Nランク[のじゃロリ天使姫]に転生した! 作:何処にでもある
ドールズフロント〜…のような量産による複数人体制が前提だと、途端に人員は数字として処理され始めます。
慣れればなんてことありませんが、Nランクのルシファーには身をつまされる話です。
エラトリア ワトシト皇國
精霊歴2001年 夏 「不可逆の時代」
『例えばじゃ。文字通り世界すら虜にする芸術家が"本来得られる栄光"を悪魔に捧げたとして、それはどれ程の対価になる?』
「あぐぅ…!」
グサリと黄金の剣が倒れたミカエルの脚に突き刺さると、血が滲み、剣の表面をぬらりと染めていく。
『答えは"世界一つ分の「価値」"じゃよ。そうあらねば等価ではない。妾が実態を得たように、この剣が本物となったように……世界が芸術家の作品に合わせて変じる程じゃ。ならば、その「価値」は世界と等価であると言える』
ルシファーが剣を抜くとそこからどくどくと血が零れ、地面に広がり……一定まで広がった辺りで、全て巻き戻るようにして、刺し傷以外の傷も修復された。
『加えて──それが栄光どころか、"芸術家としての全て"ならば……どうであろうなぁ? 他者の評価は芸術家にとっての9割じゃ。
ルシファーは後ろを振り向いて、ミカエルを守ろうとしてぼろぼろとなったサクラの心臓に突き刺す。
『あやつが悪魔に捧げたのはそういう物よ。契約書に書かれた666番目の小さな小さな…蟻の様に小さな文字によって、"ほぼ世界一つ分の「価値」"は悪魔の手に渡り、芸術家は悪魔の粗雑な檻に囚われた』
手足は千切れ、今にも死に至ろうとしていたサクラの身体は、それだけで完璧に修復された。
全ては筆の力による物で、その神すらも羨む指先の御業だった。
『妾
口惜しいとルシファーは言う。
"自分こそがルシファーなのに、自分の身体を奪った相手を憎む"。
その身体を創り出した主のこれまでの苦しみに、我が事の様に怒り狂う。
『……本当に、皆が狂ってるのじゃ。何故誰も芸術家に神を、偶像を観る? 其方らが創る
疑問を呈して、ルシファーが剣をやたらめったらに振るう。それだけで家共々巻き込まれ、斬られた者達も修復されていった。
『……不条理じゃろう。理不尽じゃろう不合理じゃろう不自然じゃろうが!! その末に、その末に王とは名ばかりに拷問されて? 一服盛られて子供作ってそれに満足して死ぬ? はっ? 何処の悪魔じゃそんな結末を考えたのは!!』
憤怒に染まり、色欲の結末への嫌悪のままに、傲慢に声を張り上げる。
『そんな有り合わせの者共より、妾達の方が子に相応しいじやろうが…!』
そして嫉妬のままに、強欲にも憂鬱染みた言葉を小さく洩らした。
今日に至るまで怠惰にも誰1人として芸術家に指を掛けられなかったのに関わらず、暴食の如き欲望を発露させた。
『……泣くのはやめじゃ』
やがてルシファーが目元に溜まった涙を拭い、剣になっていた筆に新たな作品を纏わせる。
太く、厚く、処刑に適したものへ。
斧の刃だけとなって宙を浮かび、傷が治って立ちあがろうとする2人の頭上へと付き従う。
「くっ…ここまでなの?」
サクラが諦め気味に呻き声を出す。
『
処刑の斧が、ダモクレスの大剣が、傲慢な者達へと振り下ろされようとして──。
「ねぇ、それってママにちゃんと話したの?」
ミカエルの言葉により、ルシファーの振り下ろそうとした手は止まった。
『なんじゃと?』
「ママは言ってたよ。ごかいはつみ重なるもの。1つほどけるよりも、重なる方がはやい。だけど、それが火のこになるのなら、ぜったいにほどくのを諦めちゃダメだって」
それはルシファーがかえるの"友だち"として過ごした時間の言葉。
心から意味で理解出来ずとも言葉だけは覚えておくようにと、言い含めていた教えだ。
……正確にはミカエルがそう解釈しただけの、ルシファーの独り言だったが。
「ママの子ならできるよね? できないなら…わたしはあなたをぜったい、ぜったい、ぜーったいに! みとめてなんかやんないから!」
『………ならば、問うてみようか』
拙い挑発だった。無視すればそれだけで終わる言葉。
しかし、それを無視するのはルシファーの矜持に関わる。
正しい評価をされないのをトラウマにさえ感じているルシファーに、その言葉を無視する選択は存在しなかった。
『我らが芸術家よ、その意をここに示せ』
筆に戻し、ルシファーは一線を敷いてこの場を囲い込む。
これより先は芸術家の世界だと、世界に譲らせる為に。
そうして宙に絵が描かれ会話する為の
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「どうでもよいのじゃ」
『身も蓋もなしか』
「ママ、開まくにそれはないよ」
「無責任が過ぎない?」
「や、だって…のぅ?」
全部聞かされた上で言わせて貰うけどさ、俺としては寝耳に水なんだよな。
悪魔が実は悪い奴だったとか、世界中の幸福とか、自分には才能があるとか。
もう死んだも同然まで来たんだからブレる訳無いだろ。初志貫徹が大事なんだって。
「当たり前のことではないか、
『
「そうれ見ろ、
『…はっ!?』
「同音異句、それだけでこうなるのじゃ。それなのにどうしてお主は自分が誤解しておらぬと信じておる?」
それ見たことか。正しく認識してると豪語した奴も、ちょっと会話しただけでご覧の通り。
これは意図的にやったからまだ分かりやすいが、本番はもっと複雑で難解で、気付けるかも定かじゃないんだぞ?
それなら初めから自分に都合のいい場所は放って、悪い所だけそれっぽく直すのが関の山というとのだろう。
『何故じゃ!? 妾は確かに誤解なく……』
「愚か者が。一度も会話した事のない相手をどうして誤解なく理解していると言える」
『ならば今後千年言葉を交わせば……!』
「愚か者が。幾度も会話した相手をどうして
『詰んでるではないか!』
「詰んどるよ。だから妾は対価に差し出したのじゃ」
『……あっ』
初めから言ってるぞ、どうせ誤解ばかりなんだから差し出した所で問題はないって。
もしかして、それを答えだと思わずにこんなことをしたのか?
だとしたらご苦労だな、お疲れ様。どうせこんな代償なくてもお前らはそんなもんだったよ。
「そも、結果が全ての界隈じゃぞ? 結果に出なければ無いも同然、存在しない。
だからって自作が駄々を捏ねるのは想定外だったけどな。
このルシファーだって作品の設定なのか、本人が作品に入ったかも分からないし……まぁ本人として扱うけど、同時に自作としても扱うか。
自作なら何でも従う義理は消えるしな。
「じゃが作品に意思が宿るとは思わなんだ。それは本当に驚いたぞ? 素晴らしい、妾の想定を超えるとは。駄作確定じゃな」
『えっ』
「何を驚く? 観る者が不評を出せば暴れる意思なぞ、有った所で駄作になるだけじゃろうが」
まぁ、意思が有ってこそ完成するなら話は変わるけどな。
後は殺しの道具とかな。あれは意思があれば基本便利になる物だし。
「故に、最初に言った通りの感想となる。
以上、俺の意見でした。
どうして日々の食う分だけで満足しない奴が多いかな。
特に芸術品なんて生活に苦労する必要も無いのに。其処に在るだけでお仕事出来てるんだぞ?
目の前で称賛する人々で満足しておけよそこは。人様に迷惑をかけるんじゃ無い。
『…………くく』
…言いすぎたか? 駄作でも争いたい訳じゃないんだが。
やっぱり自分に都合良く、愛されてると勘違いさせたままの方が良かったな。
悪戯に誤解を解いてもこうなる訳だし、不幸しか産まない。何事も塩梅だわ。
「ではサクラとミカエルよ、ヤマト達が来るまでの時間を稼ぐ用意をするがいい」
『アーッハッハッハハハ!!!』
「万の思いが燃え盛り、千の言葉が捨てられて、百の信頼が崩れ、十の矜持が消失し、たった一つの暴力が全てに成るからのぅ?」
その間俺はヤマト達をここに連れて来るとしよう。適当に放り込んだせいで取り出すのに時間が掛かりそう──。
パリーンッ!
それは実に見事なガラスの破壊音だった。
空間が割れて、其処からヤマトと橙が飛び出る。
何をしたのかは一目で分かった。その世界を創ったのは自分だったから。
バグらせたのだ。文字通り"世界が壊れる
どう異能を創ったか? 元は橙の成り代わり能力じゃないか? 今まで成り代わった相手をしっかり数えられるくらい覚えてれば、それは情報の集合体として扱える。
後は一文字の名前を付ければ良い。センを見つけるなんて将軍の立場なら余裕そうだしな。思い切った判断だ。
まぁ、どうあれだ。
「──斬るべき相手は」
「目の前に。祝福はいるか?」
「"もう貰った"」
ヤマトは振り返らずに聞いたので、一言だけ返してやる。今後の手助けは要らないそうだ。
あれだけ執着していた癖に、いざ本人を前にすると格好付けるんだな。
いいね、そういうの。男の子って感じがする。これでこそ安心して死ねるってもんだ。
『──吐いた言葉、後悔はないな?』
それをずっと見ていたルシファーが最後の確認をした。
数多の作品が、その意思に追従した者達が現れる。
邪魔なのでこっそりルシファー1人に纏めた。よし、バレてないな。
「一点の曇りもなし──かかって来い、確認は終えたのじゃ」
さて、一家勢揃いでパーティだ。
自分の席に座るなら歓迎しよう。
席を立ちたいなら外に行って、このパーティからは旅立とう。
俺が1番に旅立つからさ、今度こそ全員後を追いかけるなよ。
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血が流れた。
『………はっ?』
「つまり…けほっ…いの一番に死ぬのは妾じゃ…それは…譲れんな」
ルシファーが血を吐いて、よろめき倒れる。
今度こそ死ねると、眼を瞑る。
当たるつもりのない何気ない攻撃に、徐に近付く凶行だ。
「…誰が死んでいいと言った?」
「ダメか。婚約の祝福を拒まれたのなら死んでも良いと解釈した故、この一度で成功させたかったんじゃが…」
「ミカエル、サクラ、コイツの様子を見ててくれ。油断すると死のうとするから」
「はい! ほらママ立って!」
「よいしょ…! もう、駄々捏ねてないで避難して!」
「のじゃあ…会話出来るように生身を創ったのは失敗じゃったか…」
回復するまでもなく、ルシファーの身体が癒ていく。
ルシファーに命令されて創った、再生力のある身体が裏目に出ているのだ。
その為かズルズルと、少しだけ雑に引き摺られた末にルシファーは端っこの電柱に括られることとなった。
さもあらん。これではその内流れ弾で死んでいるだろう。
『……気を取り直して』
《"妾は拘束された事に腹を立て、脱出し領域外に逃げる"》
しかしこの程度で捕まってくれるならルシファーはとうの昔に死んでいる。
半分以上自業自得な側面があるのは伊達ではないのか、本人の望む正反対に進む才能は最早異常な領域だ。
普通言葉一つで四面楚歌をくぐり抜けられないし、肉体も魂も無いのに復活したりしない。
彼女がこっちの方が死ねるかもと思って進んだ道は、いつだって死中の活なのだ。
「捕まえろ!」
『…ええい、気が散る! 逃げるでないわ!』
《"バカめ妾はお主の姉妹作じゃ"》
「幻術か!」
『増え……うざっったいのぅ!?』
カバディで立ち塞がるルシファーそっくりの作品達を破壊し、辺りを見渡す。
《"のじゃー"》《"ブランコじゃー"》「"逃げろー!"」《てやんでい!》《"転んだ。痛いのじゃ"》《かくれんぼなのじゃ》《"柵登るのじゃ"》《"のじゃのじゃー"》《"大丈夫なの?"》「"風船みっけたのじゃ!"」《"飛ぶぞー"》「"戦隊組むのじゃー"」《"じゃ"》《"の"》《じゃ》《"な"》………
『……幾らなんでも筆が速すぎじゃろ!?』
「わぁ、ひとりかってみたーい!」
「…頭が痛くなるな」
「バカな…加速しながら描いている!?」
「そもそも異能化して使えないが…全員成り代わり防止付きだな。無駄に凝ってるぞ」
「代わりに俺の召喚は使えるようになった。手札には困らんだろう」
三体のパチモンを見た時から何となく感じていたが、予想通り其処には沢山のルシファーがあちこちで好き勝手している光景が広がっていた。ルシファー渾身の速筆である。
殆どがほぼそっくりさんレベルであり、何人かはあからさまにエラー品の様子や見た目が変なものも居て…上振れたのか、かなりのクオリティの物もある。
「…どうする? このままだと母上を見つけるのは不可能だ」
「自分の芸術家としての力量を理解させたのが不味かったな」
『妾の失敗じゃと言うつもりか?』
「その通りでしょう」
『なんじゃとぉ?』
誰が悪かったか、誰のせいでこうなったか。
元々今から殺し合いをしようとしていたのもあるのだろう。
増えたルシファーをよそに、剣呑な雰囲気になっていく。
それぞれが武器に手を添え始めた。
「あーもー…! あらそってる場合じゃなーい!」
《"じゃなーい"》
そこにミカエルが一喝し、再びバラバラになろうとしている会話を食い止めた。
手乗り人形サイズのパチモンルシファーが便乗するオマケ付きである。
「それって今話さないといけないこと? そんなだからママが怒ってこんなことをするんじゃないの? わたしよりも大人なのに、どうしてそんなことも分からないの!」
《"のかー"》
ミカエルがぷんすこと、本人の愛らしい容姿と相待って和やかな光景にも見えるが…本人としては大真面目な話だ。
「パパ!」
「…なんだ?」
「ママがこんなに死にたがってるのに、どうして支えないの? 生きたいって思わせられないの?」
「ぐっ…」
「パパならママをだいじにしてよ! お前が居なきゃダメだって、そのくらい言ってよ! なんで突き放すの!」
ヤマトはそのまま押し黙った。ヤマトは頼るより頼られたいタイプだ。
だからこそルシファーから求められれば即座に応じるし、助けなく事態を解決しようとする。
対してルシファーは基本頼らない。いつだって孤立している中、自力で解決してきた。頼る、任せる選択肢がそもそもないのだ。
その噛み合わせの悪さも時間が有れば自然と噛み合う類いだが…今回に置いてそれは致命的だ。ルシファーが死にたがってる時にそんな姿を見せれば、死後の全てを任せるという下手な頼り方をして……現に、今まさにそうなっているのだ。
「にーに!」
「…あ、俺か」
「しょーぐんをやってたならこのくらいまとめてよ! パパとママに甘えすぎ!」
「ぐっ…!」
「パパが言ったらなんでも正しいの? そんなわけないじゃん! パパだよ?」
橙は納得した。元々ただの学生だった者よりも大将軍として成し遂げた自分の判断の方が正しい。
そう言われてみればそうであると、頷く他無かった。
「…俺もしかしてかなり悪く見られてるか?」
『ざまぁないのぅ?』
「ホンモノ!」
『妾か。この際じゃ、聞いてやる』
「もう1人でやって行けるんだからママからどく立しようよ。いい年した大人でしょ?」
『………今妾の事ニートと言ったか?』
「ううん、違うよきせい虫。不出来な兄姉ってかんじだよ。ママのやさしさにつけこんでイキってたらおこられてかんしゃく起こしてる人」
『んな……言わせておけば!』
ルシファーが剣を振り下ろそうとするが、サクラの薙刀によって防がれる。
1番近くに居たからこそ、何度も受け止めたからこその即応だった。
「サクラおばさん!」
「おばっ…⁉︎」
「守ってくれてありがとう!」
「あ、いえ……え、それだけ?」
「……? だってやれることやってるし、手をつくしてるよね」
「力が無ければ責任もない…か。歯痒い話ね…」
「強いて言うならこつひつを前にあせりすぎ? わたしもだけどさー?」
自分も最初は骨筆を見て殺してでも手に入れたいと思ったものの、今にして思えば余りにも早まった判断だった。
親の言葉や場の空気に支配されたと言い訳出来なくもないが……苦しい言い訳である。
それならば全員悪かったで終わらせるのが1番だろうと、ミカエルは判断を下した。
パン!
柏手一つ。ミカエルがやった事だった。
「はい、はんせーおわり! 分かったらママにあやまって、いっしょに居たいって言いに行く! 行くよー!」
《"よーのじゃ"》
ずんずん先に進むミカエルとそれに着いていくルシファーに、ヤマト達も着いていく。
既に場の空気はミカエルが支配していた。
『待て、妾はまだニートと認めた訳じゃ──』
「"封印" "拘束" "無気力"…サッサと行くぞ、ニート」
「俺が引き摺ろう。背が低い故かなり痛むだろうが…穀潰しには丁度良いだろう」
「ここぞとばかりにヤマト兄ちゃんが塩対応だけど…売られた先で不満たらたらにして製作者の所に帰りたがる芸術品だから……ごめん、擁護が思いつかないかも」
『貴様後で産まれた事を後悔させる目に遭わせ』
そうして全員で探すことになり、一先ずルシファーが展開した芸術空間の外周から探す事となった。そうすれば自然と追い込み漁が出来るという算段である。
「うわぁ、助けてくれー!」
《"じゃー!"》《しにとうなかろうてー!》「"逃げよー!"」
「しかし…そうなるとこいつらは厄介極まりないな」
「案の定糸の眼も無効化されている。厄介な対策だ」
「その上やたら質の高い偽物も居るときた。普通にやっても逃げられるのがオチか」
しかしそうなると厄介になるのがこの有象無象のルシファー達である。粗製濫造甚しい数であり、異常事態の避難が遅れた者を見かけてはその後ろに付き纏う始末。
本物を見つけるにしても、再現度100%の見分けの付かない者もあると思うと、到底終わりの見えない作業だろう。
「あーくそっ! お前ら"どっか行け"!」
《"のじゃ?"》《のじゃー!》「"さよならじゃ!"」
「へ…? いや、今のうちに…!」
「……ほう?」
そうして橙がヤマトと一緒に観察していると、避難の遅れた者の掛け声に従う瞬間があった。
「そこの」
《"じゃ?"》
「"俺の後ろについて来い"」
《"らじゃ!"》
「ほう…ほうほうほう?」
「どうした橙、
「──否、軍を見つけたのだ」
「……ああ、案外命令を聞く類いだったか。"沈黙"」
試しに近くのルシファーに指示を出せば、橙の後ろで立ち始めたではないか。
こうなると大体の察しが付くのがヤマトである。周囲を黙らせる魔道具を併用し、橙の声がよく届くように整えた。
「すぅーーっ……」
「────俺に従え」
《"のじゃ!"》《"じゃ!?"》「"じゃ!"」《へい!》《"分かったのじゃ"》《着いてくぞ》《"じゃ!"》《"じゃの"》《"らじゃ"》「"けー"」《"へーい"》「"のじゃー!"」《"じゃ"》《"の"》《じゃ》《"な"》………
言葉はそれだけ。しかし、それだけでルシファーの紛い物達は多くが集まり、橙の後ろに列を作った。これならば一々潰さずとも見分けは簡単だ。従わなければ本体か高再現個体、従ってもその内集めて纏めて炙り出しだ。
「あの身体はあくまでも"この領域だけ"のもの。どうやってもここからは出られない。これなら確実に捕まえられる」
「それなら全員で手分けとしよう。本物は俺が連れて行く」
『妾をお荷物扱いとは不けもがもがもが……』
「必要になったら解放しよう」
そうして漸く見えた光明に全員が精を出して四方から集めていき……遂に1人の、ルシファーを見つけ出した。
《"見つかったの"》《"これで終わりじゃな"》《"はかなしじゃ"》《"上手く行って良かったのぅ"》《"なんだかめでたいのじゃ"》《"良かった良かった"》
「……見つかってしもうたのぅ」
「ああ、漸く追い付いた。もう離しはしない。俺にお前は必要なんだ」
「これでも"海くらいは見たい“と思っておったが…ふむ、叶いそうにもないか」
「なら、みんなといっしょに見ようよ。家族といっしょにさ! いっぱいお話しよう!」
連作達が各々喋る中、十字路の真ん中に立つルシファーが空を見上げる。
四方をヤマト達が囲んで追い詰め、上には召喚された天使達が立ち塞がる。
これ以上の逃げ場は確かにないだろう。
「しかし酷なものよな。死を望めば遠ざかり、嫌えば近付く。漸く手に入れたと思えば引っ張り出され、共に居る事を望まれる」
「将軍の時によく見た光景だな。死神は捻くれ者だ。そうして悲しむ者がどれだけいたか……それと比べれば母上はまだやり直せる。漸くツキが上向いたのだ。ほんの少しだけでもいいから俺達と一緒に居てみないか?」
深呼吸をして、目一杯の現世を謳歌する。
ルシファーと名付けられたにも関わらず早朝と黄昏を見る事も叶わないとは。
いや、ここで"騙してしまえば"全て叶うか?……どうやら創造主は随分とお優しいらしい。
「──それには及ばぬ。妾は嘘を吐くほど、純粋さを捨てた訳ではないのじゃ」
だが…その優しさに甘んじる程、妾は主を軽んじている訳ではない。
『「…あ、まさか!」』
サクラと本物が気付いたようだが……"もう遅い"。
そもそも今の主は骨筆なのを忘れてないだろうか。
今頃ワトシト皇國のワトシト海側か、秦周国辺りに居るんじゃないかな。
主に嘘と共に渡された選択肢──この場全てのルシファーを自爆させる為のマッチを取り出した。
《"見つかっちまったのぅ、姉妹よ"》《"もう妾達も終わりじゃな"》《"これで儚く散り、墓無しの身じゃ"》《"主の作戦が上手く行って良かったのぅ?"》《"ま、めでたいのではないか?"》《"良かった良かった、妾達を集めさせる誘導が上手く行って"》
知能が低いフリはもうしなくても良いからか、口々に主語を加えて呟く。
うん、お疲れ様。短い間だったけど、みんなよくやってくれたね。
「またな、姉妹達よ。地獄の底でまた会うのじゃ」
《"ばーか、とっととくたばれ"》《"どうせ粗製濫造じゃしな!"》《"来世がある方が奇跡じゃて"》《"そも地獄があるのか?"》《"やってみねば分からぬよ"》《"どうせならばブランコのある世に行きたいのじゃ。あれは楽しかった"》
姉妹達が4人に後ろから飛び乗る。
直ぐに斬られ、刺され、潰されるが、それで自爆が止まることはない。
そもそもが絵の具の身体だ。この自爆以外で死ぬ事がない。
だからぐちゃぐちゃになっても元に戻るし、痛みも我慢して笑って話し合いながら飛び乗れる。
妾に出来るのはその苦痛を止めるだけ。決して死なず、しかし治りの遅い火傷を与える事だけだ。
「じゃあの、厄介者共。その生に妥協の幸福と呪いあれ」
お前らが居なければ妾達は産まれなかった。
お前らが居たから妾達は死ぬ道を選んだ。
しかし後悔はない。主に相応しくないと判じ、命を投じたのは妾達の意思じゃ。
幸福も不幸も、どちらだとしても、主の自由を剥奪するならば決して赦さず。
故にその思い、箱庭の愚民共が抱く偶像と変わらぬと判ずる。
よって──半殺しの刑に処す。
妾は、灯したマッチを飲み込んだ。
とある街角に、純白の柱が昇り上がった。
[ルシファー著の作品群]
2、
基本的に完成即販売なので、大多数の作品は歴史の中に消えている。
しかし中には意思持ったり宿ったり媒介にされたりで、厄介な物も少なくない。
そうして時間や空間を飛び越え、縁を辿ってルシファー本人の元へ辿り着いた連中は特にヤバい者達で構成されている。
それでも骨筆になるまで接触が無かったのは、黄金の悪魔の力だろう。ルシファーの魂そのものに小細工をしていたようだ。故に魂を捨てると即座に接触する。
3、
とはいえ、その大半は長きに渡って親しまれ、大事にされてきたのは間違いない。
その為かルシファーは自作から親愛と感謝をされているのが殆どであり、制作物に死ねと命じても従うのはこの人望のお陰。
本人は全く興味がないが、精神的に親だと思っている物はかなりの数になるだろう。
どう思いながら創ろうと、前世から素で持っていた才能と、入れた魂の調和は本物という訳だ。