【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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 長々とおまたせしました。
 難産だったパートを乗り越えたのでもう少し早くしたいですね

 あ、今回の話は【漫画版で掲載のお話です】


 それとFAを頂きました!



【挿絵表示】

 刃神氷雨様よりセト店長のFAを頂きました!
 中身も戻ってきた新しい店長は色々と新鮮だぜぇ。

 これ中身の片方が十代前半の少女らしいですよ?


【挿絵表示】

 朽木様よりサレンとモブのいるお店でのやり取りFAを頂きました!
 仲良く喧嘩してるわねー。

 店長、まるでママンみたいな顔してるけどヒロイン! ヒロインの一人ですよ!


九十二話 ライフデッキはメインデッキの手前に置く

 

 夕暮れはいいものだ。

 暗くなりすぎず、日差しは弱くなっている。

 夜は暗いから好きではない。

 だから生徒会との業務は必要なものであるし、有意義な時間の処理として好ましいものである。

 

「戻りました」

 

 玄関に入り、日傘を畳む。

 

「おかえりなさいませ」

 

 靴を脱ぎ、出迎えてくれた顔なじみの女中に鞄を預ける。

 

「”サキ”はどうしている?」

 

「お嬢様は【離れ】にいらっしゃいます」

 

「いつも通りだな、わかった。鞄は部屋に」

 

 指示を出し、温められた室内では少し熱い外套の前ボタンを外しながら廊下を歩く。

 キシ、キシと磨かれた板張りの廊下は音が出る。

 あの子は耳がいいから多分これでわかるだろう。

 長い渡り廊下を歩くうちに、鼻をついたのはツンとした独特の匂い。

 

 ――あの子の香りだ。

 

 歩く、歩く、進んで立ち止まる。

 廊下の果て、様々な色で薄汚れた鉄製の扉。

 

「サキ、今大丈夫か?」

 

 叩き金(ドアノッカー)を3度鳴らし、声をかける。

 ゴソゴソと扉の内側でなにやら動くような気配がして、自分は一歩後ろに下がった。

 勢いよくドアが開いたのは、いつも通りだった。

 

「ギンねえさまー!!」

 

 飛び出してきた白く愛らしい物体を頑張って受け止めた。

 白く小柄な体躯に、不釣り合いな柔らかい感触がなんとも重く感じる。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさーい!」

 

 真っ白な青白い肌、蒼く透き通るような瞳で見上げてくる愛らしい顔。

 ああもう、相変わらずおさげに結んだ白い髪のあちこちに色がついている。

 これが己の妹。

 裁堂(さいどう) 沙金(サキン)。

 

「ふむ。ちゃんと今日は着ているな」

 

 白い作務衣の上からブカブカの青いオーバーオールを穿いた見慣れた格好。

 

「うん。邪魔だから脱ごうかなって思ったんだけど、カガネがさー、風邪引くから駄目だってー」

 

 ぶーと頬を膨らませるサキンの言葉に苦笑する。

 

「もうすぐ外は冬だ、大事な身体なんだ。身体をいたわりなさい」

 

 作業の邪魔だと脱ぎ散らかす子供らしい……まだ実際幼い妹の頬を撫でて、その頬についた黄色い塗料を取る。

 

「あ、ごめんなさい。ねえさま、大事な外套なのに」

 

「なに、これぐらいすぐ取れるし、そんな目立つものではないさ」

 

 いつものことだ、汚れ1つで大事な妹(サキ)との抱擁を失うぐらいなら幾らでも汚れて構わん。

 先ほど拭った塗料を指で擦って気づく。

 まだ乾いてなかった。

 

「ふむ。作業中だったか?」

 

「うん。ねえさま、よかったら見てみる?」

 

「そうだな、見せてくれ」

 

 嬉しそうに笑うサキンに引かれて、鉄の扉の先へと入っていく。

 

 色に溢れた空間だった。

 

 人がいる、空がある、海がある、山があり、奇妙にねじれた花瓶らしいものがあり、大きなドーナツがあり、黒焦げた人骨があり、白く輝く太陽があり、蒼く凍りついた大樹があり、赤い甲冑を纏った騎士がある。

 絵。

 無数の絵が飾られた油絵が乱雑に、複雑に、そして無数に飾られた空間。

 そ(・)の(・)全(・)て(・)が(・)サ(・)キ(・)の(・)描(・)い(・)た(・)油(・)絵(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

「……また数が増えたな」

 

 見覚えのない絵が何枚も目に入った。

 

「うん。最近、色々描きたくなるものが入(・)っ(・)て(・)く(・)る(・)か(・)ら(・)」

 

「そうか……だが、ペースには気をつけるんだぞ。お前の身体が何よりも大事だ」

 

「えへへ」

 

 笑うサキの笑み。

 ……今度は誤魔化すような笑みだ。

 これは多分かなり無理をしてるな。

 もう少し定期的に様子を見にこなければ。

 

「ん?」

 

 どれだけ描いてしまったのか確認しようと見渡して、気づく。

 

「サキ。あそこには確か”帽子の絵”がなかったか?」

 

 中々センスのいい帽子だったから覚えていた絵の場所は空っぽだった。

 記憶違いだろうか。

 

「ん? あーあれは、もうないの」

 

 少しサキンの表情が沈んだ。

 

「”とうさま”が、あれが必要だっていって持ってちゃった」

 

「……そうか」

 

「”果ての絵”も、”光る珊瑚”も、”旗を持つ女の子”も、気に入ってたのに……」

 

 妹の頭を撫でる。

 

「すまんな、当方が」

 

「ねえさま」

 

「ん?」

 

「またとうほうって、違うでしょ」

 

「……わ(・)た(・)し(・)が悪かった。これでいいか?」

 

「よしっ」

 

 ビシッと人差し指を突き出すサキ。

 どこでそんな仕草を憶えたんだ、お姉ちゃんに教えなさい。

 

「それでね、ねえさま、それでねでもねいいの描けたの。みてみて、この騎士さんがね、かっこよくてね」

 

「ああ、聞かせてくれ」

 

 なんて考えながら気分を変えて、自分の絵の説明をし始めたサキンの言葉に耳を傾ける。

 サキンの油絵は特別だ。

 この子が描いた絵ではあるが、それを生み出したのはサキンではない。

 

「ここをみて」

 

 サキンの指指した一点、灰色に染まった地平線の奥に向かって矛先を向けている赤い騎士、その背景の奥を指差して。

 

「多分、こ(・)こ(・)に(・)こ(・)の(・)人(・)と(・)戦(・)っ(・)た(・)人(・)が(・)待(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)」

 

「戦(・)っ(・)た(・)人か」

 

「うん、たしかーよんじゅーろくまい前? に描いた絵のまえだと思う、ここの空がね、どこかで見たことがあったとおもうから」

 

「46枚前……ああ、確か弓と剣を持った二人の戦士が、こんな騎士に立ち向かっていたな」

 

「そうそう、そうだよ! それー! やったー!」

 

 嬉しそうに手を振るうサキン。

 それはサキンの描いた絵ではあるが、この光景はサキが目で見たものではない。

 【受け取ったもの】

 

 ――別の何処かにあっただろう光景を幻視したモノ。

 

 Lifeのカードに使われてるイラストと効果を記したテキスト、そのイラスト(絵)は別の世界の光景の一瞬を切り取ったもの……らしい。

 それを視て描くのが交信画家(チャネラー)と呼ばれる能力者。

 それがサキンだった。

 

「でね、でね」

 

 自分にしか見えない、自分しか視ていないものを、誰かと共有したい。

 自分だけが抱えたくない、耐えられない。

 そういう衝動にサキンが動かされて絵筆を取ったのが5歳の頃。

 ただの落書きだったものからより正確に、よりおぞましく、より美しく描くようになり、描いた絵の数は百を超えている。

 その力と衝動を吐き出すために与えられたのがこの専用の工房(アトリエ)。

 ……いや、監獄か。

 

「そういえば、サキ」

 

「なぁに? ねーさま」

 

「このドーナツの絵はどうしたんだ? お腹でも空いてたのか?」

 

 描き途中らしいカンバスの横にて、すでに完成していた1つの絵を持ち上げる。

 1つの大きな焦げ色の輪っかに、小さな手足が生えていて、頭の上には四色の宝石が飾られた王冠を被ったドーナツ。

 なんともユーモラスで、見てるだけでこんな自分でもお腹が空いてきそうな艶をしていた。

 

「んーとね、それなんか描きたくなったの」

 

「ふむ?」

 

「でもなんかおーさま? を描いたらね、他にいたはずなのに視えなくなっちゃった……」

 

 美味しそうだったのにと呟くサキンの頭を撫でる。

 

「しょうがないさ」

 

 視えていたものが突然視えなくなることは、たまにあるらしい。

 チャネラーとしての幻視というのは不安定なものだ。

 これまでにも見ていたものが突然視えなくなって、違うものが見えて、そして何ヶ月もしてからまた続きが見えたりもしていた。

 

「明日帰りにでもおみやげで買ってこようか」

 

「わぁい! おっきなの! おっきいチョコがかかってるのがいいなぁ!」

 

「胸焼けしない程度に、あとちゃんと歯も磨くんだぞ? サキは忘れがちだからな」

 

「もぉ、子供じゃないもん!」

 

「ははは。そう言ってる間はまだまだ子供だな」

 

 むぅーと怒ったように頬を膨らませたサキの頬を指でつつきながら、掲げた手を見る。

 ……また少し細くなってるな。

 

「サキ、無理はしていないか?」

 

「いーえ、ちっとも!」

 

 にっこりとサキンは笑顔を浮かべる。

 

「すまない……」

 

 思わず抱きしめる。

 

「わたしが、もっと強ければ」

 

「おねーさま?」

 

「わたしはすぐにプロになる、なってみせる。エレウシスに……女帝に勝ちさえすれば……88星座に……裁(・)堂(・)の(・)正(・)式(・)な(・)子(・)に(・)な(・)る(・)。そしたら……」

 

「おねーさま」

 

 抱きしめたサキンに、背を叩かれる感触があった。

 すまない。

 すまない。

 本当にすまない。

 励まそうと、慰めようとしてたのに、励まされている。

 

 カンカンと音が聞こえた。

 

「っ、誰だ?」

 

 金属の擦れる音と共に扉についている目出し穴が開く。

 

「ロギン様、お嬢様、いらっしゃいますかー。旦那様がお帰りになりましたぜー」

 

「父上が」

 

「とうさまが?」

 

「さっさと書斎に来るように、だ、です」

 

「……わかった」

 

 漏れそうになるため息を飲み込んで、サキンから手を離す。

 

「おねーさま」

 

「すまない、サキ。ちょっと父上に挨拶をしてくる、遅くなるかもしれないから先に寝ていてくれ」

 

「うん……さきんは、いい子にしているよ」

 

 最後に一度だけサキンの頭を撫でて、アトリエの扉を出る。

 扉の外側には見慣れたもどきがいた。

 ボサついた茶色の短髪に、黒く漆で塗られたようなメッシュ。

 銅色の瞳孔に野良猫めいた顔つきで鮫じみた歯で嗤う、着崩した女中服の女。

 

「カガネ」

 

 名はカガネと呼んでいるも(・)ど(・)き(・)だ。

 

「あいあい」

 

「姿が見えなかったが、どこにいた?」

 

「お嬢様とロギン様の大切なお時間をじゃま~したくなかったんで、ちょっと見えないところにね」

 

「サボるな。それとそのハッカの匂いはサキが苦手だ、消しておけ」

 

 捨てられれば我が家以外に行き場などない立場だというくせに、この女は頻繁にサボる、家事に手を抜く。

 煙草にでも耽るように、飴玉を舐め回して、庭の隅に腰掛ける。

 

「あいあい――ぎゃひんっ!?」

 

 無駄にデカいケツについていた土埃をはたき落としてやった。

 

「サキを頼むぞ」

 

 これで目ざとく、使いどころがなければ放り捨ててやったものを。

 

「あいあ~~いちちち……」

 

 警護役に後を託して、書斎へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 書斎までの数分間は背筋を伸ばし直すのに十分過ぎる時間だった。

 扉の前に立ち、息を整える。

 簡潔に身だしなみを確認し、扉を叩く。

 

「入れ」

 

 中から聞こえてきた声に扉を開ける。

 その途端漂ってきた臭いに顔をしかめかけて、堪える。

 

 中にいたのは久方ぶりに見る父(・)上(・)だった。

 

「お久しぶりです、父上」

 

 外出から帰ってきたばかりなのだろう、仕立てだけはいいスーツ。

 恰幅のでかい体型でどっしりと椅子に腰掛けて、葉巻を吹かしている白髪混じりの男。

 年齢だけならもう初老の域だろうに、裁堂の血筋だからか見た目だけは若く。

 

「数カ月ぶりか、ロギン」

 

 煙草で痛めつけて、ろくに使っていないだろう喉は不愉快なしゃがれ声だった。

 

「半年ぶりです」

 

「ん? そうだったか」

 

「はい」

 

 純金仕立ての眼鏡越しに父上は天井を見上げて記憶を探っているようで。

 

「……月日が流れるのは早いな、子供も育つわけだ」

 

 諦めた。

 

「体の調子はどうだ? しばらく入院していたらしいが」

 

 入院。

 あの忌まわしい時間。

 ろくに身動きも出来ずに、見慣れない天井を見上げて耐えるだけだった白い牢獄。

 

「……問題ありません」

 

 その間に一度とさえ顔を見せなかったくせに。

 

「復調しています」

 

「そうか」

 

 興味なさげに葉巻を吹かす。

 こちらの目ではなく、首から下、身体を見られているのがわかる。

 

 

「脱げ」

 

 

 

「ッ」

 

 息が止まる。

 

「必要ありません……当方は復調して」

 

「聞こえなかったのか。我は脱げといったんだ」

 

 膨れた指先に嵌めた指輪で、天然木の机がドンと叩かれる。

 

「それともまた”躾”がされたいか?」

 

「はいッ」

 

 身体が震えないように左手を握りしめる。

 外套を外し、制服の上を外し、スカートを脱ぎ、下着になって……

 

「さっさと脱げ」

 

 息を呑む。

 自分は全部を脱いだ。

 脱ぎ降ろした。

 

「ふむ……」

 

 寒い空気に沈んで、肌が粟立つようだった。

 じろじろと見る視線を感じる。

 羞恥があった。

 何度されても慣れない恥ずかしさ、ここから出て、外の世界で、学校で学んでしまった常識が臓腑を締め付けてる。

 

「確かにまともに立っているな」

 

 軋みを上げて、父上が椅子から立ち上がる。

 それに肩を震わせなかったのは、覚悟をしていたからだ。

 していたらま(・)た(・)殴られていただろう。

 

「手は後ろに組め」

 

 わずらしそうに近寄りながらかけられた声に、自分は……手を後ろに組んだ。

 隠すもののない姿勢で。

 吐き出す息が吐き気で粘ついていた。

 

「何度言っても覚えが悪いな、グズが」

 

 じろりじろりと動く目線が、自分の身体を見下しているのが感じられる。

 吐き気がする。

 

「……かなり肉が減ってるな、骨が出ているぞ」

 

「ひゅいっ」

 

 不快感。

 臀部に指が触れていた。

 

「相変わらず気持ち悪い体だな。こんな乳では勃つものも勃たんな」

 

 脇腹の皮をつままれながら、自分は出来うる限り顔色を変えないように耐える。

 

「もうしわけ……ありません」

 

 わたしの体は、色気がない。

 同年代の女子と比べても痩せた肉に、ろくに膨らみもしなかった乳だ。

 こんな自分に欲情する男などいないだろう。

 だからこそ。

 

「やはり、ファイトに使うぐらいしか価値がないな。そうだろう?」

 

「はい……そのとおりです、父上」

 

 ぐるりと一周するように歩いて、父上が音を立てて椅子に座る。

 自分はまだ服を着る許しを得ていない。

 

「で、路銀。次のエレウシスで、あ(・)の(・)小(・)娘(・)に勝てるのか?」

 

 あの小娘、それが誰を示しているのかはすぐわかった。

 

「――フェムス・コンカレントは当方が斃します」

 

「……出来るのか?」

 

 勝率は――……

 

「全力を尽くします」

 

 嘘は、つけなかった。

 ついたところで意味がなかった。

 

 アレの相手に確実な勝利など出来るわけがない。

 

「……全力、全力か。わかっているのか? お前が、あの小娘に負けたせいで我はずいぶんと大損をしたんだぞ」

 

「はい」

 

 賭け試合(ギャンブル)のことだろう。

 この男は、自分を使ってそういう金稼ぎをする男だ。

 何度もそうやっている。

 企業との代理決闘にも、自分の貞操を担保に興行ファイトでも、そうやって金を稼いできた。

 

「お前が勝つと断言した我は赤っ恥だ。クスクスと名家気取りのカスに、血もないくせに金だけがある成り上がり共に、笑われたのだ。どれだけ我が惨めだったのか、悲惨だったのか、ああ、わかるか?」

 

「は「わかるものか!!!」」

 

 激しい殴打音。

 書斎机が軋んで、父上が机を殴りつけたのがわかった。

 

 自分には傷1つついていない。

 

 商売道具に手を出すほどの愚かさでもないし――そんな度胸もない。

 

「わかっているならば成果を出せ。そのために貴(・)様(・)を(・)娘(・)に(・)し(・)て(・)や(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)」

 

「はい、義父(父上)」

 

「貴様にはファイターとしての価値だけは認めておいてやっているのだ。そうでもなければ、血も繋がっていない貴様など野良犬に過ぎん」

 

「はい」

 

「結果を出せ。なにをしてもだ」

 

「……はい。次のエレウシスで必ず結果を出します」

 

 勝たなければいけない。

 なんとしてでも勝つ。

 そうしなければ、自分は――

 

 

「ところで、お前がむざむざと行方知れずになってすっぽかしたエレウシスで、貴様のいない学校が例の小娘を倒したそうだな?」

 

 

「それは……」

 

 それが呼び出した最大の理由か。

 どれだけ叱責をされるのか、そう身構えて。

 

「よかったじゃないか」

 

 ?

 

「喜ばしいことだ。お祝いに少々寄付しておいた」

 

「……父上が?」

 

 どういうことだ。

 意味がわからずに思わず顔を上げる。

 

「我も鬼ではない。娘が通っている学校だ、多少は相応しい品格を身に着けて欲しいとお願いをしただけだ」

 

 確かに、ファイト部の機材。

 それに関しては校長からの特別予算が組まれて、拡大したが。

 

「路銀」

 

「は、はい」

 

「もう一度確認するが、お前は個人でエレウシスに出るつもりだったな」

 

「はい。もう申請しています」

 

「そうか。それだが、辞(・)退(・)し(・)ろ(・)」

 

 ……は?

 

「途中で負けるぐらいならば出ないほうがマシだ、まったく見ておいて正解だったな」

 

「は、いや、まってください。それでは、当方は」

 

「だから1つ命令だ。路銀、お前は――」

 

 

 

 

        「―――――――――――しろ」

 

 

 

 そして告げられた言葉は、あまりにも。

 あまりにも正しくない、

 受け入れがたい言葉で。

 

 

「要件は以上だ。さっさとその薄汚い身体を隠して出ていけ」

 

 自分は脱いだ服を抱えたまま書斎から追い出された。

 中で服を着ることも許されずに。

 裸のままで追い出されて。

 

「当方、は」

 

 どうすればいいのか。

 

 わからなかった。 

 

 

 





 黒は願い。

 我が身を削り出し、どこかへと届けと埋めて託す。

                 ――<黒の弾願>

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