『遺された痕跡』
それは100万の国々が支配する広大な世界の中の、どこにでもある小さな国の1つから始まった。名前すらも誰も覚えていないその国は、戦争の影響で荒廃し、貧困と飢餓が日常の光景となっていた。国家は、数千の小さな部族が寄り集まってできたもので、名ばかりの王族と、各地を支配する土地の領主たちが、わずかな権力を分け合っているだけだった。
その国には、特に目立った産業もなければ、強い軍隊もない。周囲の強大な帝国たちは、この国をただの一つの点としてしか見ていなかった。多くの国々が目を向けない中、この小さな国は平和を夢見ていた。しかし、他国からの侵略者が次々と現れる中で、その平和はあっけなく破られる。
侵略は、ほとんど抵抗もなく進行した。国民たちはそれぞれの家族を守るために逃げる者、手をこまねいている者、すでに戦いを放棄していた者たちばかりだった。進行してきたのは、大東亜帝国の先遣隊。彼らの技術力、兵力、そしてその圧倒的な速度に、弱小国の抵抗は無意味だった。
わずかな時間の中で、国の領土は侵略され、国家の象徴であった王宮も一瞬で落とされてしまう。その後、残された人々は数日以内に撤退し、廃墟と化した国土は無人のまま放置されることとなった。
そして、物語はあっけない結末を迎える。歴史の中に名前すら残ることなく、この小さな国は消えていった。時が経つにつれて、その国が存在した痕跡すら忘れ去られ、周囲の国々の記憶からも消え去った。
だが、この出来事は、100万の国々の中で、ひとつの前触れに過ぎなかった。弱小な国が滅んだことは、次に訪れる破滅の兆しであり、他国の支配を受けた者たちの運命を決定づけるものだった。
滅びは突然、しかし確実に迫っていた。強者による支配が始まり、次々と国々がその運命に引き寄せられていく。その先に待っているのは、どんな世界だったのだろうか…。
『崩壊の後、無音の世界』
数世代を経た後、アストリウスという男が現れた。彼は、かつて滅んだ小国のように名も無き土地で生まれ育ち、その影響力を駆使して周囲の国々を次々と征服し、ついには強大な帝国を築く。しかし、彼の目標はただ一つ、「統一」であり、他の帝国を支配し、数十年にわたる戦争を経て、全ての国々を征服した。
だが、アストリウスの死後、事態は急転直下に動き出す。後継者問題が勃発し、帝国は一瞬で分裂し、暴力と陰謀が蔓延する時代が始まった。書類の偽造、裏切りの果てに、最も有力な後継者であったエリオスが暗殺され、その後、帝国は完全に崩壊する。
その後の時代では、いくつかの小さな国々が独立し、戦争を繰り広げながら領土を争ったが、最終的に全ての国々は衰退し、戦争と飢饉が続く中で人々は生きる力を失っていった。文明は疲弊し、ついにはその全てが自然に還り、古代の遺物がただの痕跡として散らばるのみとなった。
『遺された痕跡』
50万年後。かつて人間と呼ばれていた者たちは、もはやその姿を留めていなかった。地球は荒れ果て、自然の力が支配する中、かつての人間に似た存在たちが、動物と見分けがつかないほどに退化していた。二足歩行はするものの、知能は低下し、ほとんどは獣のように本能的に生き、食物を求めていた。
彼らは廃墟となった都市を歩きながら、古代の文明の名残を偶然見つけても、それを単なる石や金属片として使うことしかできなかった。言葉を交わすことはなく、ジェスチャーやうめき声で意思を伝えるのみで、かつての「国家」や「文明」について知る者は一人もいなかった。
そして、時折、彼らは遠い空を見上げ、何かを求めているような目をしていた。その目には、かつての人間が持っていたであろう希望の断片が微かに残っているかのようだった。しかし、それを呼び覚ますことはもはや誰にもできなかった。
文明の痕跡はすべて風化し、消え去っていった。人間の歴史は神話となり、ただ自然と無秩序の中で生きる獣たちだけが残った。かつての人類の姿は、もはや存在しない。