あるところに、人々の願いを叶える神様が居ました。
神様のもとには、毎日たくさんの人々が押しかけました。
お金が欲しい、才能が欲しい、恋人が欲しい、地位が欲しい、名声が欲しい──
様々な人々が、様々な願いを持って神様のもとを訪れます。
神様は全ての人の願いを叶えていきました。
一切の区別なく、一切の間違いもなく、人々の願いを叶え続けました。
叶えられた人々はみんな笑顔になって、神様のもとから去っていきました。
神様はそんな人たちの笑顔を見るのが好きでした。
たとえ皆がすぐにいなくなってしまうとしても、その笑顔を思い出すだけで、
寂しさで冷たくなった心があたたかい気持ちで満たされました。
来る日も来る日も、そんな日々がずっと繰り返されました。
ある日、神様のもとに一人の少女が訪れました。
神様は尋ねます。
「お前の願いは何だ?」
少女は幸せそうに笑って答えました。
「私は幸せです。十分すぎるほどに恵まれています。
家族は私を愛してくれます。友達と一緒に楽しく遊べます。
食べるものも住むところにも困っていません。
だから神様、私に願いはありません。
私は神様に感謝の言葉を伝えたくてここに来ました。
神様、私に幸せをくれてありがとうございます。」
神様は驚きました。
願いのない者も、神様に感謝を捧げる者も初めてだったからです。
皆、神様に願いを叶えてもらいたがり、叶えてもらうと笑顔で去っていきました。
神様を気にかけてくれたのは、この少女が初めてでした。
神様はずっと、自分は誰かの願いを叶えるためだけに存在していると思っていました。
今まで誰も神様にそれ以外を求めなかったからです。
しかし、少女と出会い、少女の優しさに触れて、神様は初めて気づきました。
自分は願いを叶える装置ではないのだと。
少女は、私自身を見てくれているのだと。
少女の純粋な優しさは、神様にとって初めて与えられたとても素敵な贈り物でした。
そして、神様の頬を一滴の雫が零れ落ちました。
少女は驚き、神様に尋ねます。
「神様はどうして泣いているの?」
神様は気づきました。自分が泣いていることに。
そして、自分が今、幸せなのだと。
少女の言葉で、少女の優しさで、胸の中があたたかい気持ちであふれていると。
神様は答えました。
「お前が、私を思い、私に感謝の言葉をくれた。
私を、幸せにしてくれた。だから泣いているんだ。」
そう聞くと、少女は嬉しそうに笑いました。
これは、初めて涙を流した神様の物語。
これにておしまい。
めでたし…めでたし。
──どこからか拍手の音が鳴り響きました。
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