Nランク[のじゃロリ天使姫]に転生した!   作:何処にでもある

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 ソシャゲでは勘違いしても、自分で確認しない限り気付けません。
 例えば前書きがTIPSだとか、後書きが攻略サイトのキャラ説明のつもりで書いてるとかです。




ゲームシステムで勘違いしている事に気付くのは稀

 

 

 エラトリア パシェード王国ルーシー期

 精霊歴503年「黄金の時代」

 

 

「答えなさい、ユダ。何故こんなことをしたのですか?」

「ああ答える! 答えるから降ろしてくれ!」

 

 懲りた様子のユダを掴んでいた黄金の手を離し、ユダを手荒に落とします。

 それによってユダが悲鳴を上げていますが……そんな物、私が受けた苦痛に比べればまだまだです。

 

『契約者、降ろしても黄金の大剣を頭上に浮かべておけよ? そいつ、まだ諦めてないからな!部屋の外で兵士が待機してやがる! キキキ!』

 

「ユダ……外で兵士を待機させてますね?」

「ひっ…私は何もしていない! ただ、兵士達は自分の仕事をしているだけだ!」

 

『おっと、コイツ、懐に呼び出す為の魔道具を持ってやがる! それも魔力を流すだけでいいと来た! さっき吊るされた時に使ってたなさては!』

 

「では、そこの懐にある呼び出しの魔道具は? 無実とするなら、ないと思いますが」

「……誤解だ。私は緊急時の為に持たなければならない立場がある。貴族として、死ぬ訳にはいかないんだ」

「ほう、私にはそんな物一切渡さなかったのに……ですか?」

「っ!?」

 

 恐れるユダを前に、()を一度はためかせます。

 それだけでユダは神による断罪を恐れる様に、祈りの十字架を握って祈り始めました。

 

「ほう……いざその時になって祈りを捧げるとは、都合の良い祈りですね」

「あ……あぁっ……」

 

 あれから悪魔……いや、堕天した天使と契約した私は、狂気を宿すのを対価に天使の力を借り受け、黄金を操る力を手にしました。

 この場合の狂気とは、誤解を招きやすくなり、誤解し易くなるものなのだそうです。

 しかしこの天使は親切にも、狂気を宿すのは黄金を操っている間だけ、その上天使の力を貸すことで誤解し易くなる部分は無効にしてくれました。

 なので、実質私は力を使う間だけ誤解を招き易いだけの、とても軽い代償で天使の姿と力を得たのです。さすが天使様、悪魔に堕天しても悪ぶってるだけのお人よしですね。

 

「それに対して天使様は素晴らしいお方です。初めこそ悪魔と誤解してしまいましたが……その存在を不安定にしてでも力を貸して下さった。とても素晴らしいお方で、今も寄り添ってくださっています」

 

『力を与えると現実側じゃ契約者以外に姿を認識されなくなるのは俺も初めて知ったがな! でも天使性が抜けた分調子が良いし、ルーシーは俺の主にとっても大事な奴だ! 親切の一つや二つしてやるとも!』

 

「ええ、その慈悲深き心とご加護に感謝を」

 

 恐らくご先祖様の縁ですね。かつて王族は神からその王権を授かったと聞いています。

 その時にご先祖と知り合ったのでしょう。神ならば天使を側に居させても不自然ではないですし、その時に軽くお話しして天使様と友人になるくらい、建国の初代様なら出来て当然の筈。

 そして友人の子孫は大切な人だと……そういうことですね?

 ふふふ…私の事ながら名推理だと思いますよね?

 

「つまり、私は神に認められた王なのです。故に誰よりも偉く、誰よりも強い。つまり‭─‬‭─‬誰かを断罪する権利がある」

「ぐああっ!!」

「たかが剣の腹で押さえただけでしょう。一々騒ぎ立てるな、下郎が」

 

 ユダの身体を私の後ろに浮かんでいた6つの黄金の剣で乱暴に押さえ付けます。

 逃げられない様に、裏切りの罪を誤魔化さないようにです。

 ええ、私は慈悲深いですが、今は怒り心頭ですからね。多少の乱暴は多目に見てください。

 

『契約者よ、良いことを教えてやる。先ずは最初の方から事実確認からするのが審判の基本だ。心の内はそれから聞くもんだ! なあに、今回は特別に俺が嘘か本当か確認してやるよ!』

 

 そうしてなんで裏切ったか改めて問いかけようとすると、天使様から心強いお言葉を貰いました。

 これなら審判初心者の私でも安心ですね。

 

「ふむふむ…では、今から言うことを肯定か否定のみで答えなさい。正直に話せばこれ以上の乱暴は致しませんので」

「はい…! 嘘偽りなく話します!」

「私を裏切ったか?」

「いいえ!」

 

『本当だな。初めから契約者の味方じゃなかったから裏切ってないって含みがあるが!』

 

「…私以外の王族を殺したのはお前か?」

「いいえ!」

 

『本当だな。敵対派閥の連中を唆したが、コイツは連中を手紙でその気にさせただけだ!』

 

 ……事実確認は取れました。ここからは、何を考えていたかを問う時間です。

 

「……私を引き取ったのは悪意からか?」

「いいえ!」

 

『本当だな。善意も悪意もなく、名前を借りて他の領土に命令する権力が欲しいという我欲だけだ! つまりどうでも良いって考えてるな!』

 

「………お前は、自分の領土の為に動いていたか?」

「いいえ! 全てはこの国の為に!」

 

『本当だな。コイツはこの国の王として全ての貴族を殺し、全てを支配する権力が欲しくて動いていた! つまり、自分の国の為で自分の目的の為だ!』

 

「…………私を愛していたか?」

「いいえ! まだ幼い女王様を、天使様を犯そうなどとは決して…!」

 

『本当だな。性愛も隣人愛も友愛も家族愛も、何もない。世話の手間がかかる政争の道具としか思ってないな!……すごいな、何処までも自己愛の化身だぜ』

 

 ならば、もう迷うことはないでしょう。

 何処までも心の底から私自身に興味は無く……ただ、その周りにある物だけが目当ての奸臣だった。

 

「……審判は下されました」

「どうですか、私は一切嘘を付いてなかったでしょう!」

 

 ヘラヘラと私に媚びを売る顔をして、ユダは救いを求めるように私に纏わりつこうとしてきます。

 それを蹴り上げて、私は審判を下しました。

 

「‭─‬‭─‬汝、罪ありき。その罪は決して赦されず、死こそが救済に相応しい」

 

「はっ!? 何故だ!! 確かに嘘は一切なかったじゃないか!?」

 

「嘘は余計な事をしないというだけです。そして、貴方は言うべき事を言わなかった。その隠れたものは、今も見守っていた天使様が暴き立てた。……筒抜けだったんですよ、初めから」

 

「……横暴だ! 無効だ! この小娘が! 望み通りにさせておけばふざけた事をして…! 出合え、出合えぇ!!」

 

 そこ掛け声と共にドアと窓から兵士が雪崩れ込み、杖と剣を構えて襲ってきます。

 

「「「ウオォ!!!」」」

 

「‭─‬‭─‬煩わしい」

 

 私の側に浮いている大きな黄金の両手から黄金が四方八方に飛ぶと、襲い掛かろうとした兵士達の腕と口をあっと言う間に塞ぎました。

 今の私との実力差も分からないのかと考えて……これが仕事であるなら、彼らは許すべきだと上げかけた手を下ろしました。

 

「あ……あっ……お赦しを! お慈悲を! 改心します! 毎日祈りと供物を捧げます! 貴方様も神と共に信仰します。新たな神話として書き記しもします! ですからどうか、どうか命と立場と財産だけは見逃してください!」

「最早語る言葉はありません。死になさい」

 

 頭上に構えていた大剣を、弓の弦を引く様に力を溜めていきます。

 一撃で、せめてもの慈悲として一瞬で終わらせる為に。

 

「‭─‬‭─‬私が居なくなると多くの民が死ぬのです!」

 

 ……しかし民と言う言葉に、私は突き刺そうと勢いを溜めた大剣を停止させました。

 私は今でも王の端くれです。

 ならば女王として、ユダの言い分を一考する必要があると考えたから……天使や1人の少女ではなく、王として手を止めました。

 

『キキキ! コイツこの機において3つも見逃せって宣ったぞ! しかも領民を人質にして脅してきやがった! この言い回しは普段から正しさを盾にしないと出来ない言い草! 欲と面の皮が厚すぎて俺でもビックリだ!』

 

 確かにユダは天使様も驚く程欲深く、私の知らない所で私腹を肥やしていたのでしょう。

 しかし、そこまでやれたのは彼が必要な存在で、そうしても見逃されるものを持っていたのも事実です。

 

『どうした、やらないのか? 許せないんだろう? 勝手に名前を使っていたコイツをここで殺して、王国を自らの手中に収めないのか?』

 

「……天使様、仮にここでユダを殺した場合、その影響で何人死ぬと思いますか?」

 

『あ? そうだな…契約者が本物の愚物だったっていう、一番死者の多い予想で良いなら、ユダで1人、その派閥の貴族が24人、そいつらの仇打ちの戦争でざっと3万人、その間に救えずに餓死とかで死ぬのが5万人、合計8万ちょっとだな。数にしてこの国の半分程度は消えるだろうな』

 

「では、殺さなかったら?」

 

『確実に殺す時よりは死なないだろうよ。コイツは欲深い奴だが、その分正しさや善行をどんな利益を齎すかも心得ている。本当に改心して働くのなら、それはもう素晴らしい結果になると思うぜ?』

 

「……そうですか」

 

 仮に…そう、仮に私の中に罪を計る天秤があるというのなら、きっと左右に揺れて均衡を保っているのでしょう。

 罪はある、罰も必要……しかし、たったそれだけで殺して良い相手でもない。

 

『ああ、なるほど。揺れ動いてるなぁ! 分かるぜ、お前の中にある天秤が、コイツを殺すかどうか計りかねている事を!』

「……天使様はなんでもお見通しですね」

『キキキ、そろそろそのあだ名変えないか?……まぁ良いだろう。ならば契約者よ、悩むならば俺が相談に乗ろうじゃないか!』

 

 そう言うと天使様は祈る様に頭を下げてプルプルしているユダの上に座り、私の操る黄金を少しだけ取って宙に文字を浮かべ始めました。

 

『要はこうだ。お前は殺したいけどそうすると被害が多く、かと言って何もしないのは嫌だ。違いないな?』

「はい……どうすれば……」

『だったら殺すよりも酷い目に遭わせ、その上信用できる約束をすればいい! はい解決ー』

 

 天使様はあっさりそう言うと、私と契約した時にも使った契約書を出しました。

 そして契約書を私に手渡し、ユダの上から立ち上がります。

 確認してみると、契約書は白紙の紙でした。

 

『親切を超えて、特別扱いだ。白紙の悪魔の契約書を渡してやる。それにお互いの望みを書き記せば、俺の名の下に締結させてやるよ』

 

「そんなことも出来るのですか!」

 

『出来るぜ? だってコイツもお前も、この国の民はみーんな!!……主がウッカリ落とした黄金をたんまり使ったんだからな。海の下だってのに、採掘して加工して、我が主から盗んじまった!』

 

「えっ? あれ大いなる主が落とした奴なんですか? えっ? 私達それを盗んでたんですか?」

 

 驚きの余り、ユダを押さえていた黄金の剣を浮かせてしまった。

 ユダは困惑しながら立ちがろうとするが、悪魔が座っているせいで起き上がれず、余計に混乱しています。

 ですが、今はそっちに気にかける余裕なんてありませんでした。

 

『正確には預かってた俺が落とした奴だけどな。俺からすると、今から回収しようとした時にお前に呼び出された感じだぞ』

「えぇー…」

『お前が溺死しかけてて言う余裕なかったからなぁ。主に断りなく勝手に使ったのは……ルーシーを助けた分は必要経費にしよう』

「では、ユダが採掘させた分は?」

『取った分はそのまま取った奴の物になるが、代わりに見えない諸々が取られるぞ』

 

 なんかトンデモない発言が飛び出して来ました。

 じゃあなんですか? 突然現れたように在ったあの金脈は主神の持ってた金貨で、我々はそれを採掘してたと?

 大罪じゃないですか。私がここで裁かなくてもユダは地獄行きが確定してるじゃないですか。

 終わりましたねコイツ。ちょっと優しくしてやりましょう。

 

「‭─‬‭─‬天使様からお告げが有りました。ユダ、貴方は海峡下の金脈を採掘する指示を出しましたね?」

 

「そ、それがどうしたと言うんだ! さっきから不穏な事をぶつぶつ言って!」

 

「あれ、神の持ってた金貨を天使様が落とした奴なので、それを勝手に採掘した貴方は地獄行きですよ」

 

「はっ!?」

 

 ユダが驚いて声を荒げ、顔を青くさせました。

 それに気をよくした私は、脅しを込めてわざとらしく頭をコツコツと叩き、今思い出した様に続きを言いました。

 

「私も段々思い出して来ましたよ。ほぼ純金ってレベルの純度の高さとか、形がそう言えば丸っこかったとか、なんかやたらあれで作った金細工がありがたられるなーとか」

「う……嘘だ! 私が地獄行きだなんて信じないぞ!」

「ですが天使様はお慈悲を与えました。それがこの白紙の契約書です」

「ほう、契約と話し合いによる交渉ですか。分かりました、お互い最善を尽くし契約しましょう」

 

 うわ、急にイキイキと襟元を正し始めた。キモッ。

 さっきまでみっともなく泣き叫んでいた姿は何処へやら。

 スッと立ち上がったユダは近くのソファに座り、足を組んで私に座る様に眼で指図し始めました。

 コイツ……自分の得意な物で何とかなると分かった途端に……私、昔はこの人から褒められたいと考えていたのが今になって恥に思えて来ましたね。

 

『よし契約者よ、俺は全力でお前側に立ってアドバイスする。あの佇まい……アイツ、交渉だけなら大悪魔も凌ぐぜ?』

「ありがとうございます。地獄行きにさせる勢いでやりますしょう」

「早く始めましょう。時間は何よりも大切な物なのですから」

 

 いけしゃあしゃあとはこの事でしょう。

 それから私達の討論は三日三晩と続き、最終的には私は王族を辞めて後任に托す代わりに、ユダがその後の生活を死ぬまで保証し、私の望む政策や健全な国家運営になる事に全力で努める事になりました。

 私は自由と不自由ない生活を、ユダは表向きの権力を得た形になります。

 

『それでよかったのか?』

 

「天使様……はい。私は誰かに認められたいと思ってましたが、それは何も王として必要とされたい訳ではありません。なので、王の立場に拘る必要はないのです。……これからは一市民として、この国を見守りたく思います」

 

『ユダはお前の親を殺したキッカケなのは? 殺したいと思わないのか?』

 

「確かにショックでしたが……王が殺されるのはそれだけ求心力が不足していた証拠。実力不足です。裁くなら死後の父と母、兄達に任せるべきだと割り切りました」

 

『ならば‭─‬‭─‬此度の契約は終わりだ』

 

 天使様がそう言うと、私の周囲を漂っていた黄金が天使様の下へ集まって行きます。

 そして、自分の中から黄金を操る力が無くなる感覚を覚えました。

 

「あっ…」

 

『ユダと話をして、契約者の中で結論を出すまでが今回の契約だ。それが果たされた以上、この力は返させて貰う』

 

「天使様……ありがとうございました! 貴方が居なければどうなっていたか…! この人生、生涯を懸けて祈りを捧げます!」

 

『キキキ…俺は天使じゃない…悪魔だ。だが…契約は終わり、俺は現実で自由に動ける身体と力を得て気分が良い。多少の間違いは見逃してやろう‭─‬‭─‬さらばだ!』

 

 天使様はそう言うと、()()()()()()()()、空の彼方に飛んで行きました。

 

「天使様…いえ、堕天使様…素直じゃないですね!」

 

 もう見えなくなった空の果てを眺め、それから()()()()()……。

 

「あれ?」

 

 あれ、天使の力、そのままですね。

 黄金の力は返しましたけど……あれ?

 もしかして堕天使様……うっかり忘れました?

 

「……天使様ぁぁーー!!」

 

 急いで空を飛んで探しても姿はありません。既に雲の中に隠れたか……はっ!

 

 "力を与えると現実側じゃ契約者以外に姿を認識されなくなるのは俺も初めて知ったがな!"

 

「そうか、契約者じゃなくなったから……!」

 

 >>>"契約者以外に姿を認識されなくなる"<<<

 

「と言うことは……正真正銘、悪魔になってしまったのですか?……ウッカリで?」

 

 つまり何ですか?

 これから心が悪魔に堕ち切った天使様が暴れると?

 それも世界中で? はっ? 超絶ヤバいじゃないですか!?

 

「どうすればどうすれば‭─‬‭─‬‭─‬‭─‬っは!!!!」

 

 

運命点(チェックポイント)

更新(クリア)

 

 

「‭─‬‭─‬そうだ!! 私が探せば良いんです!」

 

 その時、精霊神石の時にも似た閃きがふと、頭の中で浮かんできたんです。

 翼があるんだし、それで各地を巡れば良いんじゃないかって……。

 4()()()()()()()()()が有るのですから、絶対に上手く行くって……!!

 

「よーし! そうと決まれば全力で飛び回りますよ! 何年かけてでも、見つけ出してやりましょう!」

 

 こうして私の悪魔を探す長い長い‭─‬‭─‬900年の旅の始まりだったと、この時の私は知るよしもありませんでした。

 

「先ずはぁ……南に行きましょう! パシェード王国は島国ですが、其方にはかつて太陽の沈まぬ国もあったと聞きます! 悪魔になったなら、人の多い場所に居るに違いありません!」

 

 そして、後日私が消えた事を聞いたユダが天使様の粋な計らいだと思い、鬱憤の念を込めて[黄金の愚王]という物語で、私へのネガティブキャンペーンと天使様を悪魔として愚弄をしていたと知るのは……更に先のことでした。

 

「それではレッツゴー! 大冒険の始まりです!!」

 

 


 

 

 ミソフィア 箱庭「黄金の愚王」

 精霊歴503年「黄金の時代」

 

 

「よくも、おめおめと此処にやってこれましたね?」

「それは……どうか許して欲しいな。あの時の私達はどうかしていたんだ。今は本当に反省しているし、後悔している。本当だ」

 

 精霊歴503年のミソフィアにおいて、最も新しく、最も規模の大きい箱庭で二つの集団が対立していた。

 ルシファー女王を裏切った者と、取り残された者達である。

 其々の先頭には最後まで女王の話を聞いていた伝令のモブと、アルカが代表として立っていた。

 

「本当に、どうかしていたんだな。確かにあの時私は牢屋に入れられた。だが、何か知らないうちに酷いことを言ってしまったのだと、確かに反省していたんだな」

 

「では、何故脱走したのですか。それはあの時においては最も重い罪だと、思い至らなかったんですか?」

 

「‭─‬‭─‬それが、私にも見当がつかないんだ。夜を迎えた時、突然自分の内側から憎悪が湧き出て、気付けばこんな所に居たくないと逃げ出していたな。まるで、女王様への好意と嫌悪を逆転させられた気分だった……しかも今も続いていてな、私も苦労しているのだな」

 

「だから許して欲しいと?‭─‬‭─‬ッハ。舞台主演だったからって図々しいですよ」

 

 物語のエキストラとして生まれたモブ達は、始めは顔が無く、そこから自我を確立するにつれて顔の部位を増やしていく。

 それまでは物語にあったセリフや、それ相応の振る舞いしかできず、物語から脱するのも難しい。

 しかしどうだろう、最後まで女王の隣に居た伝令モブの姿は。

 

「女王様が最後に伝えてくれた言葉の一つです‭─‬‭─‬"箱庭では物語の枷がない。其方らも直ぐに自我と顔を得るじゃろうな。……それを見れないことが、残念なのじゃ"‭─‬‭─‬っと。事実、俺は今、急速に顔を確立し始めています」

 

 この置いてかれたモブ達の代表として話している伝令は、口と目元の影、そして鼻もある、最も自我が確立しているモブだった。

 そう、()()()()()()()()()()()()。モブも顔付きも、どちらも同じ立場に立っているのだ。

 

「対して、貴方達はどうだ! 舞台の時から我々を絡繰の様に扱って、押し付けられた役割でしか俺達を見ていなかった! さぞ良い気分だったでしょうね! 世界の中心に居て、何をしても許される感覚は!」

 

「……それは、今関係ある話かな」

 

「ありますよ、だって‭─‬‭─‬女王様は、我々を確かに個人として見てくれた。押し付けられた王の役割を……物語から解放されてからは嫌だったろうに……それでも、真剣に我々と向き合っていたんだ!」

 

「‭─‬‭─‬あぁ、つまりこう言いたいのかな」

 

「「その女王様の心を、お前は裏切ったんだ!」…と。しかし、その理論には一つ欠点があるな」

 

 伝令モブはアルカ達を非難し、アルカはその論理が破綻してると指摘する。

 

「彼女は確かに君達にも等しく王の慈悲を与えたかもしれない。だが、それが物語に書かれた物だと何故否定出来るのかな? 我々は、彼女と違って物語の筋書きを知らないじゃないか」

 

「そんなのタイトルを教えてもらってれば分かる話だろう! [黄金の愚王]だぞ! こんな作品の王が王として立派なものか! あの器は、物語から解放された女王様だからこそ持てたものだ!」

 

「それはどうかな。優しいが為に王として相応しくない…なんて話はよくあるだろう。彼女がそのパターンでないと、どうやって証明するのかな?」

 

「自らを捧げた王の振る舞いが立派な王じゃないならなんて言うつもりなんだよえーっ!?」

 

「カッとして私を投獄、ユダは毎食謎の粉を食べさせられ、精霊神石だって地団駄ふんで転覆し結果的に見つけただけ、更には6人の自分を殺していたし、これはどう説明するのかな?」

 

「女王様でも、物語の枷に囚われる時はある筈だ! 女王様の意思じゃないか、深い考えがあっての事だ!」

 

 そうして話は続けられ、話は一つの議題に絞られた。

 即ち、死んでまで箱庭を築いた女王は、王として正しかったのか?

 そんなの言わずとも分かるだろうと、[黄金の愚王]を見た現実世界の読者なら分かる話だが……彼等にとって、物語に囚われていたかどうかはとても大事な要素なのだ。

 結局最後まで王として殉じた以上、もう判断は付かないが……これは伝令側が女王の遺言通り、裏切り者達を受け入れるには必要な感情の整理だった。

 

 そして3時間に及ぶ討論の末に、王を定める最初の法を決める所まで漕ぎ着けていた。

 

「‭─‬‭─‬ではまとめようかな。物語に囚われた上での行動は、なんであれ許される」

「この箱庭の最初の法としての大前提……異論はない」

「そして物語で与えられた役割に、箱庭では従事する必要はない」

「出来る事を考えれば同じ職になるでしょう。その分、やりたい事が出来る様になる機会を……あぁ、だから女王様は寺小屋を……」

 

 伝令モブが女王の言葉の真意を理解したとばかりに、ため息を吐く。

 あの方は何手先も見据えて、確かに我々に指針を受け継がせたのだと感謝した。

 

「……続けようか。最後に、王は先代の女王の方針通り多数決で決める。だが、独裁では間違った者が選ばれた場合に厄介なので上位3人が20年勤務する……異論はないな?」

「ああ。今、お互いの代表として選ばれた者の決定だ。女王様の遺言にも反してないし、問題はない」

「うん、それじゃあ後は……」

 

 お互いに剣呑ではあるものの、一先ずの方針は固めたと言う事で、アルカがとある方角を見る。

 

「……………」

 

「伽藍堂になったユダをどうするか、だろうな」

 

 其処には‭─‬‭─‬物語の補正を、演じる役割を無くし、自我を失った存在、正義のユダが横たわっていた。

 顔はある。しかし、その顔は中身が抜け落ちた様によだれを垂らしていたし、横になってだらんと動かない状態だった。

 それだけではない。間接は球体人形の物になっていて、肌も何処か木製のような肌触りだ。これではまるで……。

 

 生きているだけの、肉人形(腐らない死体)

 

 そう形容すべき状態が、今のユダだった。

 

「彼は裏切りを先導した者だが、物語から抜けた途端にああなったな……恐らく、作者の代弁者としての役割の存在だったからだろうな」

「……作者の代弁者として存在していた者は、人ではなく人形。生きた肉の、人形とでも言うのか?……悍ましいが、彼もまた被害者だったと、俺もそれには同意しよう」

「そうしてくれるとありがたいな。女王は彼を阿呆っぽいとよく言っていたが……生き物として扱っていただけ、マシなのだろうな。私には死体にしか思えない」

「彼もその内自我が芽生える可能性はある。然るべき施設に送っておこう。新たな彼は、間違いなく我々の仲間だ」

 

 そう言えば、ユダは女王に作者の代弁を持ち芸にしろと言われたと、愚痴っていたな。

 もしやすると、それが出来れば人形だとしても動けていたかも知れないな。

 

 アルカは最後にそう考えて、ユダを視界から外した。

 もう動くことに期待できない人形を気にする程、今の彼女には余裕はなかったからだ。

 もしくは……自分が現実から寓話世界へ行かなかったifを見るのが辛かったのかも知れない。

 こちらに来なければこの身体はきっと、彼の様に……アルカは、ゾッとして身体を震わせた。

 

「……ともあれこれから宜しく頼む。私達は一度裏切ったが、またやり直せるものだと信じているからな」

「全ては女王様のご意志のままに。……貴女達を歓迎する」

 

 お互いに握手をして、裏切り者の集団は迎え入れられた。

 もう我々には物語の、運命的な導きはない。

 それはユダの有様が示している。

 もう、書き手の加護は誰にもないのだ。

 

 故に彼等がこの先どうなるのか、それは自らの選択だけが決めていくだろう。

 

 

「‭─‬‭─‬ふぁぁ……ぷはぁ〜…よく寝たのじゃぁ…二度寝するのじゃぁ〜…ベッドが心地よいのお……極楽じゃぁ……むにゃむにゃ……」

(お腹空いたけど……水飲んでまた寝よ…寝るって凄く良い文化だよな……ぐぅ…)

 

[眠い…これが感覚の共有か…これは…いいな…すやぁ……]

 

 この現状を作った元凶共は、惰眠を謳歌する事を選択していたが。

 

 






C「[寓話世界(ミソフィア)]幼名:伝令モブ」
 寓話世界で生を受けたモブの1人。この世界のモブは全員が一律でC(コモン)であり、物語の役割を幼名として授かる。
 自我を得て、自ら名乗る事で一人前とされ、自我を得るまでは顔のパーツの量で成長段階が分かる。順に1、口 2、目下の影 3、鼻と輪郭 4、目の4段階とされる。
 Cランクと一番低いランクではあるものの、その代わりに成長限界や不得意がなく、長く生きた個体ならSSRにも並ぶ能力値とスキルを複数持ち、それを付け替える事で汎用的に扱える様になる。
 歴戦のモブは、主人公すらも凌駕出来るのだ。

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