大変おまたせしました!
今回はクソ長く、1万2千文字強と筆が乗ってしまいました。
のんびりと楽しんでくだされば幸いです。
そしてヨン様よりFAを頂きました! 紹介させていただきました。
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昨日誕生日だったのですが、お祝いのFAを頂きました。
わーい! ありがとうございます!
【挿絵表示】
マリカの命衣流姿を頂きました!
まだ本編では出していないのですが、いずれは・・・・
はたしてどのような形で出るのか、お楽しみに!
「……なるほどね」
音を立てないようにカップをソーサーの上に置いた。
「ずいぶんと大変みたいだねえ」
ドリンクバーからの口に合うコーヒーの余韻を吹いて消しながら、目線を上げる。
「Life部は」
「……はい、ドアはもうヘロヘロです」
そこにはぐったりとした顔を浮かべて、うめくドロシーちゃんの顔があった。
ここは普段あまりこないファミレス。
その奥まったテーブル席で、対面しているのは僕とドロシーちゃん――天儀ドロシーだけ。
二人の間にあるのはテーブルと上に並べたコーヒーカップソーサーと、ドロシーちゃんが頼んだケーキと同じドリンクバーのカップ。
なんで僕がいるかっていうと、まあお呼ばれしたのだ。
「昨日も頑張って遅くまでぶちょーとリナさんと私で、選抜テストしましたよぉ」
「ランダムで選んだ12種類のデッキを相手に3戦、その結果でふるい落としだっけ?」
「はい。デッキ作りありがとうございます。部長もほんとうに感謝してましたよー」
「まあ大したことないよ。本戦でぶつかりそうな相手、それと同じテーマデッキのサンプル組むぐらい大した手間じゃなかったし。でも厳しいね、どれとぶつかるかは不明で、結果なんて相性次第だろうなのに」
「ファイターは自分の使えるデッキで、どんな相手だろうともある程度戦えないといけません。フツさんみたいにコロコロデッキ変えられるわけじゃないので」
対面不利の相性でもそのデッキと心中しないといけないっていうのは大変だと思う。
僕としては共鳴率とかはデッキ構築と使うのに邪魔だからノイズにしかならないけど、それを前提でのプレイングと構築をしている人間からすると手放せないんだろう。
それが強化カードの追加でパワーが上がったり、あるいは禁止制限で著しく弱体化したり、それでもなお手放せないのは本当に大変だ。
まるで損切り出来ない株の銘柄だ。
乗り換えも出来ないから、弱いデッキとかでずっと負けが込んでしまったらモチベが下がって
それでもと握り続けたくなるカードとかテーマがある人もある。
縛りや制限、拘りがプライドになり、自分の屋台骨になるとかあの人も言ってたっけ。
僕も好きだったカードがあったけど……ここだと存在してないみたいなんだよな、アレ。
まあそれはおいといて。
「ていうことは、適正のあるデッキってかなり厳しくない?」
「厳しいですか?」
「だって、相手がどんなデッキでも変えられないなら
例えば、ある1つのロックデッキがある。
秘宝を使って相手のクリーチャーからの攻撃を全て無力化するデッキだ。
ビートダウンでも、ウィニーでも、ストンピィでも、なんでもいい。クリーチャーからは無敵のデッキ。
けれど、そんなデッキ相手に秘宝を無視して特殊勝利で勝つコンボや、なんなら秘宝を無視して相手の顔面にダメージを投げ込むバーンデッキだったら?
それは勝ち目がゼロの、最弱のデッキと言えるのでは。
無論そこまで極端なデッキなんて狙って作らないと早々ないと思うが、ないわけじゃない。
「汎用的な強さか、あるいはそんなの関係ねえとばかりに圧倒するデッキか、あるいはそれでも勝つためのデッキ構築しないといけないよなぁ」
「ですねえ。だからそれを組めないとそもそも話にならないんですけど」
「……ん?」
「どうしました?」
「ちょっと気になったんだけど、ドロシーちゃんたちが悩んでるのは団体戦だよね」
「そうですよ」
「団体戦ならファイターの出場入れ替えができるけど、個人戦だと入れ替え出来ないよね、ファイター」
ファイター1人につき
リストの提出がない分、カードの入れ替えだろうがなんだったらデッキを入れ替えても合法的だろうが、そもそも共鳴というのがある。
だからデッキのメイン自体を取り替える事は出来ない。
つまりどういうデッキか分かっていて、大型大会の何日にも分かれるような日程の場合は幾らでも対策がされてしまうはずだ。
相手もデッキを共鳴で交換出来ないという縛りもあるが、トーナメントは誰が誰とぶつかるかわからない以上、相性が悪い組み合わせにもなるはず。
「こういう場合、どうやって対策してるの?」
ユウキちゃんとかサレンは大体デッキに入れてる汎用カードで対応するし、そもそも店長の場合は全方位普通に強いから関係ないが。
そういう極端に弱点があるデッキの場合はどうなるんだろうか。
「まあ……基本はプレイングって聞いてますね。戦い方を工夫するものだとみんな言ってます」
あーやっぱりそれか。
「臨機応変になんとかしろと……サイドボードは使わないの?」
あまり有名ではないのだが、この世界の大会でもサイドボードはルール上存在している。
ここらへんはカドショの大会でもあるのは確認してるんだが、なんか
休憩時間とかレンタルデッキのテストでやってるサレンやマリカたちとのフリプでは、ズルくないように使うデッキとそれのサイドボード並べて見えるようにファイトしてたら、小学生組もなんかかっけーっていって真似てくれたんだよなあ。
あのキモいのぶっ飛ばしたあとの店長なんか、「お値段気にしないでやるとこういうのもいけるよ」って毎週札束で出来てんのかみたいなデッキ複数組んできて、カードパワーで蹂躙してきたり、貸してくれて前世のデッキ体験させてくれるけど。
「あーサイドボードですけど、馴染ませる必要があるそうですよ」
「馴染ませ?」
「はい。なんか
「……デッキの動きを憶えてないとか、使い込みが足りてないとかじゃなくて?」
「なんかそれとはちょっと違うみたいです。上手くいい手札が引き込めないとか、動きが繋がらないとか」
んー?
おかしいな、同じようにサイドちょこちょこ入れ変えたりしてるユウキちゃんとかはそういうの言ったことないぞ。
そもそも新しいカード入れたから馴染みが足りない! とか、もう少し上手く回せたはずなのにいいい! とか唸るぐらいだし。
マリカも同じだ。
あの子も師範からの積功デッキを引き継いだが、その前は別のデッキを使っていた。というより僕の影響で色々遊んでたんだよな。
小学生ぐらいの時はあまり根気なかったからクリーチャーで戦うのめんどくさいっていってバーンから初めて、それを受けるために回復とか妨害のをいれたコントロールを僕が使ってたら、それをかいくぐるためにコントロール気味になって、最終的には撹乱アグロになった。
積功デッキ自体、元々は
ブリンクギミックで場持ちがよいディアホーンの性能もあって、複数ターンに渡って大量コストからの高火力で殴りつける戦い方。
だからこそ一枚一枚の切り方に慎重さがいるし相手のデッキの動きを見極めるために、マリカは練習と遊び用に僕と師範が悪戦苦闘しながら組んだサブデッキを複数回してるんだよな。
どっちかというと師範のほうが、今の自分のメインデッキの動かし方をマリカに教わってるけど。
あの子昔から頭よかったし、アグロが一番難しいよ~~とかいってるのは才能があると思う。
天才か?
「んー、個人的にはたくさん回して使い慣れれば回すしかないと思うけどなあ。あとは自分が使いやすいように改良するとか」
「ですね。多少はドローとか、サーチいれたりとか、コストと配分見直すとかすれば」
「ドロシーちゃんはどうしてるの? 僕はまあこれだから比較にならないんだけど」
「いや、私もよくわかってないんですよね。頭で考えて回してるだけですし」
んーと困った顔で、ケーキにフォークを刺して。
「ドアって、
「えっ?」
あーいやまて。
確かあの時……
「そういえばマリガンしてたもんね」
「はい。カウンターデッキってそもそも手札よくてもそれで圧倒出来ないじゃないですか」
「だねえ。パーミは長い目でアドで上回って、競り勝つ玄人向けだし」
「手札に文句いってもしょうがないんですが、手札の質より相手のデッキの動きで最適解を選ばないと負けちゃうんですよ」
「うんうん、わかる」
「で、これで何引けたらいいなって終盤ぐらいに思うだけで最初のほう、とりわけ中盤って引けたやつ見てからどうするか決まりません?」
「わかるわかる」
「そういう体験をリナさんたちに話したら、ちょっと引かれてしまって……そんなことある? みたいな」
「あ~~」
そういう価値観というか感覚の違いはあるよね、うん。
サレンとかにサーチカードの必要性を説明しても「引けばいいじゃん、ドローカードで」とか言うからな、あいつ。
いやサーチカードあれば実際デッキの中における枚数が増加するようなもんと説明しても「コストが増えるだけの1:1交換だと思う、それぐらいならドロカでまとめて引いたほうがよくない?」 とか言うし。
くそこれだから引きがアホなやつは……
といかんいかん。
「なんていうかそうだね、ここの強いファイターって未来の手札を概算に入れてる気がするね」
「未来の手札?」
「うん、例えば手札が残り2枚で、ここから勝つのにはあと2枚の必須カードがあるとする」
テーブルに置いてあるシュガースティックの筒から2本取り出す。
「そして、ここから勝つのにはあと
1ターン目、と呟いてスティックを1本引き出す。
2ターン目、と呟いてスティックを1本引き出す。
「これで4本、
「……んー? なにか含みありますけど、なんかおかしいことが?」
「いや、おかしいでしょ」
手に挟んだスティックをなんとなく回して。
「――なんで
ピタッと止める。
「もしもこのスティックシュガーの中身が
そんな前置きをして、出したスティックを戻す。
コーヒーにはミルクだけいれて、砂糖は入れない主義だ。
……ブラックはなんか美味しさわからないんだよなぁ。
「これらの中身が、塩かもしれないし、あるいはただの小麦かもしれない。それを怖れない……違うな? あまり考慮しない、そんな動きを感じるんだよね」
「あーたしかに見えてるわけじゃないんですけど、そうですね。
「結構カード出しもテーマごとの教科書にしたいぐらいテンプレートなんだよね」
「だから止めやすいですよね」
「そうだね。何をしたいのか結構隠さないっていうか、まあここらへんはあまり相手が自分のテーマ知らないのが前提条件になってるんだろうけど」
まったくもってマイナーなテーマのデッキなら地雷扱いで奇襲出来るかもしれないが、それを万が一知られていたら威力は半減以下だ。
それを覚悟してるかしてないかで肝の座り方が全然変わる。
偽装して殴りつけるか、バレてようが通せば勝ちだと走り抜けるか、相手と自分の手札次第だが脂汗を流しながら切るカードは脳汁が出て楽しいのに。
その裏の掻き合いや、お互いのデッキがバレきっているからこそ出来る応酬もそれぞれ違う味わいで面白えのに。
それをあまり意識しないファイターは勿体無いと思う。
なんといってもデッキがバレてる状態同士で殴り合うのは、相手の手札も推測しながらカードを切るし、反応を見ながらやり合うからすごい経験値入るんだよな。
「そういえば前にやったデッキ公開ファイト楽しかったね」
「……? あーあの全カード表向きのですか。楽しかったですね」
そう言いながらドロシーちゃんは切り取ったケーキの一欠片を口に放り込んで。
「すんっ……ごいっ、あたま使いましたけどっ! 5回もやって直ぐに頭回らなくなりましたしぃ」
甘いだろうクリームをもぐもぐしながら、うへーっていう目つきをするのは器用だなぁ。
それでも可愛いから美少女ってのは得だけど。
「慣れればあれぐらい10回はこなせるよ。というかパーミ使うんだから考えながらやれるのが普通にならないとね」
特にカウンターなんて基本的に1:1交換でアドはない。
アドを取るには相手の動き出し以外にも、プランを妨害して、通せるところは通すという意味では相手の手札が透けるぐらい読めないと駄目だ。
それは色んなデッキとカードを知っていることも大事だが。
「
「ちょこちょこ組んでもらったデッキ相手に1人回ししながら練習してますけど、フツさんよく出来ますね」
「あれぐらい僕の地元ならちょっと意識高いやつなら誰でも出来たよ」
前世の
みんな自分のデッキはあれども、流行ごとに環境デッキを作ってはめちゃくちゃ触っては質感確かめたし、
利用者ごとに派閥とか、推しのプロゲーマーのデッキとか動画の布教もあったりして、公式大会で結果残したリストとか公開されたらコピーデッキ作って回したり、お前が一番平均的だからちょっと回してみろやってカドハラとかされたんだよなあ。
無理だって。
俺はヤチじゃねえから、引きもそうだけどなんか細かいシナジーがあるらしいけどマジでわからんって。スマホで当時のデッキの解説とか聞きながらも、七割も言ってる意味がわからなくて ? ってなりながら俺は、俺たちはヤチじゃないんだ! とか回すの諦めたりとかあったりしたしなあ。
ここのファイターのデッキ、汎用とかシナジーがテーマとしか繋がってないのがあってレシピ見せてもらってコピー作っても回しきれないのが結構あるし。
人間性能がおかしいんだよなあ。
努力もそうだけど、上に上がってるプロはやっぱりレベルがダンチというか。
「MeeKingってそんな怖い店だったんです……?」
「?」
あーなんか勘違いされてるか?
「いや、違う違う。マリカとか、店長とか、サレンならまあ普通にやれるけど」
「? じゃあどこです」
「昔ね、僕がいたところがそんな感じだったんだよ」
カップに手を付けて、飲み残していたコーヒーを啜る。
さすがに前世の記憶があるなんて言えないからなぁ。
それもLifeがただの一般TCGの一つだった社会とか言われてもピンとこないだろ、こられても困るが。
……少し楽しい会話しすぎて、気が緩んでたな。引き締めよう。
「コホン。あー少し脱線したけど、Life部の大会メンバーの話だったよね」
「そうですよ」
「それで選抜すると一緒に、出来れば有力なファイターのスカウトも並行でやってると」
「はい」
「――言っておくけど、僕は絶対無理だからね?」
というかマジで嫌だ。
今更Life部に表立って力を貸すとか、どんな顔をしろというのだ。
どっちも困るだろ。自分から追い出した奴の力を借りるとか、当時の連中が殆どいなくなったとはいえそれで掌返すのは外聞が悪すぎる。
あとバイトで忙しいから部活してる暇じゃないし。
「ですよねー。ドアも、ぶちょーたちもそう思って誘いませんでした」
分かっていてくれたのだろう。
ドロシーちゃんも少しだけ残念そうな顔をしつつも、すぐに表情を戻す。
「今手を貸してくれてるだけでも本当にありがたいですから」
「まあこれぐらいは趣味もあるからね。というか気になってたんだけど」
「はい?」
「外から人を入れるって、そんなことしないと勝てないならバッサリ負けたほうがマシじゃない?」
「部員の力不足っていうけど、人手が足りないとかいうどうしょうもない理由じゃないんだし、それならそれで出来る範囲で努力して結果を受け入れるほうが健全って感じるけどな」
これがプロ、野球とかのチームとかなら海外の野球選手とかチームメイトとして招いたとか雇ったなら仕事だからわかる。
チームの仕事は勝利することだ。
だけどLife部はあくまでも部活の、それもファイト強豪校でもない公立高校のものだ。
アマチュアとしてはただの趣味レベルだろう、それがたまたま夏で優勝出来る……たまたまなんていうにはレベルがおかしいが、メンツが揃っていただけ。
勝ちには貪欲であってもいいと思うが、どうも部活の範疇をやや超えている気がする。
「んー、正論です」
「自覚はあるんだ」
「でも、ある程度は結果を残さないといけないんです。少なくとも出来るだけの努力は」
「なんでまた。負けたら手の平返しされるからとか?」
結構今の段階でちやほやされているし、当然のように次も優勝するみたいな声は僕の耳にも入ってきている。
そのプレッシャーはまあ……わからないわけじゃない。
失うというのは怖いものだ。
「それはあります。ドアたちが負けたならドアたちの責任ですし、それで責められるのも覚悟の上です。でも負けたらLife部全体がきっと責められると思ってます。それが怖いんです」
「……いや、流石に少し真面目過ぎだよ」
所詮部活だぜ?
それも別にファイトに人生かけているメンツではない。
少なくともジグ部長や、リナさんに、ドロシーちゃんは一般的な学生ファイターだ。
特に、初めて一年にもならない彼女が責められる謂れはない。
ミラクルをずっと出し続けろというほうが傲慢だろう。
「空気が悪くなったとしてもしばらくだけだ。一年か二年ぐらいで消えるよ」
「違います」
「違う?」
「
そう告げるドロシーちゃんの目は真剣だった。
「フツさんは知らなくてよかったことなんですが、フツさんが追い出された後の部活はもー最悪でした」
「まあ……居心地がよくはなかっただろうね」
正直恨まれてもしょうがないと思っている。
今こうして表面上だけでも仲良く話せているのが奇跡なぐらいには。
「正直元凶としては恨まれてもしょうがないと思ってたわけだし」
「被害者じゃないですか、フツさんは」
「でもややこしくなった原因ではあるよ? なんかそれにボンってされたわけだし」
そう言って、ドロシーちゃんの豊かな特徴からやや左下に置かれてるだろう鞄を見る。
”縛り手”だったか。
闇のカードに呪われた共鳴率を剥奪されたもの。
ぶっちゃけ、そういう奴らの
「真っ当な正義のカードなら自己防衛のために触れるのも許さない。怪しい格好で、銀行の周りを歩いているようなもんだから撃たれるようなもんだし」
海外だったら普通に射殺されてるわ。
「でも衆人環視下で真っ当な手続きしてたら様子見はするべきじゃないですか?」
「それはそう」
――くぅん。
なんていう幻聴が聞こえた気がするが無視する。
突然のバチぃの恨みは忘れてないからな、助けるつもりはない。
「ともかくフツさんは悪くないです。そんなことより」
そんなことより??
「もっとひどかったのが辞められなかったのがドアです」
「あ、はい」
そういえばなんで辞めなかったんだろう。
色々あってすぐ強くならないといけないとか、闇カードとバトってたとかは前に言ってたけど。
「エンジェルハウンドのデッキを手にしたなら、お前には闇に狙われる宿命にあるとか言われたんですよ」
「宿命?」
え、なにそれ。
あのロスロス言うやつとか、教授とか、デカパイボーイに狙われてるのか?
「はい。このデッキを握れるのは、そういう特別な――
ユサユサと細い手で鞄を揺らすドロシーちゃん。
姿を見せていないと僕でも精霊は見えないんだが、多分そこでなんらかの会話をしてるんだろう。
何やらふんふんと頷いて。
「まあ、そういうわけでLifeを覚える必要があったので辞められなかったんです……あとフツさんへの誤解とか悪評、なんとかしたかったんですけど……」
無理でした、というのは言い訳がましいと思ってるのだろう。
テーブルの下で手を組んだのだろう、丸みからやや変形した彼女の胸で分かった。
「そっちは気にしないでいいよ、解決してるようなもんだし。それに君が一番大変だったわけだし」
所詮自分は逃げていただけだ。
偉そうに責める資格はない。
……これを言い出したらまた水掛け論になるな、話題を変えよう。
「その狙われるのって大丈夫なの?」
「あー最初はちょっと部長のあれこれあったぐらいで、あとはエレウシスで態度が悪い人に絡まれたぐらいで、なんともないです」
「そうなの?」
「はい。ぶっちゃけ拍子抜けというか、大会で頑張ってファイトしてたことしか記憶にないですねえ。だから闇っていわれてもよくわかってなくて……」
なんですかね? と首を傾げつつ、残っていたケーキのイチゴをドロシーちゃんは口に放り込む。
うーむ。
元副部長辺りか? あれは僕が流れでボコして、警察に自首させたし。
それ以外の闇のファイターは何人と何匹かユウキちゃんたち含めてしばいたけど、ドロシーちゃんは遭遇してないみたいだ。
このままそれなら本当にいいんだけど……ん?
「闇ってのは狙われる宿命があるって、エンジェルハウンドのデッキの使い手なんだよね?」
「ですね」
「なら――
元副部長が言ってた話を思い出す。
それならその人も闇のファイターに狙われていたのだろうか。
レガシーっていうだけで狙う価値があるものだろうし、それで手放して封印したとか?
「その人も、戦ってたのかな」
「あーそれなんですけど、なんかしてなかったらしいです」
「はい? して、ない?」
「してないらしいです。なんか”大きな力の気配と戦乱の兆候があって目覚めたけど”、1月もしないで収まったとかなんとか」
「えー」
「だからただのデッキとして学生に使われてたらしいですね」
「……それが三年間。じゃあなんで封印されてたんだ?」
「それはハウンドもわからないそうです。ただ闇の気配もしないし、
「手放された?」
「はい、本人もそういうこともあるだろうって気にしてなかったらしくて……それきりです」
はーとドロシーちゃんがため息を吐き出す。
伝説のデッキというにはなんというか拍子抜けの真実だ。
まあレガシーだからって変なファイトで使わないといけない理由もない。
あとハウンドならそんな強くないし、むしろよくそれで連覇したなっていう気持ちになる。
それだけ強いファイターだったのだろうか、使い手は。
「……色々脱線しちゃいましたけど。ドアがこのカードを手にいれて一年も経っていません」
「そうだね」
「けど、そんな短い間でも本当に色々あって疲れて大変で、けど楽しいこともあったんです」
ゆっくりとテーブルの上を見ていたドロシーちゃんの目線が、真っ直ぐに僕の目を見る。
「そんな短い間でも色んな事があるのに、一年も二年もドアは他の子たちを苦しめたくないです」
「――そっか」
そこまで言われて、ようやく理解した。
僕にとっては学生生活なんて社会に出るまでの下準備、やり直しの
他の子たちにとっては取り返しのつかない
「……そうだね」
熱量が違うわけだ。
必死さもそりゃあ違うよ。
これは
「ごめんね。僕が軽はずみだった」
「……いえ、今のフツさんは部員じゃないんです。そう思うのは当然ですから。というかすいません、なんか脱線たくさんして色々好きに喋ってしまって」
「大丈夫大丈夫、君との会話すっごい楽しいから」
パタパタと焦ったように手を振るドロシーちゃんはとても微笑ましかった。
「お?」
口直しにカップを持って気付いた。
中身が空だった。
「ちょっとコーヒーお代わりしてきていい?」
「どうぞどうぞ」
「どうせならドロシーちゃんの分持ってくるけど、なにがいい?」
「えー……あ、烏龍茶のドリンクで」
「了解」
カップとドロシーちゃんの空のコップを手にとって、ドリンクバーに向かう。
空いているコーヒーマシンからの抽出を待ちながら、息を吸って吐いて、思考をまとめる。
ドロシーちゃん、意外と人懐っこいよな。
見た目はすごい清楚な美少女だし中身も清楚な美少女なんだけど、さっきのパタパタした動きとか、楽しくなると口数が増えるところとか本当に子供らしさがあるんだよな。
なんていうかこー子犬というより大型犬なイメージが有る。
優しげで子供に抱きつかれてそうな優しそうな犬で、一見高嶺の花みたいに見えるけど慣れるとなつっこいみたいな。
「……うむ」
気をつけないと、マジで男子が勘違いするぞあの子。
今どきの男子高校生なんて青春力で思い上がりと自信と精力見ながらせてるようなもんだからな。
多少いいカッコしたいみたいな見栄を持っていないと、どいつもこいつも馬鹿だし。
せめて僕だけじゃなくて、まともでいい感じに理性と熱意があるいい男と縁が出来るよう見守ってやらねば。
「よしっ」
抽出が終わったので、ささっと烏龍茶も補充して席に戻る。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
戻った席のドロシーちゃんは暇を持て余してたのか、見ていたメニューのパンフを畳んで戻した。
「なんか注文する?」
「大丈夫です、もう頼んだので」
「……結構食べるんだね。大丈夫?」
ここまでにもうケーキを1つとフレンチトースト1セット食べてたのに。
「結構ドアは代謝いいので。食べた分は頭と動けば問題なしです」
ふんっと腕まくりするような仕草をするドロシーちゃん。
食べた分の脂肪そっちにいくのかなぁ、いってそう。
「そういえば少し気になってたんだけど」
「なんでしょうか?」
「一番最初の外部の力を借りて、Life部が優勝するって問題解決してないと思うんだけど、どうやって説明するつもりなの?」
頑張って選ばれたのに、もう一つ有力なファイターがいるからそっちをメインで使います。
なんていわれたらモチベが厳しいと思うんだよな。
これが少し気になっていた。
「ああそれなんですが、実際には【名義を借りる】だけだったんです」
「――名義?」
「はい。リザーバーの1人の枠そこで名前と万が一のピンチヒッターぐらいで、実際には
「名前だけって…………ん? あ、もしかして、
「はい。対策として名義だけお借りしたいっていう話なんです」
つまりこういうことか。
たまたま学校内に有名で強いファイターがいる。
そして、それは有名な分もしも団体戦に参加、名前だけでも載っているだけでも他の学校に圧がかかるし、対策のためのリソースを使う。
それに備えたデッキやファイターなどを用意しなきゃいけない。
「なるほど
外から見たらある意味卑怯かもしれないが、個人的には嫌いじゃない。
真剣勝負は(マナーとルールさえ守れば)勝ったものが正しいのだ。
リザーバーにした人を絶対出さないといけないわけじゃないし、温存しておく分には個人戦で使うだろうデッキなどもバラさずに済む。
なんだったら確実に二人が勝てるなら不戦敗でもいいわけだし。
これを利用して実際には【Life部だけの力だけで団体戦を勝ち抜くつもりと】
「……それってその副会長さんには言ったの?」
「はい。きちんと1から10まで誤解がないように部長たちが相談したらしいんですが、断られてしまいました」
「そっかぁ」
まあ戦略的に正しくても性格的に受けられないこともあるよね。
「というわけでドアたちもんーこれ厳しそうだなって大困りなのです」
「……なんかメリットさえあれば受けてもいいよとかっていってたけど、なにか考えがあるの?」
「一応
「おお、すごいね」
なんだろう?
「……知りたいです? フツさんが知りたいならこっそり教えてもいいですよ?」
なんかよほどの秘策なんだろうなあ。
話して確かめたくなる気持ちもわかる。
「いや、ネタバレは厳禁だからね。個人的に楽しみにしておくよ」
チラッとなにか話したがりそうに上目を向けてくるドロシーちゃんに、僕は苦笑しながらコーヒーを啜る。
誰かに言うつもりはないけれど、どこから秘密がばれるかわからないものだ。
えーって少し残念そうな彼女に。肩を竦めて。
「お客様。こちら注文のパンケーキでお待ちございませんか?」
「はい、ありがとうございます」
店員さんが運んできてくれたパンケーキを嬉しそうにドロシーちゃんが受け取る。
早速それにナイフで切り分け始めたのを見つつ……いや本当になんかテーブルマナー凄い上品だな。
綺麗な所作でびっくりしつつ、腕時計で時間を確認する。
結構いい時間だな。
「ドロシーちゃん」
「ふぁい?」
もぐっとちょうど口に一口入れたタイミングだったのだろう。
思わず返事をこぼして、慌てて手で口を覆っちゃった。
「ん、なんですか?」
ごめんね?
「結構いい時間だけど、あとなにか伝えないといけないことあったりする?」
一応確認。
少しドロシーちゃんの目線が上を向いて、それから左右に首を振った。
「了解。じゃ、会計済ませておくから」
テーブルに置かれた会計カードを取って立ち上がる。
「ん?! ドアの分は自分で出しますよ」
「いいのいいの、僕はバイトしてるからさ」
時代錯誤かもしれないが、こういう場合は男が払うって相場が決まってるもんだ。
「デート代としては安くてごめんね」
なんて冗談を伝えて、僕はファミレスを先に出た。
◆
「……まだ日が昇ってるな」
秋の空は光陰矢の如しなんていうが、さすがに夕方の五時前ならまだ明るい。
暗い夜道に帰らせるわけにはいかないし、早めに切り上げて正解だった。
ここは学校からもそれなりに離れたファミレスだが、僕ごときが彼女と一緒にいるような姿を見られるリスクは減らすべきだし。
「ん」
一応うちの学生や変な一般通行闇のファイターなどがいないか左右を見渡して、気付いた。
――黒い傘が歩いていた。
ファミレスのある道の反対側。
道路を挟んでゆっくりと上り坂の方面に、大きな真っ黒な傘の人影が歩いていた。
雨も降っていないのに傘を差している……あれは。
「あれは」
真っ黒な外套に、同じく黒い軍帽に、後ろに流した黒い髪の後ろ姿。
それに心当たりがあった。
「……裁堂副会長か?」
学校行事で遠目に見かけたような気がする後ろ姿。
その歩く先は上り坂の山側。
時間から見て学校帰りの帰路なんだろうか。
あっちのほうに家があったのかとなんとなく見送って、僕は帰ることにした。
寒さを感じる木枯らしの夕方だった。
青は言葉。
それは身に沁み、心を穿つために放たれる。
――<青の弾劾>