茂山影男   作:ピンチャンよ永遠なれ………

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最終回。
*番外のもみあげが変なおっさんの話が少し関わってきます。


60話 ピンチャンフォーエバー

 計画がなかなか上手くいかない時もある。

 

『落ち込んでるね、アイツ』

 

「落ち込んでらっしゃいますね…」

 

 天元と星漿体の同化の際に殺したはずの六眼が現れた時も、ちょっとマジスかぁと思った。

 

 挫折は長年生きていれば何度もあることだ。少女は直立するように布団にうつ伏せになっていた。あまりにも普段と違うために真人も気を遣っている。島崎は「お労しい…」と呟いた。

 

 

『イイ線いってたよ、茂山影男が人間を傷つけることを恐れるようになった元凶を持ってきたのはさ。あのまま彼が暴れいてれば死人も確実に出た。そうすれば秘匿死刑にもなってたさ。

 夏油に発見させるのも芸術点が高かった。あとで茂山は見られたことにダメージを負うだろうし、夏油にも精神的な負荷がかかる。最良(サイアク)茂山が夏油を殺してたかもしれないんだから』

 

 

 ただ、まさかの魂まで抜け出て、呪霊の『彼』に影男の精神が乗り憑ってしまった。これのせいで暴走は少しだけで終わってしまった。

 

『でもエクボを消そうとしたのは聞いてないからね! そこんトコは俺、許してないからね!』

 

「煩い。静かにしてくれ…」

 

 努力・友情・勝利とは言うが、この世には「主人公補正」みたいなものもある。

 

 疲れた少女は、しばらくオフトゥンと友だちになった。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 ある時期から、塩顔イケメンが観客席に現れるようになった。女性芸人たちはその男が来る度にちらほらと噂をするようになった。モデルや俳優でも卒なくこなせそうな顔の割に、手にメモ帳とボールペンを持って、真剣な眼差しで芸人のネタを見る。

 

 そんな塩顔イケメンの横に、時折黒髪のモブっぽい少年が付いてくるようになった。中学生くらいの子どもで、表情筋はほぼ動かない。周囲がドッとウケている時にも無表情なので、芸人からするとやりにくい相手だった。

 それに、その子どもがいる際は下世話なネタが出せなくなる。なぜなら隣にいる塩顔のイケメンが微笑んでくるからだ。

 例えば大喜利の場。エロネタに走ったら最後、貴様の息の根を止める。──な、そんな圧を受ける。

 この場合、芸人としての実力が試されてくるので、彼らは冷や汗を流しながら頭をフル回転させお題に対する回答を考えることになった。

 

 

 そんな二人組も、ここ一年近く姿を見せていなかった。「最近、あの塩顔イケメンさん来ないねー」と呟く女芸人もいた。

 

 スーツを着てパイプ椅子に座る男は、一抹の寂しさを覚えていた。周囲では他の芸人たちの雑談が聞こえる。

 

 最初はアンケートで「もみあげの変な人」と書いていたあの少年。途中から名前を覚えたようだったが、永遠に名前の最初の漢字を間違えていた。

 

 少年と面識ができたのは、男が遅刻した相方と揉めていた時に、少年が関係者以外立ち入り禁止の場所でNINJAのように壁に張りついてた時である。少年は騒ぎ声が気になり入ってしまったようで、悪気があったわけではないらしい。

 

 そこから少年が塩顔イケメン──保護者と来るたびに、彼はアンケートを意識するようになった。──いや、アンケートはライブ終わりに常に意識してしまうことだが、少年のアンケートの紙があるか、気になるようになったのだ。

 

 

 用紙はいつも、あの少年が来る度に入れられていた。途中から、綺麗な字でやたらと鋭い指摘をしてくるアンケートも来るようになった。

 

 少年のコメントは「〇〇が面白かったです」という子どもらしい感想で励まされるのだが、鋭い指摘をしてくる方は1割褒めてきたと思ったら、9割指摘をしてくる。

 キレながらも一応意見を受け止めて改善をすると、また指摘をもらう。

 

 誰だこの鋭利な刃物を向けてくるやつはと芸人内で聞き込むと、どうやら塩顔イケメンが犯人だと分かった。

 

 ただ、ほかの芸人の場合は彼のように通り魔的に刺されないらしい。男は憤慨した。アレだろうか? 子が飴を渡すから自分は鞭を与えてやろうとかそういう魂胆だろうか? よかろう塩顔イケメン、いつも人の漫才の時に「スン…」とする貴様を胃袋吐くまで笑わせてやる。

 

 男はそう決意して、芸を磨いた。相方は相変わらず遅刻癖があり、揉めることも多かった。

 

 

 次第に笑いの数が増えるようになった。薄闇の中にいる観客の表情。笑った拍子にスタジオの空気が震える感覚。

 胸が高鳴った。同時に、自分という存在が見られていることへの充足感を得られた。

 

 着実に彼は階段を登っていた。小さな枠だったが、テレビにも何度か出るようになった。

 

 そんな折に、少年が出待ちをして待っていた。側にはあの塩顔イケメンもいた。

 

 

「僕、今年の春から京都の学校に行くんです。だから当分、この劇場にも来れなくなります」

 

「…そうか。新天地でも頑張れよな、少年!」

 

「おじさんも頑張ってください。応援してます」

 

「おう! つーか、俺はまだ「おじさん」って呼ばれるほどの歳じゃねぇつうの…」

 

 

 15歳の少年は、30代の男にはあまりにも眩しかった。「未来」という可能性に満ち溢れている。

 

 自分も頑張らなければと、彼は思った。そして京都にいても、テレビでこの少年に自分の姿が見られるくらいに売れてやろうと。

 

 

 

 ただ、現実はそう上手くはいかないもので。

 

 相方が諸事情により芸人をやめ、ピン芸人になった。それでもあがいたが、そのあがきは悪い方へと転がるばかりだった。

 

 ケンさんも、「焦りすぎたら上手くいくもんも行かなくなるで。こういう時はな……あれがいい」と言い、夜のお店へ連れて行った。

 さすがケンさんだった。夜のお店の中でも超マニアックな店を知っていた。

 

 もう彼も来年で35。夢を追い続けるのも限界が来るラインだった。

 それでも、地べたにしがみついた。ひとえにそれは、自分を見に来た客全員に、自分を知ってもらいたいからだ。

 

 

 ふと、あるライブのことを思い出す。

 

 

 前方の席に座っていたモブ顔の少年。コイツ「面白い」と言うわりに笑わねぇよなぁと思っていた彼は、気づいた。

 

 非常にわかりにくい変化だった。サイゼリヤのあともう一つなのにまったく見つからない間違い探しなみにわかりにくい変化だった。

 

「ふふっ」

 

 ほんの少しだけ、口角が上がっていた。なんだきちんと笑っていたのかと、彼は思った。

 

 同時に、ライブ途中なのに目頭が熱くなった。

 

 

 

「つっても、どうするかねぇ…」

 

 夜勤終わりの彼は、コンビニに寄ってカップラーメンを買った。朝シフトのおばさんがレジ対応をする。互いに見知った顔ではあるが、挨拶をする関係ではなかった。

 

 空はすでに明るかった。歩きながらスマホを見ていた彼は横断歩道で立ち止まる。隣では老人が犬の散歩をしていた。犬は舌を出し、ハッハッと呼吸をしている。

 

 信号が青に変わった。SNSのメッセージをちょうど打っているところで──、

 

 

「え?」

 

 

 ドガッッ、と激しい音がした。体が宙に舞う。スローモーションの中でトラックが見えた。

 

(あれ……俺、死ぬ…?)

 

 視界に斜めになったアスファルトが映っている。そこに自分のものと思しき血が広がっていく。

 

 意識がどんどん遠のく。少し人生のグラフが上昇したと思ったら、立て続けの転落具合だ。笑いたくもなってくる。

 

 痛みの中で、彼はヒモを引きずりながら犬がこちらへ駆け寄ってくるすがたを見た。何か騒がしい声も聞こえる。

 犬は男の顔に鼻を近づけると、フンフンとにおいを嗅いだ。そしておもむろに尻を向け、片足を上げる。

 

 待て待て、そんな泣きっ面に蜂な非道を成そうとしてんのかこのワンコロ?

 

 ブチッ、と彼の中で何かが切れた。いくら何でも不幸すぎる。死ぬ前に、あるいは死にながら犬のしょんべんをかけられるなんてたまったもんじゃない。

 

 いや、それよりも────。

 

 

「信号無視してんじゃねェよ!!!」

 

 

 おかげで今、尊いおじさんの命が奪われようとしている。

 立ち上がった彼に、ガラケーをワタワタと動かしていた爺さんは「ヒョエッ!!?」と腰を抜かした。

 男は頭から血を噴水のように溢れさせながら、トラックを降りた運転手の元へ向かう。運転手は顔が青白くなっていた。

 

「何で……あんた、普通に動いて…」

 

「急いでたんだか居眠り運転してたんだかは知らねぇがなッ、人ひとりの命が奪われたんだぞ!? 運転には気ィつけろよ!!」

 

「いや、だからあんた……!!」

 

 男は「ったく、とんだ災難な目に遭ったぜ…」とボヤきながらその場を去って行った。

 

 取り残された運転手と老人は、互いに顔を見合わす。アスファルトにあったはずの血は、綺麗さっぱり無くなっていた。

 

 

 

 

 

 この不可思議な交通事故は、後日高専の『窓』の耳にも入った。

 事故の衝撃で男の術式が覚醒した可能性もあり、ただちに捜索されることになった。

 

 

「ハァ〜……今はユーチューブでその芸人の“色”を見せられる時代かぁ…」

 

 

 事故に遭ったことを「ネタにできそうだなぁ」くらいで消化してしまった男は、ネタづくりの最中に芸人仲間から話を聞いたユーチューブをスマホで見ていた。

 

 そういえばユーチューブの何かの企画で、劇場の裏で先輩芸人がカメラを回していたことがあった気がする。

 

 こちらの路線を目指すのも一つの手だった。しかし──と彼は悩む。一昔前のタイプである芸人の彼は、ユーチューブに偏見があった。ついでに仮にユーチューブをやるとして、その専用の知識を学ばなければならないし、最低限の機材も必要になる。

 

 次から次へと映像を回す。ふとそこで、一つの動画が目に止まった。

 

 それはドリフな効果音とともに、地球に隕石がぶつかる動画だった。

 

 

「────!」

 

 

 隕石、爆発──。

 

 

 

 

 

遅刻した女子高生が、パンをくわえて走っていく。

 

「いっけなーい! 私ったら今日も遅刻遅刻ゥ!」

 

そんな彼女が十字路をぶつかった時………。

 

 

隕石が地球に落ちてきて、世界が爆発する。

 

 

 

 

 

 ────こ(・)い(・)つ(・)は(・)絶(・)対(・)に(・)面(・)白(・)い(・)。

 

 

 

 

 

 その次の瞬間、世界は本当に一度滅ぶことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、この超常現象を起こした男に気づいた一人の人物が、彼────髙羽史彦の前へ現れることになる。

 

 

 

「ねぇ君、私とお笑いしないかい?」

 

「……えっ?」

 

 

 

 この瞬間、現実社会も呪術界もすべてを巻き込んでいくコンビ、『ピンチャン』が生まれた。

 

 彼らは日本を──それどころか世界を揺るがしていくことになる。

 

「大御笑異(おわらい)」時代が、こうして幕を開けた。

 

 


 

 ・影男

 自分に反転術式が使えなかったのは、「自分が嫌い」だったから。呪霊の自分は生得領域にいたので、家入に反転術式を使われても平気だった。声変わりした声が多方面の地雷となる。もう少しで180センチを超えるのぜ(まだ成長中)

 

 ・真依

 茂山真依になるぜ!! しかし直哉と真希にもバレて阻まれることになる。真希はせめて卒業してからにしろ、な意見。しかし真依は止まらない。絶対に結婚するんや。「親父ィ(ブロボイス)」を説得する際は実力で戦ってもぎ取ろうかと考えている。そうすれば「出来損ない」と言ったこの血縁上は父親の男に一泡吹かせられるから。呪力量が多くなりすぎて呪力操作の技術が追いつかないゆえに、今は『二級』。

 

 ・夏油

 マジで身長抜かされるかもなぁと感慨深く思っている。脳破壊された人その1。頼むから筋肉だけはそれ以上付けないでくれ。

 ミミナナ「ウチらぁ、結婚できる歳になったんですよぉ…」

 なお、まだ何も気づいていない夏油。養子の鈍さがうつったのかもしれない。

 

 ・エクボ

 真人に追っかけられたり、東堂に追っかけられたりしている。彼がいったい前世で何をしたというのか。

 

 ・五条

 脳破壊された人その2。世界が一度終わっても生きていた人。「ハ?」ってなった。

 

 ・直哉

 真希に拒絶反応を覚えながら脳破壊されてる人その3。病室で「と、ととっ、甚爾君…?」になった。プロテインを差し入れするようになる。「直哉」呼びを強要し出す。

 

 ・伏黒姉弟

 黒幕が別のことで脳を焼かれたので津美紀は無事。

 一方で思春期な恵。虎杖? べ、別に友だちじゃ……。

 

 ・虎杖

 一般入学。乙骨の紹介もあり入った。ゴジョセンを見て、「100億の男!?」と叫んだ。釘崎も入学した時に叫ぶ。

 

 ・天元

「えっ?」ってなった人その2。世界滅んだよね今…?

 

 ・呪いの王

 何やってんだアイツ。

 

 ・ピンチャン

 そりゃあ三徹状態の最高にハイになっているような状況で、ネタで「面白そう!」って思った結果、ドリフの音楽を流されながら世界を滅ぼされたら脳も焼かれちゃう。

 文字どおり世界を荒らしていく。笑いの台風的な意味で。

 

 ピンチャン………フォーエバー!!!!!




【あとがき】

何が何でもラストは自分の最推し(髙羽)を出して、ピンチャンフォーエバーにするつもりだった最終回でした。

お話の根幹は「主人公と夏油の家族愛と成長」で、そこに「主人公と真依の純愛」が加わったのがこの『茂山影男』というお話でした。
世界観は呪術廻戦なのでキャラに鬱暗い要素が多く、モブサイコの人と人が関わり合って成長していく要素を取り入れた形になります。
ラストの自己愛補完はモブサイのラストと似せてます。

改めて拙作を拝読していただきありがとうございました。お気に入りや感想、評価や誤字報告、ここ好き等もありがとうございました。

黒兎
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