粛清王「綾小路清隆」   作:ポポのタン

2 / 4
第2話 粛清王でも高校の入学は楽しみ

side 坂柳成守

 

「はぁ..はぁ...はぁ...!」

 あそこから出て、車に乗った途端、呼吸が荒くなった。極度の緊張感で無意識のうちに呼吸が浅くなっていたのだろう。

 

「生きた心地がしなかった....」

 

 坂柳成守は高度育成高等学校の理事長になる前にもさまざまな場面で緊張を味わってきた。しかしそのどの場面も、今さっきの場面の緊張感に比べれば見劣りするだろう。あそこまで明確に自身の命の終わりを感じたことは、50年近く生きてきた中でも初めてのことであった。

 

「しかし.....粛清王とはやはり清隆君のことだったのか....」

 

 粛清王という存在自体は坂柳も知っていた。日本を支配し、今や世界を支配しようとしている存在。あらゆる犯罪の王。その冷酷で残虐、手段を選ばないやり口から粛清王と呼ばれていると話は聞いていた。今や日本の内閣や各省庁、高円寺グループを始めとする名だたる大企業も彼の言いなり。日本は彼の手に落ちたと言っていいだろう。しかしその素性は一切分からなかった。男なのか女なのか、どんな人物なのか、年齢はどの程度なのかといった些細な情報ですら出回らなかった。しかし、坂柳は粛清王という名前を聞いたとき、なぜかあの少年、綾小路清隆を明確に思い出した。

 

「....有栖に会いたい」

 

 粛清王から投げられた愛する娘の写真を手に握りながら、坂柳は今日この後は全ての予定をキャンセルして、ゆっくり娘と過ごそうと思わず笑顔をこぼした。さっきまで抱いていた極度の緊張感が少し和らいだ気がした。

 

 

 

 

 

 次の瞬間、車が猛スピードで加速し始めた。一気に160km/hは出ているだろうか。車はガソリンスタンドに一直線に向かっていく。ガソリンスタンドには()()()()ガソリン車が停止しているようだ。

 

「!...くそぉ」

 やはり粛清王は私を見逃してはいなかった。周りの景色がゆっくりになる。有栖とのさまざまな思い出が頭の中によぎった。これが走馬灯というやつなんだろうか。粛清王に会う前に死ぬことを覚悟はしていたが、迫りくる死の恐怖に坂柳の目から涙がこぼれた。

 

「っ!....有栖!愛し」

 

次の瞬間、坂柳の乗っている車がガソリン車に激突し、周囲の空気が揺らぐような爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 十数分後、消防車や警察、救急隊が来て消火活動や救助活動を行っていた。車の中からは車を運転していた黒焦げになった男の遺体と、眼鏡をかけ、手に写真のようなものを強く握りしめた黒焦げの男性の遺体が発見された。

 

 

 

 

 

 

 

side 綾小路清隆

 

「清隆さん、帰してしまってよかったんですかい?」

 

 俺の左に居る側近、黒が俺にそう聞いてくる。

 

「あぁ。もともとダメもとでの契約だからな。あくまで契約出来たらラッキーくらいのスタンスだった。」

 

「あいつ粛清王様に逆らった。殺さなきゃ。」

 

 俺の右に居る側近、白がそう言って殺意を体からあふれさせる。

 

「まぁ待て白。坂柳さんにはホワイトルーム解体計画のときに世話になったからな。そんな恩人をさすがの俺でもこの場では殺さないさ。」

「......そうですか。」

 

 白は不服な様子ではあるが殺意は抑えた。

 

「しっかし清隆さんにもそういう一般的な感性があったんすね。自分の思い通りにいかない人間は問答無用で殺す人だと思ってましたよ」

 笑いながら黒が俺にそう話しかけてきた。

 

「何を言ってるんだ?思い通りにならない人間は始末するに決まっているだろう?」

 

「....?でもさっきから清隆さん。坂柳は殺さないって言ってんじゃないっすか」

 

「殺さないとは言ってないぞ。あくまで()()()()()殺さないと言ってるんだ」

 

「...ひぇー。おっかねぇ」

 

 黒はそういうと両手を上げて笑いながら、まるで降参ですという姿勢をとった。

 

「坂柳さん、帰り道に事故にでもあってなければいいがな...例えばガソリンスタンドに車が突っ込むとか」

 

そう言いながら粛清王は、口に出した心配の言葉とは裏腹に、獰猛な笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかし清隆さん。高度育成高等学校の件。どうするつもりですかい?」

 

 綾小路の左に居る側近、黒が綾小路にそう質問した。

 

「坂柳さんが居なくなれば、入学の件なんかはもはやどうとでもなる。」

 

 綾小路はそう言うと、携帯を取り出し電話を掛けた。

 

「もしもし。俺だ。高度育成高等学校の理事長の枠に空きができる。そこに月城常成を選出しろ。.....なんでかはお前が知る必要はない。それとも知りたいのか?.......いい、それでいい。お前たちは何も余計なことを考えず俺に従っていればそれでいい。じゃあな。追加の指示は追って連絡する。」

 

 電話を切り綾小路はまた笑顔を見せた。

 

「電話の相手は誰なんですかい?」

 

「文部科学大臣だ」

 

「あぁ、あのデブじじいですかい」

 

「そのデブじじいだ。」

 

 綾小路は笑みを浮かべて続けた。

 

「月城常成が理事長になれば、入学や希望のクラスに在籍することなど容易だ。あいつはきちんと仕事はこなすからな。」

 

「しっかし、月城は信用できるんですかい?確かに仕事はきちんとやりますが、どうも胡散臭いですぜ」

 

「あぁ、その点についても問題ない。月城常成を監視する人員も何人かつけている。怪しい動きを見せればすぐに始末する.....まぁ、なんにせよこれで入学のことはどうにかなる。俺は4月から花の高校生活を楽しんでくるさ」

 

「高度育成高等学校に入学した後の粛清王としての仕事はどうするんですかい?」

 

「その点も月城常成が理事長ならどうとでもなる。本来ならば入学した時点で外部とのやり取りは禁止だが、問題はないだろう」

綾小路は変わらず笑みを浮かべているが、瞳の奥から楽しみだという気持ちが隠せてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

「.....清隆さん。どうしてあの学校に入学することにそんなにこだわるんですかい?」

 

「それ、私も疑問に思っていました。」

 

 黒に引き続き、白も疑問を投げかけてくる。

 

「そんなにこだわっているように見えたか?」

 

「えぇ。粛清王様にとって高校なんて大したものではないと思います。しかし、明らかに

粛清王様は高度育成高等学校に入学することにこだわっています。なぜなのでしょうか。」

 

「.....俺も一度花の高校生活を味わってみたいからだな」

 

「噓つきは泥棒の始まりですよ、粛清王様」

 

「.....泥棒どころか、俺は大犯罪者なんだけどな」

 

 綾小路は笑いながら話をつづけた。

 

「高度育成高等学校は普通の高校とはまったくの別物だ。ポイントという独自システムにより、ポイントを多く持つもの、すなわち強者が弱者を虐げる図が完成している。そこだけ見れば世間一般と変わらないかもしれないが、特筆すべき点はポイントで買えないものはない、いや、できないことはないという点だ。このルールがある限り、ポイントを持つ者がどんな犯罪行為を行ったとしても許される。」

 

「さすがに犯罪行為の類は許されないのではないですかい?」

 

「今までならば、な。しかし、次の理事長は月城常成だ。つまり間接的に俺が操ることができる。そうすれば犯罪行為すらポイントを使えば許される世界、まさしく俺が目指している理想の世界が完成する。」

 

「....なるほど。つまり清隆さんは強者が何をしても許される世界、すなわち俺たちの理想の世界をいち早く体験するために高度育成高等学校に入学したいと考えてるってわけですかい」

 

「その通りだ。」

 

 綾小路は口から笑みをこぼし、今か今かと入学を待ちきれない様子だった。その様子は小学生が遠足に行く前の日の夜のような、友達と遊びに行くために待ち合わせ場所に向かっているときのような、とても純粋なものだった。

 

「というわけだ。俺は4月から高度育成高等学校に入学する。その間お前たち二人にいろいろな負担をかけるかもしれないが、臨機応変によろしく頼む。」

 

「了解でっせ」

 

「了解いたしました」

 

 負担をかけるかもしれないと言われたが、側近2人は嫌がる様子を微塵も見せなかった。それは彼らが粛清王の忠実な部下であることを証明する、揺るぎようのない事実であった。




文章を書くのって難しいですね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。