0083年11月10日 深夜
チカチカチカチカ
と、何かが瞬くと次の瞬間強烈な閃光が発生し、幾つかのしかし多くの残骸が周囲を漂う。
猛烈な熱量を誇るビームの渦が宇宙を駆け、反対側からも強烈な光が双方向に流れる。
数機のジムが、損傷しているサイサリスに猛烈な勢いで接近するが、それを阻止する為に、ザクが、リック・ドムが、ゲルググが、宇宙をかけ互いに生命を散らしていく。
「援軍か…、しかしいったい何処から?」
サイサリスを操縦していたガトーは、その援軍に困惑しつつその所属を疑問視し、そして見た。
デラーズ・フリートに属さず、しかし一年戦争後独立勢力として、アステロイドベルトまで逃げ延びていた、友邦…アクシズの艦隊の姿がそこにはあったのだ。
サイサリスを回収した艦隊は、そのままデラーズ・フリートへと合流する為に、船首を向ける。
ガトーは俄に安堵した、これでまだ報国が出来ると。
「機体の回収感謝します。」
『こちらこそ、我々はアクシズより、貴艦等貴公等の雄弁なる演説に感銘し、貴艦隊への合流を願う者達なり。』
その言葉にガトーは感銘を受けた。
ジオンの意志を、このような形で実現しようとする者たちが、自ら等とはまた別に、ここにいるのだと。
「その言葉、一生忘れませぬ。共に、ジオン再興の為に!!ジーク・ジオン!!」
『ジーク・ジオン!!』
憐れなる羊達は、「盲従」による連鎖のように崖から飛び降りるのだろうか?
彼等の死出の旅は、思想で塗り固められていた。
0083年 11月11日 午前6時 コンペイトウ宙域
大破したサラミス級の残骸が漂う中、傷ついた巨艦バーミンガムの艦橋に、異様な空気が張り詰めていた。
ガトーによる核攻撃から、なんとか立ち上がろうとした頃、トロイホースとアルビオンに引き連れられ、一隻の老骨船・ニヴルヘイムが姿を現すと、ワイアットは直ぐに号令をかけたのだ。
「客人と話をする。総員、丁重に持て成すように。」
暫くして、ニヴルヘイムから一隻のランチが姿を現し、バーミンガムがそれを収容すると、中から現れた人物、そしてその姿に驚かれた。
まず現れたのは、パイロットスーツを身に纏うアムロ・レイ。そして、その後ろに付き従うように、純白の服を身に纏った一人の女性セイラであった。
事態は急を要するという事態に対して、このような服装をしているのだから、相当に肝の座った人物である。
更にその後ろから、ジオンの軍服とは少し違うものの格式張った服装をした厳つい男ゲラートと、連邦軍のパイロットスーツを着たクリスチーナが姿を現した。
どうやら彼等は付き添いのようであった。
「お出迎えはそちらの方?艦橋までの案内をお願いします。」
彼女は丁寧に話しかけると、その美しい瞳を見た兵士は少し口元を緩ませるものの、直ぐに気を取り直して道案内を始めた。
道中、一切の会話なく彼女等は淡々とその道をすすむ。
そして辿り着いたバーミンガムの艦橋、些か良い雰囲気ではなかった。
艦橋要員である連邦軍の士官達は、訪ねてきたその人物・その容姿に対して嫌悪感と共に、堂々とした佇まいに気圧されていた。
敵中ど真ん中で、一切の武装を持たずに指揮官の前に立つ。どれ程の胆力が必要であろうか?
核の閃光に焼かれ、窓枠が歪み、煤けた壁面が残る司令室。
そこに、頭に包帯を巻いたグリーン・ワイアット大将と、アルビオン・トロイホースの代表者たちが対峙していたのだ。
大破したバーミンガムの作戦室には、重苦しい沈黙と、それを切り裂く凛とした声が響いていた。
「……それで? この情報の対価として、貴公は何を望む?
自身の身の安全か? それとも、ザビ家打倒の功績による、ジオン共和国への政治的復権か?」
ワイアットの問いに、セイラは静かに首を横に振った。
「いいえ、提督。私の命など、どう扱っていただいても構いません。軍法会議にかけるなり、プロパガンダに利用するなり、お好きなように」
その言葉に、同席していたクリスやゲラート、そしてアムロが息を呑む。
だが、セイラは言葉を続けた。
「私が望むのは、二つだけ。
一つは、この作戦に協力するシーマ艦隊への『完全な恩赦』と、市民権の付与。
そしてもう一つは……」
セイラは一瞬、後ろに控えるゲラートや、ハンガーで待機する「白いザク」のパイロットたちを思った。
「私と共に戦い、連邦のために血を流したジオン出身の兵士たちに、『帰るべき場所』を与えていただきたいのです。
彼らは、過去の罪を背負いながらも、新たな時代のために銃を取りました。彼らを『テロリスト』として処分せず、連邦軍の正規兵、あるいはそれに準ずる身分として受け入れていただきたい」
静寂が支配した。
それは、あまりにも無欲で、あまりにも重い「交換条件」だった。
自分の命ではなく、自分を信じて付いてきた「はぐれ者たち」の未来を、彼女は乞うたのだ。
ワイアットは、深く息を吐き出し、傷む頭を押さえた。
「以上が、私が提案する内容です。」
「……正気かね? アルテイシア・ソム・ダイクン。貴公は、この内容がどれほどの事か理解しているのか?」
頭に血の滲んだ包帯を巻き、軍服を煤で汚したグリーン・ワイアット大将は、目の前のデータパッドと、それを差し出した女性を交互に睨みつけた。
そこには、デラーズ・フリートの「星の屑」作戦の最終段階――コロニー落としの阻止に関する、あまりにも具体的で、そしてあまりにも危険なプランが記されていた。
「正気です、提督。
このデータは、デラーズ艦隊内部にいるシーマ・ガラハウ中佐からもたらされたものです。
彼女は、コロニーの最終軌道制御のコードを握っています。……貴軍が彼女の『裏切り』を受け入れるなら、コロニーは地球へ落ちる前に、破壊、あるいは軌道変更が可能です。」
セイラ・マスは、ワイアットの眼光を正面から受け止めた。
「その見返りが……シーマ艦隊全員の助命と市民権。
そして、貴公に従うジオン出身兵への、連邦軍内での『居場所』の確約か…。」
ワイアットは呻いた。
感情で言えば、即座に却下したい。核を撃ち、多くの部下を殺した敵に情けをかけるなど、軍人の誇りが許さない。
だが、理性は告げている。
コロニー落としの阻止。ダイクンの娘の確保。そして、ジオン残党の中でも精鋭とされる部隊の吸収。
感情を捨てれば、これほど理に適った取引はない。
何より、核の炎をくぐり抜けたこの老将は、目の前の女性の「覚悟」に、奇妙な敬意を抱き始めていた。
「……毒を食らわば皿まで、と言うことか」
「毒ではありません、提督。これは『ワクチン』です。
ジオンという病巣から生まれた毒を、あえて体内に取り込むことで、連邦という巨体を守るのです」
彼女は、自分たちが「汚れ役」になることを厭わないと言っているのだ。
ワイアットは数秒、目を閉じ……そして、デスクを拳で叩いた。
「……よかろう!!」
その声は、司令室の空気を震わせた。
「ただし! 条件がある。
シーマ艦隊、および貴公の私兵部隊……その全てを、この作戦において『先鋒』として使い潰す覚悟で投入せよ。
後ろから撃たれれば即座に処断する。
……生き残れば、約束通り、連邦軍の中に『外人部隊(異質の場所)』を作ってやろう」
それは事実上の「特攻命令」に近いものだった。
だが、セイラは微笑んだ。その微笑みは、聖女のものではなく、政治と戦争の修羅場をくぐる指導者のそれだった。
「感謝します、閣下。
……その言葉、しかと受け取りました。我々が、連邦の盾となりましょう。」
来た時と同じ様に、4人はランチに乗り込む。
セイラは和やかに周囲を見渡して、微笑むとランチの扉が閉まる。
と同時に盛大に溜息を吐いて、近くの椅子に背をもたれた。
「大丈夫…じゃなさそうね。大分無理してたでしょ、ニュータイプじゃなくてもわかるわよ。」
「そう…、でもコレじゃあまだ序の口ね。」
クリスが心配して声をかけてきた、それに対して多少微笑みを残したながら、強張った顔を少し両の手で解していく。
「これで……、もう後戻りは出来ない。覚悟はしていたけど、こうなって来ると怖いわね…。」
セイラの手は僅かに震えていた。武者震いか?それとも…。
ただ、そんな震える手を少し大きな手が包み込んだ。
「セイラさんは一人じゃないですから、抱え込み過ぎないでください。それに…、ここからは僕の仕事でもあるから。」
その手はアムロのものだった。
一年戦争からこっち、ずっと二人は互いを見ていた。離れ離れになる事は有れど、それでも互いを認め合っていた。
2人の視線は交差していて…、互いに互いの瞳を覗く。
「ゔぅん…、そう言うのは他所でやってよ。独り身の人間に見せるものじゃないと、思うんだけど?」
茶化すように言うクリスの言葉に、セイラはハッとして僅かに頬を赤らめた。
対してアムロは、ニヤけながらも誇らしげであった。
「さて…、我々は連邦軍の急先鋒となるわけですが…、上手く行くかな?」
ランチのコックピットから、ゲラートは純粋に話し掛けた。
如何に優秀な人材であっても、未来を見透すことは出来はしない。出来たらそれは神様だ。
「ゲラートさん、悪い気はしませんよ。とりあえず、失敗はしないと思います。」
アムロが即答した、その言葉は自信に満ち溢れているように見える。
「ほぉ…、それはニュータイプの勘かね?」
「いいえ、シーマ・ガラハウという人を信じているだけです。」
アムロはそう言葉を紡いで、宇宙の彼方を見やる。
〜数刻後 移動コロニー アイランド・イーズ
デラーズ・フリートと行動を共にしているシーマ艦隊、その旗艦であるリリー・マルレーンに、シーマの姿があった。
「……へっ、成立したかい」
シーマ・ガラハウは、暗号通信の解読結果を見て、口の端を吊り上げた。
モニターの向こうでは、ガトーと合流したアクシズの艦隊が、熱っぽい演説を交わしているのが見える。
「『ジーク・ジオン』……か。
笑わせるんじゃないよ。そんな念仏で腹が膨れるなら、あたいらは苦労しなかったさ」
シーマは扇子をパチンと閉じた。
連邦軍艦隊は、陣形を横に並べつつまるで巨壁の様にその威容を下している。
そして、彼方には巨大な十字架がその姿を下している、ソーラ・システムⅡ使わなければ事態が終わらないならば、と最後の砦である。
コロニーもタダではない、出来ることならば無傷で手に入れたいという、〘連邦政府〙からの欲求があった。
その中にあって、非常に目立つ3隻の艦艇の姿があった。
アルビオンとトロイホースとニヴルヘイム
シーマは、モニターに映る「連邦の木馬型」と「老骨船」の影を忌々しげに、しかしどこか満足げに睨みつけていた。
彼女の周囲には、いつもの荒くれ者たちが、殺気と焦燥の混じった空気の中でコンソールを叩いている。デラーズ・フリート本隊が「アクシズの援軍」という名の、崖っぷちへ向かう羊たちの群れに沸き立っているのとは対照的に、この艦の中だけは冷徹な「生存本能」だけが支配していた。
「中佐、ニヴルヘイムから暗号通信。……『約定は成った。先鋒を務めよ』。……以上です」
通信士の声に、シーマはフンと鼻を鳴らし薄っすらと目を細めた。
「先鋒、ねぇ。聞こえはいいが、要は『後ろから撃たれて死ぬか、前から撃たれて死ぬか選べ』ってことさ。……あの老いぼれ大将(ワイアット)、なかなかに性格が悪いじゃないか」
シーマは立ち上がり、大きく広がるコロニー――アイランド・イーズの威容を見上げた。
地球を、そして人類の歴史を塗りつぶそうとする巨大な質量。その影で、ガトーたちが「大義」という名の酔いに耽っている間に、彼女は自らの、そして部下たちの「命」を賭けた博打を最終段階へと進めていたのだ。
シーマは改めて目を瞑り、ゆっくりと瞼を開くと部下たちを睨むように声を発した。
「おい、野郎ども! 聞いたかい。あのお姫様(アルテイシア)は、あたしらみたいな『宇宙の寄生虫』のために、連邦の化け物相手に頭を下げて居場所をもぎ取ってくれたんだ。」
彼女の言葉に、艦橋のクルーたちが一瞬、手を止める。
珍しく、シーマが誰かを褒めているのだ。
「……あたしらはこれまで、散々泥水をすすらされてきた。ジオンからは汚れ仕事を押し付けられ、連邦からはテロリストと追われてきた。だがね……」
シーマは鋭い眼光を放ち、全艦放送のマイクを掴んだ。
「今日、この瞬間からあたいらは『はぐれ者』じゃない。連邦公認の『急先鋒』だ!
後ろにゃ『連邦の白い悪魔』いや連邦として言うなら『白い流星』か?
隣にゃダイクンの娘がついてる。……死ぬには惜しい舞台だと思わないかい?」
殺気立った笑いが、艦内に伝播する。
彼らが求めていたのは、高潔な理想ではない。ただ、明日も生きて飯を食い、眠るための「場所」だった。
端から、デラーズの様なギレンの腰巾着と心中する気など毛頭ない。
「……ガトーの馬鹿野郎は、ノイエ・ジールなんて化け物をもらってご機嫌のようだがね。あんな鉄の塊じゃ腹は膨れないんだよ。
いいかい、作戦開始と同時にあたいらは本隊を離脱。コロニーの制御室を制圧する。
……もし、デラーズの親父殿やアクシズのガキ共が邪魔をするってんなら……。」
シーマは扇子で、モニターに映る旗艦グワデンを指し示した。
「まとめて地獄へ送ってやりな。それが、あたいらが『人間』として生きるための、最初で最後の仕事さ!」
「「「イエッサー、マム!!」」」
野太い咆哮がリリー・マルレーンの艦橋に響き渡る。
その目はもはや、敗残兵のそれではない。獲物を狙う、飢えた狼の輝きを宿していた。
その頃、コロニーの最終防衛ラインでは、ガンダムℵ(アレフ)フルバーニアン
のコックピットでアムロが静かに目を閉じていた。
彼は戦場の汎ゆるところに存在する意志を、そして景色をその拡大された認識能力によって把握していた。
敵が何処にいて、誰が指示を出し、誰が立ち向かってくるのかと…。
(……来る。シーマ・ガラハウが動く)
アムロには見えていた。
思想で塗り固められた「羊たち」の突撃と、泥を被ってでも生きようとする「狼たち」の反乱。
そして、その中央で静かに、しかし激しく燃えるセイラの覚悟を。
『……アムロ、出るわよ』
ブロッサム・ミデンの発進シークエンスが完了したようだ。
セイラの声は、ランチの中での弱音を完全に押し殺し、戦場を統べる指導者の響きを取り戻していた。
「了解。……アルビオン隊、トロイホース隊、全機発進!
ターゲットはデラーズ・フリート、およびコロニー落下軌道!
……歴史の針を、あるべき場所に戻すぞ!!」
アムロは鼓舞するように言葉を付け加えると、コックピットに映る各員の顔をその肉眼で確認して、己の直感が真実であることを確信した。
白いガンダムが、そして白いモノアイの機体が、青白い噴火を上げ、星の屑が舞う戦場へと解き放たれた。