Nランク[のじゃロリ天使姫]に転生した! 作:何処にでもある
N「[黄金の愚王]ルシファー」
追記2、
……と、設定されたルシファーの作品。「エラッタ」のルシファーでは決してない。
しかし、最初から本物のルシファーっぽく芸術家の脳裏で主張していたのは間違いなく彼女である。錯覚ともいう。
最初に彼が本来のルシファーもいる気がしていたのはその為。
故にその在り方も彼の知っているルシファーの範疇を出ず、作品として出すに相応しくないとずっと芸術家がずっと創ろうともしていなかった。
要するに「アイディア段階で破棄した作品未満」「芸術家の中のルシファー像」が彼女の正体である。
もしかすれば、芸術家が「姉妹」という作品を創ったのは、「前に創ったかどうか覚えおらぬが、改めて作品として創ってやったぞ。寂しくないよう沢山な。これで満足するのじゃ」という意思の表れかもしれない。それはそれとして自爆手段も持たせてたが。
追記3、
それ故か骨筆となったルシファーに干渉する依代として、彼女は自ら不満を持った作品群に乗っ取られた。ある意味転生されたとも、本来乗っ取られる筈だった
本編に出た彼女はそういう濁りであり、不満のある作品達の代表なのは確かだろう。
そんな端金程度の存在が何故身代わりとして成立したかは……「電子レベルで縮小化された寓話世界」に変えた芸術家の方針の余波である。「小さくなっても存在出来る」とは、「元々小さな物が存在として確立出来る」という事だ。
エラトリア ワトシト皇國
精霊歴2001年 秋 「不可逆の時代」
「やぁヤマト!…に、サクラにミカエル君に橙君! 今日もお見舞いに来たよ!」
「「「「いえぇあ〜」」」」
「うーん、いつ聞いても腑抜けた声だ!」
それは偽ルシファーが自爆をかましてから3ヶ月の時間が過ぎてからの事。
4人揃って全治4ヶ月の怪我を負い、結局ルシファーを見つけられなかった事で、4人は随分と腑抜けてやる気のない存在に落魄れていた。
「てきとーにそこら辺に置いといてくれー」
「もう、そんなんじゃ治る怪我も治らないよ? ほら、いまから果物の皮を剥くから、それ食べてシャンとする!」
「分かってるさ、分かってる…」
りんごのうさぎが皿に並び始めるをぼーっと見ながら、ヤマト達はぼんやりとした頭であの日の事を思い返していた。
……探しに行かないのかと言われるかも知れないが、生憎偽ルシファーはヤマト達に骨筆の行方は何一つ伝えて居ない。
渡り鳥に括り付けた所で夏にやっても意味が無く、丁度今くらいの秋までは近所の鳥の巣に居ると思い付く情報がそもそも無いのだ。
因みにその鳥の巣はこの病院の裏手側である。実にすれ違いであった。
そして先日サクラとの一年間の
バササ!
「ほら、よく言うだろ? 病は気から、いつだって気合いがあればなんとかなるものなんだから……──」
まぁ、今知った所でその鳥は丁度西へ飛び立った訳だが……フィアの方をぼーっと見てて見逃したヤマト達には関係ない話だろう。
ルシファーは骨筆になる前にヤマトの糸の眼を対策していて、眼に見えない機会をヤマトは基本取り逃す物だ。
機会が見えるとは、見えない機会を伺い探るやり方を忘れるのと同義な訳なのだから。それに頼る周囲もまた同じである。現に、こうして腑抜けたのはそれが理由なのだから。
ピョーーロロロ……──
「うん? 渡り鳥か。この鳴き声の鳥は確か……ま、いっか。他に楽しみなことは沢山ある。僕の時間も有限だし……それより聞いてよ、昨日僕の友達が教室で流しそうめんを…──」
こうして4人は穏やかで退屈な時間を過ごし、退院する事だろう。
召喚で呼べたNルシと本物のルシファーはどちらもあの自爆で消え失せた。
面影は次第に薄れ、過去の関係は緩やかに消えて行く。
前を向けるようになるのは何年後か定かではないが……それも遠くない未来だろう。
ルシファーの前世がそうだったように、家族が欠けても人生は楽しめるのだから。
ピョーーロロロ……──
とある山の奥深く、大森林に似合わない木漏れ日のある木の家の前。西洋のオシャレなお茶会の片隅に、渡り鳥は羽を休めようと降り立った。
「…あ、渡り鳥だ。それもすごく珍しい子、しかも筆を背負ってる固有個体。ネームドだネームド」
「あら、これはまた随分と大人しくて、無警戒な子ねぇ? そんなんじゃわるーい獣に食べられるわよ?」
「わ、可愛い……撫でさせてくれる?……あ、すごいいい子。何処かの飼い鳥だったのかな」
1人は呆れながら眺め、1人は渡り鳥の頭を撫でて、1人は少し貸してくれと……センは、渡り鳥が背負った筆を借りて眺めた。
人の骨、縁が絡まり過ぎて呪詛と化した様相。これではどんな良縁でも、その重さで持ち手が死んでしまうだろう。
興味が湧いたので転生特典の『脳の眼』を使おうとして……この未知はそのままの方が良いと、筆を鳥に返した。
「……ありがとう、これは返すね。うん、面白い物を見させて貰った。お礼に米粒を贈呈しよう」
「お茶会に小鳥なんて、何とも出来過ぎだと思わない? それもなんだか使命とか背負ってそうな筆まで……小さいのに人の事情に巻き込まれるなんて、哀れすら感じるわ」
「でもこの筆すごく軽いよ。センが触ってる時なんてちょっと浮いてたし、荷物にはならないと思う」
「マジなタイプの呪いね。筆が鳥に合わせてるわよ。……良ければ私がなんとかしてあげましょうか? 小鳥さん?」
1人が…リフターがそう言って、手を差し伸べる。
ピョ、ピヨピヨ……ピョ
「……あーもぅ、しょうがないわねぇ…少し背中を預けなさい? 手助けしてあげる」
渡り鳥は筆を背負い直しながら……あまりに不恰好だったのでリフターが結び直して……それが終わると、鳥はすぐさまに立ち去ってしまった。
どうやら羽休みはもう終わっていたらしい。
「解呪を手伝うと言いながら背負うのを手伝ったね、リフター」
「自分が頼まれたのを任せられない…らしいわ。アイツ中々見所があるわね。人間だったらきっと大物よ。教科書に残るタイプの」
「ま、なんでも良いじゃん。どうせ私達は暫くお休み。100年の眠りに就くんだから」
「実態は森で引き篭もるだけだけどね。リフター、私達の介護は任せたよ」
「…実はアンタら以外にも4人世話を焼いてるって言ったら少しは遠慮する?」
「まさか。この後は雪山に行ってスノーボードをするに決まってるだろ?」
リフターがその言葉を聞くと自分の椅子と共にひっくり返り、地面にゴロゴロと寝転がる。
昔からの知り合い転生者全員がヒモと化している現状の不満が限界を迎えようとしていた。
「あー…やっぱ私、アンタら嫌いだわー。足にされるの本当嫌だわー」
「あ、機嫌悪くなった」
「サバイバルの準備をしようか、スター。あれは一月は帰って来ない」
「ここは私のお家じゃないわよーおバカさーん」
そのまま影に落ちて逃げ去る。取り敢えずセン達が3ヶ月放置される事がここに決まった。
再び会うのは一年後、すっかり忘れていたリフターが怒られる事になるのだが…それはまた別の話だ。
こうして転生者は今も変わらずに今を過ごし続けるのだった。
ピョーーロロロ……──
「……ルシファーさん?」
「どうしたのカヅチ、変なのでも居た?」
「……なんでも。なんか口から出てきただけだよ、カスミ」
「ふーん…カヅチが生真面目そうに言うならあの鳥はきっと恩人ね。ルシファーさーん、ありがとー!」
「その判断と行動、さすが俺の見込んだ幼馴染だぜ。へいルシファーさん、ありゃーす!」
「逆にアンタは便乗著しいわね。感謝くらい真面目にやんなさいよ」
「身に覚えないしただの鳥に何を感謝しろってー?」
とある公園のベンチで、2人の男女が空を眺め…唐突に感謝を叫んでいた。
改変前はシェルターの守護兵となり、なんやかんやでフィアの箱庭に住まう事になったカヅチとカスミである。
本来なら2001年はまだ幼いの筈だが…歴史が変わった影響か、高校生として2人は早めに産まれる事となった。
「いやー…平和っすわー」
「当たり前でしょ。大将軍様の改革で街並みは変わったけど…此処は元々畦道ばかりの田舎だったもの。そもそも人が居ない。すかすか、何も起きない、平和というより虚無よ」
「べりー言い過ぎー。スマホあるし暇なんて一つもねっしゅ。今暇だけどねー」
「私と2人きりの時間を楽しみたいから?」
「そのとーり。俺、メロメロですから」
「冗談」
いつも通りの会話、いつも通りのやり取り、誤解なんて一つも無い話。
恋愛に発展する訳がない幼馴染の関係。
「……冗談じゃないって言ったら?」
「へっ?」
……そうカスミがそう思っていたのは、抱き寄せられる数秒前まで。
何がキッカケか。そう思考がズレて、あの渡り鳥のせいかと押し付けた。
無論、そんな事で状況が変わるはずもない。
無言で見つめ合い、ボーッとするだけだ。……それがキスの承諾と受け止められるとも知らずに、ボーッとしていた。
こうして、世界からみれば小さな小さな変化が、その人ならとっては大きな変化が、1つの勘違いで進んだ。
きっとこれからも変わらないだろう。ずっと一緒にいるのだろう。しかし退屈はしないだろう。
同じな筈なのに中身は少しずつ変わっているのだから。
きっと毎日新しい発見と些細なすれ違いが、彼らの生活をより良くしてくれるだろう。
ピョーーロロロ……──
『……渡り鳥。ああ、もうそんな季節か』
秦周国のとある邸宅で、白い髭と髪を蓄えた老人が杖を突いて空を見上げた。
野原に杖を預け、背丈の低い石垣に座り込む。目前には黄土色の空と更なる発展を遂げようとする大都会があり──渡り鳥は、その内のビルの上で共に海を渡った同胞達と共に羽を休め始めた。
到底人の眼で見る事は叶わない程遠くの光景であり、老人がその鳴き声を聞くにはあまりにも遠く離れていた。
しかし、老人はしかとその眼にある物を映す。人の骨で出来た筆を、眼に映す。
『……あの筆…そうかそうか、アイツも漸く死ぬか。いや、止めはすまい。扱いに困る程に奪った相手だ』
ばさりと。
普通の者には見えないが、その背で3対の立派な悪魔の羽が広がった。
腰が曲がりぼろ切れのマントと服を着た姿に見合わず、老人は…悪魔は何もせず眺める。
山2つは離れているにも関わらず、警戒するように渡り鳥を見ていた。
『思えば長い付き合いで、対照的な関係になったな。俺がこうして自由と楽しい人生を手に入れたのに対し、お前は人外のまま死を求め続けている。因果だなぁ?』
まるで陰と陽だと、悪魔が頬杖をして言う。
思えば契約していた時からずっとそうだったとも思う。
『お前は沢山救って、俺は沢山悲劇を生んだ。お前が自分の力で頑張っている間に、俺は分体が契約で奪った物で悠々と生きてきた。結局最後までお前は俺の分体に気付かず、俺達が関わるのは長い生のほんの一欠片だった』
最初は運命だと思った。
奪い取れた無尽蔵の「価値」から、いずれ奪え返しに来ると考えていた。
しかし、そんな話には一向にならず……悪魔は退屈な幸福に浸り、天使は波乱と苦痛に藻搔いていた。
『本当に、運命だと思ってたんだぜ? 悪と善、こんなにも因縁があるってのに、そうならない方が可笑しいとさえ考えた……
だが、現実は違った。
悪魔の知略は最後まで破綻せず、悪魔は最後まで退屈だった。
一時期は天使の噂が世界中に広まった事もあったが、結局は何も起きずに鎮静化した。
何もなかったのだ。なにも。
『しかし…最後の最後で奇縁は巡ってくれたようだ。俺が死のうとしている時に、こうして眼の前に偶然現れた。今こそ因縁の決着を付ける時──』
その時だ、渡り鳥の集団が羽ばたいた。
悪魔の方に向かう事なく西へ西へ。
両手を広げたまま待っていた悪魔も、その姿が見えなくなると手を下ろす。
もう会う事はないだろうなと、悪魔は何となく理解した。
『……キキキ。ま、そうだよな。鳥公が俺の正体を暴けたら大賞モノだ。ましてやこの距離…普通来ないわな』
石垣に座り直す。結局悪魔と天使の因縁は顔見知り程度だったようだ。
『はぁ……十分楽しんだってのに、この「価値」のせいで死なないんだよなぁ…そろそろ終わりたいってのに…』
世界一つの「価値」。
それがどんなモノかは兎も角、その出所はルシファーの物だ。
当然持っているだけで世界が死なないように手を加え、世界が終わっても続く寿命を得る。
居るだけで現世の極楽浄土が約束される。それが極まった「価値」の力であり──隆起のない生に悪魔が飽きるのは、全くもって普通の事であった。
使っても使っても無くならない、天道地獄が約束された物……。
『追いかけて押し付ける程恥知らずでもないし…そろそろ、俺もこれの処分を考えようか。もう幸福なのは懲り懲りだ』
斯くして、無気力のままに止まっていた悪魔は動き始めた。
それが泰平の世に新たな波乱を巻き起こす事になるのだが…それを語る事はないだろう。
これまでそうだったように、これからも悪魔が表沙汰になる事は決してないのだ。
ルシファーの「価値」を奪った業が故に。
ピョーーロロロ……──
ゴロ…ゴロゴロ…
秦周国を越え、世界の一桁を争う巨大な山を乗り越え、新天地で新たな生活を始めた同胞を見届けた渡り鳥は今、新たなる困難へと踏み入ろうとしていた。
ピョー…ロロー…
いつかのルーシーが歩んだ道のりを遡るように、時には屋根の下で、時には大樹の
ピシャーン!!──ォォォ。
雨が彼を打ちつけ、落雷の音が小さな身体を揺さぶる。
近くで竜の陰影と共に哭く声が響き、思わず翼が固まってしまう。
落ちる──のを少しだけ浮かんでいる骨筆が落ちるのを防ぎ、気が戻った旅鳥は再び羽ばたいた。
ヒォォォ──。
寒々しい向かい風を掻き分け、体温を奪う雨を一層羽ばたいて振り払う。
嵐が起きようとしていた。
ピョー…──
何故こうなったのかと問われれば、きっと理由なんてないのだろう。
偶然乗った風がこの巣の近くを通る物で、
丁度イスドラムの英雄が率いる大軍が竜殺しに失敗し、
その際に放たれた伝書鳩が竜の視界に入り、
それで殺気立った雷橒竜が通りすがりの鳥1匹に過剰反応している。
彼がこうして囚われたのはその程度の事だ。頂点捕食者同士の争いに巻き込まれて、その小さな命と大事な約束の危機に瀕している。
どうすれば乗り越えられるかも分からない。彼にとっては混沌に満ちた異世界ですらある竜の巣は、この小さな命を奪おうと、電光を解き放った。
ピョー──…ロロロ──
ヒュンと。
全身の毛が逆立つ感覚に急旋回した旅鳥が、幸運にも雷の軌道を避けた。
ピ──
避けられると思って無かったのだろう。本鳥も思わず驚いていた。
しかし…一度の雷で終わるなら、イスドラムの雷橒竜は「現代最後の幻想」に名を連ねていない。
「よっと、様子を見に…うわぁ、とんでもない大物に絡まれたわねぇ、小鳥さん?」
都合、7回分もの
「ぱーん、遊びに来てみたら大変そうねぇ?」
───突如として影から現れた9461万4366発の避雷針の弾丸が、旅鳥と風を纏う銃使いを護った。
「はぁい、久しぶり。私のことちゃんと覚えてる?」
見覚えがあった。
いつかの時に羽休みに立ち寄った人間の団欒の中に居た、耳のとんがってて牛の皮を着た人間だ。
覚えているぞと、一声鳴く。不思議と言いたいことが伝わる相手だったから、短い出会いでもよくよく覚えていたのだ。
「そう、小鳥の癖に賢くて話が早い事ですこと。けど…それってそこまでの物? 寿命だって短い癖にこんな所まで来て……その筆、自分の子供に預けるんじゃダメだったの?」
それは出来ない相談だ。コレは我々と良く似た翼を持った人間が変じて預けた物。きっと自分には想像も出来ない程大事なものだ。例え我が子でも、コレを任せる事は出来ない。
旅鳥はそう意思を込めて何度か鳴く。今尚襲い掛かる雷と無数の針の攻防に負けないよう、懸命に声を張り上げながら。
「あらそう。自分の血を絶やしてでも…ね。良いわ、私そういうのも好きよ? 渡した相手は随分と自分本位みたいだけど……まぁ、小鳥が騙された立派な御題目に免じて手伝ってあげる。ただの風のエルフとして、ね?」
望外の巡り合わせだった。
何故かは知らないが、この無数の飛来針を操る者が味方になるのだと言う。
願っても居ない事だと旅鳥は快諾した。
風を纏う者はそれにニヤリと笑って、針の一部を旅鳥の周囲に巡らせる。
「なら、私の銃弾を100発だけあげるわ。貴方の意思に従って動く便利な駒よ。小鳥にしては賢いんだし、精々使いこなしてみせなさい?」
私はあっちと戯れて来るわと、風のエルフと名乗った人間は霧に紛れ忽然と現れた円盤を足場に跳び去っていった。
旅鳥も、自分のするべき事を成すために飛翔する。
ピュンヒュンヒュン!ピシャ!ゴロゴロヒュン!……──
既に竜の巣は引っ切りなしに雷と針…銃弾が飛び交う空間へと変貌した。
それぞれが交差し撃ち合う音が鳴り続け、常に何百という銃弾が落とされては、逆に雷を撃つ雲が霧となって空に溶けて、旅鳥の傍らを過ぎ去って行く。
縄張りの取り合いだと、旅鳥は何となく理解した。
ピシャ──ヒュン!
自分の周囲に散開させていた銃弾に雷が撃ちつけられる。
狙われた訳ではない。既に竜は風のエルフの方へと意識が向いている。
ならばこれは銃弾へと向かった雷の流れ弾だ。
風のエルフが制している銃弾は兎も角、竜が旅鳥を避ける理由はない。
雲の銃弾の間に居る限り流れ弾が──四方に囲まれている今、逃げ場は無い。
ピョー──!ロロロ──!
つまりどうやっても脱出まで逃げ場は無いのである。
尽くせる人事といえば与えられた銃弾を盾にするだけ。
それも雷が落ちれば暫く固まる仕様だ。連続で来れば身元に連れて行けなくなる物も出て来る。
銃弾を近付かせ過ぎれば巻き込まれて、かといって散開させ過ぎれば盾にならない。
絶妙な距離感と胆力、的確な配置が求められるという事だ。
出来るのか? やるしか無い。
乗り越えられるか? 出来なきゃ死ぬだけ。
体力は持つか?…最悪ここで骨筆にぶら下がって休む。
……ピョーー!ロロロ!
やるしか…ない!
こうして旅鳥は長い間竜の巣に囚われる事となった。
ピョーーロロロ……──
それから幾日月か経った後。
旅鳥は無事竜の巣を抜け、約束通りにとある島国に辿り着いた。
随分と長く居たのか、見たこともない冷たくて白い……雪の降る日に、彼は島国に辿り着いた。
与えられた銃弾も、同胞に自慢していた立派な翼も何処へやら。
疲れ切っていたからか、やけに目立つ黄金像の足元に落ちる様に着いた頃には、純白の翼を持った旅鳥は、灰色の見窄らしい皮と骨の張った老鳥となっていた。
それを見て憐れむような人は居ない。この寒さにみんながコートを翼で
ざく。
ふと、立ち止まった少女を除いては。
「……うむ? コレはコレは…マッチも売れぬ寒冬だと言うのに、今にも死にそうな鳥が居るではないか」
老鳥が眼が霞むのを堪えて顔を上げると──其処には、あの日約束した天使が居た。
貴女に頼まれた筆を持って参りました。どうか受け取ってください。
「え、妾にか?…あ、聞こえるのじゃな。マジか…あ、返事…えっと…そりゃ無理じゃ。妾は昔から黄金の像。動けんからの」
そう言われて目を擦り再び見上げれば、なるほど。
確かに声はこのヤケに輝いてる像から聞こえて来る。
余りにも不思議な出来事だ。なぜその姿にと、老鳥は思わず問うた。
「何故は分からぬな。じゃが、いつから居たかは分かるぞ? 精霊歴503年、ユダという男が創り手として創られたのが妾じゃ。題名は「[黄金の愚王]ルシファー」じゃよ」
見たまんまじゃろと、黄金像は言った。
「折角じゃ。沢山聞くがよい」
それから金箔じゃから中身は銅像じゃよと、昔から盗まれることも無くずっと居たのだと黄金像は言った。
随分と親しまれていたのですねと、老鳥は言葉を返す。
「まさか、妾なんぞ黄金で出来た案山子に過ぎん。心臓だって鉛じゃなく拳程のダイヤじゃから、壊れて死ぬことも出来んのじゃ」
ダイヤモンドは砕けない。だから死にたくても、壊れたくても壊れないのだと黄金像は言った。
昔からそうだったのだと言う。トラックに撥ねられて死んで、目覚めたら像となって見ているだけ。
喋ってもみんな聞こえてないし、自分は動けない。ぼんやりと寓話世界とかあるのかもなと思いながら…ずっと見ているだけ。
そんな風に過ごしていると次第に壊れて死ぬ事に期待し始める。
しかし一向に壊れない。何故かみんなが自分をありがたがって手出ししない。
だからずーっと、ずーっと、1500年間ずーっと此処に立っているだけだったのだと言う。
「そうしているとな、次第に地獄でも何でも良いから終わりたいと思うようになるのじゃ。親しまれるのだって、今では風景と一体化して誰も見ておらぬしな」
こんなにも目立つのに? 目が立とうと座ろうと、居ないと思われれば居ない。
"其処には何もないと、何故か皆が勘違いしている"と、像は言う。
「ま、洒落た言い方をすれば…
からからと、寒い空の下で笑い声が響く。
にも関わらず人通りは一切変わらず、速くも遅くならずに足早に立ち去っている。
次第に疎になって、街灯が点灯し始めた。
それが老鳥には寂しそうに見えた物だから、思わず手伝える事は無いかと聞く。この老骨に出来る事があれば、何でもします。そうして満足したら、この筆を貰って下さい…と。
「んお?…なんじゃ偉い立派な奴じゃの……ならば、妾の黄金を配って貰おうかの?」
どうせ手元に有っても意味がないからと、像は老鳥に肌や髪、表面全ての金箔を適当に辛そうな家に渡させて、目の宝石や装飾品、止めネジ代わりの貴金属まで。心臓以外のあらゆる物を貧しい人々に渡させてしまった。
「はっはっは、コレでお主とお揃いじゃな!」
老鳥がへとへとになり、黄金から錆びた残骸となった物を見る。
銅像は老鳥よりも見窄らしい姿となって解体され、身体のパーツがあちこちに飛散していた。
夜なのも相まって、仮に人が通れば確実に転げるのは想像に難くない。
いずれ邪魔だと、かつては皆に愛されていた像だった事にも気付かれずに撤去されてしまうだろう。
それが狙い目だと言うのだから、実に小賢しい。その程度で壊れるなら、残骸となっている今正に死んでいるはずなのに。
だから老鳥は、その前に一つ良いですかと尋ねた。
死にたがっているのは分かりました。それなら、死ぬ前に渡したい物があるのです。
「おっ?…おーそういえばそうで有ったな! その為に此処まで来てたな! 分かった、先に受け取るとしよう。ほれ、お主の隣にある桜色のダイヤが妾じゃ」
雪が積もり、長い間閉じ込められてすっかり
ダイヤの中でも一際珍しいピンク色のそれが、コロコロと笑う様に台の上で揺れていた。
久々の外に喜んでいるのかなと、老鳥は思いつつも骨筆を器用に抜き取って触れさせる。
老体だからか、それだけで随分と時間が掛かってしまった。
さっき日が沈んだばかりなのに、もう空が白んでいるのだから、時間の感覚も狂ってしまったらしい。
お待たせしました。どうぞコチラです。
そうか細く鳴いて、骨筆を桜色のダイヤに触れさせた。
「…む? むむ? お主も妾か? 何々…ほうほう。妾が大元じゃと? その根拠は?」
そうして待っていると…お互いに会話をしているのだろうか。
「エラッタ」の世界で合ってたかぁ…とか、なら作品が大元なのは道理じゃよなぁ…とか、老鳥には分からない言葉を交わしていく。次第に嬉しそうに、割れた片割れに再会したように、楽しそうに話している。
「つまり、寿命がそもそも無いから死なず、その分体である其方も死ねなんだか。口調も大元が像だったから……彫刻の腕はそりゃ妾が像だから……産まれたのは其方が先? 出たー「エラッタ」の織り返し時系列。機織りて創った歴史にしてもややこしいと……」
それを聞きながら老鳥は良かったと、頑張った甲斐が有ったと、眼を閉じて身体を丸めた。
きっと自分は良いことが出来たのだと、老鳥のか細い火が小さくなっていく。
大丈夫、次に目覚めたらきっと良い明日があるさ。
そうして老鳥は静かに眠りに就いた。
「────ぃ」
ふと、声がした。
「──い、おーい! まだ寝るなって! ほら、
溌剌とした、
「あ、起きた?…あー良かった、あのまま死んじゃうとか目覚めが悪いんだって」
眼を開ける。
もう開く事は無いと思っていた視界に、朝焼けの眩しい光が差し込んだ。
「ピョー…ロロ…?」
「動けるか? 寒くはないか? 身体も服も丁寧に
眼が慣れて来ると、次第に自分の身体に力が湧いて来るのが分かった。
慌てて身体を動かせば…どうしたことだろうか。自分が幼い人のメスになっている。
白い髪に雪の様に白い肌、背中がむず痒いので何とか触ってみると、小さな…小鳥の時の翼が大きさをそのままに存在した。
「…あ、消し忘れ…ごめん。今は筆の力が弱くなってるから、暫くはそのままになるかも…」
ブカブカの服に当たって、なんだかくすぐったい。
だが、自分が自分なのだと教えてくれるくすぐったさだった。
ちゃんと自分は鳥だった…今は人だけど。
「ピョ…ピョー?」
それでも困惑はする。どうしてこうなったのだと、目の前の……翼も輪っかもないが、確かにかつて見た人間と同じ見た目の少女が、横たわっている自分に目線を合わせてしゃがみ込んでいた。
「ははっ驚いた? じゃーん、別れた自分と合体して元通りになってみました。種族も念願の人間でーす。死にそうな鳥を転生させるついでに定命の身体に成ってみた…的な? ほら、保護者とか必要でしょ?」
ぶいぶいと2本の指を立てて、像…人間? は言う。同じ人らしい。
鳥じゃないのはごめんね、時間が無かったから手癖で人を描いちゃったと、そう自白しながら。
どうやら自分は人間なったらしい。どうしてかと問えば、この筆を使ったと言う。
人の身体じゃないと描くのが間に合わない。しかし絵の身体で命は作れない。
だから、絵を実体化させる力だけ筆に残して合体したのだという。
そうすれば間に合うからと、合体すれば死ねる様になるからと。
「ピョー…」
「別に分からなくて良いよ。…コレはね? 俺は死ねる身体になった。鳥は長く生きられるようになった。ほら、パッピーパッピー…ごめん。経緯、聞いた。こんなに頑張ってくれるとは思ってなくてさ…どう返したら良いか…これしか思い付かなかったんだ」
少女が自分の手を取って立ち上がらせる。慣れない足と身体に尻もちを搗いて、改めてゆっくりと立った。
子鹿のようにプルプルと足が震えてバランスが難しいが、何とか立てている。慣れるには時間が必要そうだと、一歩を踏み出して…転んだ。雪は…案外硬い。少しだけ涙が出た。
「あー…ま、これから学んでこう…な?…えっと、ご飯もお家も…何でも描ける筆があるから問題ないし。俺が面倒を見るからさ…うんと…行きたい場所とか、ある?」
ぎごちない笑顔で少女が話し掛ける。
本当に申し訳ないと思っているのか、何を言えば良いかと一言ずつ慎重に話していた。
あの朗々とした喋り方じゃない分、素の自分を晒しているのが不安になるのだろう。
自分で選んだ言葉が正しく通じるのかと、そう思っているように感じた。
「ピ…ぴ…ぴーぃ…ぃー…」
「…ゆっくりで良いよ。時間は有限になったけど、頑張ってくれた君には沢山時間を使ってやりたいんだ。焦らずに…舌と喉の震えに慣れて…おっと、大丈夫?」
「ぃ…ぃん…ぁ…ら…ょ?」
少しだけ慣れたので、少女の耳に近付いて囀る。
まだ声も立つのも慣れてないから、抱き合う様に伝えようとする。
「ぉぼぅくは…いにしてなぃい…かぁら…ゎらっ…て…ほし…ぃ」
笑って欲しいと思った。
そんなに悩みながら喋らなくても良いから、僕に心から笑っている姿を見せて欲しいと、そう伝えたかった。
人の言葉なんて旅の中で少し聞くばかりで、実際に喋るのは初めてだ。
だから本当に言いたい事を言えてるかは分からない。だけど、このまま黙っているのは嫌だと思ったんだ。
「──そっか。優しい奴だな、お前は。思えば最近は無理やりな奴ばかりで、こうして頼まれるのは初めてか…うん、分かった。ちゃんと出来るかは分からないけど──ちゃんと伝わった。心から笑って欲しいって、ささやかでも大事な願いが」
それなら良かったと、旅鳥はふんにゃりと笑う。
安心して閉じた眼に、朝日の光がとても眩しかった。
………──────────ン。
そして機織り機が編み間違えたように、運命から外れる音が静かに雪の中に溶けていった。
「…退院か。助けられると思ったんだが…」
「なぁに腑抜けてんのさ! 明日から学校なんだから準備しないと!」
「あぁ、そうだな…そろそろ、現実と向き合う時…か」
出会いとは一期一会だ。
長い時間を共にすると思えばどうやっても手元をすり抜けて二度と会えなくなる人が来る。
代わりに、一時の関係かと思った相手と長く共にする事も珍しくはない。
「なんで一年放置したのか論理的かつ整然と説明して」
「ぷんすかぷんぷん」
「小…竜と戯れてただけよ──やるならかかって来なさい?」
「「うおお! 激おこジェットストリームアタックの刑だ!」」
そんな出会いの中で腐るほど長く続いた縁は得難い物であり、長く関わり編んでいくにつれて、自然と断ち切れない丈夫さを持ち始める。
それはきっと、長く生きるには必要不可欠な生地に違いない。
「…ねぇ」
「どうした、カスミ?」
「そろそろ…こう、あるでしょ?…キ…キス…とか」
「───よし、今夜は寝かせないぞ」
「なぁ!? な、なんて大胆な…!」
そうして繋がっていく縁も、時にはすれ違いや編み間違いもあるだろう。
しかし、そうして紡がれた想定外の編み目を過剰に恐れる必要もない。
諦めずに最後まで紡いでいけば、その内綺麗な模様となって生地をより美しくするだろう。
『時は来た。俺の一世一代の晴れ舞台の幕開け──』
だが、全ての糸が良い物とは限らない。
関わってしまったばっかりに酷い目に遭う悪縁も存在する。
一瞬で多くを奪い、生地の色を貧しく褪せたものにしてしまう。
無秩序に糸を集めても毛糸にならず、埃になってしまうようなものだ。
然りと見定めて結んでいく必要があるだろう。難しいなら、いっそ切り捨てる選択だってアリなのだから。
ゴロゴロ…ピシャーン!
…もしくは、それが上手な器用な人に相談すれば良いかもしれない。
編んだ末に生地を理想の模様にするのはとても難しい。
時には得意な人に手伝って貰っても良いだろう。
「いやーぁ、戸籍にパスポートに飛行機に…ようやっと着いたな、インドラマ!」
「イスドラムですよ、ルーちゃん」
「おーそうだっけ。まぁトリスタンが言うならそうなんじゃろうな。──ようやっと着い」
「はいはい、遊んでないで降りますよ。後ろがつっかえてますから」
「きびぃ…」
そうして生地は出来上がる。歴史の一部となる個性豊かな生地が。
頼んだのを自分ですら忘れていた相手が腐れる程の長い縁となって、生地の終端へと向かっていく。
「しかし、どうしてここなんじゃ? 9月に来る様な場所では無いし…雨季だし土砂降りではないか」
「え、着いてから聞くんだ……まぁ、昔の縁ですよ。渡り鳥の時に別れた同胞がどうなったか見に来たんです」
「スマホの風景で分からんか? 1年も経っておるしそのくらい広まっとるじゃろ」
「……ルーちゃんに昔の喋り方が染み付いてるのと同じですよ。直接行って見て見たい。それだけです」
「さよけ。ならば俺も手伝おうではないか。こう見えて筆の扱いなら1番上手い自負がある」
「へー、僕の身体を創ったその日に盗まれた癖に?」
「ふっ…褒めてもなにも出ないのじゃ」
「……そこから生活基盤を整えたのは実際すごいですね。でも褒めてませんよ」
「のじゃあ…」
呆れられながらも、ルシファーは今日も生き地獄の中に活路を見出して死に損ねる。
この牢獄を出るのはまだまだ長い時間が必要になるだろう。
じゃが…鳴呼、生きるとは何とも難しく──楽しいものじゃな。
だけど少しだけ、ルシファーは生きるのが楽しくなっていましたとさ。
めでたし めでたし
N「[のじゃロリ天使姫]ルシファー」
1、
西暦2025年、「現代」の日本国で書かれた作品の人物。
元ネタとしては「幸福な王子」を色々逆にしたり混ぜたりしたもの。
順序としては銅像に転生→その影響で寓話世界に転生した記憶がコピられたルシファーが過去に開演→黄金の像になる。という過程で黄金の像になっている。
性能も何も無い…が、旅鳥以外には本体だと気付かれなかったのは偉業にしてもいいかも知れない。
それ以外はただの天使像として今までずっと居た。短冊に願い過ぎたかなと本人は考えている。
2、
本人として好きで生き続けた訳では無いのだが、自分から派生した連中が好き勝手にやった結果原作を崩壊させている。転生しただけで原作崩壊…何故?
正解は作品その物に転生したから。""[黄金の愚王]のルシファー""その物となったせいでここまでズレにズレて崩壊した。
改変で本が出版され悪評が立ったりもしたが、絢爛な像は流石にありがたみが勝ったみたいだ。
3、
これは完全な余談だが、彼女の前世…彼だった時も実は勘違いしたままのことがある。
それは妹を自分で殺したこと。意思確認は事実されたが、最終的に医者に伝えたのは両親であり…では両親はどう決めたかと言えば、固定資産として買っていた1枚の金貨である。
表で生かす、裏で殺す。結果は本編の通り、偶然彼の出した答えと同じになった。
そうして死んだからか、それとも血の繋がりか…彼の妹もまた、彼女に筆を届けた渡り鳥として生まれ変わっているのだから、縁とは切っても切れない物も有るのだろう。
N「[後書き]何処にでもある」
勘違いモノは昔から好きだったので挑戦しましたが、沢山人を登場させないといけない架空ソシャゲモノと相性が悪いんじゃ無いかと思います。この作品で1番苦労したの後書きでしたし。
ですがエタッた処女作のリメイクとしては良い感じなので満足です。これで
この調子で次はエアプ短編を書いちゃったブルアカ二次と掲示板に再挑戦です。ではまた〜。