勇者に討たれた女魔王が現代日本へ転生。
セブン○レブンでバイトしながら、勇者や元賢者らと再会したり、深夜クレーマーを撃退したり。

···世界征服はどうした?

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女魔王、セブン◯レブンに降臨す

①勇者

 

「ぃらっしゃいませぇ〜〜」

 

──なんだその腑抜けた声は。

 

いや、待て。今、口が勝手に動いた。声が出た。しかも、ハキハキしていないと注意された···?

 

「もっと声出して! 新人なんだから元気だけは出してこ!」

 

目の前の妙齢の人間の女が、眉をしかめて怒鳴ってくる。胸元には〈店長〉の札。

 

「いらっしゃいませぇぇッ!!」

 

思わず魔界式戦闘時の咆哮で返してしまった。店内の空気が凍りつき、レジ前の老人が心臓を押さえている。

 

──直感的に分かった、これはいかん。おそらく人間界の社会的死亡というやつだ。

 

 

 

 

 

 

我の名は、ルヴィア・ザ・ブラッディア。

 

魔界を七百年にわたり支配した女魔王であり、冥界の炎を統べる者。

しかし人間界の“勇者”なる少年に討たれ、灰となった···はずだった。

 

それがどういう因果か、目を覚ませば──

 

「緑と白の制服···?」

 

胸には“セブン◯レブン”の名札と、妙に愛嬌のあるスマイルマークがついていた。

 

魔界の鋼鉄鎧の代わりに、このフニャフニャな制服。

炎の魔剣〈ヘルインフェルノ〉の代わりに、手にはバーコードスキャナー。

 

これはどうしたことか? どうして我が、あの人間の下働きを──

 

「ルヴィアちゃん、レジ交代お願い〜! わたしトイレ行ってくる〜」

 

「む? トイレなど個室の拷問室か。では、我が代わろう──」

 

この通り、我はすっかり“バイト仲間”扱いされておる。どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

ピッ。ピッ。ピッ···

 

「ぐぬぬぬぬ、なぜだ!? バーコードが読めぬ!」

 

「それ、向き逆。あと、商品が曲がってる」

 

横から声をかけてきたのは、同じくバイトらしき、青白い顔の青年だった。

この世界に来て初めてまともに話した男だが、表情が死んでいる。

 

「貴様、何者だ。魔族か?」

 

「ただの浪人生だよ···。ていうか、なんでそんなにレジに殺気出してんの?」

 

「我がこの世界で生きるには、レジ打ちを極めるしかないのだ!!」

 

思わず拳を振り上げてしまった。商品棚のチップスが一斉に震える。

 

「いや、そんな命懸けなくても···まあ、頑張れ」

 

そう言って彼は、冷凍食品の補充へと去っていった。

 

 

 

 

 

 

休憩中、バックヤードにて。

 

「···なるほど。死して蘇り、異世界のコンビニに堕ちたというわけか」

 

我はこの“浪人生”こと田村なる男に、己の素性を明かしてみた。どうせ狂人と思われるだろうが、黙っていても混乱は収まらぬ。

 

「転生ってやつか。最近はラノベでよくあるしな」

 

「ラノベ···? 新しい呪文か?」

 

「いや、そうじゃなくて···もういいや」

 

田村はコーヒー牛乳を一口飲み、あくびを噛み殺した。

 

「ていうか、お前の名前、本当に“ルヴィア・ザ・ブラッディア”なの?」

 

「うむ。“血の宴を招く者”という意味だ。かつて十万の軍勢を──」

 

「はいはい。じゃあ、その魔王様は今日も時給千五十円でレジやってもらうから」

 

「ぬおおおおおおおお!!」

 

なんだこの理不尽な世界は!!

かつて我を神と崇めた者どもよ···見よ、我が現状を!

 

 

 

 

 

 

──その日の深夜。

我がレジに立っていると、一人の少年が入ってきた。

 

「いらっしゃいませー···ッ!?」

 

全身に戦慄が走る。

 

あの気配···間違いない。

あれは、十九年前。我を討ち果たした勇者だ。

 

「···ツナマヨと、辛子明太をひとつずつ」

 

「ツナマヨと···辛子明太、でござい──ぬおおおおっ!?」

 

手が震える。スキャナーが、勇者の手に触れた。触れた瞬間──魔力が跳ね返る。間違いない、奴だ。

 

「···お姉さん、変なテンションですね」

 

「貴様···まさか、我の正体に気づいておらぬのか?」

 

「いや、ただの変な店員かなって」

 

この世界の勇者、思った以上に空気が読めない。

 

──だが、この姿のままでは戦えぬ。

ましてや、あやまってレジ打ちミスなどしたら、我がこの店の信用が損なわれる。

 

いかん、それだけは──!

 

「合計、三百六十二円になります。温めますか?」

 

「お願いします」

 

温めてどうする、魔王よ。

 

 

 

 

 

 

その夜、バックヤードで。

 

「今日の売上、悪くなかったわね。ルヴィアちゃん、レジ覚えるの早いわ」

 

店長の褒め言葉に、我は小さく頷いた。

 

──フン。勇者め。人間界でも生き延びておるとはな。

 

だが、我はこの地で再起してみせる。

まずは“バイトリーダー”とやらになり、店舗運営を掌握。

その後、周辺のファミマ・ローソンを配下に置き──人間界を再征服する!!

 

「ふふふ···震えて待っておれ、勇者よ」

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

②賢者

 

「──そろそろ、バイトリーダー昇格の話をしようか」

 

店長のその言葉に、我が背筋がピンと伸びた。

 

昇格。

それは、この人間界における“権力”を得る第一歩。

魔界では王冠、人間界では···リーダーバッジ。

 

「よいぞ。力の証明とあらば、我が全霊をかけよう」

 

「うん、その意気よ。じゃあ、まずは面接を受けてもらうわ」

 

「面接···? 敵の本陣に乗り込み、舌戦で心を折る儀式か?」

 

「いや、ただの社内昇格試験だけど···」

 

 

 

 

 

 

翌日。

控え室で我は待っていた。

リーダー面接を受けるにあたり、スーツ姿に着替えさせられた我は、どう見てもただの真面目な新人である。

 

そこへ、一人の男が現れた。

 

「···やあ、久しいな。魔王よ」

 

「貴様···この気配、まさか──!」

 

──賢者、ゼクス・エルメロイ。

かつて我が魔界を討伐に来た人間どもの一人。

勇者の参謀として、我を三度封印しようとした、忌まわしき魔法使い。

 

だが今──

 

「ファミマ、落ちた」

 

「は?」

 

「面接で落ちた。店長とケンカしてな。仕方なく、ここの面接受けに来たわけだ」

 

···みすぼらしいジャージ姿。

魔導書の代わりに履歴書。

眼鏡は割れ、背中には「実家暮らしです」と書かんばかりの哀愁。

 

「···ゼクスよ。お前、こんなことのために転生してきたのか?」

 

「違う、これは···社会という魔物に抗うための布石だ」

 

哀れすぎて、我も少し涙が出た。

 

 

 

 

 

 

面接が始まった。

 

「お名前と、志望動機をお願いします」

 

店長の問いに、ゼクスが言った。

 

「私はかつて世界の真理に挑み、魔王を封じた者です。その経験を活かし、レジ業務を極めたいと──」

 

「は〜い、次の方どうぞー!」

 

「···まだ喋ってるんだが?」

 

「長いから不採用です」

 

あまりにも容赦がない。

 

だが、次は我の番。

 

「ルヴィア・ザ・ブラッディアです。志望動機は、世界征服の第一歩として、この店舗を足がかりにしたく──」

 

「いいねー、野心ある子大好き! 採用!」

 

「·········えっ?」

 

ゼクス「···えっ?」

 

 

 

 

 

 

こうして我は、晴れて“バイトリーダー見習い”に任命された。

 

「まさか、貴様に負けるとはな···」

 

控え室でうなだれるゼクス。

 

「貴様の過去の栄光など、レジ打ちには通用せん。人間界とは、かくも厳しいものなのだな」

 

「···くっ、いつか見ていろ。我はドミノピザの面接に向かう」

 

「そちらでの健闘を祈る」

 

そしてゼクスは、戦場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

「リーダー見習いになったから、発注表の書き方とか、覚えていってねー」

 

「うむ、任せよ。納品の計算など、魔界の供物管理より簡単だ」

 

この調子なら、いずれは店長の座も──

 

「それと、来週から深夜帯もお願いね〜」

 

「···ぬ、深夜帯とは?」

 

「23時から7時。人手が足りないの」

 

「いや、それは魔王でもキツ──」

 

人間界における最凶の魔物、それは“ブラックシフト”だった。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

③深夜帯

 

「ふわぁ……寒い……」

 

吐く息が白い。

現在、時刻は深夜二時。照明の薄明かりと、コーヒーマシンのモーター音だけが鳴り響くコンビニの中で、我はレジに立っていた。

 

──そう。今宵から始まったのだ。

我が初の“深夜シフト”が。

 

「ルヴィアちゃん、レジよろ〜。わたし廃棄チェックするね〜」

 

そう言い残して、深夜帯の先輩バイト・近藤がバックヤードに消えていく。

あまりにも頼りなさそうな男である。

 

だが、我がこの時間帯を制せねば、リーダーへの昇格など夢のまた夢。

いずれ人間界を手中に収めるためにも、ここでつまずくわけには──

 

──カランコロン♪

 

「……む?」

 

唐突に開いた自動ドア。

その先から、異様な気配が流れ込んでくる。

 

「……おでん、まだあるかァ?」

 

現れたのは、奇怪な風貌の男。

濁った目、膨れた腹。

右手には開封済みのチューハイ、左手にはパンツを履いた猫(生きてる)。

 

「おでん……しらたき……買う……」

 

……貴様、ただ者ではないな。

 

 

 

 

 

 

「温めますか?」

 

「ァ? 舐めてんのかァ?」

 

「舐めてはおらぬ。むしろ、煮ているのだが」

 

「ォい、店長呼べやァ!」

 

──で、出た!

噂に聞く“深夜のクレーマー”、通称・夜魍(やぼう)!!

 

なぜ人間界の魔族は、深夜にのみ現れるのか……!?

酔っているのか、正気なのかもわからぬこの混沌!!

 

「こちらのしらたき、どうなっとんじゃァァァッ!!」

 

「ぬぅぅ……!! 貴様、そのように怒鳴るな!! おでんの汁が跳ねるだろうが!!」

 

我はつい、魔王の威圧を漏らしてしまった。

 

男の足元を支えていた“猫”が、しゅっと姿を変える。

──これは、変化の術。まさか本物の魔物!?

 

「……夜型妖獣〈ナメクト〉。擬態型の雑魚だが、油断はできん」

 

さすがの人間界よ……深夜のセブンに、異界の門が繋がっておるというのか。

 

 

 

 

 

 

「ルヴィアちゃん、どうしたの? レジ、荒れてるけど──うわ、なんか出た!!」

 

店員近藤が悲鳴をあげる。

ナメクトが喉を伸ばし、アイスケースを舐め回す。……やめろ、溶ける!

 

「我が対処する!」

 

「えっ!? 無理でしょ!?」

 

「……レジを舐めた代償、受けて貰おうか」

 

我は、レジカウンターの奥から“秘密兵器”を取り出した。

 

──それは、レジ袋(特大)!!

 

「はぁああああああぁあああぁぁぁあああ!!」

 

気合いと共に一閃──

ナメクトを袋で包み、クルンと巻いて結ぶ!

 

「完封……!」

 

「すごい……ていうか早業すぎ……」

 

店内が静寂を取り戻す。

 

「……おでん……しらたき……」

 

元の姿に戻った酔っ払いが、うわ言のように呟く。

さっきまでの気迫は、全てナメクトの憑依によるものだったらしい。

 

「近藤、こやつを追い出してくれ。あと、猫も」

 

「う、うん……」

 

 

 

 

 

 

その後、なんとか朝を迎え、シフト終了。

店長がやってきた。

 

「深夜帯、おつかれー! 夜のクレーマー、来たでしょ?」

 

「うむ。レジ袋で封印しておいた」

 

「え、なにそれこわい」

 

我が言葉を冗談と思っているようだが……

あの猫、再び現れることがあれば、次こそ焼却処分せねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

その夜。

いつものように勇者が来店した。

 

「……からあげ棒と、アイスカフェラテ」

 

「お主、夜も来るとは……何者だ?」

 

「夜勤明け。俺、警備会社で働いてんの」

 

……なるほど。人間界においても戦っておるのか、勇者よ。

 

だが──

 

「からあげ棒、在庫切れだ」

 

「え、うそ」

 

「代わりに、チキン南蛮バーガーをすすめておこう。貴様の勇気に免じて、温めてやってもよいぞ」

 

「……あ、うん、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

「ふふふ……」

 

我がこの街を支配する日は、近い。

 

まずは夜の異形どもを退け、

次に昼のヒエラルキーを制し、

いずれはこの日本の物流網を──

 

「……その前に、来週のシフト希望表、出しておいてねー」

 

「ぬぅぅぅぅ……」

 

人間界最大の試練──“シフト調整”が、我を待っていた。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

④強盗

 

──その日、我はいつものようにレジに立っていた。

夕方の来店ラッシュも終わり、深夜の店内は静けさを取り戻していた。

 

「……次の納品、明日の午前か」

 

納品表を睨みながら、深く息を吐く。

完全に、この人間社会に馴染んでしまっている自分が怖い。

 

「ルヴィアさん、コーヒーマシン、こぼれてます」

 

「む、すまぬ。……貴様、勇者ではないか?」

 

「だから俺、もうただの警備会社の社員だから……」

 

勇者──否、現代日本の一般青年となった男は、我の勤務時間に合わせてよく来店してくる。

ツナマヨおにぎりを買い、缶コーヒーを一口。

 

その姿にかつての因縁の名残はなく、

むしろ“同じ労働者”としての親近感すら湧いてくるほどだった。

 

──だが、その日。

 

平穏を破る“異物”が、ドアをくぐった。

 

 

 

 

 

 

カランコロン♪

 

重い足音。

土で汚れた作業服にサングラス、顔の半分をマスクで覆い、手には……刃物。

 

店内の空気が、凍った。

 

「──金を出せ。レジの金、全部だ」

 

「……」

 

我は一瞬、動きを止めた。

“人間界における実戦”など、初めての経験だ。

 

「おい、聞こえねぇのか!?」

 

男がナイフを突きつける。

その一歩が、レジのセンサーを横切り──

 

「──いらっしゃいませっ!!」

 

我は思わず、戦闘時の咆哮で返してしまった。

 

「うるせぇ!! 黙って言う通りに──!」

 

 

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

声がした。

 

……勇者。

いや、警備員風のジャケットを羽織った彼が、我の横に立っていた。

 

「何だ貴様!?」

 

「防犯カメラも記録済み。あと一歩動けば、通報スイッチを押す」

 

「……ああん?」

 

ナイフが向けられた、その瞬間。

 

「押した」

 

我が言った。

勇者と同時に、我がボタンを押していた。

 

「えっ、もう?!」

 

「待機は必要ない。敵ならば即応だ」

 

「そういうもんだっけ!?」

 

 

 

 

 

 

男が詰め寄る。

勇者がその腕を払おうとする──

 

──そのとき。

 

「今だッ!!」

 

我が手に持っていた、おでんの器(あっつあつ)が男の顔面に炸裂。

 

「アアアアァァァァッ!?!?」

 

「ちくわぶ、全弾命中」

 

「うっわ、容赦無いな」

 

と言いつつ、その隙に勇者が男をタックルで押し倒し、腕を制圧。

ナイフが床に転がった。

 

「……無事か?」

 

「……ああ。感謝するぞ、勇者よ」

 

「だから違うっての……」

 

 

 

 

 

 

数分後、パトカー到着。

騒動はあっけなく終わった。

 

「……あんたら、よくやったよ。特に女性のほう、勇敢だったね」

 

警官の言葉に、我は少し照れた。

勇者がぽそっと呟く。

 

「まぁ、元・魔王だからな」

 

「なんだそりゃ?」

 

 

 

 

 

 

その夜、バックヤード。

 

「おでん投擲とか、反則すぎるでしょ」

 

「何を言う。ちくわぶは魔界でも“魂の棍棒”と呼ばれていた」

 

「うそつけ」

 

──だが、共闘は成された。

かつて敵であった我らが、今や背中を預ける仲となっている。

 

「……なあ」

 

「なんだ?」

 

「その……お前、本当に“征服”なんて、する気あるのか?」

 

「フン。今はまだ、バイトリーダーが目標だ」

 

「それ、前より目標ちっさくなってない?」

 

「うるさい」

 

笑いながら、勇者が缶コーヒーを差し出す。

 

「ほら。今日の分」

 

「……ありがたく受け取っておこう」

 

 

 

──魔王と勇者が、缶コーヒーを挟んで共に笑う。

 

かつて世界の存亡を賭けて戦った二人は、今、セブン◯レブンで肩を並べていた。

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

⑤売上目標

 

──それは、ある平日の昼下がりだった。

 

「ルヴィアちゃん、今日さ、本部の人来るから」

 

「本部……? それは何だ、王都の参謀本部のようなものか?」

 

「うん、そうね。ちょっとウザめのやつ」

 

そのとき、店の空気が変わった。

 

カランコロン♪──

 

「お疲れ様です」

 

ピシッと整ったスーツに、冷えた空気をまとった男が現れる。

その名は――

 

「本部スーパーバイザー、“神官”ミハイル・オオクラです」

 

我が思わず息を飲む。

 

──気配が違う。

この男……只者ではない。

 

 

 

 

 

 

「売り場、乱れてますね。POPの角度、5度ずれてます」

 

「……む?」

 

「陳列が甘い。フライヤーの温度管理、基準値から1.2度高いですね」

 

ピッ、ピッ、と指先で何かを測るたびに、店内の秩序が崩されていく。

 

「あと、バイトリーダー見習いのルヴィアさん。勤務報告、1分遅れてますね」

 

「ぬ……それはほんの誤差では──」

 

「遅れは遅れです。“規則”が“秩序”を作るんです。魔王であろうと例外ではない」

 

「貴様……なぜ我が魔王と知って──」

 

「元・神官ですから。かつて貴女を封印しようとした者の一人ですよ」

 

「何ィィィィィィッ!!」

 

田村(浪人生)「またかよ! 何でみんな転生してんの!?」

 

 

 

 

 

 

「というわけで、この店舗の業績も良くないし、閉店を検討します」

 

「な──!? 貴様、そんな横暴が許されると思っているのか!!」

 

「許すも何も、私は“本部”の人間ですから。売上がすべて。効率が正義です」

 

──本部。

それは魔界より冷酷な、数字の神が支配する領域。

 

だが、我は屈しない。

この店には、我が築いた“絆”があるのだ!

 

「ならば、勝負しよう」

 

「勝負?」

 

「貴様の要求をすべて満たし、売上目標を達成してみせる。それが叶わねば──閉店も受け入れよう」

 

「……フッ。面白い。では、今日1日で10万円売り上げてみてください。この時間帯にしては無理な数字ですがね」

 

「上等だ。人間界の“全力接客”、見せてくれよう」

 

 

 

 

 

 

──魔王の逆襲が始まった。

 

「いらっしゃいませぇぇぇぇぇッ!!」

 

その声量、雷鳴にも似たり。

客が3人、驚いて商品を3倍買っていった。

 

「ちくわぶ3つ、おでんパックに詰めたぞ」

 

「そんなに誰が食うんだよ!」

 

「我だ!!(購買)」

 

ちくわぶを自己購入し、売上を押し上げる。

 

「近藤! レジ打ちの補助に入れ!」

 

「はいッス魔王サマ!」

 

店員たちが一致団結し、鬼の勢いで売りまくる。

田村はビール棚の前で、飲みもしない発泡酒を次々に買い込んでいく。

渾身の自爆営業だ。

 

「売上! 今、いくらだ!」

 

「8万6千です!」

 

「ぬうううううっ!! あと少し!!」

 

 

 

 

 

 

ラスト1時間。

 

しかし、突如、店のレジが異音を発した。

 

「ピピッ……エラー。エラーコード:E-07」

 

「なにィ!? まさかレジが壊れた!?」

 

「それは私の仕込みです」

 

神官ミハイルが、不敵に笑う。

 

「電圧をわずかに操作し、機器を故障させる……かつての“神術”の応用です」

 

「小賢しい……!!」

 

我は、残された手段を取った。

 

──手動レジ打ち。

 

「金額確認! 商品点数、5! 合計、1,473円!」

 

「現金です!」

 

「預かり1万円、釣銭、8,527円ッ!!」

 

まさかの暗算。まさかの暗器のような速度。

 

我が手計算を超高速でこなす様に、ミハイルの目が揺らぐ。

 

「な……この者、完全に“業界”に染まっている……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

そして、運命の瞬間──

 

「本日の売上、100,216円ッ!!」

 

「……ぬっ、まさか……」

 

神官ミハイルの肩が崩れ落ちる。

 

「我が誓い、果たしたぞ。本部よ、ここに屈せいッ!!」

 

「……完敗です。魔王ルヴィア。あなたこそ、真のリーダーです」

 

スーツの男は静かに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

「ルヴィアちゃん! 昇格おめでとう! これがリーダーバッジね!」

 

「うむ、感謝する」

 

店長がバッジを手渡す。

 

──それは王冠ではない。

だが、今の我には……この小さなバッジが、誇らしかった。

 

「ふん、これで我が支配する店舗が一つ増えたわけだな」

 

「だから支配とかやめなって……」

 

 

 

 

 

 

こうして、我は人間界で初の勝利を手に入れた。

 

だが、終わりではない。

次はこの都市、そしてこの国、いや……物流網そのものを手に入れ──

 

「ルヴィアちゃん! 明日シフト入れるー?」

 

「無理!!」

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

⑥ありがとう、セブン◯レブン

 

──それは、静かな朝だった。

コンビニの入り口に、張り紙が掲げられている。

 

「店長退職のお知らせ」

 

「……えっ、店長、やめるの?」

 

「うん、ごめんね。来月には故郷に戻ることになって……」

 

店長が去る。

それは、この店舗のリーダーが“ルヴィア”になる、という意味でもあった。

 

「これからは、リーダーのルヴィアちゃんに任せるわね〜」

 

「ぬ、むむむむ……」

 

魔王、動揺。

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

バイトたちが集まって、店長の“ささやかなお別れ会”を開いていた。

 

「このセブン、最初はただのバイトだったけどさ……今じゃ第二の家っすよ」

 

「魔王様の統治下ならば、ここも安泰だな!」

 

田村はチューハイで乾杯しながら、例によって限界まで飲み干していた。

 

「で、魔王様は……これからどうするの?」

 

誰かの何気ない問いに、店内の空気が止まる。

 

「このままバイトリーダー続けるの?」

 

「世界征服とか……結局、しないの?」

 

 

 

 

 

 

ルヴィアは静かに缶コーヒーを開けた。

 

「……人間界に来て、最初は戸惑った。全てが奇妙で、全てが無力に思えた」

 

「だが、我はここで“繋がり”を得た。お前たちと過ごし、戦い、笑い、働き、そして……疲れた」

 

「人間界の労働、恐るべしだな!」

 

笑いがこぼれる。

 

「それでも……我は思う。世界征服など、必要なかったのかもしれぬと」

 

 

 

──世界を征服するより、

一つの場所を守る方が、ずっと尊い。

 

 

 

「それに、我がいなくとも……お前たちなら、この場所を守っていける」

 

「えっ、それって……まさか──」

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

ルヴィアは、制服を畳んでカウンターに置いていた。

「退職届(魔法陣付き)」と一緒に。

 

「この力を、次に生かす時が来たのだ。もっと広い世界で、何かを築くために」

 

「……次って、どこに行くんだ?」

 

「ドミノピザ」

 

「賢者と同じとこ行くの!?」

 

 

 

 

 

 

その後ろ姿を、勇者が見送っていた。

 

「結局、お前って魔王だったのかな」

 

「さあな。今となっては、ただの元バイトリーダーかもしれん」

 

「じゃあさ、またどこかで、“ただの客”として会おうぜ」

 

「うむ。おでんのちくわぶを用意しておけ。三本だ」

 

二人は笑い、拳を軽くぶつけ合った。

 

 

 

 

 

 

そして──

 

浪人生・田村は、魔王のいない店舗で、静かに働き続けた。

後日、彼は某国立大学に合格し、社会学部で“組織と支配構造”について学び始めたという。

 

魔王の背中を追いながら。

 

 

 

 

 

 

この物語に、特別な教訓はない。

 

ただ一つ、伝えるとすれば──

 

「人生は、セブン◯レブンのようなものだ」

 

出会いと別れがあり、深夜にも異形が現れ、

何が起きても、“いらっしゃいませ”と迎える強さがある。

 

だから、

 

──ありがとう、セブン◯レブン。

そして、行ってらっしゃい、魔王様。

 

 

 

〈完〉

 

 

 


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