SCP-001-KV   作:SCP-001-KV

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18話 0人の█████(中編)

「初めまして、アリウスの皆さん。

 私は日輪ムガミ、この地底に光をもたらす神です」

 

どうも、日輪と書いてひのわと読むムガミさんです。

 そして、今は神を名乗っています。

 

 いや、どうしてこうなった???

 

「この土地は悪の女帝、ベアトリーチェによって汚染されてしまっています。

 しかし、救いを求める者がいるのならば、私はこの手を差し伸べましょう」

 

ちなみに、放送施設は壊れかけでしたが、機能はしているので問題ありません。

 いま電源をオフにしたら、一生つかなくなるような気がしないでもないですが……。

 

「みなさん、上を見てください。

 ここに、神の奇跡をお見せします」

 

さて、大層なことを言っていますが、するのは私ではありません。

 それでは……よろしくお願いします、シキ。

 

 影から這い出た黒い犬、シキはその姿を変えます。

 

 黒い丸、またはブラックホール。

 そう、シキが私と初めて会った時の姿です。

 

 そして、それは地底の天井へと昇っていきます。

 そろそろでしょうか。

 

「この地底に……光を!!」

 

タイミングが難しいなぁと考えながら、私は声を上げます。

 同時に、私の言葉に従って顔を上げていたアリウスの生徒はそれを見たでしょう。

 

 丸い日の玉、太陽と見間違うようなその光を。

 

 そもそも、黒という色は『周囲の色を吸収する』ことで生まれる色です。そして、色の反射はほとんどしません。

 逆に、白という色は『周囲の色を反射する』ことで生まれる色です。そして、色の吸収はほとんどしません。

 

 その点、シキはこの世界の色彩と融合したSCiP(スキップ)(異常存在)です。

 つまり、何が言いたいかというと……。

 

〖…………ぷはぁっ、つかれた〗

 

シキにとって、体の色を黒から白に変えるのは、ちょっと長い時間息を止めるようなものなのです。

 

 なので、長時間は難しいという欠点もありますが、こういう場面では決定打になります。

 

 空に光の玉(太陽)を浮かべられる存在がいるでしょうか?

 もし、いるとすれば……。

 

「私はあなたたちに光をもたらす存在です」

 

それは神以外に、なんて表現されるのでしょうか?

 

 なんて、私は神も封じ込める者(ただのSPTF財団職員)ですけど。

 

「ベアトリーチェ、聞こえていますか。

 今から、あなたのもとへ参ります」

 

そうして、私は宣教と宣戦をこの場に布告しました。

 

 

 

 

 

 私たちの作戦は一つの仮説を基に行われています。

 といっても、その仮説が関係するのはこの戦いが終わった後なので、ひとまずは置いておきましょう。

 

 先程の演説が効いたのか、アリウス側の抵抗は薄く、私たちは簡単にベアトリーチェのもとへ辿り着けました。

 

「あら、人の身で崇高を語る不届き者が何の用でしょうか」

 

マダムことベアトリーチェ。

 その容貌は人ではありませんでした。

 

 女性的な体格ですが、頭部の部分にいくつも白い羽に赤い眼光の目がついているような、奇妙な容姿をしています。

 なにより、その目は結膜の部分が黒い、いわゆる黒白目と呼ばれるやつでした。

 

「あなたは何人のアリウス生が失われたかご存知ですか?」

 

私は単刀直入に問いました。

 

「えぇ、当然のことです。

 ──ゼロですよ」

 

彼女は至極当たり前のことを言うように、ゼロという数字を告げました。

 

「私は誰一人として犠牲にしていません。

 私のもとにはそれを可能とする装置があるのです。

 もし、疑問に思うのであれば、過去の書類を提供しても構いませんよ。

 その総数は、元の数から一つも減っていないのですから」

 

ああ、なるほど。

 彼女はそれさえ、わかっていなかったのですね。

 

「知っていますか?

 決して死なないイナゴの話を」

 

「イナゴ?」

 

だから、私はその話をしました。

 

「とある科学者が、死んだという過去を改変することによって不死となるイナゴを生み出しました。

 その不死性を証明するために、いくつもの実験が行われました」

 

それでも、イナゴがその総数を変えることはありませんでした。

 彼らは過去を改変して、自らが死んだという事実を失くしたのです。

 

 しかし、その表現は適切ではありません。

 

「しかし、実際のところ、イナゴは死んでいないわけではなかったのです。

 ただ、彼らは『死んだ』という結果を改変するために、『生まれた』という事実を消していたのです」

 

そして、彼らはこう呼ばれました。

 

 【SCP-240-JP(0匹のイナゴ)】、と。

 

「あなたも……そうして、繰り返すのですか。

 0人のアリウス生となるまで、ずっと」

 

「意味がわかりませんね。

 生徒の数は減っていませんよ」

 

その言葉に、私は思わずきょとんとしてしまいました。

 

 言葉は理解できたのですが、理解できなかったのです。

 

 しかし、そこでようやく、私は前提が間違っていたことに気が付いたのです。

 正確に言えば、その認識が普通だという事実を忘れていたことに気付いたのです。

 

 怪異(SCiP)なんてものは存在しない。

 それが常識です。

 

「そうですか。

 ──であれば、あなたにSCiP(それ)を扱う資格はない」

 

私はそう言って、彼女を見下しました。

 

 超常の類を理解できないのなら……いえ、理解する気がいないのなら、彼女がそれらを管理することはできません。

 SCiP(スキップ)(異常存在)を扱う者は、非常識を受け入れられる者でなければ務まりませんから。

 

「それと……一つ、お伝えしておきます。

 私はあなたのような要注意団体(迷惑な者たち)に、何度も苦汁をなめさせられまして。

 ですので……」

 

そして、私は冷たい目をして──

 

「容赦など、期待しないように」

 

──腰にかけてあったハンドガンを抜き、即座にベアトリーチェ目掛けて撃ち抜きました。

 

 その銃の名前は、インサイド・ザ・ボックス。

 意味は、箱の中。

 

〖たまですよろしくおねがいします〗

 

そう、たまの住処となっているハンドガンです。

 

 ちなみに、あれから見た目をちょっとだけ改造して、側面に『Im 9mm nce 2 mt u』という文字を印字しました。

 

 『I'm 9mm, nice to meet you(9mm弾です、よろしくおねがいします).』という意味です。

 

 しかし、それは私の予想に反して……。

 

「あら」

 

容易く、命中しました。

 

 ……えっ、避けないんですか?

 それ、当たったら結構やばいというか……その、廃人確定というか……。

 

 えっ、何かの罠ですか?

 まさか、本当にこれがただの弾にすぎないと侮っているはずが……。

 

「私相手に、ただの9ミリ弾(たま)で何が出来ると?」

 

……。

 

 ……なんというか、勝利の余韻とかそういうのもなく、ただただ同情と心配が勝ります。

 

 例えるなら、将棋をやったことがない子供相手に二歩で勝ってしまったみたいな。

 謎の罪悪感があります。

 

 子供相手ならやり直しを検討するところですが……。

 この人は明らかに大人なので、仕方ありません。自らの無知を嘆いてもらうことにしましょう。

 

「……本当に、申し訳ありません」

 

「随分と殊勝な態度になりましたね。

 私が恐ろしくなりましたか?」

 

いえ。

 あなた程度の相手を、ニッソと勘違いして本気を出してしまった謝罪です。

 

 おそらく彼女は、ただニッソの作品(SCiP)を与えられただけなのです。

 きっと、SCiPを生み出したもの(それを与えていた存在)もまた、SCiP(スキップ)(異常存在)なのでしょう。

 

 彼女の不幸は、偶然にもそれらを使えてしまったこと。

 

「無力ですね。

 たましか撃てないなんて、あなたはたまを過信しすぎではないですか?

 たまはただのたまでしかないのですから」

 

〖たまはたまです。

 たまですよろしくおねがいします〗

 

「ふふっ……」

 

彼女は不可思議を認識していないのです。

 

 ……いえ、正確には違いますね。

 

 彼女は神秘(こちらの不可思議)を知っています。

 だからこそ、SCiP(あちらの不可思議)を認められないのでしょう。

 

 そうです。

 これは本来、存在してはいけないものでした。

 

 私と一緒にこの世界へ迷い込んでしまった、あってはいけない存在なのですから。

 

「なぜ、笑っているのですか?

 たまがここにいるだけではありませんか」

 

〖たまはいごこちのいいところをのぞみます。

 ので、いばしょをくれるはかせをてつだいます。

 よろしくおねがいします〗

 

「たまがいます。

 たまが私に話しかけています。

 あなたもみんなもたまをしるべきです」

 

「ダメですよ、たま。

 感染させるのは撃った人だけです」

 

〖たまはかなしんでいます。

 ので、ふてねします〗

 

「たまがねています。

 ので、わたしもふてねします」

 

これにて、一件落着……でいいのでしょうか?

 

 何というか、想像していたよりも簡単に終わってしまいましたね……。

 

 ですが、SPTF財団のみんなにいい報告ができそうです。

 

 ──使い捨てできる人材(Dクラス職員)ができた、と。

 

「……あぁ、安心してください。

 私は浪費家ではないので、あなたのことはちゃんと適切に消費しますから」

 

あなたの命一つで危険なSCiP(スキップ)(異常存在)を一つ収容できれば、おつりが出るくらいでしょう?




登場したSCiP(スキップ)(異常存在)

【SCP-240-JP(0匹のイナゴ)】(作者: dr_toraya)
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