かつて凡人だった男の成り上がり生活   作:飢堕天

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4話

——いったん落ち着こう。

あまりの展開に脳みそがバグって変なことを想ってしまった。

 

——とりあえずは状況の整理だ。

 

まず、俺は目覚める前までは地球にいた。

地球での直近の出来事としては、確か母親の部屋がもぬけの殻で、それを見て俺は捨てられたんだと理解した。

そんで、腹が減ったから何か食べようと冷蔵庫を開くも、中には何もなかった。

だから、何か食べ物を買うためにコンビニに向かった。

その道中に、雷に打たれた。

そして、おそらくは俺がこちらの世界に転移したのは落雷に起因する。

原理も理屈もわからない。

だが、それ以外に原因は考えられない。

——まぁ、原因に関してはとりあえず置いておこう。

解らないことをいつまで考えていても仕方ない。

とりあえず、俺は地球からダンまちの世界へ異世界転移したわけだ。

そして、転移した俺の状態に関してだが…

 

「なぁ、ヘスティア」

 

俺は、当時の俺の状態を知るために、当時のことを一番知っているであろうヘスティアに声を掛ける。

 

「なんだい?」

 

「ヘスティアが俺を見つけた時、俺ってどんな状態だったんだ?」

 

「ソラ君の状態かい?」

「そうだね、まず、衣服は焼け焦げて原形を留めてなかったよ。だけど、不思議なことに肉体は微かに火傷痕が残っている程度でそこまで大した痕はなかったよ」

 

俺は、ヘスティアが述べた言葉に引っ掛かりを覚え、その部分に関して反射的に言及した。

 

「衣服は原型が留まらないほどに焼け焦げていたのに、肉体には大した火傷痕はなかった?」

 

「うん。たしかに、ボクが君を見つけた時、目立った外傷は見られなかったよ」

 

——それはあり得ない。

衣服が焼け焦げていたということは、つまり俺は落雷に直撃していたということだ。

そして、雷の温度は約3万℃と言われている。

だから、当然衣服が原形を留めていなかったと言われても納得できる。

だが、それならば肉体も無事では済まないはずだ。

少なくとも、大した火傷痕がなかった、なんてことはあり得ない。

——だが、もしも本当に肉体が無事だったとするならば、それはおそらく…

 

「これに関してはミアハにも聞いてみたんだけど、ミアハが言うには、肉体に損傷が見られないのは回復魔法かポーションといった回復手段を用いて肉体の損傷を回復したからだろう、って」

 

どうやら、神ミアハも俺と同じ考察らしい。

だが、この考察が当たっている可能性は非常に高いだろう。

——当時、意識を失う前に感じた、あの暖かさの正体。

おそらくあれは回復を施されていたのだろう。

だが、そうなってくると、問題なのはいったい誰が回復を施したのか、ということだ。

 

「ちなみにだが、誰が俺を回復したのか、何か心当たりはあるか?」

 

自分の中に該当しそうな者はいなかったため、ヘスティアに訊ねる。

 

「いや、残念だけどボクにも見当がつかない。だけど、ソラ君を見つけたのはこの教会の入り口のだし、あんなところに回復手段を持った者がたまたま通りかかったとは考えにくいかな」

 

——なるほど。

となれば、俺を回復したのはそもそも人間ではない。そして、当然ポーションでもない。

だとすれば、可能性があるのは…

——精霊

今俺が思いつく中で、最も可能性が高いのは精霊による『精霊の奇跡』。

そんなものが本当にあるのかは分からないが、オラリオにも精霊は存在する。

なら、可能性としては十分考えられるだろう。

——とはいえ、あくまでも根拠のない、考察の域を出ない想像に過ぎない。

となれば、これ以上考えても仕方がないだろう。

とりあえずは、命があることに感謝するとしよう。

 

「とりあえずは、この件に関しては了解した。」

「話は変わるが、ヘスティア。お前は神なんだよな?なら眷族はいるのか?」

 

俺は話題を変えるために、新たな質問をヘスティアに投げかける。

 

「いや、ボクには眷族が1人もいないんだぁ」

 

俺の質問に対し、ヘスティアは涙交じりにそう答える。

 

——なるほど。

ヘスティアに眷族が居ないということは、ベル・クラネルはまだオラリオに来ていないということか。

いや、もしかしたら既に来ているのかもしれないが、少なくとも原作前なのは確かだろう。

 

「ね、ねぇ、ソラ君。」

 

思考に耽っている俺に対し、ヘスティアは上目遣いで、遠慮気味に俺の名前を呼んできた。

俺はヘスティアに顔を向け、目を合わせる。

すると、ヘスティアは瞳を揺らす。

その様子からは、不安感がひしひしと伝わってくる。

 

——おそらく、ヘスティアは俺を眷族に勧誘しようとしているのだろう。

だが、断られるかもしれないという不安がある。

ヘスティアの性格的にそういった不安を抱く神ではないように思えるが、おそらくはこれまで勧誘するたびに断られてきたのが影響しているのだろう。

 

——これは、俺から言った方がいいか。

 

「ヘスティア」

俺はまっすぐに、ヘスティアを見据えながら彼女の名を呼ぶ。

俺の呼び掛けにヘスティアの肩がびくりと震える。

唇はきつく結ばれ、瞳の奥には不安と期待が渦巻いている。

そんなヘスティアに対し、俺は穏やかに——しかし、揺るぎない意志と本心を込めて伝える。

 

「俺を貴女の眷族にしてほしい」

 

「——っっ!!」

 

俺の言葉に対し、ヘスティアは驚きの表情を浮かべ、大きな瞳がさらに見開かれる。

そして、徐々に頬を桜色に染めていき、瞳を潤ませ、唇はにやけを耐えているのかピクピクと痙攣している。

ヘスティアは、何か込み上げてくるものを耐えるように、胸元に持ってきた手を片手でもう片手を力いっぱい握りしめ——せり上がる気持ちを抑えながら俺に聞いてくる。

 

「ボクの、眷族になってくれるのかいっ?」

 

既に返ってくる応えは理解しているだろうヘスティアは、されど——今一度彼の口から、彼の声で応えてほしい。そんな思いを込めて彼に問いかける。

 

「あぁ、俺は貴女の眷族になりたい」

 

俺は、ヘスティアの問いに対し、力強く頷き返答する。

ヘスティアの眷族になるということは、つまり原作の本筋に大搦するということだ。

そうなれば、必然的に危険な目にあることになる。それも、他ファミリアよりも量も質も高いものとなるだろう。

——だが、それがなんだというのだ。

彼女は俺を救ってくれた。

一切の打算なく、純粋に俺を想って行動してくれた。

そんな彼女に対し、報いなければ、男じゃないだろう。

だからこそ、俺は彼女の眷族になりたいと心からの想いを伝えた。

 

——彼の言葉に嘘はない。

それは、神であるボクには判る。

——けれど、今はそんな権能に頼らずとも、彼の目を見れば判る。

彼は心からボクの眷族になりたいと思ってくれている。

そのことが堪らなくうれしく、万感の思いが胸中を占める。

 

「ソラ君、ありがとうっ!!ボクの眷族になってくれてっ!!」

 

ヘスティアは、溢れ出そうになる涙を拭い、満面の笑みで俺に感謝を告げる。

 

「——っっ!!」

 

あまりにも綺麗な笑顔に——俺は一瞬見惚れてしまう。

たまらず、俺は照れくささを耐えるように視線を逸らしながら軽口をたたく。

 

「バカ、まだ神の恩恵(ファルナ)すら刻んでねーだろうが」

 

「ふふっ、そうだったねっ」

「よしっ!それじゃ、早速ファルナを刻もうかっ!」

 

ヘスティアは、俺が照れていることに気付いていないのか。純粋な笑顔で提案してくる。

ヘスティアの提案に対し、俺は頷きで返す。

 

 

 

「それじゃ、刻むよ」

 

ベッドに移動した俺たちは、現在俺がうつ伏せとなり、その上にヘスティアが跨る状態だ。

ファルナは背中に刻むため、俺は服を脱いでいる。俺の身体はお世辞にも綺麗とは言えず、むしろ嫌悪されることが大半だろう。だが、既に一度、俺を助ける際に見たからなのか、ヘスティアは俺の身体を見ても特に何か言うわけでもなく、嫌悪感も出さずにいる。

——こういうところは、ヘスティアの好感の持てるところだよな。

俺は胸の中でひっそりとそんなことを想った。

 

ヘスティアは、針を使用して指に傷をつけ、その傷口から出てくる血を俺の背中に垂らす。

そうして、神の血——イコルを媒介として俺の背にファルナが刻まれた。

 

「なっ......!?」

 

——突如、頭上から驚きの声が聞こえる。

俺にファルナを刻むと同時に驚きの声を上げるということは、俺のステイタスに驚くような何かがあったということか?

——まさかっ、俺が転移者であることがバレるような魔法かスキルでも発現したのか?!

俺は一抹の不安を抱えながら、恐る恐るヘスティアに問いかける。

 

「ヘ、ヘスティア。何かあったのか?」

 

——俺の正体がバレるのではないかと不安が胸中を占める。

だが、そんな俺の予想とは裏腹に、ヘスティアは顔に喜色を浮かべながら、嬉しそうに俺の質問に答える。

 

「すごいよっ、ソラ君っ!!」

「魔法とスキル、どちらも1つずつ発現してるよっ!!」

 

その言葉を聞いて、俺は思わず固まる。

——魔法とスキル、どっちも1つずつ発現してるだとっ!?

俺は、発現した魔法とスキルが気になり、思わず声を大きくしてヘスティアに問う。

 

「どんな魔法とスキルが発現したんだっ?!」

 

「ちょっと待ってね、今紙に書き写すから」

 

ヘスティアは、慌てる俺を宥め、俺の背に刻まれたステイタスを用紙に書き写していく。

その作業を背中越しに感じながら——俺はふと思った。

——そういえば、俺ってこの世界の字、読めなくね?

そう思っていると、作業を終えたのか、ヘスティアは1枚の紙を俺に差し出してくる。

その紙に目を向けると・・・

 

——えっ?読める…

ちょっと待て。なんで字が読める?

俺はこの世界の人間ではないし、読むことは不可能のはず。

——いや、ちょっと待て。

この感覚は——俺が読めているわけではない?

不思議な感覚だ。これは俺が読んでいるのではなく——俺の脳を介して俺ではない別の誰かの記憶が流れ込んできている?

そして、その記憶をもとに文字を読んでいるのか?

詳しいことは分からない。だが、おそらくこれは俺を助けてくれた精霊の記憶だろう。

——また、助けられたな。

俺は、心の中で見知らぬ精霊に感謝を告げ、俺のステイタスが書かれた紙に目を向ける。

 

 

ツキカゲ・天

Lv.1

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

《魔法》

【アバドン】

詠唱式:【我が惨禍は、終末を告げる】

・強化魔法

・被ダメージを攻撃力・防御力・敏捷力に変換。

 

【】

 

【】

 

《スキル》

【亜空間庫】

・様々なアイテムを亜空間に収納・管理が可能となる。

 

 

「これが俺のステイタス......」

 

——アバドン。この魔法は短文詠唱か。しかし、短文詠唱にしては効果がすさまじいな。

これってつまりは、ダメージを負えば負うほど強くなるってことだろ?

なんかあれだな——ベート・ローガの魔法に似てるな。

まぁ、魔法やスキルは本人の経験や想いに基づくって聞いたことがあるし、この魔法は間違いなく俺の地球での経験に起因したものだろうな。

 

——次にスキル、亜空間庫。このスキルはめちゃくちゃ便利だな。

この魔法はどちらかと言えば、経験よりも想いだろうな。

おそらくは、異世界転生あるいは異世界転移した者にはアイテムボックスが附く、って潜在的に思いこんでいたんだろう。

まぁ、たしかに異世界モノではアイテムボックスは定番だしな。

 

——さて、ステイタスを確認し終えたわけだが、俺のステイタスは間違いなく強い。

神々なら俺のステイタスを見たらチートだと冷やかすだろうな。

——とはいえ、ベル・クラネルのような成長促進系のスキルは発現していない。

まぁ、あれは主人公補正のようなものだろうし、発現しないのが当たり前か。

 

そうして、ステイタスに関して考察している俺に対し、声が掛かる。

 

「確認はできたかい?」

 

「あぁ、できた。だが、これは間違っても外部に漏らすわけにはいかないだろうな」

 

俺は、思ったことをヘスティアに伝える。

それに対し、ヘスティアも同意見なのか賛同してきた。

 

「そうだね。ソラ君のステイタスははっきり言って異常だ。そもそも、ファルナを授けた時点で魔法やスキルは発現していないのが大半なのに、君はその両方が既に発現している。それも、どちらもレアに分類されるものだ。もしも、このことが他の神に知られれば、間違いなく面倒なことになる。だから、ソラ君。君なら大丈夫だとは思うけど、気を付けるんだよ」

 

ヘスティアの言う通りだ。

他の神に見つかれば、厄介ごとに巻き込まれるのは目に見えている。

まぁ、このファミリアに入った時点で厄介ごとに巻き込まれるのは確定しているんだがな。

とはいえ、今の1人の、それも弱い状態で巻き込まれるのは危険すぎる。

——気を付けよう。

そう、胸に誓い、俺はヘスティアに対して頷き返した。

 

「あぁ、もちろんだ」

 

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