【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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※注意

 今回のグロテスク描写(TCG経験者)があります
 ご注意ください

ルビなどを修正しました(7/28)


十一話 ターンエンドを宣言し、相手のターンを迎える

 

 

「「ファイト!!」」

 

 俺はメインデッキから手札を引き抜いた。

 

 ん?

 オイオイ、これは……

 

 

 ◆

 

 

 

 ククク、完璧な手札だ。

 

 しかも。

 

「私の先行だ! ライフデッキから2枚ドロー!」

 

 私の先行から始まった。

 ボードが輝き、闇が私を促している。

 

「土地をセットし、私は1コストで<喰手(ハンドグール)の首狩り>を召喚する」

 

 手札から取り出したのは、初動に最適なハンドグール。

 

「首狩りはデメリットとして対戦相手のメインデッキトップ一枚を公開させる効果を持つ」

 

相手にアドを与える代わりに強力な(デメリット)クリーチャーか、通す」

 

 通す?

 

 何も出来やしないだけだろうに。

 

「では貴様のデッキトップを公開し、2/2の首狩りが降臨する!」

 

 リストファッグを呼び出すと同時に、男のデッキトップがめくれ上がる。

 

「――<増殖の仕組み>か」

 

 その秘宝(アーティファクト)カードを私は知っている。

 操作クリーチャーが死ぬ度にカードを1枚引くカードか。

 

「ふん、クリーチャーを多用するデッキかね?」

 

「さてな」

 

「続けて私は0コストで秘宝(アーティファクト)<未来審盤>を召喚! 1コスト支払うことによって自分のデッキトップを公開することが出来る。私は優しいのでね、これは貴様も使用することを許してやろう」

 

 公平なる情報戦と行こうじゃないか。

 

 

 

 ◆

 

 そのカードを俺は知っていた。

 

「……禁止カードか」

 

 かつて猛威を振るった”未来コントロール”、あるいは”未来ロック”のキーカード。

 元ネタのやつから調整された秘宝――とみせかけて事故ったやつだ。

 

 今も禁止されてなかったとは思わなかった。

 ボードが警告をしないということは通るのだろう。

 いや、闇のファイトだからされていないのか?

 

 

 

 ◆

 

 

 

「どうやらこれの効果は知っているようだな! この恐ろしさも!」

 

 だがあいにくだったが、このカードを縛るような制限はない。

 

「踏み倒しだな」

 

「これはクリーチャーではないため召喚酔いはしない! 相手がデッキトップを公開していた場合、起動(ステイ)することによってカード一枚をドローすることが出来るが、おっと既に見えているな、カードをドローするぞ!」

 

 これが首狩りによるデッキ情報アドコンボ。

 相手にデッキトップが見えるという多大なアドバンテージを与えているとみせかけて、私にとっては全てが好都合。

 

 ほぉ、いいのがまた引けたぞ。

 

「ターンエンドだ」

 

 実質1枚だけの消費で、私はターンを終えた。

 

「俺のターン」

 

 男のターンが始まる。

 

「レディ・アップキープ・ドローフェイズ。メインデッキから1枚、ライフデッキからカードを2枚ドローする……ッ!?」

 

 男が手札を引いた瞬間、男の顔が歪んだ。

 

 カードを引いた右手の肘が、黒く染まっている。

 

「おっと言い忘れていたな」

 

 私はその理由を知っている。

 だから親切に伝えてやろう。

 

「闇のファイトにおいてライフデッキは文字通り命そのものだ」

 

「……どういう意味だ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 闇のファイトは生命を以って抗う闘争だ。

 文字通り命をかける。

 

「フィヒヒ、ライフの管理には気をつけたまえ」

 

 まあ私たち、闇のファイターにとってはダメージはないのだがね?

 

 私のライフデッキはこの場に満ちる闇そのもの。

 全てを引き裂く光でもない限り、痛みも喪失もありはしない。

 

「気を抜くとあっという間に全身の感覚が消失し、最後には自分の存在すらも見失うぞ」

 

 そんなものはとっくの昔に捧げたのだから。

 

 

 

 

 

「――そんなファイトを、店長や子供にやらせるとかふざけんじゃねえぞ

 

 

 

 

 男の目つきが鋭く釣り上がった。

 

「おや、怒っているのかね?」

 

「キレねえ理由があったらいってみろよ」

 

「ファイターは公平だよ。生きることが誰にでも許される権利だとするならば、理不尽な死に抗うのが義務だといえる」

 

 人並み程度にはくだらない義侠心があるらしい暴力のファイターに、私は告げた。

 

「カードを握っているのだから真剣勝負だ。泣き言は許されない」

 

 そもそもデッキを持っていなければあっさりと喰われるだけで済むのだから。

 抵抗するほうが悪いのだ。

 

「メインフェイズ。カードを1枚コストゾーンに、土地(ゾーン)セットします」

 

 感情を無理に抑えてようとしているような声音。

 怒りで震えを押し殺しているのだろう、が。

 

「ターンエンドだ」

 

 何も出来やしない。

 見飽きた光景だ。

 

「私のターン、ドロー」

 

 男のデッキトップを見る。

 ほぉ、<圧力>……悪くはないカードだ。

 

 シャッフル前のデッキトップは。

 

「<未来審盤>の効果でさらにドロー」

 

 が。

 何もかも無駄だということを教えてやろう。

 

「土地をセットし、私は<喰手・指齧り>をプレイする。これは私が手札のカードを1枚公開することによって」

 

「通す」

 

「手札の土地を公開、効果は説明するまでもないな? 2/1・クリーチャー<指齧り>を召喚し、バトルだ」

 

 指齧りが走り出す。

 相手の盤面にはなにもない更地だ、止めるものはない。

 

 

 

「――優先権は放棄か」

 

 

 

「ん?」

 

「攻撃を宣言したということは、バトルフェイズ前の優先権を放棄するということでいいんだな」

 

「時間稼ぎか? そうだ、私は攻撃している!」

 

「1コスト支払い、瞬間魔法<納骨>をプレイ」

 

 目の前まで迫った指齧りの前で、男は魔法カードをボードにセットする。

 

「メインデッキからサーチを行ったため、デッキはシャッフルされる」

 

 デッキから排出されたカードが1枚、墓地へと送られた。

 ボードによる自動シャッフルが小刻みに男の分厚いデッキを混ぜ合わせていく。

 

 てっきり動けないと思っていたが、まあいい。現実は変わらない。

 軽いカードがたまたま手に入っていたようだが。

 

「ライフで受ける」

 

 停止していた指齧りの手が男を殴りつける。

 

 指齧りの攻撃によって、男のライフデッキが2枚流れ落ちる。

 1枚、土地。

 2枚目も、土地。

 

 運がないな、いや当然か。

 

「指齧りが戦闘ダメージをファイターに与えた時、効果発動! 貴様のカード1枚を、ランダムに廃棄する!」

 

「ッ!」

 

 男の手札もまた齧り取られたように墓地へと落ちる。

 

「むっ」

 

 手札とデッキから墓地に送られたカードを見る。

 

 片方は土地。

 

 墓地に送ったのは――<テスタロッサの墓守>

 コスト2のクリーチャー。

 確か効果は……特殊勝利カードだったか。

 

 自分のデッキの残り総数が、場にいるクリーチャー以下だった場合ゲームに勝利する。

 

「なるほど、そういうデッキか」

 

 最初のデッキトップにあった<増殖の仕組み>。

 そしてシャッフルしたあとのデッキトップは魔法カード<透過現象>

 クリーチャーを手札へと戻す(バウンド)効果を使うか、これをコストと共に捨てる代わりにデッキから軽い魔法カードをサーチする。

 

 くく、わかりやすいデッキだ。

 私にとっては都合がいいがなぁ!

 

「誘発効果! 対戦相手が手札からカードを捨てた時、指齧りのパワー・タフネスが1ずつ上昇する! これは首狩りも同じ効果を持つ!」

 

「喰手の共通デザイン効果」

 

 そう、ハンドグールは文字通り相手の手札(ハンド)を喰らう。

 自分の手を見せて食欲を煽り立て、敵の手を喰らい尽くしてカードを貪る。

 

 使いこなすのは難しいが、私にとっては最高のテーマだ。

 

「続けて、<喰手(ハンドグール)の首狩り>による攻撃! 通れば相手の手札を公開させ、クリーチャーか土地カード以外の1枚を選んで捨てさせる。無論強化されているため三点のダメージだ!!」

 

「ライフで受ける」

 

 男の即答と共に首刈りが、男を殴りつける。

 

 

 3点のダメージ。

 再び男のライフが削れ落ちる。

 

 1枚目、土地。

 2枚目もまた土地。

 3枚目もまた土地。

 なんだ魔石も呪言もないのか?

 

「さあ手札を公開しろ!」

 

 そうして提示させた男の手札は……酷いものだった。

 

「ハハハハハハハハハハハ!!」

 

 ()()()()だ。

 なんだこれは紙の束か?

 

 <残骸回収><増殖の仕組み><残らずの契約><植物戦鬼の故郷><熟考>

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 完全な手札事故。

 共鳴力無き相手の見慣れた無惨な姿だ。

 

「では、私はその秘宝カード<植物戦鬼の故郷>を捨ててもらう」

 

 それはカード1枚とコスト一枚を対価に1/1ゴブリントークンを生み出す、弱いレアカード。

 

 だがここまでダメージを受けたライフデッキを用いれば、展開のエンジンになりえる。

 まったく危ないところだったな。

 

「そして、首狩りが3/3に、<喰手(ハンドグール)>のパワーとタフネスが4に上昇だ!! ハハハハハ!」

 

「……」

 

 言葉も出ないようだ。

 勝ち筋となるキーカードを奪われて絶望したか?

 

 

「その絶望が貴様の運命だ、ターンエンド」

 

 

 私はターンを終えた。

 

「……」

 

「どうした。カードを引かないのかね? もしかしたら奇跡が起こるかもしれないぞ」

 

「……」

 

「おっと、そのデッキトップは<透過現象>だったな! すまない、もうわかっているのだったな!」

 

「……」

 

「遅延かね? それとも死ぬのが怖いか、気持ちはわかるとも。私と戦うものは皆同じことをした」

 

 微動だにしない男を見つめながら、私は優しく伝える。

 

「一つ、よいことを教えてやろう。私のデッキ、喰手(ハンドグール)を何故使っているのか……」

 

 

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 絶望的な情報を、教示してやった。

 

「わかるかね? 私は相手のデッキトップ、そして貴様の手札を見るだけで何をしたいのか文字通り手に取るようにわかるのだよ」

 

「……」

 

 絶句しているのだろう。

 男は答えない。

 

「まあ全てといっても、さすがに生命秘札(レガシー)や未だ秘匿されているだろう新規のカードまではこの頭脳には入っていない」

 

 コンコンと私はこの偉大なる頭脳を示す。

 

「だからこそ知りたいのだよ、全てが」

 

 私は知りたい。

 全てが知りたい。

 

「この世全てのカードを、このLifeの、世界の深淵の果てまでをも、知り尽くしたい! 味わいたい! 齧り尽くしたい!」

 

 そのために。

 そのためにならばなんでもしよう。

 何を捧げてでも、犠牲にしてでも。

 

「そのためにならば森羅万象全てをこの手に握りしめてやろう」

 

 私は闇の力を手に入れた。

 

 あの方と契約し、この力を手に入れた。

 

 

「故に我が名は<教授(プロフェッサー)>、万物を解き明かすものなり!」

 

 

 堂々と。

 私は己が名を、意味を謳い上げた。

 

 何度見ても飽きはしない、私を苦しめ続ける知恵への渇望を癒やしてくれる絶望の顔を見るために。

 

 

 

 

 

 

「お前の土地は2枚だけだな」

 

 

 

 

「? そうだが」

 

 気でも狂ったかのだろうか。

 そんなもの、この盤面を見れば簡単にわか。

 

 

 

 

 

360年定理(スリー・シックスティ・セオレム)

 

 

 

 

 

疑似霊素書込機(スペクターインストーラー)

 

 

 

 

残酷劇場(グランギニョル)

 

 

 

 

「そして、階差機関(ディファレンス・エンジン)

 

 

 

 

 

 4つ。

 奇妙な言葉を男は唱えた。

 

 カード名ではない、聞き覚えはない。

 

「……なんだ? 念仏というには意味のわからない言葉だが」

 

「お前は――【ウルトラ】じゃないな」

 

 ウルトラ?

 

「色々喋ってくれたサービスだ、予告してやる――お前、防げなかったらこのターンで死ぬぞ」

 

 なに?

 何をいって……

 

 

()()()()()()()()――俺のターン」

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

「コード・階差機関(ディファレンス・エンジン)の復号を開始する」

 

 

 

 




 それに挑んだのは偉大なる探索者たち
 支えたのは5つのモチベーションだった


                     ――暗号世界(エニグマ)
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