「先生……どうしよう」
2回目の試験が終わった時にチハルは頭を下げる。
"ど、どうしたの!?"
先生が戸惑いながら頭をあげるように促す
こうなった原因はつい先程のことで……
「実は…」
"モモフレンズにハマりすぎて戦車を売った!?"
「……その…皆にはまだバレてないから……」
「チハルちゃんもモモフレンズ好きなんですか!?」
"それにしても度が過ぎてるよ"
ヒフミが驚愕の声を上げる隣で先生はチハルに説教を始める
"自分の部隊の戦車といえど、皆のものでしょ?"
「はぃ……」
"レトにはもう話したの?"
「いえ…まだです……」
正座しながら項垂れるチハルと、普段温厚な先生が珍しく顔を顰めている。
"皆に頭下げて新しいの買ってきなさい。ゲヘナに売ってるところ知ってるから"
「なら先生着いてきてくれますか?」
"私は補修授業部があるから…"
「分かりました…買ってきます」
自業自得とはこのことなので、とりあえずレト達を引き連れてゲヘナへと電車で向かう。
「え戦車売った!?!?」
レト達に驚愕の目で見られた。
後はみんなから先程の先生と似たような説教を喰らった。
そんなこんなでゲヘナに着き、先生に教えてもらったティーガー戦車の売っている店に行く。
「普段買ってるブラックマーケットとは違って綺麗だね……」
入店早々飛び込んできたのは新品のティーガー戦車。あまりの美しい車体に、今の自分達のオンボロ車体を思い出す
「……ティーガー戦車全部買い換えるか!」
部隊としてのお金と今あるティーガー戦車全てを売り払い、このティーガーに切り替えるべく準備を進めようと1度トリニティまで帰ろうとした時のことだった。
「あの奥ってさ……」
店の奥へズンズンと進んでいくと、そこには王虎がいた。
「ティーガー2戦車……値段は…2600万円!?」
破格すぎた。
参考までに、ブラックマーケットで買うティーガーの値段は新古品が6800万円 中古でも3800万円程度だ。
「あいつらぼったくりだろ!?と、とりあえず1両下さい!」
帰りは電車じゃなくてティーガー2で帰ることにした。傾斜装甲に重装甲に身を固めた最強の王虎は街道を踏破し、圧倒的なその性能を第七機甲大隊に知らしめることになる。
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「先生〜!」
合宿所のドアを開けて先生の元へ走る。
"どうしたの?"
「性能上がった戦車買えました!これでもっと先生の期待に答えられるかな?」
"もう十分答えてもらってるよ"
先生の頬を人差し指で突き刺しながら満面の笑みで話す。総統は威厳ある偉大な大人って感じがして尊敬できるが、先生は包容力のある、優しい大人な感じがして甘えたくなる。
(教科書に載るような厳かな空気を漂わせる総統と、遊園地にいるマスコットキャラクターみたいな先生。私だって人間だ。ずっと総統に敬意を払って、NSDAPの1人として自立心を育んできたんだ。これくらい甘えたって神もグデーリアンも誰も怒れないだろ)
3秒の思考である
"随分と甘えるようになったね…?"
「ブラックマーケットで買ってたのがお金の無駄だと気づいて悲しい気持ちとティーガー2を買えて上機嫌だからですよ。」
試作ではなく完成品のティーガー2を目にかけることが出来てチハルは心の底からの喜びを感じる。ドイツの科学は世界一ィィィィイイイイイイと言いたいところだが、引かれて嫌われるのは目に見えるので辞めた。
"今度からは正規店で買うんだよ?"
「はい…それで?また勉強ですか?」
先生の頬をつつくのをやめて、ヒフミ達の方を振り向きながら話す。
「はい、次みんなで合格しないと……本当に……」
「私から言えるのは頑張れって無責任な言葉だけ。けど、結末を決めるのは君達自身。どんな事でも、1度のミスで全てが終わることなんて有り得ない。頑張って」
「はい!ありがとうございます!」
"チハルは今からどうするの?"
先生がいきなり質問してくる。
特に予定は無かったが、急遽しておいた方が良い事を思いついて咄嗟にそれを口に出す
「皆へのお土産を買ってから1度帰ります。即応体制を取っておくのでご心配無く」
"分かった。じゃあね"
「えぇ、また」
チハルは部屋を退出し、1度格納庫に来るようレト達と共通のモモトークのグループに連絡した。
「来ましたよ。大隊長」
「チハルさん、それで、要件って?」
「ケーキじゃん!買ってきてくれてたの!?」
レト達が続々と部屋に入ってくる。
その中でもエルが歓喜の声を上げてケーキに飛びつき、早速1つ食べて行った
「自由に食べてくれ。それでひとつ話したいことがあってだな」
「うん、それは別に構わないけど……わざわざ格納庫に呼んでってことだから結構重要な案件?」
「あぁ、大分な」
トウカが座りながら話す。
「エデン条約についてですか?」
「あぁ。あの条約が結ばれれば、私達の仕事は一挙に減るだろう」
ゲヘナとトリニティの散発的な抗争は我々の莫大な資金源となっていた。
エデン条約を止めるとなればトリニティ ゲヘナ シャーレの3つを相手取る事となり、敗北は200%。確実に負ける。
「なら止めないと…!とはならないんだよね?」
「その通り。エデン条約を止めた瞬間、我々はトリニティと先生 最悪の場合ゲヘナを相手取らないとならなくなる。」
そこまで話すと一息つく。先程も言ったが、ゲヘナとトリニティの対立で稼いでいた我々は、その収入口が無くなれば新車も買えず、危機に陥る。
「だからだ。私は1つ妙案を思いついた」
「?」
「カイザーPMCに着くんだ。最近、カイザーPMCからの勧誘もあったというのもあるが、カイザー理事も更迭され、カイザーPMCは今生まれ変わろうとしている。先生に情報を流せばなにか不味くなれば対応してくれるだろうし。」
「反対だよそんなの!そもそも、今まで敵対してたカイザーPMCが本当に雇ってくれるとは思えないし…」
「レト…確かにレトの気持ちは分かる。けど、チハルさんがそんなことを考えてないと思う?それに、私らがやったのはあくまでシャーレのせいって事になってる。シャーレに雇われたから仕方なく……って建前はそうなってる。だから問題は無いと思うけど…」
トウカがレトを説得しようとする。
「そもそも、チハルさんとトウカは企業相手に謀略が通じると思うの?ついこの間まで誘拐とか犯罪をバチバチにやり合ってた2組織がそんな簡単に「はい互いに手を取り合います」なんて無理だと思うけど」
ヨナタがごもっともなことを言う。しかし、事実カイザーを頼らなければ長い時間を掛けて練り上げた第七機甲大隊は補給が出来ず空中分解の可能性だってある。
「それをいうならエデン条約だって成立しないだろ?皆はあまり気づいてないかもだけどな、かなり私らは限界なんだよ。皆知らないと思うが、私ここ最近小遣いなんて0だよ?私からすればお前らはヒヨっ子たわ。もし私に意見するなら、地獄を生き抜いてからその口を開け。」
チハルが全員を叱責する形になってしまう。
「ヒヨっ子!?私ら第七戦車小隊の頃から頑張ってたじゃん!小隊中隊大隊と成長してきて、ヒヨっ子だからで努力を否定するの!?」
ヨナタがチハルの肩を両手で突き押す
「ヨナタ!そもそも、お前らを地獄みたいなスケバンから拾い出してやったのは私だろ!?黙って私の指示に従えばいいんだよ!」
チハルはそれに反抗するように声を荒らげる。
「チハルさん一体どうしたのさ!!今までこんなこと言わなかったじゃん!」
トウカが変わり果てたチハルに困惑しながら叫ぶ。
「確かに地獄みたいな生活を送っていたのはそうだけど、今大隊の8割を構成してるのはチハルさんが無理矢理編入した子達だ。」
エルが諭すように言う。しかし、頭に血が昇ったチハルにそんな言葉は耳に届かず、
「だからなんだよ。この大隊は私のおかげで生き延びてんだぞ!?全員が不自由なく結構満足に過ごせてると思うけど!?」
普段なら言わないことを平気で口にする。
「全部が大隊長のおかげじゃないでしょ!?誰が一緒に戦ってると思ってんのさ!」
トウカとヨナタ そしてチハルが激しい口論を続ける。罵詈雑言が飛び合い、レトもそこに加わる形となった。
互いの胸倉を掴んで殴る一歩手前まで言った瞬間の事だった
「もうやめてよ!醜いよ!」
エルが全員を引き離して声を荒らげる。
「みんな一体何がしたいの!?今からカイザーPMCの傘下に下るって訳じゃないしその前に情報を集めたらいいじゃん!」
チハルが首を縦に振る。しかしそんなチハルをエルは睨む。
「チハルさんもだよ!地獄のスケバン生活って言うけど、確かに拾ってくれたのは感謝してる。けど私らだってずっと頑張ってんの!」
そこまで言い終えると辺りの空気は静まり返り、気まずい空間が広がる。
「私はどっちかに肩入れするつもりは無い。けど、もし互いに謝りにくいなら……私に話して。」
エルが格納庫のドアを開いて思い切り叩き閉めると、本当に一言も話声が無くなる。
「…………もし先生に呼ばれたら来い。今回の案件と先生は別だ」
「うるさい。分かってるよ」
チハルも格納庫を退出する。
(なんで…理解してくれないんだよ…)
今チハルの心に残るのはトウカ達に対する怒りでは無く、誰も悪くない もしくは自分が悪いと思うやり場のない強い怒りだけだった