SCP-001-KV   作:SCP-001-KV

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19話 0人の█████(後編)

 それから数ヶ月後、私はアリウス自治区に住む全員の前に立っていました。

 

「──ここに、SPTF学院の設立を宣言します!!」

 

そして、Super(スーパー) Phenomenon(フェノメノン) Task(タスク) Force(フォース) Academy(アカデミー)こと、SPTF学院を設立しました。

 

 最初はこんな、学校を乗っ取るようなことをするつもりはなかったのですが……。

 

 【SCP-240-JP(0匹のイナゴ)】はアリウス生という概念と融合していました。

 そのため、アリウスの生徒というだけでその影響下に入る危険な状態にありました。

 

 私たちは苦肉の策として、アリウス生という概念から脱却するため、学校の名称を変え、組織体制を変え、教育方針を変え……と。

 どれがよかったのかはわかりませんが、結果的にアリウス生に関する書類は全てが0人となりました。

 

 それはつまり、影響下にいる生徒が0人という意味になります。

 

 

 ──0人のアリウス生。

 

 

 【SCP-014-KV】を確保、収容、保護しました。

 

 ……と、そう胸を張って言いたかったのですが。

 実は、いろいろな問題が山積みなのです。

 

「改めまして、理事長に就任した日輪ムガミです」

 

「神様だ……!」「神よ!!」「自由の権化……っ!」

 

うん、問題しかないですね。

 

 ですが、もう進んでしまったのだから、引き返すことなどできないのです。

 流石にちょっと選択を誤ったような気がしないでもないですが、引き返すことはできないのです。

 

 そう、これは仕方ないことのです。

 決して、私を神と信奉している扱いやすそうな者(Eクラス職員)たちが確保できたとか、思ってないですから……!

 

 ついでに、そこから新しいSPTF財団の正社員(Cクラス職員)が現れたら仕事が楽になるなぁとか、これっぽっちも思ってないですから!!

 

「みなさん、聞いてください。

 この世界は多くの悪意に晒されています」

 

いきなりSCPがどうとか言ってもわかりづらいと思うので、悪意という表現を使いました。

 実際、悪意の塊としか思えないようなSCiP(スキップ)(異常存在)も多いですし、そう間違ってはいないでしょう。

 

「私がこの世界に降り立ったのは、それらを確保し、収容し、保護するためです。

 そのために、私はSPTF財団という企業を立ち上げました」

 

降り立ったという点以外は、全て私の実体験です。

 嘘を吐く時は真実を混ぜるといいって言いますからね。

 

「SPTF学院では、それらに関する知識が学べる特異現象捜査科を新設します。

 もし、興味がある人がいれば、その科への編入希望を提出してくださいね。

 勿論、強制することはありません」

 

ベアトリーチェ時代は強力な管理体制に置かれており、上の命令は絶対だったそうです。

 だから、私はあえて強制ではないと言いました。

 

 というか、強制されて無理矢理入ったところで、すぐに挫折するだけでしょう。

 SCiP(スキップ)(異常存在)と戦う確固たる意志がなければ、人の身に余るその強大な悪意に押し潰されるだけです。

 

「といっても、いきなり強制じゃないとか、自由だとか言われても戸惑う人が多いと思います。

 だから、私から皆さんへ、一つお願いがあります」

 

もしかしたら、ただのわがままかもしれません。

 あるいは、ただの自己満足です。

 

 これは、私(神)からみんな(人々)へではなく。

 

 私(大人)から、皆さん(子供たち)へ。

 

「──どうか、選択をしてください。

 選ぶことができるというのは、あなたに与えられた大切な権利です。

 その権利を放棄したり、誰かに渡したりせず、どうか大事に扱ってください」

 

彼女たちはベアトリーチェにその権利を奪われていました。

 

 勿論、彼女たちにもやろうと思えば反乱や革命という選択肢はあったと思います。

 しかし、そういう反抗の兆しを、ベアトリーチェは徹底的に潰し、みんなの心を折っていったのでしょう。

 

 そうなれば、実質的に選択の権利を奪われていることと同じです。

 

「選択をするのは恐ろしいことかもしれません。

 ですが、失敗をしたとしても、私たちSPTF財団が後ろについています。

 私たちができる全力を持って、皆さんをお守りします」

 

彼女たちが自らの選択を尊重できるように。

 私は、そのための環境作りを行いましょう。

 

 といっても、わからないことだらけです。

 だけど、なんとなく大丈夫だって思えます。

 

 私には、頼りになる仲間たちがいますから。

 

「だから、自らの選択に自信を持ってください。

 そして……あなたの選択の先にある未来を、私に見せてください。

 それが私からのお願いです」

 

なんて、格好付けてしまいましたね。

 

 ですが、きっと言葉だけでは何も響かないでしょう。

 だからこそ、行動で示すのです。

 

 さて、それじゃあ。

 

 私がした選択に対する責任を、取りに行きましょうか。

 

 

 

 

 

 アリウス実験場。

 いえ、元アリウス実験場という表現が適切でしょうか。

 

 ともかく。

 

 そこにはいくつかの研究物の保管庫があり、そのうちの三つが使用されていました。

 といっても、SCiP(スキップ)(異常存在)がいたのはそのうちの一か所だけでしたが。

 

「一週間ぶりでしょうか。

 お二人は、何が生活に不都合などありませんでしたか?」

 

そこにいるのは、カラスとシマエナガです。

 この二羽は……人体実験に使われた、元アリウス生です。

 

 【SCP-020-JP(翼人)】。

 それは腕を翼に変えられた人間でした。

 

 しかし、この二人はは逆です。

 鳥のなかに人間の心が入れられたのです。

 

「それと、ご報告が……。

 本日、SPTF学院の開校式を行いました」

 

そして、彼女たちはSCiP(スキップ)(異常存在)の影響で死んだことをなかったことにするため、生まれたことをなかったことにされた者たち。

 

 つまり、彼女たちのことを覚えている生徒は誰一人として存在しませんでした。

 勿論、書類上にも彼女たちの存在はありませんでした。

 

 私はSPTF学院を設立し、その生徒を守ることを宣言しました。

 ですが……その守る生徒のなかに、アリウス生(彼女たち)はいません。

 

 彼女たちは私をじっと見た後、パタパタと傍にあった携帯端末のところへ飛んでいきました。

 それは、二人のために用意した専用のコミュニケーション用端末です。

 

 彼女たちのくちびるや足で打ちやすいように、リオがたった数日で作ってくれました。

 

「『これからどうなる』……ですか」

 

疑問符も打てるようにした方がいいかもと思いながら、その問いの答えを考えます。

 

 これからどうなるか。

 それは誰にもわかりません。

 

 ですが、彼女たちはきっと不安なのでしょう。

 

「アリウスはアリウスではなくなり、生徒たちは大きな変化を迎えることになるでしょう。

 私たちは、あなたたち二人が人間に戻った時、問題なくその変化に適用するためのサポートを行います」

 

私の言葉に、彼女たちはその体を震わせました。

 

「『もどるの』……絶対とは、言えません。

 ですが、SCP(特異事象)に巻き込まれた人々を当たり前の、平穏な生活に戻すこと。

 それもまた、我々の大切な理念ですから」

 

彼女たちは怯えたように体を震わせます。

 きっと、動物の体は人とは違って、感情が簡単に表へ出るのでしょう。

 

 彼女たちは怯えていました。

 私には、その怯えを完全に取り除くことはできません。

 

「間違いなく、あなたたちは普通の人の何倍も、何十倍も苦労することになります。

 それはきっと長く、苦しい戦いになるでしょう」

 

科学において、絶対や必ずなんて言葉は詐欺師が使う言葉です。

 

 だからこそ、科学者として、研究者として。

 

「──それでも、約束します。

 私はあなたたちを見捨てません。

 だから、お二人もどうか、未来を諦めないでください」

 

自分の持つ技術や知識をより良い社会のために扱いたいと、心の底からそう思うのです。

 

 そうして、彼女たちの震えがすこしずつ収まっていく様子を眺め……。

 

「『やくそく』……。

 はい。約束、ですね」

 

生きることを諦めず、前に進むことを決めてくれた彼女たちに、私は小指を立てながら笑いかけました。

 

 

 

 

 

 そうして、彼女たちは元アリウス実験場(ベアトリーチェの鳥籠)から個室へ移動していきました。

 元から、彼女たちが実験場を出たいと言ったらいつでも出られるように準備をしていたので、移動は簡単でした。

 

 そうして、私は大聖堂に来ていました。

 当たり前ですが、祈りに来たわけではありません。

 

 その中の一室で、彼女はパソコンと向き合っていました。

 

「進捗どうですか?」

 

「あっはっはっはっはっはっはっ」

 

ダメそうです。

 

 そこにいたのはもう一人の私こと、ニセガミです。

 私なら報告書くらい書けるだろうと、彼女には私の代わりにその執筆を頼んでいました。

 

「いえ、すみません……進捗は悪くないんです。

 ただ、例のSCiP(スキップ)(異常存在)なんですが……。

 キヴォトスの闇市(ブラックマーケット)からの痕跡が完全に途絶えてしまっていて、軽く絶望していただけです」

 

「あっはっはっはっ、それは絶望ですね」

 

元アリウス実験場は、四つの収容室にドアプレートが吊り下げられていました。

 

 『No.1 神の作り手』。ニセガミのことです。

 『No.2 死なない実験体』。例のイナゴです。

 『No.3 反転』。あの子たちのことです。

 

 そして、『No.4 緋色の捕食者(売却済み)』。

 

「「あっはっはっはっはっはっ」」

 

軽く、絶(・)望(・)。

 

 いや、絶望以外にこの感情をどう表現すればいいんでしょうか。

 

 あのSCiP(スキップ)(異常存在)を前にすれば、今まで出会ってきたSCiP(スキップ)(異常存在)なんてかわいいものです。

 本当に、冗談抜きで。

 

 だってそれは、認(・)識(・)し(・)た(・)だ(・)け(・)で(・)相(・)手(・)を(・)喰(・)ら(・)う(・)のですから。 

 

 緋色の捕食者。改め、認識の鳥。

 またの名を、【SCP-444-JP(█████[アクセス不許可])】。

 

 それは我々が報告書を読めてしまっている時点で、封じ込めが失(・)敗(・)したことを物語っています。

 

 それに関する文章を読み上げてはいけません。

 それは己の世界に入った者を捕食します。

 それをこれ以上、肥やせてはいけません。

 

 『エサをやるな。知るな。閉じ込めろ』。

 

 それを確保、収容、保護することは不可能です。

 それに関するすべてをShut(シャット)(隔離)、Close(クローズ)(閉鎖)、Partition(パーティション)(遮断)してください。

 

 ……それが、売却済み。

 つまり、野(・)に(・)放(・)た(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)。

 

 いや、マジで、あのベアトリーチェ(Dクラス職員)。

 どうしてやろうかと……。

 

 怒りのまま、「ちょっと不死身の妹好き(モモイ)と戦ってきて」って言いそうになりました。

 

「あれが肥えて成長する前にどうにか発見したいですね。

 それは置いておいて……この報告書、執筆をお願いしてもいいですか?」

 

ん? ニセガミに執筆できない報告書が……。

 

 あぁ、なるほど。

 

「自分で自分の報告書を書くのって謎の罪悪感がありますよね、わかります」

 

「それもありますが……私が私(・)ではない時の様子は、私じゃ書けませんから」

 

【SCP-1033-JP(バーチュアル・ラビット)】は本来、周囲が想像した兎の姿になるSCiP(スキップ)(異常存在)です。

 そして、この世界では兎ではなく、神の姿となります。

 

 ベアトリーチェにとって、神とはSCiP(神)をも生み出す存在でした。

 あの子たちにとって、神とはSCiP(神)を倒してくれる存在でした。

 

 そう、ニセガミはあの二羽によって生み出されていたのです。

 といっても、当人たちにその認識はないでしょうが。

 

 そして、私がSPTF学院の生徒たちに自分を神だと思わせているのは、これが関係しています。

 簡潔に言うと、『神とか抽象的で収容しづらいし、それなら自分を神にして楽に収容しようぜ』という感じです。

 

 ついでに、報告書執筆とかの雑用を任せたい、と。

 

「……自分がムカつくことを考えているような気が」

 

「気のせいですよ」

 

完璧な作戦ですね。はっはっはっ。

 

 ……ですが、実際問題。

 神なんていう何を起こすかわからない存在が現れるよりかは、自分が現れた方がはるかに楽なんですよね。

 

 神とか全知全能とか面倒ったらありゃしないです。

 本当に、見なかったことにできないですかね。

 

 特に、目の前にあるこの文書とか。

 


 

 

0人のアリウス生

 

アイテム番号:

 SCP-014-KV

 

オブジェクトクラス:

 Neutralized(ニュートラライズド)(無力化済み)

 

特別収容プロトコル:

 【SCP-014-KV(0人のアリウス生)】は現在、効力を失っています。

 ただし、関係者は発動条件を調べ、恒久的な封じ込めができるように研究する必要があります。

 

説明:

 【SCP-014-KV(0人のアリウス生)】は【SCP-240-JP(0匹のイナゴ)】とアリウス分校の生徒が融合した存在です。

 アリウス分校の生徒だと判断されるに足る社会的要素を持つ人物は、このSCiP(スキップ)(異常存在)の影響下に入ります。

 現在は、アリウス分校はSPTF学院に変わり、影響下にいる生徒は0人となりました。

 対外的な説明には、カバーストーリー『経営者交代による名称及び教育方針の変更』を使用してください。

 また、SPTF学院の特異現象捜査科に所属する生徒は、学校課題としてこのSCiP(スキップ)(異常存在)の研究を行ってください。




登場したSCPオブジェクト

【SCP-020-JP(翼人)】(作者: mizuno)

【SCP-444-JP(█████[アクセス不許可])】(作者: locker)
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