聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
星矢と沙織の想いが届き、十二宮を覆っていた戦いはついに終わる!
理屈では説明できない奇跡を前に、アッシュもついに敗北宣言!?
だが――戦いが終われば、次に待つのは現実!
壊れた十二宮!
山積みの治療費!
修繕費!
休業補償!
そして黄金聖闘士たちから押し寄せる労災申請!
さらに辿り着いたアテナ神殿では、誰も予想しなかった最後の奇跡まで発生する!
神のために人間が死ぬ聖域は、もういらない。
自ら考え、自ら選び、生きて明日へ進むための場所へ。
十二宮編、ついに完結!
君は、小宇宙を感じたことがあるか!
エレナの肩を抱いたまま、沙織ちゃんの小宇宙を探った。アテナの小宇宙は消えていない。沙織ちゃんの中に残っているが、身体の主導権を奪おうとする動きは止まっていた。
神の機工は沈黙している。
星矢の小宇宙が、神の機工へ直接干渉したのかもしれない。
祭壇星座の結界との共鳴も考えられる。
黄金聖闘士たちの小宇宙まで加わり、処理できる限界を超えた可能性も捨てられない。
確かめるために、どこから手をつけるべきか。
「これは……神の機工が、神殺しのペガサスの小宇宙で書き換えられたのか……? いや、祭壇星座の結界と共鳴したことでオーバーフローを起こし……ブツブツ……」
「あなた。野暮ですよ」
エレナに袖を引かれ、俺は口を閉じた。
エレナは血に濡れた顔で笑っていた。視線の先では、星矢と沙織ちゃんがまだ抱き合っている。
「『愛が勝った』。それでいいではありませんか」
今回は俺より、エレナのほうが正しい。
星矢の手が沙織ちゃんへ届き、沙織ちゃんが星矢を選んだ。
神の機工は止まった。今は、それだけ分かればいい。
「………そうだな。今回は、理屈の負けだ」
誰も死ななかった。
星矢も沙織ちゃんも生きている。サガとアイオロスも戻ってきた。
倒れている黄金聖闘士たちからも小宇宙を感じる。
それで十分だ。
戦いの終わった十二宮へ風が吹き込んだ。
沙織ちゃんが星矢の胸から顔を上げた。星矢も何かに気づき、自分の身体を見下ろす。
「星矢………へ?」
「沙織さん……あ?」
二人の服が消えていた。
結界の中に入る前まで残っていた服も、沙織ちゃんが着ていた服も、足元には一片も落ちていない。神の機工が放った小宇宙と結界による中和で、まとめて分解されたらしい。
つまり、二人とも何も着ていない。
「「いやーーーーーー!!!」」
悲鳴を聞くより先に、俺は背を向けた。エレナも俺の胸へ顔を伏せ、サガとアイオロスは反対側を向く。シャカは初めから目を閉じたままだった。
「なんだなんだ、見せつけやがって! こんな大観衆の前で野外プレーか!?」
指笛が鳴った。振り返らなくてもデスマスクだと分かる。
「違う! まだ違う! アブノーマルな展開は、ノーマルプレールートをコンプリートしてからって相場が決まってるの!」
「沙織さん!? 否定するとこそこ!?」
「で……でも……密着してる星矢の……けっこう立派かも……? じゅるり」
「沙織さァん!!? ヨダレ! ヨダレ拭いて!!」
沙織ちゃんが戻ってきたことは疑いようがない。神の機工には絶対に言えない台詞だ。
「あああっ! 俺の娘に何を見せている星矢!! マントだ! マントで隠せ! 俺のマントは……マントはどこだ??!!」
アイオロスが自分の背中を何度も叩いている。神邪霊聖衣は砕け、マントもとっくに失っていた。
「落ち着け親バカ。ここにいる聖闘士全員、激戦のせいでマントなんかとっくに失ってしまっているさ」
「私のマントはさっきまでありましたが、結界の補強で小宇宙を回した際に焼け焦げました。南無」
あるはずのないマントを探し続けるアイオロスを、サガが押さえた。シャカは目を閉じたまま両手を合わせている。
俺の上着はエレナの傷を押さえるために使っていた。
サガとアイオロスの服も、今すぐ二人へ渡せる状態ではない。
デスマスクとアフロディーテは立つことさえできなかった。
二人は互いに身体を隠すしかなく、離れようとしては慌てて抱き合い直している。
「誰でもいいから! 早く布をくれぇぇぇ!!」
星矢の叫びが十二宮へ響いた。
俺たちは二人へ背を向けたまま、人を呼んだ。教皇の間に保管していた予備の法衣が届くまで、誰も動けなかった。
神の暴走を止めたあとの最初の仕事が、星矢と沙織ちゃんを隠すことになるとは思わなかった。
◇◇
予備の法衣を身体へ巻きつけた沙織ちゃんは、俺たちの前で頭を下げた。
勢いが強すぎて、額が地面へ当たりそうになっている。
「本当に! ごめんなさい! みんな!」
沙織ちゃんが顔を上げると、壊れた十二宮が目に入る。
麓はクレーターだらけで、階段も途中から崩れていた。
黄金聖闘士たちは全員が傷を負い、立てない者までいる。
神の機工がやったことだと分かっていても、自分の中から出た力だ。
沙織ちゃんには、自分が壊したように見えるのだろう。
「いや、沙織お嬢さんのせいではないが……」
ミロが後頭部をかいた。
「亢龍覇はさすがに骨に響いたな」
シュラが脇腹を押さえる。響いたどころか、何本か折れているはずだ。
「宝瓶宮の暖房費はアッシュ師範に請求させてもらおう」
なぜ俺なのかと聞きたかったが、カミュは最初から俺に請求するつもりらしい。
デスマスクとアフロディーテが顔を見合わせ、ほかの黄金聖闘士たちまで一緒になって手を上げた。
「とりあえず、城戸財団と聖域に損害賠償請求と、今回の戦闘の『労災』を申請します!」
「待て!! その聖域側の申請先(決裁者)は俺だろうが!! またデスクワークが増えるのか!!」
サガが押さえてうずくまった。
アイオロスとの殴り合いより、これから届く書類のほうが効いたらしい。
聖域の損害、十二宮の修繕、治療費、休業中の補償。
考え始めれば、必要な書類はいくらでも出てくる。
「安心しろサガ。城戸財団からの寄付金と、聖域の福利厚生費でまとめて処理してやる。……まあ、誰も死ななかったんだ。金で済むなら安いもんだ」
サガは安心した顔をしなかった。金の出所が決まっても、決裁する書類は減らないからだ。
そこは教皇として耐えてもらおう。
黄金聖闘士全員が生きている。沙織ちゃんも自分の意思を取り戻した。十二宮は直せるし、治療費も払える。
人間の聖域なら、損害は金で処理すればいい。誰かの命で埋め合わせる必要はない。
◇◇
手当てを済ませたあと、俺たちは十二宮を上った。
崩れた階段は迂回し、歩けない者には肩を貸した。普通なら全員を休ませるところだが、沙織ちゃんがアテナ神殿を見たいと言い、星矢も一緒に行くと譲らなかった。
ここまで来たのだから頂上も見ておきたいらしい。
観光というには、全員の怪我がひどすぎる。
アテナ神殿へ着くと、巨大な神像が俺たちを見下ろしていた。
「………ここが、アテナ神殿…」
「こんな顔の分からない石像のシステムが、俺たちをあんな目に……。けっ!」
星矢が神像の台座を蹴った。
鈍い音がして、蹴った星矢のほうが足を抱える。
「ぎゃー!! 足の指がぁぁぁ!!」
神造物を生身の足で蹴れば、そうなるに決まっている。
「星矢! ちょっと、私の彼氏に何すんのよ! この! 許せないわ!」
沙織ちゃんまで台座を殴った。
星矢が勝手に蹴ったのだから神像は何もしていない。だが、沙織ちゃんは本気で怒っている。
沙織ちゃんの指には、先ほどお詫びの念書を書いたときに紙で切った傷があった。
拳が台座へ当たり、開いた傷から血が落ちる。
神像が揺れ始めた。
「え?」
全員が神像を見上げた。
神像から光が出て、巨大な身体が縮んでいく。台座の上から姿を消し、最後には手のひらへ載る大きさになった。形も変わり、金属の重なる音が神殿へ響く。
アテナの聖衣が残っていた。
「え????」
「ウソだろ……ただの八つ当たりで……」
沙織ちゃんは自分の指と聖衣を見ていた。
星矢も口を開けたまま動かない。ほかの者も同じだ。
アテナの血を受けて、本来の姿へ戻ったのだろう。
そう説明しかけて、俺はやめた。
またエレナに野暮だと言われる。
「………とりあえず、巨大な神像がなくなって土地が空いたので、ここに沙織ちゃんの別荘を建てます」
「ありがとう、アッシュさん! これで日本に続く第二のオタク部屋(ゲーミングルーム)が作れるわ!」
神よりも人間の趣味を優先するところは、今の沙織ちゃんらしい。
「……なんか、すげぇ締まらないな」
「そんなもんだろう。戦いの結末なんてな。……まあ、誰も死ななかったんだから、良いだろうさ」
サガが穏やかに笑った。
先ほどまで、一人で責任を背負って死ぬつもりだった男だ。
今は生き残った者たちの中に立ち、壊れた神殿と小さくなった神像を見て笑っている。
俺がサガに賭けた結果としては、それで十分だよな。
◇◇
「とりあえず、私はアテナ! だけど『城戸沙織』ってことで、アテナのシステムの方は気合で納得させたわ。これからは都合よく力だけ使わせてもらうから!」
沙織ちゃんがアテナの聖衣を手にしたまま、胸を張った。
黄金聖闘士たちは誰も口を開かなかった。全員の顔に、同じ疑問が出ている。
それで良いんだ……。
まあ詳しい仕組みを聞いても答えは返ってこないだろう。
だが、神の力を沙織ちゃんが使い、神の力に沙織ちゃんが使われないのなら、それでいい。
「では、これからも改めてよろしくお願いします! 近い将来、また何か『生鮮(せいせん)』とかあるんでしょ?」
「『聖戦』な。スーパーの特売日じゃないんだから」
「まあ良いわ! 私と星矢がいれば、ハーデスだろうがポセイドンだろうが、どんな邪神もけっちょんけっちょんにしてやるわ!」
星矢が沙織ちゃんの横でうなずいた。こいつは止める側ではなく、二人で一緒に突っ込むつもりだ。
「はいはい……頼もしいこって」
俺は周囲を見た。
人間臭くて、強くて、愛すべき馬鹿たちだ。
神に命じられたから戦ったのではない。
自分で考え、自分で選び、最後には神の機工を止めた。
俺が作りたかった聖域は、こういう場所だ。
神のために人間が死ぬ場所ではない。人間が自分の足で立ち、生きるための場所だ。
沙織ちゃんも、誰かに決められたアテナとして迎える必要はない。
星矢の恋人で、アイオロスの娘で、神像の跡地にオタク部屋を作ろうとしている城戸沙織を迎えればいい。
「改めて……」
「人間の聖域(サンクチュアリ)にようこそ! 城戸沙織!!」
「ええ! よろしく!!」
神のための聖域は、今日で終わりだ。
ここからは、俺たち人間の聖域だ。
――十二宮編・完。
ここまで『聖闘士星矢異伝』を読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!
長かった十二宮編も、これにて完結です。
アッシュが目指してきた「神のためではなく、人間が生きるための聖域」。
そして、アテナという役割に飲み込まれるのではなく、「城戸沙織」として生きることを選んだ沙織。
ここまで辿り着くことができました。
感想をくださった方、お気に入りや評価をしてくださった方、そして更新を追いかけてくださった皆様、本当にありがとうございます。
皆様に読んでいただけたことが、ここまで書き続ける大きな力になりました。
さて。
ここで一つ、今後について皆様にお聞きしたいと思います。
実は、この物語にはまだ続きがあります。
アスガルド編、そしてポセイドン編については、すでに大まかなプロットまで完成しています。
そのため、続きを書こうと思えば、このまま物語を続けることはできます。
一方で、今回の十二宮編で、
「神のための聖域」から「人間の聖域」へ。
という、この作品で最初から描きたかった大きな区切りまで辿り着くことができました。
物語としても、ここで完結して十分に一区切りついていると思っています。
そこで、読者の皆様にアンケートをお願いしたいと思います。
「この先のアスガルド編・ポセイドン編も読みたい」
のか、
「ここまで綺麗に終わったのだから、十二宮編を最終章として完結してほしい」
のか。
皆様の意見を聞かせてください。
続きを読みたいという方が多ければ、アスガルド編、そしてポセイドン編へ進みたいと思います。
逆に「ここで終わるのが一番いい」という方が多ければ、この『人間の聖域へようこそ!』を本作の最終話として、ここで完結としたいと思います。
作者としては、どちらになっても大丈夫です。
続きを書く準備はできています。
ですが、物語は長く続ければ必ず良いというものでもありません。
だからこそ、ここまで一緒に読んできてくださった皆様が「もっと読みたい」と思ってくださっているのか、それとも「ここで終わってほしい」と感じているのかを知りたいです。
ぜひアンケートへのご協力をお願いします!
改めまして――。
ここまで本当に、本当にありがとうございました。
神ではなく、人間たちが選び取った聖域。
ひとまず、その物語はここで一区切りです。
またこの先の物語でお会いするのか。
それとも、ここを彼らの物語の終着点とするのか。
最後の選択は、ここまで読んでくださった皆様に託したいと思います。
今後の『聖闘士星矢異伝』は―― ※アスガルド編・ポセイドン編については、すでにプロットがあります。
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続きを読みたい!
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ここで完結してほしい!