【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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 おまたせしました!

 次回はもうちょい早くなるかもです


 今回の作品は 天都ダム先生より公式スピンオフ
 「災禍に祈りは届かない」
 https://syosetu.org/novel/420425/
 を読んでいただけるとより楽しめると思います

 朽木様よりFAを頂きました!
 はやい!? 早くない?
 円導ナツミちゃんのFAです、本当にありがとうございます!


【挿絵表示】




八十六話 デッキケースがなければデッキは守れない

 

 

 

 

「アポ取れたで~」

 

「いつ?」

 

 秋の気配もすっかり馴染んできた日。

 うちは部室で待っていたジグとドロシーに成果を報告した。

 

「明後日の放課後や。生徒会も忙しいからなぁ、この時期は」

 

「明後日か。じゃあ予定通り、ぼくとリナで説得かな」

 

「ドアもいかなくて大丈夫ですか?」

 

「せやね。さすがに三人で押しかけるのは迷惑やろ」

 

 あまり立ち入ったことがあるわけではないが、生徒会室もそんな大きいわけではない。

 何人で行ったほうがいいか? と訪ねたが、代表だけで十分だと言われたし。

 

「まあなんとか説得するしかないな」

 

「問題はその材料があまりないことだけどね」

 

「……学校の名誉になるから、生徒会なら頷いてくれるとかじゃないんですか?」

 

「どうやろうな~~そんなんだったら最初からLife部に参加してくれてたやろ、あくまでも個人で動いてたわけやし」

 

 裁堂(さいどう)朧銀(ロギン)。

 去年の冬、あのエレウシスの本戦に個人で辿り着いた実力者。

 間違いなく全国でも屈指のファイターや。

 なんでそんな強いファイターが占光学校(一般市立)の副生徒会長をやってるんだろうかと思うが、ドロシーみたいな未発掘だった天才もいるのだからそういうこともあるんやろう。

 それがLife部に所属してなかったというのは……

 

「まあLife部弱かったしなあ」

 

 うちはやる気なしの幽霊部員、ジグは入院中。

 ドロシーが入ってあの結果を見せるまでは、あの副部長ぐらいしか有力なファイターがいなかった。

 それ以外はみんな似たりよったりのどこにでもいる雑魚で、団体戦なんて勝てる見込みもない。

 モブのやつがちょっと外れ値過ぎやけど。

 

 あいつと副部長も、うちやジグがおればいいところまでやれたんやないか?

 

 少しだけそんな可能性を考えたが、手を振ってかき消す。

 ……夢や。

 もはや叶わない夢でしかなく、モブのやつはLife部にはいない。

 アドバイス程度ならともかく手を貸して貰うことはない。そんな恥知らずなことは京人じゃなくても出来へんわ。

 

「まあ明後日のことはその時考えよう。それよりも出たよ」

 

 ジグのいう言葉に心当たりがあった。

 

 

「冬のエレウシス――出場申請校(エントリー)が出揃ったよ」

 

 

「! 来たんかいな」

 

 この数日いつ来るかどうか気を揉んでいた事柄。

 新しくなった部室で唯一引き継がれてる大きなテーブルの上に、ジグが整然と紙を並べていく。

 

「”虎門(こもん)高校”、”白亜堂(ばくあどう)”に、”角所商業”、あとGS学園もだ」

 

「……京都は? あいつらも出てるんか」

 

「符幽徒(ふうと)ですよね、出てます」

 

 ドロシーが差し出してくれた書類には、付箋が張ってあった。

 うちが気にすると思ってくれたんだろう心遣い、ほんま良い嫁になるでわ。

 

「”京都特別公立符幽徒学院”……一軍連中が出るかいな」

 

「夏には見なかった顔もいますね」

 

 そういってドロシーが次に出したのは幾つもの雑誌に、見出し付きの新聞。

 別の県も含めて通販で取り寄せてくれたもんや。

 

 そして、その中で写りの良い写真で出ている見覚えのある女がいた。

 

「”古都の氷虎”」

 

「……知り合いかい? 」

 

「ああ」

 

 夏の時、符幽徒の連中と揉めてたところをジグは一緒にいた。

 

 ――ここで勝ったぐらいで調子にのらんといて。

 ――尾張(おわり)様がいたら、あんたなんて……

 

「一度倒した相手とはいえ、油断は出来んで」

 

 一軍気取りでノコノコ出てきてうちを舐め腐ってた成り上がり(選抜上がり)共やったが、尾張がいるなら話は別や。

 

「あいつはケタが違う」

 

「同じ関西だし、虎門と潰し合ってくれないかなぁ」

 

「あまり期待しないほうがいいで。関西も結構でかいし、枠も多いしな」

 

 間違いなく本戦まで勝ち上がってくるだろう。

 ……ぶつかるかどうかは組み合わせ次第やけど。

 

「あとやばそうなのは、”波楼(はろう)”と”桝館(ますかん)”やな。あそこ組み合わせ次第だともっと上までいきそうやったし」

 

「こっちの記事だと、北海道からは”羊術師農業高校”というのが注目株だそうです」

 

「農業高校……?」

 

「はい。夏だと土竜工業高校に敗れて本戦出てなかったそうですけど……なんか県大会で圧勝したとか」

 

 あの土竜に?

 墓地を積極的肥やすなんていうやばい戦術を得意にしている強豪校やろ、あそこ。

 

「あと東北からは……やっぱり”逢魔が辻”が参加してるね」

 

「あそこの人たち、また夕暮れデッキなんでしょうか」

 

「相性がよさそうなテーマも出たからなあ、多分もっと強くなってると思うよ」

 

「【怪談】やったっけ……あー使いそうやなぁ」

 

 いかにも幽霊みたいな格好をしていた面々を思い出す。

 夏場だったのになんか寒さを感じて、カイロをシャカシャカ振ってたりとか首にマフラーを巻いてた変なやつもおったし。

 

「それとやばそうなのは……やっぱり”フォーサイドロゼ”かぁ?」

 

 フォーサイドロゼ国際学校。

 誰もが知る名前の学校だ、なんせ。

 

「本戦の常連校だもんね」

 

「教会のですよね」

 

 そう、方舟教会(アーク)。

 世界中に存在するあのでっかい教会、そこ直々の学校。

 フォーサイドの名前に相応しく毎度四人の代表でエントリーする学校。

 

「夏はフェムスさんと早々に当たって落ちましたけど」

 

 やけど、最強の女帝と本戦早々にぶつかって落ちた。

 

「おかげでなぁ、あんまり印象が薄いねん」

 

 毎度優勝するということは、それとぶつかった対戦相手は全員敗北するということだ。

 なのでエレウシス本戦では女帝の所属するブロックのことはほぼ無視して、自分の所属ブロックと最後に当たる女帝にだけ注目すればええ。

 女帝と同じブロックだった場合?

 ……優勝するにはどうせ女帝倒さないといけないんやから、それが少し早いだけや。

 

「まあやばそうなのはこんなもんか?」

 

「そうだね。あとは本戦に、どんな学校が勝ち上がってくるか。それに注意しておこう」

 

「やな。占光(うち)らみたいなケースもないわけやないし、あと一般枠あるんやっけ?」

 

「だね。今回からの告知だけど、エレウシスカレッジで直々に開くんだってさ」

 

 中高学校以外にも、一般ファイターからも枠を割くらしい。

 冬では毎度ゲスト枠――特別招待枠っていうのが参加していたが、それとはまた別。

 多分学生ファイターのレベルの高さを見せつけるための生贄枠って言われとるけど。

 

「そのせいでまた混雑しそうでいややな」

 

「夏は夏で、常連たちが少なかったせいでかなりトラブルあったらしいもんね」

 

「おのぼりさんだらけやったからなあ。うちらもそうやけど」

 

 そんな中でうちらが勝ったせいで、今年の夏のエレウシスは史上最低レベルのエレウシスだった――なーんて言われとるのを知っている。

 ドロシーがあの女帝に勝ったのも、そのせいで調子を崩したまぐれだっただのぶつくさ記事で書かれてるのも。

 

 だからこそ冬で証明しなければいけない。

 

 あの奇跡のような勝利は、決してただの運じゃなかったんやって。

 うちらにはうちらの努力と力が確かにあったのだと。

 

「……あれ?」

 

「ドロシー、どしたん?」

 

「ここ、見てください」

 

 ズラッと名前が羅列された参加校のリスト。

 その1つに、スラッとしたドロシーの指が1つの学校を指した。

 

 ――私立鞠眼(まりがん)大学付属高校。

 

 夏の時、うちらが地区予選の最後に戦ったファイトの名門学校。

 

「鞠眼がどしたん? 今回は本戦確定シードだから戦うとは限らんけど……ん?」

 

「おや?」

 

 ドロシーの指の先。

 そこにもう一つ、同じ名前があった。

 

「大学付属……中(・)等(・)部(・)」

 

「え、中学生もエントリーしたんかいな」

 

 エレウシスは学生の大会だ。

 

 だから高校生はもちろん中(・)学(・)生(・)も(・)規(・)定(・)上(・)参(・)加(・)出(・)来(・)る(・)。

 

 とはいえ普通に考えて高校生より中学生が強いことはない。

 中等部がある学校がわざわざ負けるためにエントリーするぐらいなら、エレウシスに申請可能な同校3チームまでの枠全てを高等部に割り振ったほうが合理的や。

 だというのに中等部が別枠で申請されているということは。

 

「そんだけ自信がある、あるいはやばいってことか」

 

「鞠眼……そういえば夏の時、いましたよね。本戦で」

 

「ああ、いたね」

 

 

「――十(・)二(・)聖(・)座(・)加藤 理応(リオ)」

 

 

 現十二聖座最年少にして、十二聖座入り最年少のタ(・)イ(・)。

 生意気そうな顔をしていたとんでもない天才。

 

「解説をしてたあのガキンチョ、確か鞠眼って言ってたなぁ」

 

 ドロシーにもある意味負けないインパクトがある子供だったのを思い出す。

 

「ドロシーのデッキを面白いとか言ってたんやったっけ?」

 

「ですね……興味もたれて少しだけお話をさせていただきました」

 

 確かあそこの海沿岸辺りやったやろうか。

 二人の間を歩くのも無理そうな光景で喋ってたのをうちが見たんよな。

 

「確かあそこの中等部、八十八星座も1人いたはずだ」

 

「花守(はなもり) 羽織(ハオリ)やったっけ? あの美(・)少(・)女(・)」

 

 昔、通ってたカドショで放送されていた秋季プロアマ混合大会(フォーマルハウト)で見た気がする。

 うちの使うグロウアップドラゴンと同じキーコード【決闘】を主軸にする<THE 武死道>とそれを強固に高める装備秘宝<大嵐刀>を使っていた当時の86位。

 それを可憐に打ち破った小学生の少女は、激烈な記憶になって残っている。

 

「同じ上盤市(じょうばんし)に入学するって話題になったっけ」

 

「あー雑誌で見かけたことがあります。確かモデルもされてるとか」

 

「あんな美少女やったらカードやってるだけじゃ駄目なんやろうな、大変やわな」

 

「……もしかして、加藤さんと花守さんが参加するとか?」

 

「いや、それはない。エレウシスはあくまでもアマチュアの学生の大会、百(・)命(・)か(・)ら(・)は(・)参(・)加(・)を(・)除(・)外(・)さ(・)れ(・)る(・)規(・)定(・)に(・)な(・)っ(・)て(・)る(・)……正確には300以内からは参加することはあまりよろしくないって言われてるけどね」

 

「トッププロやからな。それも十二聖座なんていたら2勝確実、大会にならんわ」

 

「だからこそある意味女帝を批判する声もあるね。さっさとプロになれとか、身体の弱さを理由にシリウスへの参加をこれまで辞退してるのは連勝を維持するためだとか」

 

「……あの人の貧弱さは素な気がしますけど」

 

 確かにつついたらそのまま倒れそうな薄細(うすほそ)やったなあ、あの女帝。

 取り巻きの連中に守られて……というより世話を焼かれてたけど。

 年上とは思えない背丈やったし。

 

「ま、注目するのはこれぐらいか?」

 

「そうだね。まだ見ぬ強敵とかは考えてもしょうがないとして……」

 

 出揃った書類を見て、ジグが顎に手を当てて唸る。

 それに何を考えているかわかった。

 

「今度の冬のメンツこそ本命や」

 

 そして。

 

「そ(・)い(・)つ(・)ら(・)に(・)研(・)究(・)さ(・)れ(・)る(・)立(・)場(・)に(・)な(・)る(・)の(・)が(・)今(・)度(・)の(・)う(・)ち(・)ら(・)っ(・)て(・)わ(・)け(・)や(・)な(・)」

 

「……そうだね。間違いなく対策をされる、それも以前よりも手強い相手に」

 

 ドロシーはともかくうちとジグはどんな相手に対策されても勝てるというわけではない。

 デッキを改良していっても、その根本的な傾向に、出力は変えることは出来ない。

 相性が悪いデッキがあるし、突き刺さるメタカードというものは必ず存在する。

 デッキの使い手を変えられる団体戦なら間違いなくそれを用意して、ぶつけてくる。

 言うなれば用意したじゃんけんのぶつかりあいだ。

 どの順番に、どの手を当てられるか考えて、設置し合う読み合い。

 ポンポンデッキを変えてくるどっかのモブがおかしいだけで、それが普通の団体戦の戦い方だ。

 

 そして、うちらはたった3人。

 順番を入れ替えるぐらいしか戦う手段がない。

 だからこそや。

 

「やっぱりリザーバーは必須ですね」

 

「そうだ。最低でも1人、出来れば2人揃えたい」

 

 実際の試合で出るのは3人だが、登録出来るチームの人数は5人。

 これを試合ごとに先鋒、副将、主将で選出する。

 

 デ(・)ッ(・)キ(・)を(・)把(・)握(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)控(・)え(・)が(・)必(・)要(・)な(・)の(・)だ(・)。

 

 それも出来れば強く、相性が有利なファイター相手なら勝ってくれるようなファイターが。

 だからこその裁堂ロギン。

 あいつのスタイルはま(・)さ(・)に(・)そ(・)の(・)た(・)め(・)の(・)切(・)り(・)札(・)と(・)し(・)か(・)言(・)い(・)よ(・)う(・)が(・)な(・)い(・)。

 何が何でも仲間にしたい、が。

 

「……うちの部から出せそうなやついたか?」

 

 ジグは首を横に振った。

 ……やっぱりか。

 

「何人か頑張っている子はいるんだけどね、どうしても厳しい。あと1月ちょっとでどこまで引き上げれるか」

 

「選抜テスト、やるんですよね」

 

「ああ。これはと決めた1人、あるいは2人をぼくら3人で鍛え上げる。それしかもう手はない」

 

「そうですね」

 

 ロギンが駄目なら2人。

 ロギンが通るなら1人。

 それをなんとか戦力になるぐらい鍛えて、エレウシスのメンバーになってもらう。

 それが今のうちらに残された道だ。

 うちら自分自身のトレーニングに関しては、自主トレでなんとかするしかない。

 ……ファイターとしての専門的な教育や指導を受けたこともない野良の、言い方が悪いけどたまたま強かったうちらにはそれぐらいしか思いつかん。

 

 専門的なコーチがおればなぁ。

 

「はぁ、テストいつやったっけ」

 

「来週から候補を絞っていく。定期試験に、占光祭もある。それが終わったらエレウシスに向かっての詰め強化だね」

 

「うぅお腹が痛くなってきました」

 

「うちもや」

 

 なんでこんな事を考えないといけないのか。

 思わず天井を見上げて揃ってため息をついた。

 

 その時だった。

 

「すみません、部長……うわ、三人揃ってる!」

 

 ガララとドアを開けて、どこか見覚えのある学生が顔を出した。

 うちの部員やな。

 

「こらこら、ちょっと大事な会議中やで~」

 

「そろそろ戻るつもりだけど、どうかしたのかい?」

 

「……あの、実はフィールドのほうでバトルボードが1つ見当たらなくて」

 

「なにぃ?」

 

 バトルボードが足りないって……部の共用バトルボードのことか。

 

「すいません! ここにはないってことはバトルフィールドだと思います、やっぱりあっちで探しなおします!!」

 

「まったまった、慌てないで。足りないっていくつだい?」

 

 慌てて飛び出そうとする部員を、ジグが呼び止める。

 うーんこの振る舞い、部長の威厳があるで。

 

「1つです」

 

「それはいつわかった?」

 

「えっと言われた通り先にフィールドでボードファイトしてたんですけど。1人余っちゃったのに気づいたんです、あれ? 足りなくね? って」

 

「ああ 組み合わせになるのがいなかったと」

 

「……ボードって偶数で揃えてるはずやで」

 

 バトルボードは精密機器や、それも結構なお値段の。

 故障してもここでは直せないし、専属のメーカーとかに送ったりとかそういう手続きがいる。

 それを紛失するってことは、1人分ボードファイトが出来ない。

 うちらは自前で揃えたが、部員のみんなで自分で持ってる子のほうが多くない。

 

「紛失ってことかいな?」

 

「あの、誰が最後に使ったか管理ノートに書いてないですか?」

 

「あ、そうやな。使う前に名前記入するルールやったろ」

 

「いや、それが今日のを見たんですけど、それらしいのいなくて」

 

「じゃあその前のかな」

 

 そういってジグが取り出したのは管理用のファイル。

 丁寧に毎日部活が終わる度に、書き込んだノート類を整理している。

 ほんま律儀なやつやで。

 

「……今日今使っているメンバーがこれで、その前に使っていて名前が乗っていないのがいるなら」

 

「1人おるな」

 

 それは律儀にも借りた記録は書いてあるものの、返却に丸をしていない。

 1人の女子の名前があった。

 

「! この子って……」

 

 その名前に、ドロシーが驚いた顔を浮かべた。

 

「ドロシー、知ってるんか?」

 

「はい、この間ドアが相談に乗った子です」

 

 

 

「円導ナツミさんは」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 ふぁ。

 

「ふぅぅぅうぅ」

 

 いと。

 

「うぅうううううう……」

 

 ファイトかぁ。

 

「あ、あの……大丈夫です、かぁ」

 

「いや、大丈夫……大丈夫ダヨ」

 

 わかってた。

 わかってたよ。

 こんな世界だもんな。

 うん、ファイトだよ!

 それ以外あるわけないだろ、僕なんかによぉ!

 

「オッケー、ファイトね。いいぜ」

 

 吐き終えた息を吸い戻し、彼女を見る。

 円導ナツミ。

 そう名乗った彼女の左手には見覚えのあるブレスレットがあった。

 

 ――Life部の共用バトルボードだ。

 

 忘れるわけがない。

 僕も部活をやめるまでは何度も見て触ったことがあるやつ。

 まあ同じ形式だけど、少し真新しいということは新しく購入したものなんだろう。

 癖のないスタンダートな形式な分、値段と性能も安定しているやつだし。

 

「それで……なんか条件とかアンティとかある?」

 

 訪ねながら、左手につけておいたボードがきちんと動作するか確認する。

 下手すると、闇のファイトだ! とかいって即死させてくる可能性も無きにあらずだ。

 その場合、デッキから展開される前に蹴りを入れないとめんどくさい。

 

「1つ、お願いがあります」

 

「なんだい?」

 

「――この勝負の結果を、誰(・)に(・)聞(・)か(・)れ(・)て(・)も(・)認(・)め(・)て(・)く(・)だ(・)さ(・)い(・)」

 

「?」

 

 勝負の結果を認めろ?

 

「それは……負けても言いふらすなとか、勝ったことにしろとかそういうわけじゃなく?」

 

「いえ、違います。あたしが勝ったら、それを認めてください。あたしが負けたら、それはそれで言いふらされたら……ちょっと恥ずかしいですけど、そんな困らないのでどうぞ!」

 

 ??

 よく意味がわからない。

 いや、まっすぐに考えるとだ。

 

「あー……ファイトの結果を有耶無耶にしないでくれってこと?」

 

「はい。そうです!」

 

「それは別に構わないけど」

 

 いや本当に。

 負けたら負けたって普通にいうし、勝ったら勝ったで聞かれたら答えるだろう。

 

「それ以外なにかある?」

 

「? ファイトしてもらうのに、それ以外なにかお願いするんでしょうか? あ、菓子パンでも差し出せというなら終わったあとにでも買ってきます!」

 

「いやいやいや、そういう料金は取ってねえから」

 

 悪い子……ではないのかな?

 

「まあいいや。ファイトをしよう、フィールドじゃないからダメージ設定は最低で」

 

「設定? え、そんなのあるんですか」

 

「うん、あるよ。展開したあと、画面の設定タブから、選んでね。フィールドじゃないと衝撃結構でかいから」

 

 代わりに出す映像とか、演出も相応に抑え気味になるんだけどね。

 まあそれがファイトの結果に影響を及ぼすことはない。

 

 ……まあ闇ファイトじゃなさそうだし、このデッキ使うか。

 

「では、お願いします!」

 

 部活用のボードを展開。

 スカートの腰部分から下げていたケースから取り出したデッキを差し込み、自動シャッフルを始めながらペコリと円導さんは会釈した。

 

「お願いします」

 

 僕も真新しいケースから取り出したデッキをいつものシャッフルをしてからセットする。

 

「では、いきます」

 

 今回は別に勝っても負けてもよさげなファイトだから気が楽だ。

 

「では」

 

 こちらの自動シャッフルも終わり、距離を確認してボードを構える。

 

 

「「ファイト!」」

 

 

 ボードの光は……円導さんのものに輝いた。

 

「あたしのターンです!」

 

 さて、どんなデッキでどんなファイターかな。

 

「レディ、ドロー! ライフカードを2枚引いて、色彩をセット!」

 

 初手で出された色彩は、白。

 さて、何のテーマだ。

 

「あたしは手札を2枚を墓地に送ります」

 

 ん?

 

 

「<ドナドーナツ シュガーリング>を2枚」

 

 

 あ?

 

「これで次(・)に(・)出(・)す(・)ク(・)リ(・)ー(・)チ(・)ャ(・)ー(・)の(・)召(・)喚(・)コ(・)ス(・)ト(・)が(・)((・)白(・))(・)と(・)((・)白(・))(・)を(・)な(・)く(・)し(・)て(・)呼(・)び(・)出(・)せ(・)ま(・)す(・)」

 

 ――――……――――……

 

 

「クリーチャー<戦旗傭兵団(バナーナイツ)・ひた歩む少女スヴェルス>を((・)1(・))(・)コ(・)ス(・)ト(・)で(・)召(・)喚(・)!(・)」

 

 ――ん。

 

「シュガーリング2枚の効果! ス(・)ヴ(・)ェ(・)ル(・)ス(・)の(・)パ(・)ワ(・)ー(・)と(・)タ(・)フ(・)ネ(・)ス(・)に(・)+(・)2(・)の(・)強(・)化(・)、そして【不屈】を得ます!」

 

 

 

 

 あ、ころす。

 

 

 

 

 

 




俺の勝利か? 欲しければくれてやる!
喰らえ!

この世の全てをそこに置いてきた!

               ――こなつなぎの輪菓子(βチャンネル カードゲーム板の書き込みより)
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