに経過をみていたフィアが手を挙げた。
「よければ持ち主が死んだ場合の異能の効果の行方を教えて欲しい。例えば年齢の固定とヘイローは異能だと知っているが、これは死んだら解除される物なのかい?」
「場合によるが、コレは"死ねば解除される"かな。それがどうかした?」
「そっか。……ヤマト、良かったね」
「ん?……あ!」
言われて気づく。
この事実が確かなら、ルシファーは間違いなく生きているからだ。
『Normal』は死んだら解除される。だから身体が小さくなっている今は生きている。
「ナイスだフィア! 俄然希望が見えてきたな!」
「そうかい? えへへ、ヤマトの役に立ったなら嬉しいかな!」
これは希望だ。
俺が出来ることがあるという証明だ。
ヤマトは自分の四肢に熱が籠るのを実感した。
「そうと決まれば──今直ぐ乗り込むとしよう」
白炎の刀を消して、センに使わない大人用の服を、リフターに手持ちの特殊銃弾を明け渡す。
これで準備は万全だとばかりに、ヤマトは装いを旧式の学生服……寓話世界を巡った時の格好へと切り替えた。
「あー…オッケー。
「まぁまぁ、自分から言ったのだからそれで良いだろう。それで助かる命も有るかもだ」
そんな事を言われつつ、転生者に是非は無いのかどちらもヤマトの近くに寄ってきた。
お互いに手を差し伸ばしている辺り、本拠地に行くには手を繋がないといけないらしい。
ヤマトは戸惑う事なく2人へと手を伸ばして掴むと、2人の背に浮く円盤がぼんやりと光り始めた。どうやら始まったらしい。
「許可はこの状態でお互いに4分触れていること。しばらくはこうしてなさい。時間になったら一瞬だから」
「それと、今のうちにそこの子と別れは済ましたらいい。意識は一瞬でも、これは片道3ヶ月は必要な転移だから」
「……そんなに必要なのか?」
「奇襲を仕掛けるならこの方が良いわ。早く行ける転移も有るけど、一発でバレて弾かれるわよ?」
「え、つまり帰るまで最低半年って事かい!?」
「異能には常識を変えるものがそこそこある。その対策として講じられたのがこの転移時差だ」
「色々と異能の影響を受けないようになる経路を通るそうよ。転移早々に戦うのも珍しく無いから、その為のバフ……全国神社巡りみたいな霊験を積むものと思いなさい」
「………つまり?」
「"何かと転生者に都合の良い転移"。これに対する疑問は全て転生者に都合の良い解答が用意されていると思ってね」
そんなのでちゃんと異能者に対応出来るのか。
だからってなんでそんな頓珍漢な仕組みになったのか。
聞きたいことは沢山あるが、転生者らしいルーズな時間感覚だとも同時にヤマトは感じた。
「安心なさい、転移中は"意味なく寿命が減ったりしない"わ。やろうと思えば
「ヤマトはそのままに僕が一方的に歳をとるってことじゃ無いか!」
「どうせこれから先の長い神の身体だし少しくらい多めに見て。先立たれるよりはマシでしょ」
「それ半年飛ばした所で焼け石に水ってそうなのかい!? 確約されたのは初めてだ!」
「この子面白いわね」
「長生きだし数千年は顔を見せても良いかもだ」
「クソデカ単位!」
転生者……いや、長命者特有の時間感覚っぷりを発揮しつつも時間はあっという間に過ぎ去り、2人の円盤がより強く輝き始めた。
そろそろ時間だとフィアを渡すべき物や学校の単位を取る為の影武者の召喚と配置を済ませると……最後に、フィアがヤマトの背中に抱きついて来た。
「フィア、巻き込まれ──」
「生きて帰って来てくれ。……僕はそれ以上、望まないから」
「──……」
そうして言われたのは、ヤマトを案じる思い。
少しだけ意外に思いつつも、ヤマトは少しだけ笑って後ろを向い──。
「────ぷは…約束だよ」
「──勿論。生きて帰ってくるさ」
菜の花の味を口に残して、ヤマト達は転移する。
いつの間にか大雪の勢いも収まり、辺りには顔を赤らめたフィアと、少しだけ積もった雪道と、こんこんと降る雪だけがあった。
「……絶対だからね」
雪の中にそんな言葉が混じり溶ける。
しばらくして、其処には小さな子供の足跡だけが残るのだった。
エラトリア ワトシト皇國
精霊歴2001年 春 「不可逆の時代」
……時間は元に戻ってルシファーが我が子に気付いた頃。
産む決意を固め、改めてトイレのドアを開けた場面に戻る。
ガチャ ガッ!!
「転移成功ね?」
「早急に済ませよう。猶予は1時間あれば良い方だ」
「ルシファーはど──」
バタン
ルシファーが扉を開けたらヤマト達が居た時の感想を述べよ。
ただし、1人で全てを騙し切ろうと決意した直後に起きたものとする。
「……えぇ?」
答えは、思わず閉じたけど開けた方がいいか…? である。
トイレの扉を開ける度に状況が変わるという珍体験に思考が追いついてないまま、そうやってしばらく悩み……再び開けた頃には、気絶した監視役と廊下への扉だけが残ることとなった。
「……機を逃したのじゃ」
うーん、やっちまったかも知れない。
そう思うがもう遅い。仕方ないので廊下に出てヤマト達を探す事となった。
「おーい…おーい? ヤマトらー何処へ行きおったー?」
廊下を一見した感想としては、雪山のセン達が居た場所に似てるというものだ。
先程まで居たアンティークな客室と打って変わり、近未来的な外装と露出した配線があり、あちこちで青白い光…粒子を漏らしている配管がある。
ヤマト達が無意味に暴れるはずもないので、元からこういう感じだったのだろう。
「うーむ…何処を行っても気絶して倒れてる者しかおらぬ。似たような景色ばかり……というか同じじゃな」
無機質で無骨な施設だからか何処に行っても景色は同じで、同じ場所をぐるぐると回っている感覚にルシファーは陥った。
まるで画面端でループするステージを回ってる気になり、試しに倒れている者の顔を覚えてから進むと、また同じ姿勢で倒れている者がいる。
其処で顔を覗いてみれば……なるほど、先ほどの者と全く同じ顔だった。
「……ふぅむ。無限ループというやつか。どうすれば出れるじゃろうか」
ここは転生者の基地だ。兄弟揃って転生者の身体になるとも思えない。
ではどうすれば出れるかと見渡せば、特徴的な青い粒子が最有力候補だろう。
触れるのは勇気が居るが、このままだと埒が開かないのもまた事実だ。
ルシファーは意を決して青白い光に指先で触れた。
「──うおあ!? と、と、と……」
急に足場が変わって崩れたバランスをなんとか取り戻し、辺りを見渡す。
どうやらあの光は転移出来る設備だったらしい。周囲は一変し、無骨な通路から百合の匂いが満ちた泥沼の部屋へと変化した。
「ここは…──」
「……客」
何処だと続けようとすると、誰かがルシファーに声を掛けた。
この部屋の主かと思い振り返ると……其処には、口と目元から泥を垂れ流し続ける少女が居た。
「……室」
「ほう、客室か。其方も歓談を受けているのじゃな」
「……の……ふ……り……を……し……た……収……容……室」
「よし、妾が喋るのは待ってやる。喋り終わったら手をOKマークにせい」
とてもゆっくりとこくりと頷いた泥吐きの少女に、ルシファーが近寄る。
目隠れの黒髪ポニテが特徴の……見た目は高校生くらいだろうか。ルシファーの異能の影響を弾いているのか、妊娠もしておらず背も高い女の子だった。
「私は星花百合香。ずっと昔から生きてる『星泥藍花』の異能者。貴女は誰?」
本来ならこの一文の間にも凄まじい間延びがあるのだが、其処を飛ばして纏めるとこうだ。
喋り慣れてない点を除けば、礼儀正しい普通の女の子みたいだとルシファーは感じた。
どう聞いてもスロー再生されたような喋りを聞いての感想である。
「妾はルシファーじゃ。異能を持っているだけのしがない天使じゃよ。訳あってこの施設を巡ってお迎えに会わねばならなくなっての、其方は何か知らぬか?」
「知らない。私はここを出ると全てを泥で飲み込んじゃうから出られない。貴女以外誰も来てはないよ」
「そうか。ならば出口を教えて欲しいのう。妾にはそんなに時間が残されておらぬのじゃ」
1時間もしない内にバレて騒動になるとは扉を閉める前に聞いたセンの言葉だ。
何処まで正確かは分からないが、急いだ方がいいのは確かだろう。
そう聞くと百合香は天井を指差す。そうして上を見て、ルシファーはその高さに驚いた。
「のじゃ!? めっちゃ天井が遠い!」
「泥を納める箱。泥が積み重るとその内私が触れて、新しい部屋になる。それを限界まで繰り返して、出来るだけ長く収容されている」
どうやらここはとても大きな筒のような形状の部屋らしい。
彼女から溢れる泥を可能な限り溜め込み、長く収容する。それを目的とした構造だった。
「なるほどのう…あそこまで飛べればよいのじゃな!」
「……う……ん」
「ならば容易いことよ。ちと身体は重いが……その分沢山翼を生やせばよいか」
忘れがちだが、ルシファーに生えている翼は本来魂を食べ続けたせいで数えきれないほどある。
普段は程良いサイズの1対を残して謎空間に仕舞っているが、やろうと思えば全身から翼を生やした怪物にだってなれるほどの翼を持っているのだ。
バサ バサッバサバサバサバサ!!!
「 う わ あ あ あ………」
「む? ちと驚かせてしまったか? まぁ直ぐに何処か行くから安心せい。じゃあの、とう!」
足に4対、腕に1対、頭に1対、髪を左右に分けて生やして1対、背中にもう6対。それらの翼から更に翼が幾つか生えて合体、倍々の大きさへと成長した。
ルシファーのちょっと本気を出した飛行形態である。見てくれのいい範囲での本気であった。
「えーと…ああ、アレじゃな? 確かにあの青白い奴があるのじゃ」
そんな風にあっという間に天井に辿り着いて転移すると、百合香が転移する予定先と思われる場所に着いた。生活させる気のない殺風景な筒の中ではあるものの、何回か繰り返せば外に出られそうな気配を感じた。
問題は一々飛ぶのが面倒な事である。先ほどの感覚なら3分も経てば天井まで行けそうだが、それは中々に骨だ。
「……うむ、一々羽ばたくのも面倒じゃな。一っ飛びで行けるように翼を出そうかの」
もう驚く人も居ないので、ルシファーは虚空に仕舞った翼をバサバサと出し切る。
「──! ────!」
(ババァーン! いっとけジャンプ〜!)
肌のあらゆる場所から翼が生え出て、翼から更に翼が生えて──遂には5m程の…まるで卵のような姿となった。大き過ぎてぎゅうぎゅうである。
「────!」
(さぁゆくのじゃー!)
よく聞けば内側でモゴモゴとした声が聞こえるものの、それても翼に阻まれて具体的には聞こえない。
前も見えないので、こうなると乱暴に飛ぶ以外の全てが行えなくなる欠陥飛行形態である。
別名、グルグルジャンプ。方向感覚が分からないので全自動で全てを壊しながら進む形態だ。
ルシファーも初めて使う形態である。
────ドッ!!
プァァァァ──────!!!
その後の事は語るまでもないだろう。
超高速下で転移が多重に発動した上に位置ずれを起こし、一瞬で28個の収容施設が崩壊。
「────…────ー!」
(なんじゃあ今色々ぶつかった気がするのじゃが……あ、ちょ、なんか溶け始めた! 覚えとるぞ、これ翼が繭になった時の奴じゃ!)
それに気付かずに…というより、ルシファーも自分の翼に閉じ込められ動けなくなってしまった。
そうやってぐだぐだとして……ルシファーがわちゃわちゃしている間にも、不時着した収容室の住民は近付いて来る。
「…ありゃあ、こんなとんでもない出会いだから異能のせいかと思えば、そうでないと来たか。こりゃとんでもなく不運な奴に会っちまったにゃあ?」
『良縁巡願』、右肩に茶色のぶちの入った白猫がそう言って翼の塊をポンポンと叩く。
とりま久々の爪研ぎとばかりに翼で研ごうとしていると、翼の塊が通った道からひょっこりと……いや、どさりと髭を蓄えた老人が転げ落ちてきた。
「にゃーにゃーどうした夢の」
「いや…ついに夢を見ちまったかと思ったら現実でびっくりしてた」
「夢にも思わねーにゃこんな爪研ぎにも使えないふわふわ翼ロケット」
「だよな……どうすればいいと思う?」
「老人と猫が揃ったらやる事は一つだろ。昼寝にゃ」
「それやったらわしの異能が発動するんじゃよねぇ…」
『明晰夢現』、患者着を着こなした老人はそう言って頭をぽりぽりとかいた。
彼らの言う通り夢のような景色だが、生憎と馬鹿1人が後先考えずにぶっ飛んだ結果である。
大人しく収容される気のある者達にとっては迷惑なものでしかなく……逃げ出したいと思っていた者にとって、これは良い機会だった。
《おーおー、しょぼくれた奴らが時間を殺してるでねーの》
「あ、劇場の。今日も適当なキャラを再演しているな」
「今日はなにをするつもりじゃ?」
《計算されきった美しい終末──は、出始めがクソ展開だから無しだ。今は変わらねーよ》
『再演劇場』、肩に棘付きアーマーを付けたモヒカンがそう言って、中指を立てながら翼の塊に手を添える。ずぶりと、翼は抵抗も出来ずにその手を沈めた。
《だが、この女王ちゃんはおもしれー題材だ。キャラをハンコ絵にしやがる異能が頂けないが、それは存在した事実が役に立つ。作品にするのに申し分ない》
「流石世界の法則を異能で追加した人でなしだ。会話する気が一切ねーにゃ」
「ま、よいじゃろ。わしが夢を見るのとさしたる違いのない異能じゃ」
《あんだとぉ? 再演した寓話を観させて
「「
《だからこうして
ずるりとルシファーが『再演劇場』に引き摺り出され、抵抗も出来ずに身体を溶解させられる。
再演で産まれた全ては根本的にこの者の異能によるものだ。この程度訳なく行えて……その腹辺りに残った"赤子のなりかけ"に溶けた全てを注ぎ込んだ。
明らかにその小さな身体に似つかわしくない体積はするりと取り込まれ、赤子はぐんぐんと成長し、瞬く間に9歳程度の見た目になる。
赤い一房を持った金髪の少女は、1対の黄金の翼で自分を包んで静かに寝息を立てていた。
何処となくルシファーとヤマトのどちらにも似ている少女で……魂を見ることができれば、無垢な魂を包むようにしてルシファーの魂があることに気付けるだろう。
それがどんな意味を持っているかは……作り手だけが理解できる事だった。
《死にたがりの娘転生、
「どうする? 席を立つか?」
「わしは付き合うことにするが、これはコイツの手癖を感じるから楽しめん。後に続く話に期待するわい」
《知り合いの厳しい批判が効くなぁぁ! ご注文承りぃぃ!!》
3人の興味が失せたのかルシファー……もといミカエルを放置して、何処かへと転移する。
「う…
(…誰じゃあお主は)
ところで、流れるようにルシファーとミカエルを一つの身体に加工した『再演劇場』だが、たった今彼にも想定外の事態が発生した。
「えっと……わ、分かんないや……」
(じゃろうな今自分でも疑問にしてた所じゃもんな)
ミカエルに拙くも人格が芽生え、ルシファーから肉体の所有権を取り返した事である。
母親と自分の破滅願望で揺れ動く様を主軸にするつもりが、子供の方が有利な立場になったのだ。
仮にここで『再演劇場』が踵を返していれば、それはそれはさぞかし苦渋に満ちたうめき声と発狂をした事だろう。
彼は自作に想定外な事が起きるのが大嫌いなのだ。
「えと……あなたは? すがたが見えないけど……」
(え? あー…"友達"じゃよ。うん。その髪に見覚えがなくもないが、まぁその線は無かろうしな。友達でよい)
ルシファーは適当に誤魔化す事を選んだ。分からないと言わない見栄を張ったとも言う。
どうしてこうなったかは謎の手が掴んでから気絶したので知らないが、取り敢えず
「へぇ、友だちなのは分かったけどさぁ…顔は見せないの?」
(落としたから見せられんのじゃ。今はお主の翼辺りから観とるよ)
「へぇーおっちょこちょいだね! 分かった、顔を見せないふけいは見すごしてあげる!」
(……お主なんか妾に似とる気がするのじゃ)
「でもずっと後ろにいるふけいはゆるしてあげない! おうちにかえったら手りょうりの刑にしょす!」
(気のせいじゃったわ)
そうやって2人が話し込んでいる間にも、28人の異能者が各々と集まって出来た9つのグループが好き勝手に動き始めた。
やろうと思えば即座に世界を壊せる者達が、散歩気分で出歩く様子は裏ボスラッシュと言っても差し支え無い光景であり、この事に気付いたワトシト皇國の転生者は泡を吹いて駆け回る事となった。
(で、何するつもりか? 自分も分からぬのじゃろ? 自分探しなら旅にでも出るか?)
「んー…たびー…それもおもしろそーだけどー…わたし、ここから出ておうちにかえりたい!」
(ほう、記憶喪失なのに帰りたいと申すか)
「それで、はやくパパとママに会ってみたい! まずはそこからかなー?」
(さよか。ならば妾も手伝うとしよう。なに、ここは物騒じゃからな。そのくらいは手伝ってやる。お主、名前は?)
「んー? み…みー…かー…かえる! わたしはかえる! だよ!」
(カエルかぁ…お主の親…とんでもない名前を付けたのぅ、顔を見てみたいわい)
「わるく言っちゃ、メ!」
(おーこりゃすまぬな)
この日、転生者と異能者達にとって最も長い一日が──ミ…かえるにとっても長い一日が始まる事となったのだった。
OC「[檻の世界]『再演劇場』という現象」
今日に至るまで異能として現存し続けている現象。最早生物としての名前や自我すら無くし、演目という概念として世界に自らを組み込んでいる。
その姿と言動は錯覚であり、見た者が目の前で起きる不可解な現象を無理やり理由付けした結果。その為挙動に不自然な箇所が沢山ある。
その為今回ルシファーの身に起きた事も、「演目」という未知なる挙動に不幸にも巻き込まれただけに過ぎない。
性能としては「落下した世界」を「寓話世界」にして「演目」を行うだけ。稀に特定個人を狙ったような異常が発生する。