短編ですが5話くらい書こうと思います。
カリ、カリ、カリ。
静寂なオフィスビルの中で、Gペンのペン先がカリカリと音を立てている。
空調の効いた部屋で僕は今週の漫画を描いている。
「オット、自己紹介が遅れたな……僕の名前は岸辺露伴。漫画家さ。週刊少年ジャンプで『ピンクダークの少年』を連載している、自分で言うのもなんだが売れっ子さ」
「僕を知っている読者ならおそらくこう思うことだろう、『露伴先生がなんでここにいるんだろう』『杜王町』に住んでいたんじゃあなかったのかッ!?』ってね。まあとにかく、僕の話を聞いてほしい」
数か月前。僕はこのキヴォトスという都市に『先生』として招待された。なんでも連邦生徒会長というやつが僕のファンだったらしい。
キヴォトスという場所に行ったことはなかったんだが、もしかしたら未知の何かがあるかもしれない、そうすれば漫画のアイデアになるぞと考えた。
それで取材も兼ねて行ってみたらアラ不思議。その都市は数千以上の学園がひしめき合う学園都市で、学生たちは皆銃を持っているという斬新過ぎる場所だったのだ!
「そこから先は奇妙な出来事ばかりの日々だった。砂漠にある廃校寸前の学園を救ったり、2つの学園の危機を救ったり……極めつけには平行世界から来たとかいう『先生』と戦ったりと、とにかく数え切れないほどのことがあった。僕は杜王町を心から愛しているが、アイデアという点で見ればこの都市も杜王町に全く劣らないレベルだ。今では杜王町にある邸宅とこのキヴォトスを行き来しながら暮らしている」
「これから話す僕の話は、この岸辺露伴がキヴォトスで体験した奇妙な話だ」
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7月の半ばのことだった。外では蝉が求愛のためにミンミンと啼いていて、街を歩く生徒たちは暑い暑いと言いながら辛そうにしている。
僕はというと、冷房の効いているレストランでイタリアン料理を食べながら編集の泉くんと電話で打ち合わせをしていた。
『先生ェー、またキヴォトスにいるんですかァ?』
「ここにいれば漫画のネタが尽きないからな……何か問題でもあるのか?」
『問題って言うかぁ……先生の作品ってアナログ原稿じゃないですかぁ? デジタルならともかくアナログだと取りに行かなきゃいけないじゃあないですか……』
「じゃあ今から君が取りに来いよ。原稿を」
『ええっ今からですかァー!? えっと、直行便は……』
「僕は漫画のアイデアを探すのに忙しいんだ……じゃあな!」
『あっちょ、先生!』
ピッ。
スマホの電話を切った。相も変わらず騒がしい担当編集だ。
そんなに原稿が欲しいなら彼女の方から来ればいいだけの話だ。
電話を終えたので注文していたパスタを食べ始めると、「先生?」と誰かが僕に声をかけた。
「君は……」
「先生もお食事中ですの?」
話しかけてきたのは、ゲヘナ学園の黒舘ハルナだった。
黒舘ハルナ。彼女は美食研究会という組織のリーダーであり、その名前をこの都市の料理人たちは恐れている。
彼女は『美食』を探求することを自身の美学としていて、不味い飯を出す店やサービスの悪い店は爆破するというとんでもないイカれ女だ。
爆破という観点だけで見ればかつて僕たちが戦った吉良吉影に近しい物を感じるが、彼女はあの男の様な異常性癖は持っていない。
ただまあ、周りへの被害を考えれば吉良吉影とほとんど大差ない気がするが。
そんな女だが、なぜか彼女は僕ともう1人のある『生徒』を気に入っている様で、基本的に僕には好意的な生徒だ。
「ああ……ハルナか、何か用かい?」
「今日は先生にお話ししたいことがありまして、お探ししていたという事ですわ」
相席よろしいかしら、とか言って彼女が僕の前に座る。
別に座っていいとは言っていないのだが、まあいい。
「単刀直入に言います。先生」
「『密漁』をしませんか?」
唐突に犯罪行為をしないかと言葉をかけられた。
確かに僕は前に密漁をしたことがある。トニオさんが病気の彼女を治すためにアワビが欲しいと言ってきた時だ。
「……続けてくれ」
「ゲヘナにある綺麗な海辺……ありますわよね? そこに先日、『黄金マグロ』が確認されたのです」
黄金マグロ。
基本的にこのキヴォトス近隣の海でしか獲れず、しかも数は極めて少ないとされる高級なマグロだ。希少過ぎるが故に勝手に獲ることは禁止されている。
口の中に入れれば最後、もう二度と他のマグロには満足できなくなるとか。
「でもそれって……あれだろ? 獲ったら泥棒だろ? 僕はこれでも漫画家としても教師としても先生なんだぜ? そんな模範であるべき大人が! そんなみみっちい犯罪行為をして! 許されると思うのかッ!?」
「先生……しかし私はどうしてもあのマグロを味わいたいのです。先生なら、生徒の望みを叶えるのも役目の1つではないですか?」
「オイオイオイオイオイ! それにそんなことをすれば『風紀委員会』や『正義実現委員会』も黙っちゃあいないぞッ! 君だって分かってるんだろッ!?」
「先生」
「『密漁』をします」
「だから気に入ったッ!」
僕と彼女はガシッと手を組み、再び僕は密漁という犯罪に手を染める事にした。
半日後。
時刻は午前0時を回ろうとしている。
ハルナとその仲間である美食研のメンバーのイズミ、ジュンコ、アカリ。そしてもう1人。
「なんで私まで連れてこられてるのよォーッ!!!」
「そう仰らないでくださいフウカさん、手伝って頂ければマグロの一部を差し上げますわ」
「そういう問題じゃあないの! というか先生もいるじゃないですか! なんで加わってるんですか!?」
「落ち着いて聞いてくれよフウカちゃん……僕はあくまで漫画のアイデアが欲しいから、『仕方なく』密漁に参加してるだけなんだ」
「アイデアのためだろうがなんだろうが犯罪は犯罪……ムゴゴッ!?」
「静かにしてくださいねェ~、周りにバレちゃいますから★」
騒ぎ立てるフウカの口をアカリが手で抑える。
最初は抵抗していたものの、抵抗しても無駄だと理解したのかやがて何も言わなくなった。
「ねえ露伴先生、本当にマグロいっぱい食べていいのよね?」
「マグロ、マグロ~!」
ジュンコやイズミが張り切りながら潜る準備をしていると、ハルナの方から僕の方にライトを渡してきた。
「先生にお願いしたいのはこのライトで海面を照らしてほしいという事と、周りに人が来ないかという見張りです。お願いできますか?」
「ああ、構わないさ。早く行ってくると良い」
「フフ、行って参ります」
メンバー全員が潜る準備を終えて、マグロを獲るために海へ入っていく。
潜ってから5分ほど経ってからだろうか、フウカちゃんが僕に呆れ気味に聞いてきた。
「……先生、何度も言いますけどこれ犯罪ですよ? 本当にいいんですか?」
「ン? 何が?」
「だって……先生にとってマグロ食べれる以外メリットないじゃないですか」
「いいや、メリットならあるさ。好奇心を満たせる」
「好奇心……?」
「いいかいフウカちゃん、僕ら人間はいつだって好奇心によって進化してきたのさ。好奇心はいつだって前に進む力をくれるんだ。「あれを知りたい」とか、「これはどうなっているんだろう」とか……それを突き詰めていく事で、人は新しい道を切り開く事ができるんだ。僕だってそうさ、好奇心を持って色々な事を知れば知るほど経験になって、それは漫画を描く上で『リアリティ』に繋がる……人が前に進むには好奇心が必要なんだよ」
フウカは理解しながら納得は出来なさそうな顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
潜ってから10分経った頃、美食研の4人は大きな何かを持って浮上した。
4人が浜の方まで戻ると、そこには煌びやかな輝きを見せる1匹のマグロがあった。
「こりゃあ凄いな……本当に黄金そのものだ……」
「ふふ、先生もありがとうございました。おかげでマグロを獲る事が出来ました。フウカさんもありがとうございます」
「……今回だけだからね」
「ねえねえ、マグロのチョコミント和えっておいしいかなあ?」
「美味しい訳ないでしょそれ! ……あれ? ねえ、誰か来ていない?」
ジュンコが何かに気付いた様に、遠くの方に指を差す。
彼女が指さす方向に皆が目を向けると。
ここの地元住民がこちらへ向かってきていた。
住民と僕らの距離が5mほどになった瞬間、彼が口を開いた。
「なあ……おい。あんたシャーレの露伴先生だろ? 質問に答えてくれよ……それは『黄金マグロ』だな?」
「……ああ」
「それを獲る事が犯罪だという事は理解しているな?」
「ああ……」
「そのマグロは俺たちが丹精込めて育ててきたマグロだ……今返せば何も無かった事にしてやる」
「マグロを返せば、僕たちを許してくれるのか……?」
「ああ、許してやる……だから今のうちに海に返せッ!」
「だが断る」
「ッ!?」
「先生……」
「僕は何が何としてでもこのマグロを食べたい……だからこのマグロは返さないし僕らの意思を譲るつもりもない。申し訳なくは思うけどな……」
僕が住民にそう告げると、彼は一瞬下を俯いて……
咄嗟に拳銃を取り出したッ!
「ああそうかいッ! テメーの言いてえ事はよーく分かった! テメーらは今、ここでブチ殺すゥゥゥ! 死ねッ岸辺露伴ッ!」
住民は拳銃の引鉄を引き、6発の弾丸が僕目掛けて撃ち込まれる。
普通の人間なら助からず、ここで死んでしまうだろう。
『普通の人間』なら。
「『ヘブンズ・ドアー』ッ! 弾丸に『命令』するッ!」
『撃たれた弾丸は全て別方向に逸れる』
書き込まれた弾丸は僕に当たる事は無く、全て別方向に逸れていった。
「どっ……どうなってんだッ!? 弾丸は今、確かに! まっすぐ奴を貫こうとしていたのにッ!」
「すまないがこれが僕の能力……弾に反れる様に書き込ませて貰ったんだ。可哀想だが……君にも今書き込ませてもらう」
『お前は僕たちを追う事が出来ない』
「ヨシ! 今のうちに逃げるぞッ!」
僕たち6人は給食部の車に乗り込み、海辺から逃げ出した。
「それにしても、マジでヤバかったな……肝が冷えたよ本当に」
「でもこれで後はマグロを調理するだけですね★私この時のために晩御飯抜いてきたんです★」
「ねえハルナ、このマグロ何料理にするの?」
「そうですわね……刺身に海鮮丼、まぐろのステーキにちらし寿司……ブルスケッタなんて言うのも良いかと」
「……それ私が調理するんじゃあないでしょうね?」
ジュンコとハルナが話していたところにフウカがジト目で聞いてきた。
そんなフウカにハルナはきょとんとした表情で。
「? フウカさんと私たちは友達ですし、もちろんやってくれますわよね?」
「ああーもうッ! しょうがないからやるわよ!」
「そう言ってくれると思っておりましたわフウカさん」
ハルナは嬉しそうに微笑んで、車は夜道を進んでいく。
「止まれェーッ!」
「「「「「「!?」」」」」」
大きな声が響くと共に、気付けば周囲は一斉に銃を突き付けられている。
「風紀委員会だ! 美食研究会のメンバーは即座に跪けーッ!」
おかっぱの様な少女たちが大声で僕らを威圧している。 おそらく、さっきの住民がゲヘナに通報して風紀委員会が来たのだろう。
「くっ……ここらが潮時ですわね……では皆さん、また後で会いましょう!」
美食研究会のメンバーはそれぞれフウカとマグロを持って逃げ、イズミは1人逃げ遅れて「待ってよ~」なんて言いながらどこかへ消えて行った。
「……1人置いて行かれたという訳か? 僕は」
しばらくすると、奥の方からゲヘナ風紀委員メンバーの1人、銀鏡イオリが出てきた。
「……先生、何してるんだ? こんな夜遅くに」
「……密漁、って言ったら……どうする?」
「密漁!? 犯罪行為をやってたのか!?」
「違うッ! 犯罪をしたかった訳じゃあないんだ! 僕はただ漫画のアイデアがだな……!」
くそッ! こんなはずじゃあなかったのに……!
こうなっては仕方がないッ!
「『ヘブンズ・ドアー』ッ! この場にいる風紀委員全員に書き込め!」
『風紀委員は全員もれなく自宅に帰って、今日のことは忘れる』
「……あれ? 私たち、何してるんだ? なんでこんな夜中にここに?」
「イオリ……こんな夜中に出歩くなんてダメじゃあないか……早く帰った方がいい」
「……? 分かった……」
イオリはすたすた帰って、他のメンバーも困惑しながらぞろぞろと帰っていった。
ひとまず危ない状況を切り抜ける事が出来た。
だが僕にはまだやるべき事がある。
そう、それは……
モモトークにハルナから「シャーレのビルで待っている」と送られてきたので、仕事部屋まで行くと。
そこにはきらきらと綺麗に輝くマグロの切り身や、とても美味しそうに調理された料理の品々があった。
他のメンバーも全員集まっていて、どうやら僕が来るのを待っていたらしい。
「僕を待っていたのかい?」
「ええ、食事は好きな方と食べるのが一番美味しいですから」
二コリ、と嬉しそうに微笑む彼女の顔は確かに美少女そのものだった。中身はアレだが。
「それと露伴先生……置いていってしまった事はとても申し訳なく思っておりますわ。ごめんなさい」
「ああ、いいとも……僕もそんな事で恨んだりするほど鬼じゃあ無いさ……だが相応の報いは受けて貰うぜ。それでチャラだ」
「……? 報いとは……」
「『ヘブンズ・ドアー』!」
『岸辺露伴と愛清フウカ以外はマグロを食べられない』
「「「「!?」」」」
「この岸辺露伴を置き去りにしたんだ……やられっぱなしじゃたまんないからな……マグロは僕とフウカちゃんの2人で食べさせて貰う」
心の底からマグロを食べたそうに見ている4人を後目に、僕と彼女はひたすらに美味い美味いとマグロを食べ続けた。
「ン~! 美味いッ! 特にこのブルスケッタのマグロ和え!」
「本当ですか!? うれしいです!」
「「アハハハハハ!」
マグロ料理を美味しく頂いていると、後ろから凍り付きそうなほど冷たい視線を感じた。
おそるおそる振り向くと、その視線を向けていたのはハルナだった。
よほどマグロを食べられなかったのが堪えたのか、僕をじっとひたすら見つめている。
しばらくして懐に手を入れると、中に仕込んでいた爆弾を取り出した。
僕は咄嗟に止めようとしたが、彼女は爆弾のスイッチを押した。
「……なんて事があった訳さ」
『先生、大丈夫でしたか……?』
「正直爆弾の威力がそんなに大きくなかったから大きな怪我を負わずに済んだが……それでも右腕は爆風で骨折してしまったし、今でも大分痛むよ……次からはシッテムの箱を常時持ち歩く様にしないとな……」
『……密漁をしたから天罰が降ったのでは?』
「ああ、そうかもな……これは天が僕に下した罰なのかもな」
シッテムの箱の中にいるアロナが心配そうに僕を見ているのと裏腹に、プラナは呆れた表情で僕を見ている。
密漁したことを悔いている訳じゃあないが……今回は自分の行いを反省しようと思う。
そんな僕、岸辺露伴だった。
おわり
時系列は最終編の少し後くらいです。