粛清王「綾小路清隆」   作:ポポのタン

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side story➀ 坂柳成守の生きた証

 私は綾小路篤臣先生を尊敬していた。どれだけの逆風が吹こうともあきらめない姿勢、褒められた手段ではないにしろ日本をより素晴らしい大国にするための人材を育成しようとする考え、そのどれもが私自身には良くも悪くもまっすぐなものに見え、教育者としてだけではなく、一人の人間として尊敬を抱いていた。

 

 綾小路篤臣先生が主導するホワイトルームプロジェクトの話を聞いたとき、私はこのプロジェクトは日本を大きく変えるものになると直感し、プロジェクトに対して多額の出資を行っていた。しかし、実際にホワイトルームを見学し、目撃したホワイトルームの姿は、子供たちに越えられないほどの苦難を背負わせて、破滅に導くものだった。教育者として私は正しいことをしているのだろうか。そう自問自答を繰り返す日々だった。そんな中ホワイトルーム四期生の教育が始まり数年が経過した頃であろうか。綾小路篤臣先生から「ホワイトルーム至上最も優れた個体が誕生した」という連絡を受け取った。詳しく話を聞くとその子供は綾小路篤臣先生の実の息子の綾小路清隆という子供であるということだった。その連絡を受け、私は娘の有栖とともにホワイトルームへ行き、ガラス越しにホワイトルーム四期生の見学をしていた。どの子供が綾小路清隆なのかは一目見て分かった。他の子供たちが苦戦している中、圧倒的なチェスの実力を示し、ホワイトルームの教官を完膚なきまでに叩きのめしている。間違いない、あれが綾小路清隆だと。ふいに綾小路清隆がガラス越しに私と有栖を一瞬見た。このガラスはマジックミラーになっているはずなので、向こうからは見えないはずだが、私たちは確かにこの瞬間目が合った。その目を見たとき、私は彼から得体のしれない、冷徹さを感じ思わず目をそらしてしまった。

 

 あれから数年、有栖はチェスに熱中するようになった。口を開けば「綾小路清隆を倒したい」と言っていて、父親ながら少し執着しすぎではと思うときもある。しかし、いつもつまらなそうにしていた有栖が熱中できるものが見つかって、私は嬉しさ感じた。不意に携帯のメールの着信音が鳴った。差出人は非通知だったが、私はメールの内容を見て驚いた。

 

 ホワイトルームのことで話がある。今日の21時に埼玉県〇〇市〇〇〇で会おう。

 くれぐれも綾小路篤臣には内密に。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の21時、私は指定された場所に足を運んだ。なぜ私はここに来ているのだろうか。これは綾小路篤臣先生への明確な裏切りにほかならない。もしかしたらメール自体が何かの罠かもしれない。私は下を向きベンチに座り、答えの出ない思考に沈んでいると、不意に人の気配を感じて顔を上げた。

 

「やはり来てくれましたね。」

 

 そこには真顔でたたずむ、ここにいるはずのない少年、綾小路清隆が居た。

 

「どうして君がここにいるんだい!?」

 

「まぁ落ち着いてください。順々に話すので」

 

 彼はホワイトルームの中にいる子供たちを解放するために動いており、そのために研究者の一人を協力者にしたこと。その研究者を介して私にメールを送ったこと。ホワイトルーム内部の監視カメラの映像をダミーに差し替えて、ここに来たことを話してくれた。

 

「あいにく私に協力できることなど何もないよ。それに私は篤臣先生の計画に賛同してるんだ。ここに君がいることを篤臣先生に伝えれば君の計画は頓挫する。」

 

「えぇ。そうですね。しかしあなたはそうはしないでしょう」

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「実際に会って確信しました。あなたはホワイトルーム計画に賛同し、出資してしまったことに後悔している。子供たちを残虐に扱うあの施設の在り方が、本当は正しくないと思っているのでしょう?」

 

「.......」

 

「協力してください。坂柳さん。あなたが協力してくれればホワイトルームの内部にいる苦しめられている子供たちを救済することができる。」

 

「......何をすればいいんだい?」

 

「......いいんですか?」

 

「うん、構わない。私は教育者として、子供たちを非人道的に扱う施設を許すことはできない」

 

 何よりも自分がホワイトルームに対して出資してしまったことで、たくさんの子供たちが苦しみ犠牲となった。その贖罪ができるチャンスに、私は乗らざるを得なかった。

 

「分かりました。協力ありがとうございます。計画では......」

 

 そこからの彼の計画を聞いているうちに、私はホワイトルームという施設はとんでもない化け物を作り出してしまったのではないかと考えるようになった。

 

 

 

 

 

 

 計画は無事成功し、ホワイトルーム内部に居た子供たちは解放され、日本政府によって保護された。この事件は報道機関や各種関係者に圧力がかかることにより、世間に出ることなく内密に処理された。日本の政治家が主導して非人道的な施設で実験まがいなことを行っていたことが表に出れば、日本国民からのバッシングだけではなく、世界中からの批判は避けられないと日本政府は判断したからだ。

 

 有栖にはホワイトルームが解体したことは伝えなかった。今回の事件について身内にも漏らしてはならないという強い封口礼が敷かれたからだ。

 

 ホワイトルーム解体後、綾小路篤臣先生は逮捕され、関係した研究者たちも逮捕され、刑務所に収監されたと聞いた。私はこれですべてが終わったと思っていた。少しは犠牲になった子供たちに対して償いができたと、少し安心したような気持ちになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年後、綾小路篤臣先生が刑務所内で自殺しているのが発見されたと聞いた。その話を聞き、私は自身の耳を疑った。あの綾小路先生が自殺?何かの間違いだろうとも思った。綾小路先生は刑務所に収監されたくらいでは自身の夢は諦めない。この話を聞いたとき、私はおぼろげながらあの少年(綾小路清隆)の姿が頭をよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その半年後くらいだっただろうか、日本の裏社会に粛清王などという人物が現れたという話を聞いたのは。

 

 

 その話を聞いた瞬間、私は今度ははっきりとあの少年(綾小路清隆)の姿が頭をよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日、私は粛清王に会いに行く。粛清王からの通達を受け取ったからだ。粛清王は今や日本を支配し、世界を支配しようとしている存在。日本の内閣や裁判所、各省庁や名だたる大企業ですらもすでに彼の言いなり。私にこの通達を拒否することは許されない。私はもしかしたら明日殺されるのかもしれない。しかし私の心の中にはそれすら贖罪の機会であると考えている私も存在する。粛清王が男か女なのか、年齢はどのくらいなのか、どんな人物なのか、私に直接情報が伝わってきているわけではない。しかし、なぜか私は粛清王があの少年(綾小路清隆)であると確信している。ホワイトルームの象徴たる彼に殺されることで、残虐なプロジェクトに出資し、罪なき子供たちを犠牲にしてしまった私の罪は償われるのかもしれない。

 

 

 

 

 覚悟はしたつもりだったが、この文章を書いているうちに私にはたくさんの未練があることに改めて気づいた。

 

 

 

 

 

 高校生になった有栖の姿を想像する。有栖はどんな大人になるのだろうか。どんな職業に就くだろうか。どんな人を好きになり、どんな人と恋愛をし、どんな人と結婚するのだろうか。どんな人でも構わないと思う。有栖が選んだ人ならばきっと有栖のことを幸せにしてくれるはずだから。もっとたくさんのことをしてあげればよかった。もっといろんなところに、海外にだって連れて行ってあげればよかった。母親が居ないことでさみしい思いをさせてしまった。誕生日ももっと祝ってあげたかった。

 

 

 私は父親として頼りなかったかもしれない。あの子は母親に似て聡明だから、父親の私に負担をかけないようにいつも気を使ってくれていたと思う。その結果、あの子は何でもかんでも一人でこなすようになってしまった。一人でできることは素晴らしいと思う。自分に卓越した能力がなければできないことだから。しかし私はたくさんの友人と協力して何かの行うことの楽しさ、難しさももっと知ってほしいと傲慢にも思ってしまう。私は父親として何もできなかったとこの文章を書いていて改めて思う。

 

 

 まだこの文章に書きたいことは多くあるが、これ以上はいくら時間があっても足りないのでこの辺で終わりにする。この文章は誰に見せるわけでもない、誰に残すわけでもない。しかし、最後にこの世界に私が生きていた痕跡を、たとえ誰も見ることがなくても残しておきたいと傲慢にも思ってしまった。

 

 

最後に

有栖、君を世界で一番愛している。君の幸せを心から願っている。君の人生にたくさんの幸せな出来事が起こりますように。

                                                             坂柳成守

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