【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

21 / 121

勝ちセリフを修正
煽りが強くなってますのでご注意ください


五話 先行ターンはドローが出来ない

 

 

 店員さんと男のファイトの勝負はついた。

 

 狂戦士の謝肉祭(バーサーカーニバル)の共通効果(デザイン)として、コストと比べて大きめのパワー、タフネスの低さ、そして可能な限り攻撃に参加すること。

 つまりブロックに回して延命することは出来ない。

 だから男は何も出来ずにただ攻撃をさせて、店員さんのライフを削り……切れずにターンエンド。

 返すターンで店員さんのゴブリンたちが、男のライフを削り飛ばした。

 

 それで決着だった。

 

「ゲームセット、ウォンバイミー。楽しい対戦ありがとうございました」

 

「あ、ぁぁぁ……」

 

 ライフを失ってうずくまる男と、佇んだままボードからデッキを引き抜いて格納する店員さん。

 お互いの盤面に残された複数のクリーチャーが光の泡となって消えていく。

 大体どちらかが全滅していて決着がつくことばかり見ていた私には不思議な光景だった。

 

「勝った……茂札くんが勝った!?」

 

「店長さん、すごいです! 店員さん、あんなに強かったんですね!」

 

「う、うん……色々と詳しいし、テーブルでデッキを回してたのは知ってたけどあんなに強いなんて……」

 

 店長さんも目を白黒させて驚いてる。

 

「え、店長さんも知らなかったんですか?」

 

「茂札くん、お店で働いている時以外なにしてるかあまり喋らないから……」

 

 そうなんだ。

 でも、店員さん本当にびっくりするような戦いっぷりだった。

 

 使っていたデッキはマキヤくんと同じ植物戦鬼(ゴブリンプランツ)だし、出してたクリーチャーも何体か見覚えがある。

 けどそれ以外、手札破壊や発動妨害とか全然知らないものを使ってた。

 それも使ったり、使わなかったり、辛抱強いというか的確というか……

 

 

≪歪なデッキですね≫

 

 

 アリーシャ?

 ポケットにいれていたアリーシャのカードから仄かな熱と声が聞こえた。

 

≪ユウキ、気をつけてください≫

 

 どういうこと?

 

 ミカドくんから貰ったカードに宿っていた戦葬乙女(ヴァルキュリアメイデン)・アリーシャの精霊。

 私のデッキに眠っているも(・)う(・)一(・)人(・)と(・)合(・)わ(・)せ(・)て(・)二(・)人(・)目(・)の(・)精(・)霊(・)の言葉に首を傾げる。

 

≪あのデッキから息吹を感じません≫

 

 息吹?

 

≪断絶され、継ぎ接ぎされているような……おそらくあれは偽装?≫

 

 偽装って……どうい

 

 

 

「インチキだぁ!!!」

 

 

 

 突然上がった叫び声に目を向ける。

 

「イカサマだ!! こんな勝負は無効だ!!」

 

 負けた男が血走った目で叫んでいた。

 

「イカサマって……貴方は負けたんですよ! ルール通りに! 観念してください!」

 

「そうだよ! 何を証拠に!」

 

 負けを認められずに喚く男に、周りの観衆の人たちも一斉に非難の声を上げる。

 Lifeで負けたのにでたらめな言いがかりなんて!

 

「そいつは俺の手札を見ていた! いや手札だけじゃない、デッキまで見てやがったんだ!」

 

 は?

 

「なにをいって」

 

「そうじゃなけりゃあオ(・)レ(・)様(・)の(・)ブ(・)レ(・)イ(・)ズ(・)が(・)あ(・)ん(・)な(・)ぴ(・)っ(・)た(・)り(・)消(・)さ(・)れ(・)る(・)わ(・)け(・)が(・)な(・)い(・)!(・)」

 

 男の叫びに、周りの人たちもざわつき出す。

 

 

 

 

「なにをいってんの、あいつ?」

 

「いや確かにあの弱体化の魔法カード、ずっと握ってたんじゃないか?」

 

「コスト余ってたのにターン回してたし」

 

「妨害魔法じゃなくて、消すのをずっと出し渋ってたなんてある?」

 

「確かに……普通ないよな」

 

「もしかして……」

 

 

 

 

 ざわざわと声が広がっていく。

 そんな。

 

「おかしいよ! ただ店員さんが上手かっただけなのに、イカサマなんて!」

 

「イカサマなんだよ! じゃなけりゃあ説明がつかねえだろ! そうだろ! 最後の最後まで握ってた妨害魔法なんて……!」

 

 両手を振り上げて、周りにアピールするように大声を上げながら負けたはずの男が、最後に指を指した。

 

「そうだろ! 俺の手札が分かってなけりゃあ出来やしない!」

 

 店員さんに指を指して、吠えた。

 

 

「――手札なら分かってましたが」

 

 

 

 え。

 

「ん、な」

 

「わかりやすかったですよ?」

 

 ざわめく声がたくさん上がる。

 そんな。

 まさか本当にイカサマを。

 

「ほ……ほらみろ! こいつはイカ「典型的な狂戦士の謝肉祭(バーサーカーニバル)デッキですね」ま?」

 

 自分のデッキをホルダーに仕舞い、店員さんが淡々と告げた。

 

「自分で言ってたじゃないですか、バーサーカーニバルのデッキを使うって。それでプレイ……ファイトをしていたらクリーチャーに、魔法(スペル)も魔石(コア)もバーサーカーニバルの専用サポートカードを使ってる。それでフィニッシャーのブレイズを積んでないなんてありえない」

 

「ば、ばかをいうな!」

 

「何がです?」

 

「まさか、お前、それじゃあバーサーカーニバルのデッキを分かるとでも……!」「知らないで言えると思います? 普通に知ってます」

 

 誰かが息を呑んだ音がした。

 

 え、なにこの反応?

 

「店員さんがバーサーカーニバルのデッキを知ってたらおかしいの?」

 

「ユウキちゃん……この世界にLifeのカードが何枚あるか知ってる?」

 

 店長さんの言葉に、私は今までファイトしてきた皆のデッキを考える。

 それでまだまだたくさんのカードが、デッキがあると考えると。

 

「んーと……数千枚とか?」

 

 メインデッキの40に、ライフデッキの20枚が最低構築枚数。

 だから多分多く見積もっても。

 

「桁が足りないわ」

 

「えっ」

 

「Lifeのカードは毎年のように更新されていて、新しいカードも幾つかのメガコーポで独自開発されてるし、古代の遺物……伝説の生命秘札(レガシー)カードと呼ばれる誰も知らないカードだってある。それを加えればおそらく万単位、ううん、下手すればそれ以上にあるって言われてる」

 

 ま、万単位!?

 そんなの。

 

「そう、覚えきれない。だからよっぽど有名なファイターのデッキでもないと対策、ううん、中身なんて……」

 

「馬鹿な! 分かるわけがない! わけがないんだ!」

 

「バーサーカーニバルは比較的新しいカードだろ。2年前ぐらい前に発行されたテーマカテゴリー、普通に販売もされていて、うちの店でもシングルで扱っているし、どういうリストで組まれているかなんて3パターンぐらいは型が出来てる」

 

「な、ぁ、な……」

 

 あ、そうか。

 MeeKingはカードショップ!

 だからカードのデータも普通に、ううん、他よりも詳しくて当たり前なんだ!

 

「バーンを組み込んだ奴で一度組んで何回か回したこともある。純正のバーサーカーニバルならアグロとしては初心者でも使いやすいデッキだ」

 

 そう見直したんだけど、店長さんは ええって顔をしてる。なんで?

 

「回し……なに?」

 

「使ったことがあるから、どういう風に回し……カードを切ってくるなんて検討がついた」

 

 店員さんは淡々と言う。

 

「お前のデッキは理想的で、よく出来てましたよ。デザイナーが意図していたデザイン通りにデッキは組まれていましたね」

 

 子供に教えるような声音で。

 

「だけど」

 

 こちらから見えない後ろ姿でもわかるぐらいに。

 

 

「お前のプレイングが悪かった」

 

 

 重い言葉だった。

 

「何を握ってるのか見え透いてたし、表情に出し過ぎだし、悪いと言えばマナーも最悪だった」

 

 男の顔色が変わっていく。

 言葉が重なるごとに、どんどんと悪くなって。

 

「次はもっとマシなプレイしてください、お前と感想戦をやる気にもならねえよ」

 

「てめええええええええええええ!!!」

 

 真っ赤に染まった男が、店員さんに襲いかかった。

 Lifeで負けて襲いかかってくるなんて!?

 

「危ない!」

 

 今度こそアリーシャのカードを握りしめる。

 

 店員さんを護って!

 

 

「イヤー!!」

 

 

 そう願うと同時に、店員さんの突き出した拳が男の腹に突き刺さった。

 

 ……え?

 

「ぐえ!」

 

「はい、暴力な。んで顔も撮影してっと」

 

 腹を抑えた男の顔を蹴り飛ばして、転がった男を流れるように店員さんが膝と片手で押さえつけた。

 そして、胸ポケットから出したスマフォでパシャパシャと店員さんが撮影する。

 

「Lifeに持ち込んで返り討ち。強引な地上げ強要に、無関係な未成年女子への猥褻強要、その上暴力沙汰をして負けっと……さすがに警察も動きますね。これをうちのサイトにアップして、ブラックリスト入りっと」

 

「で、でめえ……なに゛を゛」

 

「自分だけ勝ったら得るだけの勝負なんてあると思ったか? お前晒したから、もうそこらのカドショとか全部出禁だろうな」

 

「やや、やめろぉ!!」

 

「やめろで済んだら警察もいらねえんだよ」

 

「こ、こんなことをして冥牙グループが黙っちゃいねえぞ!?!」

 

「そういうことは警察にいってください。どっちかというとお前が責任取らされるんだろうけどよ」

 

「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 そんな叫び散らす男を、やがて駆けつけた警察官さんたちが連行していってくれました。

 

 …………うわ、店員さんっよぃ。

 

≪私の出番はどこに??≫

 

 ごめん、なかったみたい。

 

 

 

「やはりデュエルマッスルは正義だな」

 

 

 

 そう最後に言う店員さんの背中はとてもたくましく見えました。

 

 でもデュエルマッスルってなんだろう?

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 高い。

 高いビル。

 

 周囲の建築物を圧倒する威容を誇る高層ビル。

 冥牙(メガ)・バベル社、日本支部。

 

「社長、送り込んだ傭兵ファイターが破れたようです」

 

 その社長室。

 古代オリエントな美麗に満ちた彫像品が並べられた広い室内で、皺一つのないブランドモノのスーツに身を包んだ女性が佇んでいた。

 

「ど(・)れ(・)のことかしら」

 

 返事を返す声は、女性の前の格式高い机から聞こえていた。

 その周りには無数の光の板……空間投影のモニタが無数に広がっていた。

 それが忙しなく画面が動き続けて、細くしなやかな指が鍵盤を叩くかのような優雅な動きで操作されている。

 スーツ姿の女性――女性秘書が抱えていた端末を操作し、モニタを一つ追加した。

 

「ブラッドック。血塗られた牙と呼ばれるA級傭兵ファイターです」

 

 モニタに表示されたのは茂札に敗れ去った男、その顔写真に大きなバッテンが描かれている。

 

「ふぅん、それが破れたと。相手は?」

 

「カードショップMeeKing……その店員のようです」

 

「店員?」

 

 鈴の鳴るような高い声音が、怪訝そうに響く。

 

「はい。どうやらMeeKingにバイトで雇われている高校生のようで」

 

「デッキは?」

 

「植物戦鬼に、多少の妨害と除去をいれただけのデッキです。特段目立ったレアカードもありませんでした」

 

「ふん。どこにでもいるデッキに破れたなんてよほどのヘボかそれとも凄腕か、そいつのデータは?」

 

「はい。こちらです」

 

 秘書が端末を再び操作。

 追加されたモニタをしばし、モニタの群れに覆われた誰かは眺めて……やがて興味がなさそうに消した。

 

「なにこれ、ただの高校生じゃない」

 

「はい。都内のカードショップの大会では十数回ほど優勝を行っていますがどれも小規模の民間大会です……考慮にいれる必要もないかと」

 

「小競り合いをしているだけの猿共のボス、そんなのに破れたなんてA級傭兵といっても質が悪いわね。しかも逮捕されてるし、まったく」

 

「消しておきますか?」

 

「通常の処理でいいわ。所詮傭兵だもの、それよりこいつの学校の名前には見覚えがあるわね、たしか……」

 

「礼賛喝祭(エレウシス)に出場が決定しています」

 

「……”天神の巫女”がいるところね。関係はある?」

 

「いえ、そこまではまだ……ただ、どうやら学校のLife部には二ヶ月間所属したあと、退部させられたようです。それから現在までは無所属で過ごしています」

 

「時期的には<天儀ドロシー>と同時期か……まあいいわ。その店のデータは?」

 

「こちらです」

 

 追加される複数の顔写真と名前の付け加えられた画像。

 それが一枚一枚素早く確認され、MeeKingの店長とプロフィールが記載された顔写真に停止する。

 

「この女……まさか」

 

「社長、なにか?」

 

「MeeKingの店長について追加調査を行いなさい。過去の経歴から今の住処まで全てよ、徹底的によ」

 

「はっ」

 

「それともう一つ」

 

 

 

「傭兵ファイターのファイトから”エレメンタルスピリッツ”を発していたものはいた?」

 

 

 

「いえ、いまのところはまだ未確認です」

 

「そう。範囲を広げて、絶対に探し出しなさい。金に糸目はつけないわ」

 

「わかりました」

 

「妾の夢のため、レガシーの乗り手となりえる巫女はあと二人要る……天神の巫女、それともう一人どこかに存在する。必ず探し出せ」

 

 冷たく、重い声。

 ビリビリと室内の空気が重くのしかかる中、秘書の女性は辛うじて顔色を変えないように耐えていた。

 

 

「その時にはお前も働いてもらうぞ」

 

 

 そう呼びかける声は、部屋の隅。

 ぽっかりと彫像品の影に覆われた場所から、真っ黒な外套に包まれたシルエットが立っていた。

 

「あの”精霊狩り”に並ぶと言われるS級傭兵ファイター、失望させてくれるなよ?」

 

「……舐めるな」

 

 外套の中からこぼれ落ちる声は、濁り、ひび割れていた。

 

「最強は――オレだ」

 

 そう呟く外套に絡みつくように、半透明の黒い羽根を生やした美しい女がクスクスと嗤っていた。

 

 巨大な悪意たちが蠢めきはじめていた。

 





 支配とは夢だ
 得てして叶えるまでの労力に見合っているとは限らない

                 ――覇王・ヴァンラーダ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。