あなたは、音楽に色をつけるとすれば何色をつけますか?

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思いつきと、勢いだけで書いた作品です。


埃色の音

 空。

 真っ青な空に綿菓子のような雲が浮いている。

 とまぁ詩人にでもなったつもりで考えては見たけれど、何処かの小説にでも出来そうな

言葉しか思いうかばない。

 そんなものを悠々と眺めている俺は何処にいるかって? この季節一番のお気に入りの

場所で俺は、芝生の上に寝そべっている。

 出かけるのはダルい。でも、部屋に居るのは勿体無いほどの天気。

 そんな訳で俺は、青空を見ながら一人、考えに耽っているのだ。

 何を考えているか分からないが、それこそ時間が勿体無いって? 人間にとって一番の

贅沢は、お金を使うでも、美味しい料理を食べるわけでもなく、こうやって時間の無駄使

いをする事だと俺は常々思う。

 時間とは、有限なんだからね。

 故に、最高の一時だといおう。見上げているあの空を視界一杯に入れて俺はまた、何も

考えず青空を目に焼き付ける。

 おっと、やっぱり何も考えていないじゃないか。なんてツッコミは野暮ってもんだ。

 するとだ、折角の青空に暗がりができる。

 急に雨が降ってきたわけでも、太陽に雲がかかったわけでもない。

「またこんなところでサボってる」

 そう、暗がりを作ったのは人。俺の目の前には手を腰にあて、頬を膨らましている女の

子の姿がある。

 名前を小鳥遊 優。

 名前に優しいなんて付いているが、とんでもないおてんば娘。ついでに超世話焼き。お節

介とも言う。

「こら、聞いてる?」

「おうおう、聞いてるよ」

「ならしっかり返事くらいしなさよね」

 まったくもうとため息をする。さっそくお節介全開だ。

「俺の彼女かなにかですか。優は」

「ば、ばばば馬鹿言うんじゃないわよ。悠斗はおばさんに頼まれただけであって、好きと

かそういういうんじゃ……」

 ごにょごにょとし始める優。

 人これをツンデレと呼ぶ。

「分かった分かった。優が俺のことを大好きなのは分かったから用件をどうぞ」

「だ、断じてアンタの事なんかぁ」

 顔を紅くして怒ろうとしたのだろうけど、馬鹿らしくなったのか消沈する。

「はぁ。もういいわ。寮長が悠斗を探していたわよ」

 このくだりもいつもの事だ。お決まりってやつだね。

 今日も優は手のひらでコロコロだ。いじり甲斐があるね。

「へーい。あんがとさん」

 ジーパンに付いた葉を叩いてたちがると、俺を呼びに来たお節介さんに背を向け、ひら

ひらと手を振って寮へと歩き出す。

 寮長、俺の叔母にあたる人で、寮生活を勧めてくれた人だ。恩もある。

 だから、呼び出しとなれば優先順位は高い。でも、なんとなく、呼び出された理由は想

像が付く。だから、足取りは重い。

 部屋の前に着いて、ノックを二度。帰ってきた返事と共に、ドアを開ける。

「よう、悠」

 一見美人に見える、年齢不詳のこの人が寮長で、叔母の佳苗さんだ。

 因みに年齢を聞こうとすると凄く怒る。

「用ってなんですか?」

 頭をかいて、一瞬言葉を躊躇う。が自分で納得させたのだろう、よしと。活を入れると

 目力のある瞳を俺に向ける。

「何度か誘っているけど、特待生のお誘いだな。悠が嫌っているのは分かってる」

「また、ですか」

 やっぱり、この話だったかと思うと口にした言葉は重くなった。

「でもな、余計なお節介で言わせて貰えば、受け入れるだけでお前には大きなプラスにな

るんだよ、悠」

 余計なお節介だと佳苗さんは言ったけど、それは佳苗さんなりの気遣いで、俺が譲れず

にいる。俺の我侭。だから、ここまでしてもらうとズキリと良心が痛む。

「分かっていますよ。でも、俺はもう弾かないって決めたんですよ。そりゃ、たのまれ

て、ピエロになるなら歓迎しますけどね。その道に興味は無いです。すみません」

 音楽は自由にやるべきだ。

 ガチガチに縛られている楽譜どおりに演奏するのは何も、俺じゃなくてもいい。

「もともと、好きで始めたわけではないですし」

 ごめんなさい。少しだけ、悪態をつきます。

「俺はもう、期待されているような神童じゃありません」

「そっか、悪いな」

 嫌な顔一つするわけでもなく、俺のつまらない意地に応えてくれる。

 また、他人の行為に甘えて俺は逃げたんだ。

 分かってやっているのを自覚しているから、尚の事自分がダサく見える。

「いえ、気に留めてくて凄く感謝していますよ」

 することも、したいことも無く、無駄に時間を浪費しているように見えるんだろう。

 教師から見れば、ね。

 だけど、俺には、その時間が尊いだなんていったら大袈裟かもしれないけど、何事にも

代えがたい時間。

 人一倍頑張ってきただなんて言うつもりは無い。でも、あの日々には戻りたくない。

「そういえば、今日は鍋だっていうから、出かけるなら早めに戻れよ? 肉全部食っちま

うぞ」

 あの調子だと本当に食べてしまいかねない。

 が、ともあれ、豪胆な佳苗さんに感謝しざるを得ない。

「佳苗さん。体重増えますよ?」

「おまえ、心配してやりゃ」

 本当に感謝だ。

 

 

 またしても、扉の前にいる。そりゃ、呼び出されたからなんだけどね。 

 二回、ドアをノックすると返事がある。

「はーい、入ってどうぞー」

「なんだよ。用って」

 この部屋の主は優だ。女の子の部屋にしては少し飾り気のないシンプルな部屋、そこに

ヴァイオリンが自己主張を続けている。

「悩みって言うのはさ」

 いつもは堂々としているくせに、今は少しおどおどとしている。

 こういう時は決まって、音楽関連。

「弾いて欲しいのか?」

「分かってるなら、助け舟をださっさと出しなさいよ」

 理不尽なものいい。だけどそこには、いつもの覇気は無く、まるで謝っているかの様に

細々と言葉にして、口を尖らせている。

「悪い悪い。優がそう思ってくれているのかは、知っている」

 優は俺がピアノを弾く時のお客様で、ファンだと言ってくれた。

 だから、俺がピアノを弾くのを嬉しがっている節がある。

「でも、優が思うような答えは出せない」

 今の俺には譲れない一線。

「だから、一緒に演奏で勘弁してもらえないか?」

 こくりと首を縦に一度。

「今はそれで、我慢する」

 ピアノが置いてある部屋に移動して、お互いの準備を整え終わると、俺は鍵盤を叩く。

 俺達の中だけで通じる、始めようかの合図。

 お互いに顔を見合わせて、俺は指を踊らせる。鍵盤もそれに合わせ、踊り始めた。

 演奏が始まる。

 優しく、寄り添うようにヴァイオリンのD線が揺れる。

 そして、G線がが響くと待っていましたとばかりにヴィオラが新しく調律をし始める。

 最後にバックボーンたるチェロが待っていましたとばかりに俺達の音を導いてくれる。

 これも今ではおなじみだ。寮内に、音が満ちる。

 音楽が好きなもの同士が好きにセッションを行う。

 心地いい。

 名高い指揮者ならば笑うだろう。統率がとれていない、取るに足らない曲だと。

 勿論、クラシックの醍醐味は指揮者による指揮者の支配するステージ。

 でも、メトロノーム通りじゃつまらないだろ?

 楽譜通りじゃないだけで、自由に弾いただけで、同じ曲がこうも変わる。

 だからオレは、ピアニストにはなれない。

 なれるとすれば、ピエロだ。

 どれだけ自分の音を弾いても、求められるのは真っ白で味気ない、軍の進行曲。

 いけないとは言わないし、言えない。間違ってもいないのだから。

 音色と言うからには無限に色があったっていいだろ?

 混ざり合って、出来上がる色が何も指定した色じゃなくてもいい。

 じゃあ、俺達が今演奏している曲は何色かって? 応えるとするなら灰色かな。 

 混ざり合った汚い色だって? 見方次第じゃそう見えるかもしれない。

 でも、灰色はいろんな色を混ぜなきゃ出来ない色なんだぜ?

 埃を顕微鏡で見ると色んな色の集合体らしい。

 それじゃ、埃色だろって? いいねそれ。

 俺達の色は埃色の音だ。




読んでいただき、ありがとうございます。

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