SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、大量ののっぺらぼうによって崩壊した。
準備は矯正局の協力のもと、迅速に進められました。
正確な事情、つまり何らかの
それ以外の面々には後に記憶処理が施されることとなりました。
この四年間で一番嬉しい変化は記憶処理薬ができていることですね。
一人の犠牲の上で成り立っていることではありますが。
好きなだけ恨んでもらっても構わないのですが、当人はもはや恨むという行為さえできないんですよね。
ブラックジョークが過ぎるような現実です。ですが、財団は大のために小を切り捨てられる組織ですから。
「……最後にいいか、です」
「ロクちゃん?」
準備中、ずっと黙っていたロクちゃんが口を開きました。
ロクちゃんは元が魚なのもあり、まだ人間初心者ではありますが、空気を読んで先程までは黙ってくれていたのでしょう。
ロクちゃんはいつになく真剣な表情をしていました。
それも仕方ないでしょう。
二人はニセガミの件で意気投合して以来、ヒヨリさんとは深い友人関係を築いていました。
その相手がいなくなるとなれば、穏やかではいられないはずです。
「難しい話は苦手だ、です。
単刀直入に申させてもらう、です」
「ど、どうしたんですか、ロクちゃん……?」
ヒヨリさんがロクちゃんに尋ねますが、ロクちゃんは表情を崩しません。
ただ、顔を俯かせて、体をわずかに震わせました。
「……わ……我も……っ!!」
ロクちゃんは息を大きく吸い込みました。
そして、決意を固めた瞳で宣言しました。
「──我も共に行く、ですっ!!!!」
「ろ……ロクちゃん!!?」
ヒヨリさんが驚きの声をあげます。
そういう私も声を上げていないだけで驚いていました。
ヒヨリさんについていくということは……もう二度と、この世界に戻ってこれるかわからないということ。
一生を矯正局のなかで過ごすことになるかもしれないということ。
“
その自由を、自ら捨てるような。
「友を見捨てて一人で行かせるなんて……我はしたくない、です!
我の大切な友人が死地へ赴くなら、我も……ロクちゃんも共に行こう、です!」
それだけの関係を、知らぬ間に二人は築いていたのですか。
「ま、待ってください!
私のために、そんな……っ!」
「ヒヨリのためではない、です。
これは……我が神を名乗る上での矜持だ、です」
そう言ってロクちゃんは語り出しました。
「我はニセガミに憧れた、です。
ニセガミはまるで全てを見通しているようだった、です。
だけど、決して信者を無下にはしなかった、です」
それは、ニセガミが信者によってそう作られたからです。
信者がそう望む姿を、そのままに。
「ニセガミの正体なんぞどうでもよい、です。
我は……ただ、そんなニセガミに憧れただけ、です」
しかし、ロクちゃんはそんなことは関係ないと言いました。
実態がどうであれ、その姿に憧れたのだと。
憧れは止められない、とはよく言ったものです。
その姿に……ロクちゃんの決意を固めた瞳に、私は掛ける言葉を持ち合わせていませんでした。
「故に、我は……我の友を見捨ててのうのうと生きることなんぞできない、です!
ヒヨリ、我を憧れの存在にならせてくれ、です」
そう言ってロクちゃんはヒヨリさんを見ました。
ヒヨリさんは動揺して言葉が出ないようでした。
しかし、言葉の代わりに……ぽろっと、一粒の涙が零れ落ちました。
「あっ……ちが、これは……違うんです……。
なく、ひっく……つもりは、なかったのに……っ」
ぽろぽろと止め方を忘れた涙がヒヨリさんの目から溢れ出していきます。
私はそんなヒヨリさんの背中を優しく擦りました。
気持ちを全部理解することはできません。
全部を救うことなんてもっとできません。
だけど、私はすこしだけみんなより人生の先輩で、すこしだけ経験値が豊富なだけです。
こういう時は、黙って言葉を待つだけです。
「わたっ……わたし……一人で、行くんだって……!
そう……おもって、かくごして……っ!!」
「ヒヨリ……安心しろ、です。
我が、ヒヨリを一人にはしない、です」
ついに、ヒヨリさんは嗚咽で何も言えなくなりました。
きっと、怖かったのでしょう。
だけど、逃げ出すことは許されなかった。そうすればタイムパラドックスが起きるから。
それを回避するには、ヒヨリさんが犠牲になるしかなかったのだから。
ただの女子中学生に、それはあまりにも重い責任です。
「……我が行くこと、問題ないな、です?」
「はい……ロクちゃんが決断したのであれば、それが元々の正史なんでしょう。
タイムパラドックスは起こらないはず、です」
確実なことはわかりません。
ですが、私には何となくわかりました。
どのような道を辿ろうと、ヒヨリさんは世界のために自分を犠牲にし、ロクちゃんはそんな友のために自分の命さえ賭けるだろう、と。
彼女たちは勇敢です。
それを後世まで語り続けましょう。
……いえ。
二人が帰ってくる日まで、語り続けましょう。
そうして、ヒヨリさんはしばらく泣いたあと、小さく呟きました。
「……ぁり、がと……ぅ……」
それに、ロクちゃんはふっと笑いました。
「お安い御用だ、です」
そう言って、二人は顔を崩して笑い合いました。
二人が矯正局に入った数週間後、そこから一人の少女が飛び出してきました。
少しばかり錯乱した様子の少女でしたが、矯正局から抜け出せたことに気付いて落ち着いたようです。
後日、私はその人物と直接話しました。
「あなたが……
「えぇ、
慈愛の怪盗。
芸術品のみをターゲットとした怪盗だったでしょうか。
「申し訳ありません。
慈愛の怪盗に関しては詳しくなく……」
「……では、私個人をご要望ですか。
珍しいお方ですね」
私の言葉に清澄さんは不思議そうな表情をしました。
もしかしたら、私が会いに来た理由を慈愛の怪盗だからだと思っていたのかもしれません。
「珍しいついでに……あなたはあの異常な矯正局で過ごしていましたね」
「はい、随分と珍しく特殊な矯正局でした。
私がいたのは数ヶ月ほどですが、何度か命の危機も感じましたね」
私は早速、本題へ入ることにしました。
「では、その時……あなたを助けた人物に、水色のサイドテールに黒い目をした人物がいませんでしたか。
もしかしたら、隣にもう一人いたかもしれませんが」
それを言うと、清澄さんは警戒したように目を細めました。
少しばかり静寂が訪れます。
しかし、清澄さんは口を開いてくれました。
「……たしかに、前者の方に命を救っていただきました。
ただ、その時は単独行動をしているようでしたが」
「そうでしたか。
……失礼、名乗りがまだでしたね」
警戒されたままでは話しづらいので、手っ取り早く名を明かすことにしました。
「私はSPTF財団の理事会所属、“博士”と申します。
そして、その人物……槌永ヒヨリの仲間でもあります」
「……あなたが。
少しだけあの方から聞きました、詳しい話は“博士”から聞いてください、と」
どうやら、ヒヨリさんは私のことを伝えてくれていたようですね。
なかでどんな会話があったのかはわかりませんが、少なくとも警戒はわずかに解けたようです。
そうして、私は手紙の話を始めました。
その手紙の内容を見た彼女は……何も言葉を発することはなく、ただ静かに目を閉じました。
その胸中は、誰も知ることはできませんでした。
完全に普通の、ありきたりな古い矯正局
アイテム番号:
SCP-033-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
SCP-033-KV-1は記憶処理を施した後、矯正局へ送ってください。
SCP-033-KV-2の対処のため、必ず事情の知る警備員を常駐させてください。
説明:
【
内部は以上に拡張された空間となっており、千を超える矯正施設が確認されています。
SCP-033-KV-1とは内部に迷い込んだ矯正局職員または囚人です。
SCP-033-KV-2とは内部で看守の制服を着用する、のっぺらぼうのように顔のない存在です。
SCP-033-KV-2は消灯時間中、「本支部は既に封鎖されています、退出してください」と言いながらSCP-033-KV-1に対して敵対行動を起こします。
補遺1:【
財団職員二名が
脱出したSCP-033-KV-1のうち██名が「彼女たちの姿を目撃した」と証言しています。
そのため、現在も彼女たちは内部でSCP-033-KV-1の支援を行っていると推測されています。