〜TS転生コキリ族ハイラルを往く〜 ゼルダの伝説 FAIRY OF THE MAGIC   作:ジュミ・ベラウ

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 カカリコ村って村の中からだと本当に外が見えないんですよ。



逢魔の影

 

 ラウレス王子が生まれてからおよそ3年の月日が流れた。ゼルダは10歳を迎え、それは厄災復活まで7年を切ったことを意味していた。

 第二子出産を終えてもハイラル王妃の体調が悪化することはなく、また封印の力が枯れる事もなかった。しかし、ゼルダは良き姉であろうと務め、そして母の負担を減らすべく己の力を覚醒するための修行に打ち込んだ。

 

「孤独ってのは何にも勝る敵だネ。」

 

 正史において、ゼルダ姫は孤独であった。母はゼルダが6歳の時に亡くなり、テラコとも引き剥がされた。そして王は不器用ゆえに娘との接し方を掴みきれなかった。

 だが、この世界では違う。母は健在であり、テラコもいる。リンクとは幼馴染と言える間柄であり、弟まで生まれた。父親との仲も良好であり、時折木こり姿でお忍びで出かけるところに、男装してついて行くこともあった。

 正史においてゼルダが力に目醒めた要因は、特に親しかったリンクを助けたいという強い意思であった。

 ならば、その対象がリンクだけでなく、もっと広くなったのであればさもありなん。

 

 今のゼルダは未だ完全とは言えなかったが、弱い光を手のひらから放つ事ができるようになっていた。

 

 ティリアはその様子を大いなる感激をもって受け止めていた。王妃のものに比べればいまはまだ小さな灯火に過ぎない。だが、この進歩は未来へと向けた大いなる一歩であるのだ。そしてそれは他ならぬティリアの働きによって変わった現実である。

 

「生まれてきてよかったなァ。」

 

 ポツリと、しかし本心から彼女はそうこぼしていた。

 

 *

 sideティリア

 

 やっぱりヒトとの繋がりは欠かしちゃァいけンネ。

 

 2年前にはゼルちゃんをミファちゃんと引き合わせる機会があったンだケド、仲良くなれたみたいで一安心だヨ。ゼルちゃんに弟が生まれたことで属性が幾分か被っちゃったケド、そのおかげで共通の話題があったし、2人ともスッゴクいい娘だからすぐ仲良くなれてた。

 そして共通の話題の1つでもあるリンクくんは両側から挟まれて赤くなってたネェ。カワイイもんだヨ。

 

 ソレから、リト族についても結構な進展があったヨ。リト族関連は結構薄味になっちゃってタケド、ソレはまず、ボクは飛べないし、弓だってメインではなくサブウエポン……できるコトと言えばダボラさん作の龍岩石魔法矢を優先的に卸すくらいだったってのが大きいネ。……あと気流操作を使い熟せば雷を防御できるって理論も公開したケド、ソレを実践レベルでできそうなのはリーバルくらいだったヨ。

 ……やっぱスゴいネ、彼……。リト族の進展の9割が彼の成長記録だヨ?

 『リーバルの猛り』こそ未完成だケド、飛行速だとかは並のリト族を凌駕しちゃってルもン。

 ただ、なーンでかリンクやシーク(お忍びだからネ)に対して当たりが強かったよーな?

 ボクに対しては皮肉交えだケド、そこまでトゲトゲしてなかったし。ナンデ?

 

 ただ、あの子らの進歩に比べてボクの進歩はなかなかどうして詰まっちゃっタ。

 肉体としては……子供を作れるようになったみたい……。ウン。

 来たんだよネ……オンナの子の日……。

 

 もう直ぐさまウルボザのトコに飛んでって、色々アドバイスもらったジャラ。

 

 まァ、成長が止まってるワケじゃないって証明されたってコトでとりあえず飲み込んだヨ。

 

 閑話休題(そんなことはおいといて)

 

 さて、この3年の間に古代遺物の発掘はますます進んだヨ。

 何より、ゼルちゃんの光が目醒めたコトでテラコの機能もいくつか目醒めたジャラ。……全部が全部ってワケにはいかなかったケド。

 そしてシーカータワーが1基見つかったので、直ぐに起動してもらっタ。コレで各地の祠なンかも起動したカラ、リンクを連れてはじまりの台地にある4つの祠を巡ってシーカーアイテム達、『リモコンバクダン』『ビタロック』『マグネキャッチ』『アイスメーカー』をインストールして来たヨ。クリアまではしてなイ。将来リンクの卒業試験として全祠のクリアを言い渡すつもりだからネ。

 

 ただ、ボクが覚えてる限りの祠は場所を確認して地図に書き出しておいた。特に村や町の近くにあるポイントはワープ拠点として使いたいからネ。その辺は先に起動だけさせてもらったヨ。

 『祠チャレンジ』に繋がる各地の言い伝えは前々からノートに纏めておいてある。卒業試験の時には地図と合わせてリンクに渡すつもりだヨ。……試練の祠は全部で120+αだケド、ボクが覚えてるのは半分と少しくらいだから、その辺を探すのも試練の内ジャラ。

 

 反面、シーカータワーは全基起動してマップ入手済みだ。ただ、ワープ機能はまだ軍団規模の展開はできないみたいで、まずはその改良を最優先で行うよう頼んどいタ。ワープ機能なら多分、あの仮称:『黒い風』の魔剣士の術でも妨害されないだろーしサ。

 

 しっかし……不気味だなァ。黒い風の目撃情報がこの3年全くないンだヨ。なンと言うか……嵐の中の静けさっテ言うか……。

 何かでっかい事件の前触れじゃないだろーネ?

 

 *

 

 その日、ティリアはカカリコ村を訪れていた。連れているのはリンクとシークだ。テラコは王立古代研究所で留守番である。

 

 カカリコ村は現状、技術開発や古代歴史研究の拠点としての役割からは外されていた。シーカー族の技術者は王立古代研究所やハイラル城、そして各地の発掘拠点に身をおいており、カカリコ村はその家族の生活拠点である。

 これはカカリコ村が四方を崖に囲まれている為であった。有事の際はこの崖が天然の城壁となるが、反面、外から村の様子を観測する術に欠ける事を意味する。

 もしカカリコ村を研究の拠点とすれば、もし万が一陥落してしまっても簡単には取り戻せず、研究者や研究内容も一網打尽にされてしまいかねないのであった。

 

 とはいえ、研究そのものは行われておらずとも、歴史書の原本であるとか忍術指南書であるとかは残されており、また研究者の家族が暮らしてもいるため、それなり以上の防衛策は施されていた。

 

 四方の崖上にはロイヤルガードの砲台型ガーディアンが4機配備され、飛行型と歩行型が1機ずつ巡回に当たっている。

 その上で高い白兵戦能力を持ったシーカー忍び達もいるため、そうやすやすと陥落させることは困難を極めるだろう。

 

「今日もいい天気ダ。」

 

 民家の縁側で茶をすすりながら森の妖精は独り言ちる。

 焦ったとて仕方がないのだから、休日はのんびりとしようと言うことでやってきていた。

 

 何もしない1日が終わりへと近づいていた。西の空へと太陽が傾き、もうそろ日が暮れる。カラスが鳴き、空が赤く染まる。

 

 *

 

 日暮れには別名がある。黄昏刻も有名だが、ことこの日の日暮れに関して言うならば、もう一つの方が相応しいだろう。

 逢魔ヶ刻。1日の中で最も魔なる者が活性化する時間。

 

 薄暗い茜色の空の下、ティリアは半ば無意識に剣を抜き放っていた。肌に絡みつく嫌な気配は、村の北東の崖上から発せられていた。

 その方角には大妖精『クチューラ』の泉がある。ティリアは『フロルの風』を発動し、その前まで転移した。

 

「クチューラ様?」

 

 大妖精の泉は硬いつぼみを閉じ、クチューラは中に閉じこもっているらしかった。どうやら彼女も異様な気配を察知したようである。

 大妖精はティリアほども高い戦闘力は持たない。4姉妹全てが同じ泉へ集ったならば話は変わってくるとはいえ、やはり危険な存在から身を守るにはつぼみを閉ざして隠れるしかなかった。

 

「……ナンだ、アレ……⁉︎」

 

 静かな驚愕が彼女の口から発せられた。

 それは大妖精の泉のさらに奥、森の中に佇んでいた。赤く、どろりとした煙のような存在が。向こう側が透けて見える程には不確かに揺らめいている。

 足は無く浮かんでいるが、2本の腕を持ち、手には鋭い爪が生えているようだった。

 

 目鼻口こそないが、そのシルエットはどこと無く──

 

「『ビッグポウ』?」

 

 ──を彷彿とさせた。

 

 果たしてそれは彼女の知らぬモノである。

 彼女の知識は不完全である。ティリアは『魔人』達を知らない。何故なら彼女は〈封印戦記〉を知らないからだ。もっと言えば『声の記憶』すら知らない。

 

 その名は『邪』。魔物の根源たる、彷徨う悪霊である。

 

 「邪」はティリアを見とめると、猛然と近寄ってきた。足がないくせにそのスピードはかなりのものである。もしここにいるのがティリアではなく、一般的なハイリア兵士であれば、成す術もなく取り憑かれ、その尖兵と成り果てていただろう。

 

「遅いッ!」

 

 ティリアは鱗の盾で「邪」を弾くと、続け様の一太刀で悪霊をこの世から退散させた。「邪」は骸を遺さず、霧散するように消え失せた。

 

「……人魂?」

 

 かわりに、青白い炎のようなそれを遺して逝った。手のひらに乗るほどの大きさで、吹けば飛びそうなほどに儚い存在感。赤黒の悪霊とは何もかも反対なこちらには彼女も覚えがあった。地底に揺蕩う魂魄『ポゥ』、こちらはその場を動くこともなく、至って無害な存在である。問題は、このポゥ、本来は地底にしか存在しないことだ。

 

 ひとまず、手を差し伸べて空きビンの中へと回収しておく。いつか地底の魔人像とまみえた時、供養してもらおうと。

 

 *

 

 にわかに風が吹き出して、ポツリポツリと雨まで降り出した。

 

「なァッ⁉︎」

 

 ぞあっとする悪寒が背筋を伝う。気が付けばあちらこちらに無数の「邪」が浮かんでいた。

 最初は弱かった風もすでに吹き荒れる強風と化し、雨もざあざあ降りへと変わっていた。

 

「あァ、今までの呑気は嵐の前の静けさか『黒い風』!」

 

 何処かで雌伏し、力を蓄えていたのだろう。今日この日のため、空模様を上書きし己の支配下に置くだけのエネルギーを確保するために。

 『フロルの風』は封じられた。それは即ち、迅速な連絡手段をも無効化されたことを意味する。

 大妖精クチューラはつぼみにこもったままで、ティリアの声が届くかは定かでなかったが、ひとまず泉を開かぬようにと叫び告げてから、彼女は直ちに疾走した。一瞬、泉に『ネールの愛』による結界を張るべきか思案したが、悪霊たちは泉に近づこうとせず、真っ直ぐ村へ向かっていることを鑑みて実行には移さなかった。自分1人を覆う大きさでさえ魔力の器が1つ空になるのだ。巨大なつぼみ状態の大妖精の泉を包めばその消耗は看過できない。

 

 村へと戻るまでに20ばかりの悪霊を叩き切ったティリア。しかし、カカリコ村はすでに数百の「邪」に包囲され、大混乱の最中にあった。

 

「ティリア様! 此奴らは⁉︎」

「分かンない! 悪霊の類だケド……」

 

 シーカー族の剣士に問われ、口ごもるティリア。賢者だなんだと言われているが、知らない、見た事もない敵を前に不確かなことは言えない。

 ふと、周囲を見渡すと、シーカー族の戦闘員たちが太刀や小太刀を振るって悪霊を次々に斬り捨てていた。無論、彼らの剣はティリアと違ってフォースは宿されていない。

 

「物理攻撃が普通に効いてル?」

「はい。しかし、油断すると体に絡みついてきましてな。取り憑かれ、操り人形にされてしまいます。」

「なんだっテ⁉︎」

「ご安心を。操られた戦士を気絶させると悪霊も出て行きました故。」

 

 その他、判明したことに関しては、この悪霊は飛び道具を使ってこず、攻撃手段は近接のみであるということだった。

 

「住民の避難を急がせております。ひとまずは族長の屋敷にと。」

「だネ。ゴシップストーンは?」

「ノイズ混じりでハイラル城と通話は繋がりません。狼煙はあげましたが、この暴雨風では気付いてもらえるまでしばらくかかるでしょうな。」

「……お屋敷には魔法のオルゴールあったっけ?」

「ございます。」

「じゃァ『いやしの歌』をおねがいするヨ。」

 

 悪霊を鎮めるには『いやしの歌』が効果覿面である。しかし魔法の曲は僅か半オクターブでも音の高さを違えれば効果が発動しないもの。暴風は吹奏楽器の音を歪め、雨粒が付着した絃楽器もまた音色が変わる。

 ならば、ハンドルを回し続けるだけで演奏されるオルゴールくらいしか安定した音を出せる楽器はなかった。

 

 その剣士はティリアの頼み通りに屋敷へ退却し、無事にオルゴールを鳴らすことに成功した。彼女の狙い通り、オルゴールの音が届く範囲へ侵入した「邪」の動きは緩慢なものとなり、また取り憑かれた戦士も、効果範囲内では自分の身体を意志力で取り戻すことができた。

 

 しかし、それで一安心とはならなかった。

 ティリアが目に付いた悪霊を片っ端から斬り捨てつつ、村民の避難を手伝っていると、また一段と風雨が強くなる。それはオルゴールの音色を殆どかき消し、もはや効果範囲は族長の屋敷の中だけになってしまった。

 何より、この暴風が人々の体温を奪い、継戦能力を著しく低下させて行く。ティリアはこの風雨を攻撃だとみなすことで『ネールの愛』によって防ぐ対象とし、濡れた衣服を『ディンの炎』で乾かした。

 

(どうすル……リンクもゼルちゃんもお屋敷に退避させタ。今外に出てルのは戦闘員だけダ。……黒い風はドコだ? シーカー族と悪霊のフォースしか近辺になイ……)

 

 剣を振る手を緩めず思考を回す。考えることを止めた者は賢者たり得ない。

 敵の目標は何か。つまりはこの悪霊軍団の勝利条件にしてティリアたちの敗北条件を言い当てなければならない。

 

(ゼルちゃんの暗殺……いや、だとしたらシーク=ゼルダだって知ってる必要があル。コレはカカリコ当主ですら知らないトップシークレット……)

 

 すでに光の力の片鱗を掴んだ彼女であるが、それでもティリアの仕込んだ偽装を内側から吹き飛ばすほどの出力はまだない。気配と外見の偽装が見破られたというのはあり得ないことはないだろうが、それ以外の可能性全てを除外するには早計だと思えた。

 

(……取り憑きこそ脅威だケド、それ以外はてんでザコだ。まっさかこの程度のヤツらが本命とも思えなイ……)

 

 それでも数は多い。彼女は既に200を超える「邪」を斬り捨てたが、その進軍は留まるところを知らない。

 

「防衛線が突破されたぞ!」

「避難は完了している。なんとしても屋敷を死守するんだ!」

 

 シーカー戦士たちの怒号が飛び交う。しかしそれも雨で随分掻き消された。

 土の地面は泥濘(ぬかるみ)と化し、戦士達の足を奪う。だが、浮遊している「邪」はその影響を受けない。

 

 *

 

 突如として雨が降り止んだ。相変わらず颶風は轟々と荒げているが、冷たく指すような水はそれ以上落ちてこなかった。

 なぜならば、準備は整ったからである。

 

「にゅエっ⁉︎」

 

 ずちゅり、とした感触の冷たい何かがティリアの足首を掴まえていた。それは土から飛び出した細腕、いやよく見ると泥の地面そのものが変形して腕となっていた。

 

「シィ!」

 

 振りほどきつつ飛び退って距離を取る。片腕だけだったそれは両腕となり、そのまま腕力で這い出すかのように上へ伸びていく。胴体と両脚を形成し終えたそれは、虚ろな目を彼女へ向けていた。

 

「泥の人形……まさか!」

 

 ──キィエエエエ!

 

 耳をつんざくような叫びが放たれると、ティリア含めた戦闘員達全てが金縛りにあったかのように動きを止めた。背筋に悪寒が走り、精神に不調を来たす嘆きの絶叫。

 その泥人形の姿は、骨と皮ばかりであばらの浮いた痩せぎすといったところであり、顔面には目と口しかない。目は丸い穴が2つ横に並んでいるだけの造形だが、反面口は半開きの中にやたらと歯並びの良い歯とむき出しの歯茎が形作られている。

 「邪」が泥に取り付く事で生み出されたその魔物を、叫び声で金縛りを引き起こすそれを、ティリアだけが知っていた。

 

「『()()()()()』……!」

 

 その弱点は日の光。

 しかし、夜明けはまだ遠い。

 





Q,ロイヤルガードは?
A,ロイヤルガード達の防衛ラインの内側から「邪」達は湧いてきました。

○「邪」
 赤黒い悪霊。取り憑きができるが、攻撃手段は物理。作者は邪を地脈龍脈の類だと思っていたので、〈封印戦記〉でその姿を見た時「ビッグポウ?」と口にしました。
 ところで〈ティアキン〉の「ポゥ」は「デグポゥ」と「グランポゥ」はあるのに「ビッグポゥ」はないんですね。

○リーデット
 リーデッドと表記揺れが存在するが、拙作では「ト」の方です。詳しいことは次回に。
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