SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、調停者がおらず崩壊した。
私にはその言葉の意味がわかりませんでした。
私は何も知らないのです。知らなすぎたのです。
私はこの文書をトリニティの礼拝堂、その地下にあった細い通路で書いています。
こんなところがあったことも、私は知りませんでした。
だから、私は何かを知っていた彼女*1の言葉を残します。
この終わりに向かっていく世界で、唯一希望を抱いているように見えた彼女の言葉を。
私の問いに対して、彼女は多くを答えてくれました。
「どうしたら、生き残れるのですか?」
生き残ることはできません。
ただし、偽物の太陽*2を見ず、雲に触れず、彼女に「妹は死んだ」と告げなければ延命できます。
「どうして、世界がこんなことになっているのですか?」
我々、理事会はボタンを押しました。
隠し通さなければいけないことを、先生に知られてしまったからです。
「なぜ、私たちとの対話をやめたのですか?」
必要がないからです。
ですが……情が移るからという理由もまた正しいでしょう。
「なぜ、私とは対話をするのですか?」
マリーさん*3、私はあなたを探していました。
あなたとの対話が『再起動』に必要だからです。
「『再起動』?」
全てを元通りにすることです。
そのために歴史も過去も記憶も、全て作り変えるのです。
「そんなこと、できるわけが……。
そもそも、これを忘れられる人間なんていません!」
なぜ、出来ないと?
前にもやったというのに。
「あなたたちは……。
あなたたちの目的は、何なのですか?」
それこそ、私たちが隠し通さなければならない事柄です。
「あなたは、私に何を求めているのですか?」
文書を残してほしいのです。
それがアリウスを救い、ひいては世界を救うから。
その文書はいずれ、博士のもとに届きます。
その時、彼女はアリウスの神となって、四年の歳月を経るでしょう。
ですが、私には力を貸すことができません。
きっと、絶望した私は自分の記憶さえも『再起動』して、土下座しながら救いを乞っているでしょう。
「あなたたちはいったい、何者なのですか?」
公開した文書の通りです。
「なら、あなたは何者なのですか?」
失礼、自己紹介がまだでしたね。
私は夕立。
SPTF財団の理事会に所属しています。
そうして、彼女は去っていきました。
最後に、彼女は「全て水に呑まれて消えるでしょう」と言いました。
このまま、無意味に洗い流されることのないように。
強大な力が、私たちを覆い隠してしまわないように。
もっと、色々なものを見つけてください。
なにかを残そうとした人たちがいることを、私は知っています。
どうか、世界を無駄死にさせないでください。
どうか。
私はその文書を、トリニティ小にある旧校舎の図書館で読んでいました。
取り壊しが決定している旧校舎ですが、ミカさんたち三人の権力で少しの間だけ間借りさせてもらっています。
特に、家じゃ親の目をして気にしてやりづらいことなど、この場所では気軽にできますから。
本校舎から距離があるという点も魅力的なんですよね。
この文書の原文を二羽の鳥は持っていました。
彼女たちが
「【マリアナ海溝から回収された文書】ならぬ、【元アリウス実験場から回収された文書】ですか……」
この文書を発見して、一つ明らかになったことがあります。
この世界には、【
【
これは人類のほとんどが死ぬような
一日一万以上の人間を生み出し、その人間たちによって文明を再建させます。
そして、再建が完了した時、一連の行為を記憶処理剤で消し、滅びかけていた事実をなかったことにするのです。
つまりは……。
「──人類の『再起動』。
……赤いボタンを押した時、この世界を諦める必要がなくなったのは有難いですね」
それは既に確定事項でした。
先生の目を通じて、
この世界線が
そして、私はそれを実際にやった自分がいたことを
【
その台座部分に入っていた一枚の紙には、こう書かれていました。
『全てがうまく行き過ぎている、と。
なぜ、反ミーム部門が存在しないのか、と。
疑問に思ったことはありませんか?
きっと、私は一周目ではないのでしょう。
何周目かわからない私から。
何周目かわからないあなたへ。
寄生虫は根絶しました。
あなたが最後になることを願っています。』
反ミーム部門、その言葉を知っているのはこの世界で私くらいでしょう。
なぜなら……。
「反ミーム部門は存在しませんから」
存在していないことこそが、財団が
普通のミーム汚染が、情報の認識を変える力なのに対して……。
反ミームが何かというと、情報を認識できなくなる力のことです。
例えば、何かがあることはわかっても説明できないとか、知ってもすぐに記憶から抜け落ちてしまうとか。
それを持つ
そして、その度に
簡単に言うと、『俺は、俺を認識したやつ皆殺しマン。ただし、殺した相手を
私は
つまり、財団は
故に、私は前世から『反ミーム部門は存在しない』と聞くと勇気を貰えるのです。
〖はかせ、たのしそう〗
「ふふっ……すみません。
反ミーム部門の話は個人的に好きなんです」
思考が逸れました。
今回の本題は、【
なぜ、私が先程の文書を見て、この
【
簡単に言えば、元々【マリアナ海溝から回収された文書】という小説がありました。
それに出てくるオリジナル
「
〖よくわからない〗
「一人で盛り上がってしまいましたね」
私は席を立ってしゃがみ、少し拗ねているように見えるシキの頭を撫でました。
と、そんな時、スマホの通知音が鳴りました。
見てみれば、理事会のグループチャットに新しいチャットが書き込まれていました。
『初めて一人で
あれ、ここって
『うるさいわよ、たった1の分際で』
『0が何か言ってるけど聞こえないな~』
開幕喧嘩している二人ですが、いつもの光景なのでスルーします。
『おめでとうございます。
ちょうど、こちらも【
『流石、ムガミは桁違いね……文字通りの意味で』
『それ、全然うまくないよ?』
『この
いま、こちらはバタバタしているので』
『もちろんよ。
でも、今度は必ず自分で収容した
リオちゃんは向上心が高いですね。
そういうところが好感を持てます。努力している人は応援したくなりますよね。
『ところで、ムガミ。
夏休みの予定は決まっているかしら?』
『リオと、できれば三人で遊べたらいいねって話していたんだよ』
これは嬉しいお誘いです。
『いいですね、是非遊びましょう』
夏休みの楽しみが一つ増えました。
私は改めて椅子に座ります。
すると、珍しくシキが膝の上へ乗ってきました。甘えたい日なのでしょうか。
〖はかせ〗
「どうしました?」
と思っていましたが、すこしだけシキは不機嫌そうです。
そして、体をぶるっと震わせたかと思ったら、立ち上がりました。
そして、物凄い速さで開いていた図書館の窓から飛び降りました。
その窓から見える夕暮れは、夜の訪れを知らせていました。
──次の瞬間、その空は黒に染まりました。
正確に言えば、完全なる黒ではなく、まばらに小さい粒のような光のある……そう、夜になったのです。
「……夜?
何が起きて、えっ?」
私は慌てて自分のスマホを見ました。
日付も時間も変わっていました。まるで、一瞬で時が過ぎてしまったみたいに。
かと思えば、グループチャットのメッセージが次々に更新されていきます。
目で追えないほどのスピードで。
そして、それは最後にヒマリちゃんのメッセージを表示して終了しました。
『理が理事会を脱退しました。
だけど、大丈夫です。
私がちゃんと、ムガミちゃんの代わりを務めますから』
……なにが、起こっているのでしょう?
訳が分からず困惑しながら、私は改めて日付を見ました。
正確には、その年の部分を。
バグっているのだと思いました。
だって。
それは、私が過ごしていた時間ではなかったのですから。
バグでないのであれば、それは……。
──その年は、この一瞬のうちに世界が四年進んでしまったことを示していました。
「……なにが、おきて……」
困惑しながらも立ち上がります。
そして、私の足は図書館を出て、旧校舎の外へと向かっていきます。
それは思考による行動というより、財団職員として現状を把握しなければいけないという条件反射的な行動でした。
校門。
そこでは、ゆったりとシキが横になっていました。
シキに近づくように、私も校門をくぐりました。
「……あぁ……そういう、ことですか……」
そこでようやく、私は気付きました。
すぐに気付けなかったのは、その
私とシキは、その内側でそれの被害に遭っていたのです。
【
それは時間が非常に遅延した中学校で、中の人々は年に数センチ程度しか変化しません。
私はそれを知っていて、だからこそシキには事前に説明していました。
『もし、私やシキの周りで時間が遅延したのがわかったら、すぐにそこから遠い場所へ向かって。どこかに、内側と外側の境界があるから』、と。
境界に触れれば、時間の遅延は解除されます。
「ありがとうございます、シキ。
私のお願いを聞いてくれたんですね」
そう言ってシキの頭を撫でると、気持ちよさそうにお腹を見せてきました。
なので、ひたすらなでなでと繰り返します。
「おや……神秘ではない不可思議を見つけたかと思えば、それと戯れる少女もいるとは」
「っ!!?」
後ろから投げかけられたその声に驚いて振り向くと、そこには人外の顔をした黒服の人物がいました。
その特徴的な容姿を、私は知っていました。
それは、後に黒服と呼ばれる者との……。
いいえ。
──黒服と呼ばれる
きっと、ここが運命の分岐点だったのでしょう。
そして、私が道を踏み外したのは、間違いなくこの瞬間でした。
ようこそ、四年後へ
アイテム番号:
SCP-018-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
また、職員は定期的に監視カメラを確認し、一ヶ月 三ヶ月 半年に一度、定期報告をしてください。
無力化された際、職員は直ちに中にいる人物の保護に向かってください。
説明:
【
時計台から半径500mの時間が遅延しており、生徒が一名取り残されています。
中にある動植物が外との境界に触れた時、この
事案18-Aにより、オブジェクトクラスが
現在、特別収容プロトコルの改訂が協議されています。
補遺1:生徒とSCP-018-KV-1
取り残された生徒は“博士”です。
ただし、混乱回避のため、この情報は秘匿することが理事会によって決定されました。
そのため、報告書内では“博士”を生徒、シキをSCP-018-KV-1と呼称しています。
補遺2:事案18-A
SCP-018-KV-1により、【
その際、職員が警備員に連絡をしても応答がなく、発生から三十七分後に関係者は現場に到着しました。
そして、敷地内を探し回った結果、昏倒した警備員のみが発見され、生徒の行方はわかりませんでした。
ただ、【
登場した
【マリアナ海溝から回収された文書】(訳者: Kwana)
【
【055についてお話しましょう】(訳者: ukarayakara)
↑反ミーム部門の