大学時代にその女性との出会いと、泣いている女性にうまく言葉をかけられなかった事を。
その頃の想いに気付いたが、もうその女性に会う事はない――そう思っていたのだが――
お久しぶり方はお久しぶりです。
334年ぶりに小説書いてみましたので、実質初投稿になるはずです(暴論)
社会人になって早二十年近く。年齢でいうと四十の壁があっという間に目の前に迫ってきていた。子供の頃にイメージしていた大人とはかなり離れていて、なりたかった仕事と畑違いの仕事についかと思えば、二度ほど転職をして今の職にしがみついている。
そう。しがみついているーーそれは自分で理解しているつもりだ。一回目の転職理由は残業が多かったのと、ほぼ休みも無く働かされ、自分の時間が全くなかった事。それに付け加えて、給料を増やさないくせに責任だけは負わせられれば、人間嫌になるってものだ。
二度目の転職理由は上司との相性問題が大きかった。ここ近年、マスメディアがよく使う言葉の一つである上司ガチャってやつに外れた結果だ。
そして年齢を考えればもう転職なんてほぼ難しい。世間の一部の人間は四十前ならまだ大丈夫だって言っているが、現実は違うのはわかっている。だから、しがみついていると表現した訳だ。
「藤田係長。聞いてくださいっスよ。原田課長がまたお客様怒らせて、自分が謝罪しに行ったんスよ」
と、いつもより多い仕事の量に少々現実逃避をしていると、俺の隣から怒った口調の男の声が耳に届いた。今、書類をパソコンで作成しながら話しかけてきたのは、俺の一回り下の部下。
しかし、原田課長。また、お客様怒らせたのか……。今回はどんな内容だ?そう冨田に聞くと、待っていましたと言わんばかりに勢いよく口を開いた。ただし、声の大きさは俺に聞こえるぐらいの小さな声で、だ。
「いやぁ、いつものあの人の言い方ですよ。『はぁ。一部の納品商品の規格が違う?納品時に確認しましたよね?なら、ウチが悪い訳じゃないですよね?そちらの問題をこちらの責任にしないでもらえます?』って、言ったみたいなんスよ。実際は、全く違う規格の商品が納品されたらしくって、先方の社長激おこだったんスよ。ほんと、勘弁してほしいっス。先方の社長と仲良かった俺が謝りに行くのって、おかしいと思うんスよ。普通本人じゃないっスか?」
「うわぁ……やらかしすぎだろ……あの髪薄課長。って、謝罪に冨田だけで行ったのか?」
一部で課長の口調をマネしながらボヤキ交じりに話す冨田。俺は右手を額に当てて溜息を吐きながら悪口を言いつつ、気になった事を冨田に聞いてみる。さすがに冨田だけという訳ではなく、こちらの社長も同行して菓子折り持って行ったそうで、謝罪後は終始穏やかな雰囲気で納品した商品の交換と納期についての微調整と、別個で違う商品の契約がまとまったとの事。で、その報告書を今作成している……と。
「遭難スよー。富士山の三合目あたりでしてそうなぐらい、アップアップっス」
「その、遭難はするなよ?しかも三合目って、五合目までは車で行けるからな?で、ちょっと報告書見せてみ……ああ。ここの表現はこうした方が読み手に伝わりやすいぞ」
と、横から冨田からキーボードを借りて入力をする。その文章を読んだ冨田が驚いたようで、小さな声で「そっか、こっちの表現のほうがいいんスね」と左手を顎に当てている。その際、薬指にキラリと光る指輪が見えた。そういえばーー
「そういや、冨田も先週結婚したんだったな」
「え?あ、そうっスよ。うちの会社でしてないの、藤田係長だけっスよ」
左手薬指の結婚指輪を俺に見せびらかせるように俺に見せる冨田。そう。何故かうちの会社の結婚しているのは、俺以外全員という異常事態なのだ。いや、今年入った新人ですら学生結婚したって聞いた時は、最近の奴はすげぇなって周りと話しをしたのは記憶に新しいな。まあ、社内の環境とか社外で出会いのしやすいのも影響しているのだろう。若者の恋愛・結婚離れとかいう話題も、うちの会社ではどこ吹く風というやつだ。
そういう訳かどうかは分からないが、今先ほど話題に上がった問題を起こしたうすらはg……違った。原田課長ですら結婚しているのだから、世も末だと言われる始末である。言ったやつ?俺と社長です。社長ですらその評価なので、俺は悪くない。悪くないよな?
「藤田課長、顔は普通以下ですけど、性格マジ優しいのに、彼女の一人もいないんスよね?結構な優良物件だとおもうんスけど……」
と、俺に彼女がいない事が不思議そうな冨田が俺の顔をマジマジと見ながら呟く。おい、顔は普通以下ってなんだ。普通以下って。そうツッコミを入れつつ
「俺には一生縁のない話しだよ。相手もいないしな」
と、本気で思っている事を言葉にする。そうーー結婚なんて俺には縁のない話である。今までも色々と努力してきたつもりではあるが、仕事中心の生き方をしていたら出会いすらままならず。まあ、自分の人生だ。諦めましょう。そうしましょう。って、心の中で半ば自暴自棄になりつつ、自分の仕事に戻ろうとしたら、俺の言葉を聞いた冨田が呆れ口調で
「いやいや、諦めたらダメっスよ。誰かいないんスか?」
と、聞いてきたので、小さく首を横に振ってから「いたら相談しとるわ。ほら、今日もあと一時間だ。仕事に集中な。週半ばでそんなに残業はしたくねぇぞ、俺は」と言って、話しを強制的に打ち切った。相手……か。そんな事を言われた俺は、ふと大学時代の学友――と言っていいのか分からないが――
今では、もう会う事のない女性の笑顔と涙が頭に過った。
その出会いは、大学二年だったか、一年の頃だったか。十五年以上も前の事だから、一年ぐらいの誤差は許してほしいところではある。何の講義だったかすらも忘れてしまったが、俺が受ける講義の前にその教室で講義を受けていた同じ学科の女子。肩まで伸ばしたサラッとした髪に、身長は男子の中では低い部類の俺と同じぐらいあったな。
顔はアイドルやら芸能人などと比べたら劣るという評価を多くの人がするだろうが、普通に可愛かったのは覚えている。ありきたりではあるが笑顔が似合う――そんな雰囲気の持ち主だった。
最初の会話は、たまたま目が合って挨拶しただけの事。本当なら相手が俺に挨拶を返す必要はなかったはずなのに、律儀にも返してくれた。それが彼女――
もしかしたら、その前に出会っていたのかもしれないが、俺がはっきりと覚えているのはその光景だった。その後はと言うと、その出会ったと講義と講義の間にある十分しかない休憩時間で、少し話しをするぐらいになった。どんな内容の講義だったとか、他の講義の事とかが中心だったはずだ。
しばらくしてから、他の講義で一緒になった際は、俺を見つけると手を振ってくれたり、挨拶してくれたり、流行りの事だったり、昨日あった事とか……日常の話しをするようになった。仲の良い学友。そういう関係。お互いに異性として意識してないし、親友なんていう深い関係にも届かない。そんな大学生の中ではよくある、知り合い程度の関係だった。
「藤田君って、県外からこっちに来ているんだよね?一人暮らし大変じゃない?」
「え?ああ。そうだけど、一人暮らしは大変じゃないかな?結構、のんびりやってるよ。松田さんだって、毎日電車で大学に通っているんでしょ?大変じゃないの?」
そう。俺は大学の県外からやってきていた。一方の彼女は地元とはいえ、その県でも少し遠いところにから通学していた。一人暮らしで自転車通学している自分と、電車の時刻や講義の開始時間に合わせて通学している彼女では大変さが違うはず。本当、今思えば会話が弾んだような記憶が少ない。俺自身が口下手だったというのもある。今現在も口下手なのは否定できないな。
そんな彼女はいつも会話をしていると楽しそうに笑う。きっと、聞いていてもつまらない話もあったはずなのに。いつしか、そんな彼女を遠くで見つけても、目で追う自分がいた。
「お前、最近松田さんとよく話してるよな」
「ん?なんだよ
同じ学科でバイクや車好きの、大学に来てからできた友人である石井歩が、講義の入っていない暇な時間によく使用している俺が所属している学科専用の休憩室で暇つぶししていたら急に聞いてきた。「まあ、確かによく話しているけれど」と首を傾けつつ答えると
「いや、好きなんかなって」
「誰が、誰を」
椅子を並べて寝っ転がっている歩に視線をやって、小さくため息を吐きながら聞き返す。
「お前が松田さんを」
「好きねぇ……恋愛感情ってのまったく分からないけども、人間性は好きだぞ?だからって恋かって言われると違うんじゃないかなぁ」
そう。今まで恋愛なんてまともにしてきた事のない自分にとって、異性を好きになるかなんて感覚が分らなかった。そんな事を考えていると歩は盛大に溜息を吐いてから
「想いを言わないと後悔するぞ?」
「そういう感覚じゃないって……アドバイスとしては受け止めておくよ」
と、心から心配してアドバイスをくれる歩。付き合いは大学からなので短いが、信頼できる友人の一人であるのは間違いないから、アドバイスはしっかりと聞いておこう。そう、思っていたのに、俺はそのアドバイスを最終的に無駄にしたのだった。
それから月日は経ち、俺と松田さんの関係が深まる事はなかった。連絡先も交換する事なかった。ただ、松田さんと話せると嬉しいという感情が芽生えていたのは確かだった。それが愛なのか恋なのかは分らなかった。
最後の学園祭で他の中の良い学科の連中と一緒にサーターアンダギーと沖縄そば――ソーキそばと言うんだったか――を作って屋台をやった記憶はある。大変だったけれど、すごく充実はしていた。
その、学園祭の後だったか、別の日に俺は松田さんとあの学科専用の休憩室で二人っきりになる。最初は俺一人だったのだけれど、松田さんが静かに入ってきた。挨拶はしたけれど、どこか暗い表情。それでしばらく静かにしていたら、かすかに泣き声が聞こえた。
「どうしたの?」
心配になって声をかけてみれば、松田さんの方は小さく震えていて
「うん……就職活動でうまくいかなくて……」
その時の就職活動は、九月になってから急速に海外の影響で景気が悪くなり、内定取り消しや企業の募集が激減した。それに松田さんは巻き込まれていたようだ。俺はありがたい事に地元のスーパーに内定をもらっており、取り消しとかなく今のところ、そこで働く予定だった。
「そっか……松田さんなら大丈夫だよ」
「うん……」
と、色々と言えるはずだったのに、口下手な俺の口から出てきた言葉はそんなありきたりな言葉だけだった。彼女の涙を止める事ができる言葉だってあったはずだ。励ますにしても、何か別の言葉があったはずだ。
今振り返えれば、後悔しかない。誰かが言っていたな。本当に優しくなれるのは色褪せた景色の中だけだと。本当にそう思う。
今なら、少しはまともな言葉をかけることもできるかもしれないが、もう遅い。
その後、松田さんと仲の良かった女子にフォローをお願いした。自分じゃ言葉が届かないと思うからと言って。その女子は学科の中心となっている子だったから、快く引き受けてくれた。
ただ、その後の事は聞く事が出来なかった。……多分、その時の俺は怖かったのだと思う。自分ができない事を他人がやって、松田さんを励ましたりする姿を見るのが。彼女の隣にいるのが自分じゃない事に。
「ああ……あの時、俺。恋していたんだな……」
一時間だけ残業する事にはなったが、無事に今日の業務を終わらせ、会社からの帰りに当時の気持ちにようやく気付いた俺は小さく呟く。今更、気付いたところで何かが劇的に変わるわけがない。
今の自分は、自虐的な笑みをきっと浮かべているだろう。鏡がないから分からないが、右頬だけが上がっている感覚があるのだから、多分そう。
あの頃に戻りたい――いや、戻りたくない。戻ったとしても、きっと同じ事の繰り返しになるだけだ。口下手で、他人を気遣えるような人間じゃないのだから当たり前だ。
「……やめやめ。帰ったら、明日からの出張の準備早くして寝よ」
その会社の名前を聞けば、俺が三年前にこの会社に入ってすぐに、アポを取って商談しに行った会社だった。結果としてはその会社とは契約は結べなかったが、別の会社を紹介してもらう事ができて、その紹介してもらった会社とは今も縁が続いている。
別会社と契約を結んだ後に、紹介してもらったお礼をしに行ったら驚かれた。俺としては普通の事をしただけのつもりだったが、先方はその事を覚えていてくれたらしく、今回の
この五年の内に、立て続けに母と父が他界してしまった俺一人の静かな家で、出張用に書類やらスーツやら着替えなどを準備する。その際、スマホでスケジュールを打ち込んでおこうとして、違うアプリを開いてしまった。
このスマホもゴーストタッチが多くなってきたから、そろそろ変え時かもしれないなと思いつつそのアプリを閉じようとして画面を見れば、一つの写真が表示されていた。
「……今日は過去を思い返せって言ってるんかねぇ」
その写真を見て、俺はスマホを持っていない右手を額に当てて天井を仰ぐ。そこには大学卒業という晴れの日に、袴姿の松田さんと、スーツ姿の俺が笑顔で写っていた。ああ、懐かしいな。最後に写真一緒に撮ってもらえないかって俺がお願いしたんだ。
松田さんは驚いた表情していた気がしたけれど、いつも通りの、誰にでも向ける笑顔で撮ってくれたのだった。
その写真を撮った時はスマホじゃなくて、今で言うガラケー時代だった。大切な思い出だからと、何台と携帯が変わって行く中で、大切にデータを移動させて保管していた。自分のあの時の感情に気付いた今だと、未練がましい事この上ない。
二度と会う事はない。だって、連絡先すら知らないのだから、当たり前だ。同窓会の連絡だって来た事がない。もう、友人だと思っていたやつらにすら忘れられているだろう。自分から連絡しないっていうのもあるだろうな。
どうも、相手が忙しかったら、家族との
「って、準備、準備!」
スマホの画面を閉じて、出張準備を再開させる。これも全部、先週結婚して指輪を見せびらかすように薬指にしていた冨田のせいだ。出張終わって今度会社に出勤したら、覚えていろよ。と、暴論めいた理論を立て、ここにはいる訳がない冨田を呪いつつ準備を終わらせるのだった。
翌日朝一の新幹線に乗って日本海側から太平洋側へ移動し、I県にやってきた。午後一時から始まった商談が終わった夕方。九月下旬だというのに、まだ残暑が厳しく、歩いているとうっすらと額に汗が浮かんでくる。
スーツの上着を脱いで左腕にかけるようにして、駅へと徒歩で向かう。結果から言えば、無事に契約がまとまった。話し合いの時、先方の担当者だけかと思ったら社長も来たから内心焦った。ただ、契約の話しもそこそこに、雑談が八割占めていたのだが、これも仕事だと割り切って乗り切った。
ただ、驚かれたのは結婚してない事。なんでも、第一印象からまじめそうな人間との評価だったらしい。それに、今回の商談でもメリット・デメリットの説明をしっかりとしてくれて、分かりやすくて助かったと仰ってくれた。これだけ他人に気づかいができる人間なのだから、奥さんもこういう旦那さんがいて誇らしいのではないか――と、いう話しになった。
昨日から結婚の話しが続いているのは冨田のせいだ。心の中で日本海側にいる昨日から通算で三度となるが冨田を呪いつつ、結婚してない事と相手がいない事を伝える。すると、誰か紹介しようか?なんて話しになったものだから、返答に困った。
これって、何ハラスメントに該当するのだろうかと、現実逃避にも似た考えを抱いた。どこに相談すればいいかとまじめに考えたが、そこまで精神的ショックを受けている訳ではないので思考から除外する。
最終的にその場は「ご縁があれば」なんてお茶を濁して逃げた。まあ、そんな言葉を言うぐらいしか思い浮かばなかったというのもある。まったく……他人に結婚はもう諦めているって言っても、理解してもらえないのだから辛いところだ。
先ほどまでの商談を思い返していた俺は、小さくため息を吐いた。音楽でも聴こうかと思い至り、歩きながらワイヤレスイヤホンをカバンから取り出そうとした時だった。
「藤田君……?」
「え?」
突然、横から声をかけられた。反応が遅れて、数歩いてから振り向けば、そこには黒と白のオフィスウェアを着た、仕事ができるといった印象を受ける女性が立っていた。その女性を一目見ただけで、俺はすぐに誰か分った。
「松田……有希さん?」
「やっぱり藤田君だ!久しぶり。元気にしてた?スーツでどうしたの?」
と、あの頃に比べて雰囲気が大人に成長した松田さんが、あの頃と変わらない笑みを浮かべながら立っていた。いや、偶然にしては出来すぎではないのか?そう思いながらなんとかやっている事と、今日は商談で日本海側からやってきた事を伝える。すると松田さんは安心したような表情を浮かべて、
「そっか。お仕事か。同窓会にも来なかったから、どうしてるかなってみんなで話していたんだよ?」
「同窓会?それは初耳。俺の所には連絡なかったから」
驚きの事実。同窓会はやっていたらしい。どうやら歩ですら俺に連絡してくれなかったようだ。いや、歩が悪いわけじゃないだろうな。多分、別の人間が幹事やって、俺の連絡先を知らない為に起きた現象だろうな。なんて冷静に考えていると
「そうなの?もう……誰か教えてあげればよかったのに」
と、驚く松田さん。まるであの頃に戻ったかのような錯覚。卒業してから十五年以上経っているのに、たまたま通りかかった俺によく気付いたものだ。普通なら声をかけずに、似てる人だって思うだけなのに。そう、松田さんに問うと
「あれ、もしかして?って、思って声かけたんだけど、びっくりだよ。藤田君、あんまり変わってなかったら」
「俺もびっくりしたよ。松田さんが綺麗になっているから」
「ふふ、お世辞でも嬉しいよ」
まあ、確かに年齢の割には見た目が若い――と、周りによく言われているから、松田さんが気付くレベルでそうなのだろう。しかし、他愛のない会話。まるであの頃に戻ったかのような感覚。でも、実際は戻ってない。お互い年齢を重ねてきているし、今までの事なんて何一つ知らないし、あの頃と同じ事なんて何一つ無い。
その証拠に、俺は気付いていた。いや、気付かされたと言うべきか。たまたま風が吹いて、松田さんの肩まで伸びた髪が靡いた時、松田さんが左手で髪を抑えようとした際に、薬指に指輪があるのを――
「結婚したんだ?」
「え……あ、うん。職場の人とね」
と、少し照れた感じに話す松田さん。ああ、そんな表情するぐらいなのだから、旦那さんとは上手くいっていて幸せな家庭を築いているのだろう。昨日から続いていた過去話しや結婚話しがこのような形で繋がるとは思いもしなかった。
いい旦那さんなんだねと言うと、左手で頬を掻きながら「ちょっと過保護な部分もあるけどね」と答える松田さん。まんざらでもなさそうな感じだから、大切に想われているのだろう。松田さんの隣居るのが俺じゃなくて本当に良かった。もし俺だったら、あんな笑顔を浮かべさせられる自信がないから。
ほんの五分程度だけれども近況報告やら、誰が結婚したとかの話しで盛り上がる。俺が結婚していない事に松田さんは驚いていた。どうしてと聞かれた際、俺の性格に問題があるんだよと苦笑いを浮かべながら答えるしかなかった。
今も昔も、精神的に成長したって実感がないのも原因の一つかもしれないな。
そんな事を冷静に頭の中で思いつつ、左腕にしている時計に目をやる。そろそろ電車に乗り遅れてしまう時刻になっていた。ここからなら、そんなに慌てなくても発車時刻には間に合うが、できれば余裕をもって動きたい。もっと松田さんと話していたかったけれど、そうも言っていられない。お互いに生活があるから。
「そろそろ行くよ。電車の時間もあるし」
「あ……そっか。帰らなきゃだもんね。久しぶりに話せてよかったよ。藤田君、体に気を付けてね」
「そっちも。旦那さんに心配かけないようにね」
そう言って俺たちは別れた。きっと、これが松田さんと俺の最後の会話になるだろう。二度と会う事はない。だって、同窓会の連絡すら来ない男だぞ?それに、連絡先を交換する事もなく別れたのだから。
きっと、優しい彼女の事だ。連絡先を聞いたら教えてくれるだろう。でも、それは俺の中で許容できる行動じゃなかった。ただ、今も変わらないあの頃と同じ笑顔を見る事ができた――それで十分じゃないか。
「どうか、幸せに……好きだった人」
そう小さく呟く俺。俺と松田さんの二つの足音は街の雑音の中に消えていったのだった――
あとがき作者の言い訳
ここまで読んで頂きありがとうございました。
この小説は、あるロックユニットの三枚目に収録されている楽曲もかなり意識して書いてみました。ってか、タイトル思い浮かばなくてそのままなのですぐバレますね。ええ。
でも、楽曲の歌詞とまったく違う内容になったので問題ないな。ヨシ!
あと、作品の一部分は作者の体験をもとに書いてみました。
サーターアンダギーと沖縄そばを昼飯抜きで作ったのはいいお思い出です。()
え?そこから自分の事が同級生にバレたらどうする?……そん時は笑ってごまかすさぁ!
尚、この小説は、最近よくある転生やらタイムリープやらして、ハッピーエンドになる話しではありません。
来世もないです。今だけがどこまでも続く訳です。それが悲しいけれども現実なのです。
作者的には転生してみたいですが、ファンタジー系に転生したら即座に命落としそうなので、どなたかに相談してから転生したいところです。
でも、相談しても冷やかされるからやめときます……。
次の作品があるとすれば668年後でしょうか……(遠い目)
改めてになりますが、ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
2025年7月12日 作者より