そのゲームデザインは比較的早く決まったという。
アグロ、つまりダメージを与えてゴリ進める速攻スタイルに対して不利になるデザイン。
だからライフそのものがダメージによってリソースに変換される。
そのため軽はずみに削ってダメージを与えて積み重ねていくバーンやビートダウンは動きが鈍り、盤面を固めるウィニーもやや考慮が必要で、コントロールなどロックなどの立ち上がりが慎重なものが動くためのターン数を稼げる。
しかし、それだけだとゲームが硬直し、プレイ時間が長引くから毎ターンライフが減っていく時間制限式に。
ライフを守り切ることによって手にすることが出来る強力な魔石に、ライフにダメージを与えられることによって発動する呪言、さらに相手のターンでも能動的に動かせるが制限コストがある瞬間魔法と瞬間発動の組み込み。
主力商品では取り入れることの出来なかったアイデアを組み込んで、これまでのノウハウを活かしてバランスを調整し、そうしてこのゲームは完成した。
すなわち”Life”。
これはテスト段階でどう動くのか、デザイナーなどの開発陣以外にも主力TCGの有名プレイヤー複数人がテストに参加したという。
それはいうなれば不具合がないか。
カードデザインにそぐわない悪用をされないか。
そのためのテストプレイが初期のカードプールで行われて、1つのイレギュラーが起きた。
テストプレイヤーの一人がバーンを使ったのだ。
それも
そして、彼は訪ねた。
「ダメージを受けたから、これで基本色彩は並ぶよな?」
その時使ったバーンカードのテキストにはこう書いてあった。
つまりバーンカードでは
そんな運用を想定せず、裁定も用意してなかった開発は悩んだ。
ライフデッキからの基本色彩並べ、呪言などの発動に【対戦相手から受けたダメージ】という条件を付け加えるべきかどうか。
結果として、開発はそれをしなかった。
何故ならばそのほうが圧倒的に――ゲーム体験としても面白くなったからだ。
自らの命を縮めてでも展開を加速させるか、それとも手札を温存して受けに回るかどうかの駆け引きに、自分から焼くことによって仕込んだ魔石を取りこぼしあるいは呪言を任意で発動させるかどうか、運要素の交じる戦略性。
こうして自ダメージ発生行為による色彩展開。
さながらドラッグレースで行われる、タイヤを空転させてエンジンを加熱させて足場を固めるテクニックの”バーンアウト”。
または自傷を思わせる行為から”切腹加速”と日本で呼ばれるテクニックが誕生した。
その代わりに用意していたオド加速カードの削減と限定条件に、ライフの”失う”と”支払う”と”ダメージを受ける”の裁定の見直し。
そしてなによりもバーンカード。
1オドで3点与える<雷撃>は多くの愛用者が出たが、その強さからやがてスタンから外れ、長らく再録されることがなかった。
2オドで5点与える<落城の華>は3枚の色彩に
<メイザスの忌み光>は待望の魔法による
1オドで2点が基準となり、2オドで3~4点ダメージ、5点ダメージ以上において何らかのデメリットとなる条件設定。
コストを生み出す色彩を生贄にする、あるいは自分には撃てず対戦プレイヤー限定への対象制限、クリーチャーを介しての延焼効果などなど無数の枷が縛り付けられた。
何故そこまで厳しくされたのか。
それはバーンカードが、このLifeというシステムとバーンアウトテクニックにおいて相性が噛み合いすぎた。
ライフが刻一刻と減り続けるシステム、すなわち叩きつけるべき
さながら溶けていく蝋燭を吹き消すかのようなゲーム。
”キャンドルゲーム”とバーン使いに呼ばれた。
その火遊びに。
環境初期から今になってもなおバーンデッキは途絶えずに、その存在感と愛用者を生み出し続けている。
自分の命ごと燃やし尽くす火遊びの熱に酔いしれて。
彼らは踏み間違えれば瞬く間に断崖絶壁から転がり落ちるドラッグレースに挑むのだ。
より熱く、より眩しく、燃やして燃えるために。
「火をつけるならば敵陣にかぎる」
ピーというライフが0になった音を聞きながら、息を吐く。
「グッドゲーム」
っっっぶね!!!
マジであっぶね!
毎度毎度ファイトする度に少なからず感じてるけど本当に今回ばかりはやばかった。頭おかしくなるかと思った。
なに出してんだよ!
なんでまだ生きてんだよ!
制限はどうなってんだ、禁止制限は!? 殿堂入りでムショにぶちこんでおけよ!! ドナカスがよ!!! 運営仕事しろ! 国連仕事しろ!!
この世界マジでアニメかなんかだろ?! そうじゃなかったらあんなアホカード息してたら環境終わるわ! 一回終わったわ!!
あんな開発がスナック菓子とビールキメながら刷りやがったカードがまだ呼吸してやがる!
墓地から情報見たらやっぱりレアリティがコモンとアンコモンだし。
おかしいだろ!?
せめてレアになっておけや! この世界なら一枚200万ぐらいでロクに出回らないようにしておけ! 馬鹿が!
レガシーなりに収まって永遠に封印されとけ! あいつらがコモンとアンコモンなんてレアリティなったらマジで大メタボ時代がまた始まるわ!
本当に駄目。
マジでダメ。
あいつだけはダメ。
メタボドラゴンがいつ出るかマジで手札使い切るまで動悸が止まらなかったぞ。
馬殺でまだよかった。
所詮貫通と限定バンプアップだけで、
このデッキに限らないが、バーンはあっさり勝てる時は勝てるが、負ける時はあっさり負けるからなぁ。
まだ低コスト魂葬とか出回っていないみたいでよかった。
”
脂汗どばどばで火の回りがいいですね? バカ野郎が!
はぁぁぁぁあああ……!
「ん、んんんん」
うん?
「はぁぁ……負けましたぁ」
がっくりと肩を落とした円導さんがそこにいた。
「結構ライフ削ったのになぁ」
「ごほっん……いやあかなりひやひやしたよ。でも僕の勝ちだから」
最後の<衝撃>も結局切らずに終わったし。
「くぅう、悔しいですぅ。茂札さん本当に強ぃ」
パタパタと余り気味の袖を揺らしながら手を振る円導さん。
まあファイトに負けるのは悔しいもんだ。
悔しく感じなかったら伸びないしね。
「とりあえず勝ったわけなんだけど……勝負前の取り決めからして、やっぱりなんかしたほうがいい?」
勝負の結果を有耶無耶にしないっていうなんか普通の要求だったけど。
「あーいえ、何もしないで大丈夫ですぅ。あたしが勝ったわけじゃないし……いやでもあたしに勝ったことが自慢になるんでしたらいいんですけどぉ」
? どういうことなんだろうか。
円導さん、あの慣れてないボードの扱い的にまだファイターとしてベテランってわけじゃないよな。
テーブルファイトばかり重ねてきたっていうタイプかもしれないし、それならドナドーナツの扱いが生ぬるかったのも納得出来るけど。
ボードでの判定と違って、テーブルだと詳しくわかるジャッジとかいないとルールの処理って人力だし。
「んーちょっと聞いていいかな」
「はい?」
「僕に挑んできたのってなんで?」
最初に聞いたほうがよかった気もするが、今時ファイトを申し込んでくるなんて気分でやるような人も多いからなあ。
円導さんはドナドーナツなんて使ってたこと以外は全然許せるというか丁寧なほうで悪い気分じゃなかった、ドナドーナツなんて使ってるのは駄目だが。
「えっと……茂札さんって強いって有名じゃないですか」
「え、そう?」
「そう聞いたんですけどぉ違うんです?」
えー。
いや、確かにこの校内だと割と強い方だと思うし、Life部のドロシーちゃんたちは一回3タテしちゃったがあれの結果は表沙汰になっていないはずだ。店に来てたまに相手する時も大体相性がよくないと三割前後負けるし、それも知識と経験さがあるだけだ。
となると前のLife部の連中の評価か?
でもあの時はまだ勝ったり負けたりとかしてたからなあ。
別段今のところ店のランカーとかでもないし、大規模大会で入賞とか結果は出していない。
まあ市内外だとちょこちょこショップコンテストに出てるからそこから名前が盛れたってことかな。
しかしなぁ、うーん。
「
あの頃の名物プレイヤーたちでもない。
僕は有象無象の中に混じってただけのモブだ。
ただ今ちょっと強いのは前世から引き継いだ知識アドとひたすら遊び倒した経験値ががあるだけで、それも年月と環境が進めば埋まる程度のもの。
本当にセンスがあるわけではない。
――あの人たちとは
「んんんー?」
「まあ……そこらの一般ファイターよりは強いかもしれないけど、それでなんで? 普通に腕試しで辻ファイト申し込みだった?」
「いえ、それも強くなれるならぁ頑張りたいんですけど」
「それなら部活かショップ大会に行ったほうがいいよ。辻斬りはダメ、絶対」
「まあそうですよね」
「ていうか、たまーに居たりするだけど。そいつら大半雑魚だから」
「えっ」
「味変で合意を取って野良ファイトを申し込むとか、記念にーとかそういうコミュニケーションで野良ファイトは全然いいんだけど。強者を探してるとか、腕を上げたいなんて理由で辻ファイトしてるやつは強くなる気ないよ。だってそれで遭遇出来るのはただの被害者とか、通りすがりだし、ガチでやるなら大会がいい。景品かかってるし、そもそも不特定多数とやり合うっていうことが明確にわかってるから相応に丸い組み方を目指してるし何戦も経験を積んでる、最低でも大会に挑むっていう気概があるから真面目だよ」
「はい」
「真面目なのはいいよ。無料のファイトよりもせめて掛けたコストを回収したいとか、あるいは金を払ってでもいいファイトを楽しみたいっていうモチベーションがあるのはだらってデッキを持ち歩いてるやつよりやる気のあるファイターが多い。あとたまに自分のマイナーなテーマでも結果を刻みつけたいとか、やれるってことを証明したいっていう人もわりといてね、楽しいんだ」
「は、はい」
「Life部なぁ、部活内でわいわい楽しんでるのはいいんだけど。いや遊びなら全然いいんだけど、デッキバレるの嫌だからとか情報出したくないって理由でカドショの大会とか出るの暗黙の了解で駄目だーってあったんだよなあ。前の副部長には経験積んだほうがいいとか、どうせレギュラーじゃないんなら自由参加でいいでしょとか許可取ってたんだけど、誘っても乗ってくれる奴いなくてさぁ、そこは悪かったなぁ」
「は、はい」
「今の
「? えと、あの、あたしは大会参加しないんですけど」
「え? エレウシスのメンバーかなんかじゃないの? だから腕上げって、あ、個人的な研鑽だった?」
それだったら余計なお世話だったか。
やべ、ちょっと失敗したな。
「あーいえ……そうなりたいなって思ってるんですけどぉ」
思ってる?
「実はその……茂札さんにファイトで勝てば、選抜に有利取れるかなって思ってぇ」
「選抜って」
「今度、冬のエレウシスの控えを決める選抜テストがあるんです。湊手嶋部長たち三人のレギュラー以外に、数人だけ選ばれるって……あたし、それに入りたいんですけど本格的にファイト始めたの最近で、何もアピール出来るのがなくて……」
あー。
「だから、僕を倒して強さを保証したかったと」
コクリと頷く円導さん。
つまりあれだ。
志望校に入学するために推薦を取るようなものだ。
僕という強いファイター(?)に、正々堂々と勝負を挑んで勝った。もしくはある程度は手こずったとかそういうことを
そのための実績として今はLife部を辞めているとはいえ、名が売れているらしい僕を選んだと。
納得出来る理由だ。
「まー……わからないでもないけど、それで僕にいきなり挑むの分が悪くないかな? 勝てる見込みそんなあった?」
まあドナドーナツなんか使ってたらマジで勝てると思ってもいいけど!
思ってもいいけど!
知らなかったらマジで死んでたぞ! バーン握ってよかった!
「いえ、勝てたらいいなーぐらいでぇ……負けても、ドロシーさんたちがいうぐらい強い相手ならいい経験になるし」
いい性格してるなあ。
ちゃっかりしてる。
「でもこんなところ呼び出して、危ないよ」
ぶっちゃけここまで派手にファイトしておきながら誰も様子見に来ないし。
なんかあったら大変だろ。
「? 茂札さん、悪い人には見えなかったですし」
「見た目で人を判断したらだめだよ、僕が悪いやつだったらどうすんだよ」
というかLife部の子なんだよな?
普通警戒するべきじゃないのか。
「茂札さんが悪い人なんて聞いたことなかったですもん」
…………あー。
「噂だけで人を判断しちゃだめだよ、腹黒いやつなんてどこにでもいるんだから」
「そういう事をいう人に悪い人はいないと思うけどなぁ」
「言うやつに悪いやつもいるよ。最初だけは親切にしておいて、あとでやるやつなんてね」
女子高生なんてまだまだ子供だ。
少しハラハラする。
「まあそれはそれとして、同じようなことを今度やるなら普通にLife部のバトルフィールドなり申請して借りてきなよ。そしたら結果なんて一目瞭然になるし、口約束する必要もない」
そしたら僕も安心して、ドロシーちゃんたちに話通しつつ向かっただろうし。
「……えーでも、ボロボロに惨敗とかしちゃったら恥ずかしいしぃ」
再訂正。
いい根性してるわ、この子。
「まあでも、かなりライフは削れたのであたしかなり強いんじゃないでしょうか!」
あと2回殴られてたら死んでたね。
「……まあボードには慣れてないみたいだけど、ファイトってここ入ってから始めたの?」
「いえ、昔から友達とテーブルで遊んでたんです。ボードとか、本格的にファイトを始めたのは部活入ってからですけど」
「……あのドナドーナツも?」
「? はい、友達と昔遊んでた時はデッキに入ったんで使ってたんですけど。手札どばどば使うし、なんか効果がずるい感じがするってしばらく前に抜いてたんですけど、なんか強いかなってまたいれたんですけど」
「――――抜いたほうがいいかな」
「え?」
「いやね、君のメインテーマって”
「そうなんです?」
「うん。ナイツは指揮官とトークンの手勢……隷下の部隊を横並べにするデッキなんだ。一部の例外はあれども単独のエース、切り札が暴れて勝つデッキじゃない」
「ふむふむ」
「でもドナドーナツはあくまでも一体の、召喚するクリーチャーに喰わせて強化するカードなんだ。質より量の動きに対して、量より質をさせちゃう組み合わせの悪さ、言うなれば」
「……食い合せが悪い?」
「そうそう。まさにそれだよ、食い合わせが悪い。噛み合わないんだ」
「でも強くなかったです」
「でも僕に勝てなかったよね?」
「たしかに」
「あとなによりめっちゃ手札使うから、妨害とか補助とか専用魔法使う余裕ないんだよね」
「あー」
「だから個人的には一旦抜いて、ナイツと相性がいいクリーチャー、それと汎用……
「そうですかね」
「うん、まずはデッキの強さもそうだけど腕が大事だと思う。ジグ部長たちならまずそこを見るはずだ、伸びしろはさっきのだけではっきりわかったし」
「そうです??」
「だってめっちゃ追い詰められたからねえ。強かったよ」
「え。えへへ」
「もしもそれでデッキなんか詰まったりしたら、リナさんとか天儀さん通じてくれれば僕もなんか意見とか出せるから、ジグ部長によろしくいっておいて」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「じゃあ頑張ってね」
「色々ありがとうございました!」
嬉しそうに頭を下げて、去っていく円導さん。
その背中に僕は手を振って見送った。
完全に消えるまで。
五分、いや十分ぐらいしただろうか。
「……………………………………………………………………よし」
完全に姿が見えないことを確認してから、僕は携帯を取り出して。
「もしもし、すいません。
国連に通報した。
そして、後日のことだが。
ドナドーナツ四種類、全部が禁止制限のリストにぶちこまれることになった。
世界は救われた。
穴が開いているから、オールゼロ。
カロリーゼロ!! ワン・フォー・オール!
――<オール・DO・ナーツ>