いつも通りのある日のこと
先生は突然立ち上がり言った
「今夜星を観に行こう」

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遣らずの星

 

「ミサキ、星を観に行こう!」

 

「……は?」

 

 ご機嫌な朝食(と言ってもハムチーズトーストとコーヒーだが)を終えて、のんべんだらりと過ごしていた矢先、私はやおら立ち上がって拳を振り上げた。

 カップを手にしたミサキがこちらを怪訝な目で見遣るが、きっとまだ目が覚めきっていないからそう見えるだけだろう。瞼が重たげで長い睫毛が栗色の瞳を半分ほど隠しているから、人によってはそういうふうに受け取ってしまうこともある。誤解を招きかねないニヒルな態度が彼女の常だが、少なくとも私にとっては、そんな外観に(こう)(でい)するのは今や()(まつ)なことだった。

 

「今のニュース見てなかった? 流星群だって! 一緒に行こう!」

 

 テレビを指差すとミサキの視線もそれに追随する。画面は既に切り替わっていて、飼い猫特集の映像が流れていたが、つい先ほどまでは、今夜流星群が観測できるとクロノス報道部の生徒が興奮気味に熱弁していた。絶好の穴場と称して山奥のキャンプ場が紹介されていたが、あの分だと、おそらく予約が殺到して今から電話をかけても繋がらないだろう。恐るべし、群衆心理。というより、その「穴場」とやらをメディアで大々的に報じてしまったら、もはやそれは穴場と呼びえないだろう。

 

「見てたけど、先生、流星っていっても、宇宙の塵が大気圏との摩擦で燃焼してできた軌跡が見えるだけだよ」

 

 ミサキは依然として表情を変えることなく、温めのホットココアを口にする。

 

「確かにそうだね。でも、実際に見たら綺麗だと思わない?」

 

「まぁ、見たことはないけど」

 

「でしょ? じゃあ今から準備して、早速出かけよう!」

 

「え、今から……?」

 

「うん! 大丈夫、最近車買ったから!」

 

 微妙に噛み合わない答えを返すと、私はいそいそと食器を片して、寝間着を脱ぎ散らかしながら廊下への扉を開ける。

 

「ほらほら、ミサキも早く支度して!」

 

「……本当に行くんだね」

 

 嘆息混じりにミサキも私に追随する。

 私にしてみれば、流星群観測なんて口実の一つでしかなくて、納車されたばかりの愛車のハンドルを握りたくて仕方なかったのが動機の八割ほどを占めているのだが、かといって、綺麗な流れ星を見たくないわけでもなかったし、(いわん)や、ミサキの存在が二の次というわけでもなかった。動機というのは行動の起点でしかなく、一番に生まれたその芯にあれやこれやと他の理由を肉付けしていって、最終的にその(かさ)が大きければ大きいほど、より強い願望と意志とを生み出すものなのだから、後付けでも何でも、名目や建前や私欲は、あればあるほどよいものなのだ、と思う。

 ともあれ、ミサキが自分の身支度をしたり食器を洗ったり私の抜け殻を拾って洗濯機に放り込んだり掃除機をかけたりしてくれている間に、図ったようなタイミングで丁度私の準備も終わり、気合いも充分といったところで車に乗り込んだのが、発端から一時間ほど経過した後のことであった。思いの外私の準備に時間がかかり、最後に荷物を積み込むのをミサキに手伝ってもらってやや(じく)()の念に堪えないのは否むべからざる部分ではあったが、彼女自身も(やぶさ)かではないようだったし、或いは、培ったリーダーとしての経験か、あれ以上忙しなく動き回る私の姿を見ていられなくなっただけなのかもしれない。それはそれでやはり、頼りない醜態を晒してしまったということに対して思うところがないでもないが。

 

「――それで、先生、夜に星を見るのにこんな昼間から出発するなんて、どこまで行くつもり?」

 

 助手席に座るミサキはアームレストで頬杖をついて、車窓から後ろに流れていく木々と空とを眺めている。

 カーステレオからは私のお気に入りのプレイリストが再生されており、歌詞は(つぶさ)に聴き取れなくてもリズムとサウンドが好きな洋楽が延々と車内を満たして流れていく。ちょっと奮発したカーオーディオからベースやバスドラの重低音が腹部の奥底に響いて、ハンドルを握る私の手にも知らず高揚感が滲む。

 D.U.から高速道路に乗って一時間も走れば、都市の栄華はとうに見る影もなく、ただ、(いん)(うん)として崖下に広がる山川草木と、山間部に点在する無数の集落を俯瞰するのみである。私などは、地平線が切り裂く上部、即ち私達に覆い被さらんとする蒼穹とその表面を呑気に泳ぐ叢雲に、半日後の光景を重ねて胸を躍らせることもあったが、案の定と言うべきか、ミサキには、今の私ほどの(かん)(ぜん)とした期待やときめきというものは些か縁遠いようであった。

 

「以前仕事でキャンプに行ったことがあってね、そこで見た星空が、忘れられないんだ」

 

 片手でハンドルを繰り、他方でコンビニのコーヒーを手に、私は正面から視線を動かすことなく答える。

 道路は懸念していたよりも混雑しておらず、貨物輸送のトレーラーや営業の社用車と思しきセダンなどがちらほら散見される程度だ。時折違法改造車がけたたましく爆音を轟かせながら右車線を走り抜けていき、それに追随する形でヴァルキューレの警察車輌が窓から半身を乗り出してライフルを構えながら通過していくのも、いつもの光景だ。

 

「あの頃は寒くなり始める時期だったから、空気が澄んでて、丘の上の木々を切り開いてできた野原で寝転がって空を見てたんだ」

 

「うん」

 

「そしたら、周りに視界を遮るものなんてないわけだから、目の前の全部が星空になって、月並みな言い回しだけど、手を伸ばせば届きそうで……宇宙の中を漂ってるみたいな不思議な感覚だったよ」

 

「そうなんだ」

 

「星なんてその気になればどこでも見られるけど、そういった、その場所その瞬間でしか体験できないようなことが、ミサキの記憶に残るものになればいいな」

 

「だといいね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……あっ」

 

「どうしたの?」

 

「ミサキ、車酔いとか大丈夫? そこのダッシュボードに酔い止め入ってるから、必要そうなら飲んで。水なしで飲めるタイプのやつ」

 

「私も心配だったけど、大丈夫そう」

 

「そう、よかった。でも、気持ち悪くなってから飲んでも効き目薄いから、早めに飲んでおくに越したことはないと思うよ」

 

「分かった、じゃあそうする」

 

 ミサキは助手席のダッシュボード(厳密にはグローブボックスと呼ぶらしいが)を開けて、私が予め仕舞っておいた錠剤の箱を取り出した。

 

「……先生」

 

「どうしたの?」

 

「なんか、パッケージが幼稚というか、ぶどう味って書いてあるけど」

 

「うん、甘い方が美味しくていいかなって」

 

「…………はぁ。まぁいいよ」

 

 何か気に食わなかったらしいミサキが不承不承といった様子で、児童が笑顔で車に乗っているイラストの描かれた箱を開封して、中の錠剤を嚥下する。

 自身の運転が荒いという自覚があるわけではなく、極力同乗者にも気を遣って運転しているつもりではあるが、車酔いはそれだけで必ずしも防げるものではないだろう。ただでさえ長時間のドライブとなるのだから、些細でもトラブルの元を排しておくことに特段の(いと)いはない。

 幸いにも、そうした私の心配は杞憂に終わったわけだが、中途のサービスエリアで休憩している際もミサキは始終どこか素っ気ない様子だった。

 ともあれ、日が傾き始める頃には私達は無事に予定のキャンプ場に到着し、テントを建てて、(はん)(ごう)(すい)(さん)で舌鼓を打ち(これらの野外活動に関しては、当然ながらミサキの方に一日の長があった)、夜が更けるのを待つのみとなった。

 裏起毛のブランケットを羽織り、リクライニング機能のついたキャンプチェアに腰掛け、淹れたてのコーヒーとココアを手に、ただラピスラズリのような深青の空を仰視する。

 

「ニュースでは、二一時頃が一番活発って言ってたけど……」

 

 腕時計を一瞥すると、時刻はもうじき二〇時と五〇分、この時点で既に私達の頭上には数えるに(あた)わない星々が光を放って満天に(ちりば)められていた。運がいいことに、空を遮る無粋な雲は一片残らず地平線の彼方へ(とん)(そう)し、私と、ミサキと、無数の上なる輝きが在るのみであった。

 

「まだちょっと早かったかもね」

 

「そうだね。でも……」

 

「うん」

 

「こんなにたくさんの星をちゃんと見たのは、初めてかもしれない」

 

「……それは(ちょう)(じょう)

 

 私は深く息を吐きながら、座席の()(もた)れを倒し、薄ぼんやりとした朧月を見つめた。傍らのミサキも、私に(なら)って、手にしたカップをも傾けないよう気を払いつつも、(おもむろ)に背凭れを倒す。

 月は(こう)(こう)として、空の只中に浮かび漂っており、その光景が(さなが)ら、星海を渡る一つの船のようで、或いは天球に穿たれた一つの孔のようでもあった。

 そうして、月と、星と、夜半の涼しげな風が、私達二人の間に(というよりは、二人を取り巻く世界そのものに)、しんとした静寂(しじま)(とばり)を下ろす。遠くの木々の(こずえ)のざわめきや、時折聞こえる鳥獣の声は、必ずしも沈黙を強制せず、自ずから緩やかで柔らかな無音へと身を投じさせた。そこは、喧噪と時間を忘却させ、心地良さと安らぎを湛えた(よう)(らん)であった。

 私には、過去に見たことがあるとはいっても、今のこの体験は無味乾燥たりえなかった。全身の無駄な力を抜き、宇宙の深淵に身体を溶け込ませるようにして、無数の瞬きに見惚れていた。否、見惚れていた、というよりは、見て、惚けていた。

 ミサキの心中は如何ばかりか、推して知るのみではあった。ちらりと窺うも、その横顔を悉に観察するには、星灯りは些か心許なかった。(ぼう)と仄かに照らされた鼻梁や顎の輪郭が、刹那目を離せば闇に溶けて消えていってしまいそうな、そんな危うさを覚えてしまうのは、おそらく私の杞憂でしかないのだろうが、それでも私は、その儚い泡沫から目を離せずにいた。

 

「……先生」

 

「ん?」

 

 突如として帳を上げた――沈黙を破った――のは、ミサキの方だった。

 表情を盗み見ようとしていたのが露見してしまったのかと、一瞬ぎくりとしたが、どうやら、彼女のその声色からして、そうではないらしいことに安堵する。

 

「小さかった頃は、星なんて、興味もなかったし、そんな余裕もなかった」

 

 ぽつぽつと、(とつ)(とつ)と、ミサキが言葉を紡ぎ始める。そこから若干のぎこちなさや緊張というものが、微妙に上擦った声音や(しゅん)(じゅん)するような吐息のタイミングという形で、私には僅かながら読み取れた。

 私は黙して傾聴する。

 

「だって私は、私達は、暗がりにいたから。自分の足ではどこにも行けず、植えつけられた憎しみに抗うこともできず、(くら)い感情を胸の奥に(おり)みたいに溜め込み続けてたから。生きるということは辛くて、痛くて、苦しいものだって、当たり前のことみたいに受け容れて、器が少しずつ歪んでいくのも自覚できずに、自らの意思で行動するということを忘れていってた」

 

「…………」

 

「あの頃に比べたら、今だって充分に幸せかなんて分からないけど、少なくとも、私は先生にここまでついてくるのを選択した。そうしなきゃいけない、って義務感や使命感じゃなくて……、ええと、『先生が見せてくれるもの』に、好奇心というか、期待というか、そういったものを感じてて……。ともかく、過去に囚われて下を向いているよりかは、こうして星を見上げているのは、存外に、悪くないのかもしれない」

 

 心臓がどくりと跳ねたのかと錯覚してしまいそうになるほどの、彼女が(おそらくは何の気なしに)発した、一切の他意のないであろう過不足なきその言葉は、私にとって最上の賛辞に等しいものだった。

 

「『悪くない』、ね……うん、確かに、そう言ってくれるのなら、付き合ってもらった甲斐があったよ、うん」

 

 頬や首の辺りが、かあっと俄かに熱を帯びる。それを悟られぬよう、私は努めて平静を装いコーヒーを呷る。けれど彼女の言葉を無意識に反芻してしまった程度には、私の万感の思いは露呈されてしまっていた。

 ミサキという少女は、生来のものか、幼少期の環境による後天的なものか、事物に執着せず、関心を持たず、自我に(こう)(でい)しない、それこそ月のような少女だった。少なくとも当初の所感はそのようなものだった。だが、共に過ごす時間を積み重ねるにつれて、そんな彼女にも、確かな執着、飽くなき関心、尽きせぬ拘泥が、その胸の奥に秘められていることを知った。それは幼い頃の、深い(でい)(ねい)の中にあっても尚失われることのない、耀(よう)(よう)とした輝きの(ざん)()であった。

 私ならば、その深みに手を届かせることができるだろうか――?

 そこに一つでも多くの煌めきを添えてやることは叶うだろうか――?

 そも、全く尊き金科玉条の如きその深淵に触れることは許されるだろうか――?

 これらを是とするならば、まさしく(みょう)()だ。

 時に聖職者とすら呼び習わされる「先生」という肩書は、或いは、その為だけに存在すると言っても過言ではなかった。

 教卓に立ち教鞭を執ることも、況や戦闘の指揮を執ることも、本質たりえない。私が渾沌と陰謀と災禍の渦巻くこの学園都市(キヴォトス)に赴任してきたのは、そんなことの為ではない。

 彼女らの道行を照らし、彼女らの持つ可能性と神秘とを(こと)()ぐ、それこそが、「大人」としての使命であり、「私」としての本懐でもあった。(あん)(たん)たる未来が鎌首を(もた)げているのなら、行ってそれを取り除いてやり、迷いと過ちに足を取られているのなら、呵々として手を差し伸べてやり、重い責任が双肩を掴んで離さず()(てつ)を強いているのなら、これを肩代わりして背中を押してやる、それらを行い遂げるに足る五体が残っているのであれば、後は自分自身がどうなろうと、心底構わないくらいだった。

 奉仕の精神は、無償であるからこそ届ける意義がある。だが、かといって、この身に報いが訪れるのを拒む道理はなく、むしろ、こうして慮外の一撃を被ってしまったからこそ、私は、彼女の顔をまともに見られなくなっていた。(ぎょう)(こう)なのは、彼女の方からも私をはっきりと視認できなかったであろうことだ。

 ミサキの言葉を噛み締めつつ、私は鼻の奥がつんと痛みを発するのも快く感じていた。職業柄、数多の生徒の助けとなり、感謝されることは数えきれないほどであったが、(こと)ミサキに関しては、事ここに至るまでの経緯を鑑みるに、そうされることを()()的に望んでいたわけではなかったし、無論それを期することなど到底なかった。だからこそ、そのたった一言が、それこそ望外のものとなりえたのだろう。何よりも尊く何物にも代え難いそのきらきらとした欠片が、心の奥底に仕舞っておくに足る無二の価値を持つのだろう。

 

「……ミサキ」

 

「何? 先生」

 

「流星群、来ないね」

 

「うん、そうだね」

 

 流星群の活動が極大とされていた定刻を過ぎても、頭上の無数の瞬きは微動だにせず、静かに私達を見下ろしていた。ニュースで予告されていた時刻を鵜呑みにしていたわけではないが、こうも沙汰が起こらず久しいのならば、今回は諦めるという勘案が頭をよぎるのも無理はなかった。

 

「見られなかったのは残念だけど、身体を冷やすのもよくないし、そろそろ戻ろうか」

 

 折角彼女を連れ出して来たのに、一番の目的を達成できなかったのは甚だ遺憾ではあったが、共にこうして過ごして、報いの言葉を贈られただけでも、私にとっては充分以上に価値のある時間だった。これ以上無理に粘ったところで、夜風が彼女の身体を蝕んでしまうのならそれは本意ではない。

 私は椅子の背凭れを戻し、立ち上がってテントへと踵を返そうとする。

 

「――いや。見て、先生」

 

 背中越しに掛けられた言葉に振り返ると、灯りの乏しい中、彼女のシルエットが星空を指差しているのが見えた。

 私は弾かれたようにミサキの指す先、紺碧の天穹に目を向ける。

 

「――……あっ」

 

 それは、私の目にも捉えることができた。

 鏤められた綺羅星の間を縫うようにして、一条の箒星が軌跡を残していくのが。

 かと思うと、追随するように、一条、また一条と、虚空から忽然と現れた輝きが尾を引いて流れては消えていった。

 それらの光景に、口を閉じることも忘れてただただ見入る。

 

「よかったね。見られたよ、流星群」

 

 まるで私の望みが叶ったのを喜ぶように、ミサキが微かな笑みを零す。

 そう、確かに私の望みは叶った。

 けれどそれは、ただ流星群を見たかったというわけではなくて、ミサキに流星群を見せたかった、いや、もっと正確に述べるなら、ミサキと一緒に流星群を見たかった、というものだった。

 自らの今朝の言動を思い返すなら、自分が見たいだけだったと思われても仕方のないことではあったが、こうして実際に目の当たりにできているのなら、今やそんなことは瑣末だ。

 

「うん。やっぱり、綺麗だね」

 

 過去に観賞した映画の中で、こうして二人で流星群を観に行くシーンがあったが、スクリーン越しのそれより、自身の目で直接見た方が、何倍も、私の胸を熱くさせた。その映画を見たのももう何年も前のことになるが、その中で記憶にこびりついて薄れつつあった景色は、今鮮明な色彩と立体感を伴って新たに瞳に灼きつくようだった。

 暫く呆けるようにして空を見上げていた私だったが、ふと、視線をミサキの方に移した。

 

「…………」

 

 ミサキは、先程までの私と同じように断続的な箒星の出現と消失を眺めており、そのニヒルな栗色の瞳には、彼女の扱う多弾頭ミサイルの閃光のように、無数の煌めきが映し出されていた。

 

「……これはアツコが教えてくれたことなんだけど」

 

 依然としてキャンプチェアに(ぎょう)()したまま、私の一瞥に気付いているのかいないのか、彼女はもう随分冷めてしまっているであろうココアを一口啜って、

 

「月下美人って花は、一年に数回しか咲かないらしくて、しかも、夜だけ咲いて朝には閉じちゃうんだって」

 

「それが、流星群みたいだ、ってこと?」

 

「私が言おうとしてたことを先に言わないで」

 

「はは、ごめん」

 

 たった一夜の(しょう)(かい)、たった一瞬の(こう)(せん)、いずれも、その場に立ち会えるのが稀少であるからこそ、人々に尊ばれるのだろう。数えきれないほどのささやかな日々を送って、雌伏とも呼べるほどの執拗さで、眩く香しい花弁を開かせる時を待っていたのだろう。

 

「でも、まぁ」

 

「ん?」

 

「先に言えたってことは、先生も、私と同じように感じてたってことなのかな」

 

「……どうだろうね」

 

 厳密に言うならば、私達の間に各々の肉体という絶対的な隔たりが横たわっている以上は、全く同じ感情というものはありえないし、それを確かめる術もない。人と人は互いを完全に理解することはできない。しかし、だからこそ、相手のことを知りたいという気持ちが、少しずつ歩み寄っていって、近しい思いや似た感情を共有して、心地の良い居場所を生み出すのだ、とも思う。

 肯定とも否定とも取れる私の曖昧な返事に、構わずミサキは続けた。

 

「だったら、次に私が言おうとしてることも、分かる?」

 

 私とミサキが、どれほどの時間こうしていたのかは今や知ることはない。数時間経過していたのかもしれないし、それこそ、流星の軌跡を観測できるほどの刹那でしかないのかもしれなかったが、どうあれ、いつの間にか星屑の筆跡を確認することはできなくなっていた。

 

「ん〜、『もう少し星空を見ていよう』とか?」

 

「……及第点、かな」

 

 ミサキはそれきり、何かを言うこともなかったので、私も、肌を穏やかな風が撫でていくのを感じつつ、瑠璃色の静寂に身を委ねた。

 いつか、こうして一緒に見た星空が、新たな経験の積み重ねによって記憶の中で希釈されてしまうのだとしても、それでも、一緒にいたことは忘れないだろうし、彼女もまた、そうであってほしい。これから先、沢山の辛いことや苦しいことが待っていようとも、月下美人のように、確かにそこにあった輝きは決して消えはしないと、それだけで前に進む力となるのなら、これに勝る喜びはない。

 天蓋では数多の星々が静かに瞬いていて、もう流れ星を見ることは叶わない。

 けれど、ただ、君に幸あれと、心の中で唱えた願いは、星だけが知っていた。

 





みずがめ座η流星群の時期に書き始めたはずなのに、
こうして人様にお見せできるようになる頃には、
既に七夕とかみずがめ座δ南流星群とかの時期になっちまいましたよ……
フフ……光陰矢の如し……

流星群って現実なら数日間観測することができて、
月明かりのない夜が適した環境らしいけど、
ジョージ・ルーカス監督の宇宙と同じで、
俺のキヴォトスでは流星群は一夜限りだし月出てるくらいで霞むようなものではないんですよ
(ということにしておこう)
これが不勉強を棚に上げて開き直った文系の末路ですよ

流星群といえば、
厨房の頃に男女4人で学校に集まって一緒に夜空眺めたことと、
岡山の美星町で見た星空なんかが記憶に残ってるなぁ
すっげーんだぜ、美星町
条例で夜の何時以降は住民は全消灯するみたいなのが決まってるんだってさ
あとは、南アメリカの、チリだっけな、ウユニ塩湖、あそこ行ってみたいね
勿論、ミも一緒に
アッ気持ち悪いですよね、すいません……
こんなとこ読む好き者なんていないだろうから大丈夫でしょうけど……へへ……へへへ……

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