おまたせしました。
今回は漫画版にて描かれた新しいメンバー加入のお話です。
Life部の旧部室。
会議中という張り紙のされたホワイトボードとかテーブルが置かれた打ち合わせに使われている部屋。
そこであたしは皆に囲まれて座っていた。
「ナツミちゃんのメンバー入り」
「おめでとうー!!」
パチパチパチと拍手される。
嬉しい。
本当に嬉しい。
「うおー! ありがとうございます! あたし、頑張ります!」
憧れていた人たちに囲まれて、祝われて、本当に嬉しかった。
いや本当に。
「頑張ってよかった……本当に頑張って! あの地獄の6連戦とか!」
「うんうん」
「握ったことがないデッキなのに1時間で使えるように覚えて、それで勝てとか!」
「うんうん」
「負けたデッキ相手に、全部表向きにしたデッキ同士でテーブルファイトで勝てとか!」
「うん、うん」
「最後の三人相手に
「うん……うん」
「帰ったあと体重測ったら2キロも痩せてたんですけどぉ!」
「ごめんね?」
部活終わりまでひたすら脳を酷使して、脂汗ダラダラでフラフラになって、うちでお風呂上がりに体重測ったら本当にびっくりした。
ボスラッシュならぬラッシュダイエットなんて流行るんじゃないでしょうか。
いや無理だ。
あれきつすぎる、身体が痩せる前に心が壊れちゃう。
「でも本当によかったね。みんなも喜んでくれてたし」
「そうですねー……みんな快く送り出してくれましたもん」
つい先日の選抜テストの最後で競ったみんなの言葉を思い出す。
――頑張ってね、ナッちゃん。
――本当に凄いよ、ナツミさん。今のワタシには真似出来ないや。
――先に行ってて、アタシもいずれ追いつくから。まあ来年ぐらいに?
――強く生きろよ。
……あれ?
これよくよく考えるとあまりいい言葉じゃなかったような。
というか、なんだろうあの少し距離を置かれてたような気がする。
あと視線がこう……どこかに送られる豚を見るような……
「……でね、ナツミちゃん」
「ぴぎ!?」
「え、なに!?」
「あ、すいませんちょっと
「えっとね、ナツミちゃん。貴方に求めてる役割をまず伝えるよ」
「はい」
「あなたには”エースキラー”になってもらいたいんだ」
「はい! ……はい?」
思わず返事して、首を傾げた。
「……エースキラー?」
「簡潔に言うと、エース殺し。
エースを倒すって……
「え、あの、あたしまだ新入部員だし、実績もないし」
「理由は3つある」
ジグ部長が指を3本立てる。
「1つ。君はまだどこにも出ていない。顔も知られていなければ、デッキも出ていない。どんな動きをするファイターなのか、どんな戦い方をするのか、知られていない、これがまず武器だ」
「武器……」
「2つ、君の適正テーマ。<
「あたしのテーマが、それだけの力を……?」
向いてないって言われてドーナツを抜き戻した戦旗傭兵団。
手札の消費は落ち着いたし、手数と出せるトークンの安定性はマシだけど、一撃一撃のパワーはやっぱり落胆するぐらい落ちていた。
それでもやれることがあると手探りでいじくり回して、カードを切っていた。
切っていただけなのに。
「そして、3つ目。君は、最後のテスト――【ボスマラソン】で
「……でも、あたし。あたしは全勝出来ませんでした。最後の最後に
最後のテスト。
残った4人の中で全勝出来たのは1人もいなかった。
なんとか2勝して、そのままいけるとみんなが思った流れで最後のドロシーさんに負けて崩れ落ちた。
正直あたしは彼女よりも勝率が悪い。
だからここで選ばれたのも、あの時は困惑していたし、今もよくわからなくて。
「それでも、君だけは最後まで諦めずに勝とうとしただろう?」
「それは、根性があるってことですか……?」
他にも強い人はいたのに。
ただそれだけで?
「――精神論も悪くないけどね。ぼくは理屈屋だから理由は違う」
しかし、そんなあたしの想像を部長は否定した。
「君だけだ。ドロシーを倒しても、そのデッキのままではなく調整していったのは」
「せやな。勢いもいいけど、ぶっちゃけ並べてテーブルでファイトしてたのは横目でファイトの動きとか丸見えやったし」
「おかげで楽にカモれましたね。でもそれを嫌って、少しでも勝率を上げるための努力をしてた。サイドチェンジをして動いてました」
部長、リナさん、ドロシーさんが言ってくれて。
「円導ナツミ。君はまだ駆け出しだ、だからこそデッキが固まっていない、誰よりも自由にデッキを動かせる可能性があるんだ」
可能性。
それはどこまでもしっくりきた。
「君だけだ。今この
「あたしだけしか出来ない……」
「団体戦は手札のぶつけ合いや。役割っていうカードのぶつけ合いでもある、ちなみにうちは”
「ぼくは言うなれば”
「ドアは一応”エース”です……どんな相手でもなんとか倒してくることだけを考えてます。自分のスタイルを貫いて、メタられようが倒せるのがエースです」
つまり……
「え、あたしドロシーさんみたいなのを倒せっていうことなんですか?」
無理では???
あのマラソンってドアさんたちがデッキを弄くらないっていう前提での有利なファイトだったよ??
「ドアは普通にデッキ弄くって、プレイスタイルは変えません。それが一番勝率よかったので」
「はい」
「でもプレイスタイルを変えないってことは、
「それを叩き潰す。それだけには絶対に勝つ、ぼくのそれよりも徹底的に尖った初見の格上喰い。それが”
「なるほど」
なるほど……
なるほど……………………
「あの………あたし、めちゃくちゃ責任重大なのでは?」
「大丈夫大丈夫、そんなに出番は多分ないと思うから、普通に勝てそうな時は申し訳ないけど出せないから」
「あのーそれって出る時は絶対勝たないといけない時ってことでは??」
「――……――」
その沈黙はなんですか。
沈黙はなんですか部長!?
「だいじょうぶ。ドロシーが1勝は取るから。責任は
「あの……ドアも無敵ってわけじゃないんですよ?」
「イヤー!? 新入部員で背負っていいプレッシャーじゃないんですけどぉ!?」
「ドアも初心者上がりです、大丈夫です」
「せやせや、ドロシーとはたった数ヶ月違いやで、なんだったら遊んでた分ナツのほうがベテランや!」
「天才といっしょにされても困るんですけど!?」
とうさんかあさん、たいへんです。
あたしものすごいたいやくをせおわれることになりました。
かしこ。
◆
「……さてナツミちゃんが正式にメンバー入りだ」
今あたしは誤ったかもしれないと少し後悔中だよ、ぶちょー。
「というわけで正式なメンバーになったことだし、これからないしょなお話をします」
「な、ないしょ? なんですかそれ、まさかドロシーさんのカップサイズとかそういう?」
「ドロシーはアイやで」
アイ?
……Iカップ? う、うそでしょ!
「ば、ばかな……そんなサイズがありえるんですか?!」
思わずドロシーさんの首から下を見てしまう。
うぅ、確かにあの大きさと盛り上がり……すかさず腕で隠してるけど、抑えきれずにはみ出てる横肉でわかる。
それぐらいはありそうだ。
「ドアはそこまでいってません! 精々Hです!」
エイチって、えっちすぎない???
「……Bもあれば十分だと思うんだが」
「ふ、こうみてもCはあるでー」
リナ先輩がくねってセクシーポーズするけど、ドロシーさんと比べたら普通だなっていう感想しか出てこない。
でもいいなあ、リナ先輩は普通にくびれがあし、部長は背が高くてすらっとしてるんだよな。
まああたしも頑張ってダイエットしたけど、胸とお腹だけ全然痩せなかったんだよなぁ。
うぅ、羨ましい。
「は、はなしをもどしましょう! 大事なことです! 大事なこと!」
「はっはっは、場は和んだからセーフやな」
「コホン。では大事なことを伝えるよ」
「は、はい」
「エレウシスに向けて、1人……強力な助っ人を呼ぶことを考えているんだ」
「強力な……助っ人?」
「冬のエレウシスを勝ち上がるのに大きな力になると考えている人物だ」
「そ、そんな人がいるんですか?!」
「ああ。生徒会の副会長、裁堂ロギンだ。知ってるかな?」
「副会長って……あのなんかかっこいい軍隊の帽子みたいなのを被ってる?」
「そうだ。昨年度冬のエレウシスでは個人戦で参加し、本戦にまで出場したファイターだ。まあ惜しくも女帝には破れてしまったんだが、この学校でも屈指の実力者に他ならない」
エレウシス本戦の出場者……
確か本戦って、関東でも上位数名にならないといけないはずだよね?
「そ、そんなすごい人がこの学校に!? 知らなかった……」
「去年のことだからね、新入生の君が知らなくてもしょうがない」
いやでもすごいなあ。
そんな事を考えていると、何故か部長とリナさんが目を合わせていた。
なんだろうか。
「うむ。それでなんだが……彼女を、ロギンを団体戦の”5番目”のリザーバーとして迎えようと思っているんだ」
「役割でいうところの
「ジョーカー……ですか?」
「うむ。はっきりいって個人戦で本戦まで出場した彼女は全国の学生ファイターでもトップクラスだ。普通の相手ならばまず負けないだろうし、その上名前も実力に比例して売れている。彼女が参加メンバーにいるというだけで他は対策を考えなければいけなくなる」
「ぶっちゃけていうと、夏でも無敗だったドロシーとこのロギンはんを並べるだけで2勝で団体戦は勝てるわけや」
「それは……やばいですね」
どんな相手でも無敗だったドロシーさんに加えて、普通に個人でなぎ倒してたらしい裁堂副会長。
そんなのを要した団体戦、3人のうち2人に勝てば勝ち抜ける3on3のマッチだと強すぎる。
「無論、出しすぎれば情報が出て、対策を取られる。ドロシーもそうだが絶対無敗とは言えないから」
「うちやジグ、そしてなによりナツ。あんたというエースキラーで他の裏を掻いて勝つことが重要や」
「ふむふむ」
「ドアとしてはそこまでまあ勝つだろうって思われるのは不安なんですが……」
「最強無敗の女帝に勝ったやつやろ」
「女帝に今まで勝って、勝てる学生ファイターはいなかったんだから君は無敗カウントでいいんだよ」
「はいぃ」
なるほどなるほど。
理解が追いついてきた。
先輩たち、本当にエレウシスに勝つつもりなんだ。
すごい。
「……というわけなんだけど、ナツミ。私たちはこう考えているんだが、どうだろうか?」
「? どうって」
「率直に言おう。君をリザーバー、それも特化した使い方でレギュラーとして配置出来ない不義理はある。そんな風に招いておきながら、外部の人間を助っ人として頼るのは――」
「……? 何を言ってるんですか?」
ここまでの話を聞いていて、普通に思う。
「勝つためにならそれぐらいやっていいと思います」
勝てればいいんじゃないの? って。
「ぶっちゃけあたしなんて素人ですよ? そんなプライドないです」
ワンチャン、補欠でもいいからエレウシスにいけるだけでも望外の望みなんだ。
1試合でも出て、勝てれば最高だ。
ドロシーさんたちの力になれればいい。
「ファイターの誇りとかよくわからないですし、そもそもここのLife部ってそんな凄い部活とかって誰も思ってないですよ」
みんなミーハー気分で入部した子たちばかりだ。
いや、ちょっと本音を言えば強い先輩たちとドロシーさんがいるなら大会とかでちゃって、いい成績取れるじゃないかって。
強くなれるんじゃないかってめっちゃ思ってる。
あたし自身は未だ誰でもない。
他人に頼るだけだけで、自分で自分に誇れるものなんてなにもない。
まだ。
だから。
「反則でもなんでもないんだったら、あたしは文句ないです。
まずは結果でしょ。
一歩ずつ登るとしても選べるなら先に進める道がいい。
先輩たちの力になれるならば、それに文句なんてあるものか。
「……そっか」
「……はぁ、素人っていうのも凄いわな。うち見くびってたかもしれんわ」
「ドアも素人なんですけど??」
「無敗の天災がなんか言ってますよ、先輩」
「天才は黙っとれい……!」
「り、理不尽!」
理不尽じゃないと思います。
「でもまあそれならまた優勝出来ますね!」
「ほらみてみい。やっぱり普通にそう思われてるわ」
「ですよねぇ……」
「まあただ1つ問題があってなぁ、助っ人なんだが実はとある条件を突きつけられてるんや」
「……条件?」
「――”自分がエレウシスの団体戦に参加するメリット”を出せっちゅう難題や」
「なるほど。タダでは働かないってやつ……!」
言うなれば外国人野球選手みたいなもんだろうか。
お高い年俸とかで雇うみたいな?
「は、まさかLife部の部費が削られるとか!? 生徒会長の活動費にされる?!」
「しょうがない、部員をリストラや……」
「そんな会社運営みたいなことしないでください。多分ないです、たぶん」
たぶんあるんだ。
怖い、あの副会長さんってそんな厳しい人だったんだ。
いやでもあんな真っ黒なコート羽織ってるし、ありえる。
「冗談は置いといて、一応2つ腹案あるんや。1つはまあこれメリットか? みたいなのと、たぶんこれでいけそうな奴や」
「それって……」
「【女帝との対戦確約】や。
えっ。
「たぶんこれで行けると思うんよなぁ、普通リベンジしたいやろ。負けた相手だし、勝てばホームランもんやろ?」
「だね。どう考えても女帝が一番怖いし、それを最優先で対策をお願いしたい」
「ドアもコンさんとはやるのしんどくていやですし……勝てる人がいるならお任せしたいです」
「なるほど……」
いい考えだと思う。
ファンとしてはドロシーさんと女帝さんとのリターンマッチもみたい。
でも勝つなら絶対勝てるドロシーさんを他の選手にぶつけて、専用の特訓をした凄い強いファイターの副会長さんが女帝と戦ってもらうのはありだと思う。
残り1人はリナさんか部長か、相性がいいほうが勝てば負けても問題ないんだし。
素人考えだけど、ありなんじゃないだろうか。
「つまり秘密兵器待遇ってことですね!」
「お前もやで」
「隙を逃さぬ二段構え!?」
わははと思わず笑いがこぼれる。
新しい目標に、新しく出来るかもしれない仲間というか先輩?
「ともかく」
あたしは気合をいれて。
「がんば「ちょいまち」る、るるり?」
いれようとしたら、何故かリナ先輩が廊下を見ていた。
「誰か来るで」
「? 誰って……」
その時だった。
音を立てて、部室のドアが開かれたのは。
「あなたは――」
張り紙をしておいたドアの向こう側。
そこに立っていたのはどこかで見覚えがある気がする白い髪に、先端だけ桜色をした同年代っぽい女の子で。
「よかった。全員揃ってた」
「生徒会長?」
あ、そうだ。見覚えがあるはずだ、夏休み明けの始業式の壇上で見た可愛い子の。
「なんや
「……それだったらあたしがごめんって謝るし、ギンちゃんにいかせるんだけどね」
そう言いながら会長さんは何故か左右を見た。
失礼するよ、と一声かけてから中に入って後ろ手にドアを締める。
「……見覚えがない子がいるけど、三人揃ってるってことは中核メンバーってことだよね? なら悪いけど伝えることがあるんだ」
「なんですか? 生徒会長が直接来るなんて……」
「まさか、また入賞しなければLife部が廃部どころか優勝しないと廃部とか無茶振りしてくるんじゃないよね?」
「さすがにそんなことされたら校長辺りにファイト申し込むで、マジで」
またって、そんなことあったの??
「それはないよ。むしろ校長たちは君たちLife部の活躍に凄い期待してるんだ」
ならどういう。
「校長から生徒会に通達があったんだ――【裁堂ロギンを冬のエレウシスに向けてLife部に出向させるように】」
「は?」
「おって通達だよ。君たちLife部は【裁堂ロギンを団体戦のメンバーに加えるように】だってさ」
は、は、はと笑って、本当に……本当に不愉快そうに笑って。
「ごめんね」
生徒会長が頭を下げた。
「なんですか、それは」
ドロシーさんが呟いた言葉は、間違いなくこの場にいるみんなが思った言葉だった。
赤は怒り。
我が身を焼く憤怒にて火をつける。
怒りの叫び声が大気を貫く。