季節が移りゆく中、少女は約束を胸に抱き続けた。
これは、涙を堪えて笑顔を守り抜いた、一人の少女の優しさと強さの物語。
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あるところに泣き虫の少女がおりました。
少女はよく泣いていました。悲しい物語を読んで、誰かに意地悪をされて、友達とケンカをして、誰かが泣いているのを見て──
自分だけではなく誰かのために涙を流せる、とても優しい少女でした。
少女の母親は病弱でした。しかし幸いにも大きな病気にかかることはなく、少女を愛し、優しく包み込むような幸せな日々が続いていました。これからもずっと続くと、二人は信じていました……。
ある時、なんの予兆もなくいきなり母親が倒れました。
少女は驚きから身動きが取れず、固まってしまいます。母親は動きません。
少女は目の前の出来事が理解できず、しばらく固まったままでした。
そして、しばらく経ち、少女は手をぎゅっと握り、恐る恐る母親の名前を呼びました。母親は動きません。
少女は青ざめた顔をしながら母親に近づいていきます。ゆっくり、ゆっくり……。
少女は母親を揺すりながら声をかけます。何度も何度も……。
しかし、母親は動きません。
少女は怖くなって泣き出してしまいました。大きな声で、滝のような涙を流していきます。
その声を聞いたのか、近所の人が様子を見にやってきました。
少女は呼び鈴に気づくと、大急ぎで駆けつけました。大人なら助けてくれると思ったのです。
近所の人は母親を見ると驚き、顔を青ざめさせ、急いで救急車を呼びました。
泣いている少女に「大丈夫だよ」「もう安心だよ」「すぐに助けが来るから」と、自分でも薄っぺらい嘘だと分かっていながら、少女を安心させたい一心で抱きしめながら言い続けました。
病院に運ばれた母親は一命を取り留めましたが、長い間入院することになりました。
少女は母親の無事に安堵しましたが、一緒に暮らせない寂しさから泣き出してしまいました。
母親は少女を心配そうに見つめて、一つのお願いをしました。
「もう泣かないで。あなたが笑っていてくれれば、私は必ず良くなるから。すぐにあなたと一緒に家に帰れるから。」
少女はそれを聞くと、服の袖で涙を拭い、母親を見つめて尋ねました。
「本当に? 本当にお母さん、元気になる?」
母親は笑顔で答えます。
「ええ、もちろん。あなたの笑顔を見られたら、きっと元気になるわ。」
少女は決意に満ちた顔で答えました。
「分かった! 私、もう泣かない! ずっと笑顔でいるから、だから早く良くなって!」
少女は母親に、もう泣かないと笑顔でいると約束しました。
少女はそれから泣くことはありませんでした。
誰かに悪口を言われても、誰かに馬鹿にされても、悲しい出来事に出会っても、母親との約束を思い出し、笑っていました。
そんな少女を事情を知らない人々は気味悪がりました。
しかし、そんな人々の声も態度も、少女に涙を流させることはありませんでした。
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4/9
春になりました。桜が綺麗に咲いています。お母さんと元気になったらお花見に行く約束をしました。早く元気になってほしいです。
6/28
春が終わりました。桜を一緒に見に行く約束をしていたのに……。お母さんはまだ病院から帰ってきません。
7/5
夏になりました。病院に行くだけで汗が止まらなくなります。病院は涼しいので、お母さんが暑くなくてよかったです。まだお母さんは病院にいます。
7/28
夏休みが始まりました。お母さんとお出かけしたり、友達と遊んだり、いつもならすごく楽しみなのに……全然嬉しくありません。お母さんはまだ病院にいます。帰ってきてくれません。
9/1
夏休みが終わりました。夏休みはお母さんに会いに病院で過ごしました。友達と遊べなくて少しケンカになりました。でも泣きませんでした。お母さんはまだ帰ってきません。
10/16
秋になりました。紅葉が綺麗で、お母さんと一緒に見たかったです。お母さんはまだ病院にいます。いつ帰ってくるのかな?
12/5
冬になりました。雪が積もって雪だるまを作りました。一つだと可哀想なので、お母さん雪だるまと子供の雪だるまです。お母さんに見せたら褒めてくれるかな? お母さんはまだ帰ってきません。
12/24
クリスマスです。今年はすごくいい子にしていました。だからサンタさん、お願いです。お母さんを元気にしてください。
12/25
サンタさんは来てくれませんでした。お母さんはまだ病院にいます。
4/28
春になりました。まだ帰ってきません。
7/28
夏になりました。まだ帰ってきません。
10/28
秋に………。
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少女はいつの間にか小学校を卒業する時を迎えました。
皆が家族に見守られる中、少女だけが一人ぼっちで卒業式に参加していました。
式が終わり、家族で幸せそうに笑い合う皆を見たくなくて家に帰ろうとすると、先生が慌てた様子で少女に駆け寄ってきました。
先生は少女に病院から電話があったこと、母親の病状が急変したことを伝えました。
少女は一目散に、脇目も振らず母親の待つ病院へ駆けつけました。
病院に着くと、看護師の一人が少女に気づき声をかけました。
少女は事情を説明し、母親に会わせてほしいと頼みます。
看護師は「今は手術中なので会うことはできない、手術が終わるまで待っていてほしい」と、申し訳なさそうな顔で少女に謝りました。
少女は案内された手術室の外で、必死に祈っていました。
「どうかお母さんが助かりますように!
手術が無事に成功しますように!
また一緒に暮らせますように!」
何度も何度も、組んだ手に爪が食い込み跡を残し血が流れ出しても、それに気づくことすらなく、ひたすらに祈り続けました。
手術室のランプが消えました。手術が終わったのです。
少女は手術室から出てきた医師に縋るように、救いを求めるように、叫ぶような大声で尋ねました。
「お、お母さんは大丈夫ですよね!? 手術は成功したんですよね!? お母さんは生きていますよね!?」
医師は笑顔で答えました。
「ええ、お母さんはもう大丈夫です。手術は無事に成功しました。」
安堵した瞬間、少女はその場に崩れるように座り込んでしまいました。
母の無事がわかったことで、支えていた力が抜けてしまったのです。
側にいた看護師に椅子に座らせてもらい、少女は穏やかな笑顔を浮かべながら母が病室に戻るのを待ちました。
病室で見たのは、穏やかに眠っている母親でした。
少女は母親が生きていると感じたくて、母親に手を伸ばしました。
あたたかな体温と柔らかい肌が少女の手に触れます。
少女は母親が生きていることを実感し、それまで何があっても流れなかった涙が頬を伝いました。
頬に触れた少女の手に気づいたのか、母親が目を覚まし少女を見つめました。
そして、少女が泣いていることに気づくと、申し訳なさそうな、それでも優しさに満ちた顔で少女に言いました。
「もう泣かないんじゃなかったの?」
少女は涙を拭い、笑顔で母親に答えました。
「な、泣いてないし! ちょっと汗かいちゃっただけだから!」
そう言って少女は笑っていました。
そんな少女を見て、母親も思わず笑ってしまいました。
病室にはあたたかな笑い声が響いていました。
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これにておしまい。めでたし……めでたし。
──どこからか拍手の音が鳴り響きました。
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