【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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朽木様より可愛らしいユウキちゃんのFAをいただきました!
く、曇ってない!?

【挿絵表示】





五十一話 土地は、1ターンに1回のみセット出来る。魔石をセットしていたらセットできない

 

 

 俺は嗤っていた。

 

「馬鹿め! 闇のファイトに持ち込みさえすれば、終わりなんだよ!」

 

 展開されたのは闇の領域。

 敵対する相手から共鳴率を奪い、その上で相手にだけダメージを与える必勝の力。

 

「泣き叫びな! テメエらはこれから本当の戦いってやつを知ることになる!」

 

「ふぅん」

 

 いらつくぜ。

 無駄にでけえ背丈しやがって。

 

「いつまでその余裕が続くかなぁ! アンティ!! 俺が勝利したらテメぇは俺に絶対服従の人形になる! その無駄にでけえ図体を弄ぶのが楽しみだぜ」

 

「ファイト終わったら、ししょーやにぃたちに囲んでボコられるけど、もう詰んでるよ?」

 

「うるせえ! テメエが俺を命がけで護るんだよ!」

 

「ぇー。ししょーたちのほうが強いから無理だと思うなぁ」

 

 ムカつくアマだ。

 あの気門道場の連中も連中だ。

 

 由緒正しき俺の道場、釈加破地(しゃかばじ)の棟梁である俺を相手にこんな小娘で十分だ?

 後悔させてやる!

 

 

「「ファイト!!」」

 

 

 

 ボードを起動する。

 先に点火したのは……俺のボードだ!

 

「俺の先行だ! ライフカードをドロー! 土地をセットして、<醜星の博徒>を召喚!」

 

 コスト1で呼び出せる最下級の1/1クリーチャー。

 ただの雑魚だが、これには使い道がある。

 

「ターンエンドだ!」

 

 さあ、どう潰してやろう。

 そんな事を考えていると、目の前の女は……ぼーっと立っていた。

 

「なんだ? 投了か、いいぜ! そしたら手間がはぶけるからよ!」

 

「ししょー」

 

 あん?

 

 こちらではない明後日の方角を見て、あちらはあのジジイがいたところか。

 

「本気でやっていーい? んー、わかった」

 

 なにか納得したように頷くアマ。

 

(わぇ)のぉ」

 

 ようやく動くか、そう思ってた女が片足を上げて。

 

 

「たぁーん」

 

 

 ――地面が揺れた。

 

「っ!?」

 

 闇の領域に覆われているはずの地面が、ビリビリと揺れた。

 さらに女は右手……いつの間に付けたのか()()()()()()()()()()()()()に、自分のボードを重ねて――掻き鳴らした。

 楽器のような金属音。

 何故か肌が粟立つ。

 

 そして、淡い光とともに右腕から右肩にかけて真紅の外套が広がっていた。

 

「闘争をはじめるよぉ」

 

「ッ……曲芸してんじゃねえよ!」

 

 嫌な空気がしやがる。

 俺がビビってんのか? こんな小娘に。

 

「レディ、アップキープ、ドローフェイズ! メイン・ライフをどろー! 魔石<気雲転命>をセットして、エンドぉ」

 

「……初手で来やがったな」

 

 魔石<気雲転命>。

 だがな、それは調査済!

 

「俺のターン!」

 

 その上から叩き潰すまでだ!

 

「ドロー! 土地をセットし、<醜星の博徒>で攻撃!」

 

 博徒が走る。

 護るクリーチャーもいない小娘に向かって、巻き上げた刀剣を片手に斬りかかる博徒。

 

「ライフで受けるよぉ」

 

「へっ」

 

 その余裕の小娘の顔に、思わず口端が釣り上がる。

 馬鹿め。

 

「ぅわ!?」

 

 博徒の斬撃に、小娘が吹き飛んだ。

 すかさずに回転して着地、受け身を取るのはさすが護るしか能がねえ芸当だが。

 

「驚いたか、これが闇のファイト。その力だ!! 今回はたった1点だが、次からはもっと力が増す――博徒の効果発動! <醜星の博徒>は攻撃を行った次のメインフェイズ、コスト1点を生み出す! それと合わせてコスト3で<稽星の屠殺鬼>を召喚!!」

 

 メイン2で呼び出したのは4/2の屠殺鬼。

 これが単体では下級クリーチャーに返り討ちに合うだけのタフネスしかない……と思うだろ?

 だが、こいつは【自分よりパワーが低いクリーチャー】と戦闘した時、+1/+1のカウンターを得る。

 脆弱な()を与えれば強くなり、防御をしなければ4点のダメージを受ける。

 

 この【梁山泊】デッキは闇のゲームにおいては圧倒的なシナジーを持つデッキだ。

 

 うちに生意気にも金をせびりにきやがった債権者共を実験台にして確認した。

 

「後悔させてやるぜ! エンドだ!」

 

「んー、(わぇ)のたぁーん!」

 

 変な喋り方しやがって、小娘が。

 ガキかてめえは。

 

「レディ、アップキープ、メイン・ライフドロー。土地をセットぉ」

 

 一発ぶちこんでやったというのに間の抜けた顔をしやがって。

 次の一発ぶちこんでもその顔が出来るか? 楽しみだ。

 

「1コストで呪言<気流の構え>をプレイ。ライフを1回復して、<気流の構え>を”裏向きでコストゾーンにセット”――【功】を1枚積むよ」

 

「……ッ」

 

 積んできたな。

 

「土地一枚と【功】カードをステイ(起動)、ねるねるね~」

 

 裏返したカード――【土地から功になった】カードが、音を立てて緑色の光を放つ。

 小娘のボードから風が舞い上がる。

 

「コスト1と”氣”1つで、<勇敢なる風撃・ダンド>を【疾走召喚】!」

 

 疾走召喚?

 聞き覚えのないクリーチャーの名前だが、その効果は知っている。

 

「速攻か!」

 

「疾走召喚したダンドは速攻をもち、ターンの終わりまで+1/+1強化される!」

 

 小娘のプレイによって、風を纏ったガキのようなクリーチャーが呼び出される。

 

「魔石<気雲転命>を発動。土地を一枚指定し、裏返してレディ状態にセット! これは次の我のアップキープに表返って元に戻る! これで2枚だよ」

 

「さらに積みやがったか」

 

「バトルフェイズ! ダンドで攻撃する」

 

「<稽星の屠殺鬼>でブロック! 返り討ちにしろ!!」

 

 屠殺鬼とダンドが戦闘(バトル)する。

 今のままなら屠殺鬼が2点ダメージで相打ちになる、が。

 

「<稽星の屠殺鬼>の効果発動! 自分よりパワーが劣る雑魚相手にパワーアップする、+1/+1の修整を受けてタフネスが3になる! 返り討ちにしろ!」

 

「ダンドの能力! 自分のパワー以下分のコストを支払うことによって、コスト分のパワーが上昇する」

 

「だがテメエの土地は使い切ってる」

 

「ただしこれを”気”で支払った場合、二倍の効果になる。さっき裏返した土地だった【功】一枚を起動(ステイ)して、2点分のパワーアップ!」

 

「4/4か! それで相打ちだぜ」

 

 馬鹿め。

 屠殺鬼を早めに排除したいからって、貴重なクリーチャーを無駄打ちにしやがった。

 

 

「ダンドは”機先”を持っているため、先んじて打ち倒すよぉ」

 

 

「なに?」

 

「疾風のごとくどかぁーん!」

 

 機先は、バトルを行った際に同時にされるはずのダメージを先に適応するやつだ。

 つまり、4点以下のタフネスしかもってない奴は一方的にぶち殺される。

 

 屠殺鬼がダンドの一撃で撃破された。

 

「ちぃ……!」

 

「これでターンエンドぉ」

 

 やはりあのデッキは……気雲流お得意のデッキか。

 うちの釈加破地(しゃかばじ)の競合相手。

 

 ――敏威屠打吽(ビートダウン)

 

 殴り合いならば大の得意ってやつだ。

 

「はん」

 

 だが、まだ一発もこちらに届いてねえぜ。

 一昔前の気門道場。

 それこそクソ親父が若かった時は優れたビートダウンの道場だったらしい。

 だが、それも昔の話。

 今はバーンだの、コントロールだの、コンボだの、違う系統に無節操に手を出して、まとまりがない。

 その上、くそ一番やべえ妖怪爺はあのプロ、星座からも引退しているただの隠居爺だ。

 他の連中じゃなくて、こんな小娘なんざを盾にしているのがその証拠だ。

 

 現役で、ビートダウンを磨き続けているシャカバジの……俺の敵じゃねえ!

 

 それに、()()()()()()()()()()()()()

 

「俺のターン! ドロー……はっ」

 

 ――来たな。

 

 後はいつ出すかだ。

 

 

 

 

 ◆

 

 

「まずはクリーチャーからの殴り合いだね」

 

「功って、あの裏向きカード?」

 

「そう。師範の……マリカちゃんのデッキ、【気導使い】は”気”コストを生み出す功を使いこなすものなんだ」

 

 ユウキちゃんの言葉に頷きながら、思い出す。

 

 あのデッキ、【気導使い】は独自のギミックを持っている。

 それが”功”と”気コスト”だ。

 

 功とは特殊なオブジェクト化にする能力だ。

 

 


 ――このカードを”功”にする(それを裏面にする。この効果で裏面になっている間、それは全ての能力、カード種別ではなくなり、以下の能力を得る)

   起動:(気)を加える。


 

 

 という能力を持ったカードに変化させてしまう。

 これには短期的なものと永続的なものがある。

 

 呪言<気流の構え>は発動時にセットされてずっと使える。永続的なもの。

 魔石<気雲転命>で自分の土地や魔石(ライフカード)を、次の自分のアップキープまで功にする。短期的なもの。

 

 この二つを始めとしたカードから功を積み上げ、発生させた”気”を運用して戦うのが【気導使い】

 

「通称”積功”デッキって呼ばれるタイプだよ」

 

 功夫を積む、と言われる大陸武術になぞらえて言われる呼び方だ。

 

「専用ギミック持ちとは中々面白いね。あまり使い手は見たことがない」

 

「土地とかのコスト以外に独自のコストを使う……んー? ちょっといまいちピンとこないです」

 

「あれの動きは何度も戦ってみないと実感出来ないからね」

 

 二人の言葉にボクは苦笑する。

 師範が現役だった頃から存在してるけど、その独自のギミックを使いこなすが難しいのか、中々新しいものが出てこなかったテーマだ。

 少し前にフツオくんがボクのコレクション(ストレージカード)からなんか集めて、買っていったけど。

 ボクは使わないし、謝礼の範囲だから無料で上げようとしたんだけど適正価格で買わせてくれって。

 領収書も出してくれって。

 なんでと思ったんだけど、代理で購入しただけだったみたい。

 あのマリカちゃんの出した<勇敢なる風撃・ダンド>も少し前に出たばかりのクリーチャーだったはず。

 

 奇遇だなあ。

 

 

 

「俺のターン! 土地を出して、3コスト<軸星の砲手>を召喚! バトル、博徒で攻撃!」

 

「ライフで受けるよー、土地ぃ」

 

「メイン2でコスト2! 通常魔法<轟天雷砲>を発動、てめえのダンドに2点ダメージ! 戦闘じゃないダメージが発生したから<軸星の砲手>の効果が誘発、てめえ自身に1点ダメージだ!」

 

「あぃてぇー、あ、呪言落ちた。<気流の構え>を発動、功を積んで、ライフを回復するよ」

 

「ち、ターンエンドだ!」

 

 

 

 

「ボロボロ呪言とか落ちるね」

 

「構えは、たった1コストで発動も出来るから最低土地一枚あればセットが出来る。受けたダメージも1回復で埋めるし、ダメージレースだとかなり有利」

 

「うん、積功デッキは構築によって左右されるけど、単純な殴り合いならそう簡単には負けない」

 

「でも、ダメージを受けてるけど大丈夫なのかな」

 

 そういうユウキちゃんの目は、マリカちゃんに向けられていた。

 闇の領域の中、クリーチャーに攻撃されて、今はバーンダメージまで受けた。

 

 闇のファイトは、精神を削るダメージに加えて、リアル化したダメージまで飛んでくる。

 だからこそユウキちゃんの心配は正しい。

 

「大丈夫。マリカちゃんも命衣流を展開してる、まだ限定的だけど」

 

「あのマントですか?」

 

「そう、あれで受け流してる」

 

 マリカちゃんの右手。

 それに嵌められた真紅の篭手、命衣流展開のための補助具だ。

 

 クリーチャーの攻撃に合わせて、そこから広がった外套で受けて、受け流してる。

 とんできた火力(バーンダメージ)もそれで受け止めて、怯みもしていない。

 

「気雲流は防御に特化した流派、と思われているけどそれは違うの」

 

「違う?」

 

「……生き残り、動けることを優先してる」

 

「そう。何事も五体無事で動けなければ逃げることも戦うことも出来ない。それはファイトにおいても当然、だからああやって捌く、凌ぐ、技術から叩き込まれる……人間は脆いから」

 

 ファイトは危険だ。

 テーブルで行うファイトならともかく、ボードを使ったものは衝撃を伴う。

 呼び出したクリーチャー、発動させた魔法に、ファイターからのコスト……生命力(オド)が込められる。

 それは小なり大なり、現実に影響を与える。

 

 そのもっとも極端で、歪んだものが闇のファイトといってもいい。

 

 これに耐えて、戦い抜くための技術、考え方が気雲流の流派だといってもいい。

 古流と呼ばれるファイターの習得する、武術類の多くが攻撃ではなく防御、受け身や、生命力を鍛え上げるための鍛錬を重んじているのはそのため。

 そして。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうなんだ……だから、闇のファイトでも」

 

「でも、油断は出来ない。情勢は有利とはいえていない、いざとなれば介入するべき」

 

「うん。闇のファイターだからね、それは師範もわかってるはず」

 

 出来るならば警察でも呼んだほうがいいんだろう。

 ここが気門道場でなければ万が一のためにも呼んでいた。

 けど、専門家である師範とその高弟たちが集結し、マリカちゃんの戦いを見守っている今のほうが安全だ。

 最悪今のボクだと難しいけど、サレンちゃんはユウキちゃんなら。

 

 ――闇のカードそのものを処理出来るだろうから。

 

 

「そろそろか」

 

 

「そろそろ?」

 

 ここまで黙って見ていた師範が口を開いた。

 

「動くぞ」

 

「動くぞ?」

 

 ユウキちゃんが首を傾げる。

 そういえばもう3ターン目。

 マリカちゃんの土地も、永続の功も2枚と揃ってきて。

 

 

「メインフェイズでぇ、通常魔法<百歩芯拳>を2コストで発動、X4点分をぉ気2枚で代用発動、5点飛ばすよぉ」

 

「あん?」

 

 タン、とボードにカードが置かれた。

 クルン、と功カードが二枚回転して気を生み出し。

 

発氣(ハッキ)よぉい」

 

 ヒュン、と降ろした右手から振り上げられた掌が音を出した。

 

「どーん!」

 

 ドゴンっと轟音を上げて、闇ファイターが斜め上に撥ね飛んだ

 

「は?」

 

 放物線を描いて。

 

「へぇ」

 

 飛んだ。

 

「あー」

 

 展開した領域の端っこに激突し、悲鳴が上がった。

 うごげぇ、と汚い声を漏らして呻いているからまだ生きていると思うけど、それで思い出す。

 

「え、なに? なんで、え、殴った?」

 

「違う」

 

「違う?」

 

()()()()()()()()()()()()()、っぽい」

 

「えっ」

 

 そうなのだ。

 気雲流は。

 

 

「闇のカードが出来ることが、普通のカードで出来ないわけがねえだろ」

 

 

 それが出来る。

 

「目には目を、歯には歯を、リアルダメージにはリアルダメージを」

 

 師範が言葉を続ける。

 

「痛みを押し付けてくるなら、それを倍で叩き返すのが公平ってもんだ」

 

 腕を組んだまま、罵声を上げながら起き上がろうとする闇ファイターを見下した目で。

 

「尋常のファイトでは当然禁じているが、闇カードに手を出すような外道には容赦はいらねえ」

 

 中指を立てて、凶悪な笑みを浮かべて叫んだ。

 

 

 

一方的に殴ることしか知らねえカスに、現実を教えてやれ

 

 

 すいません、師範。

 どう考えても悪人の顔です、それ。

 

 

 

 

 

 

 

 







 「目で見るな、肌で感じるな、骨で捉えるな、肉で打つな。
  心で見よ、心で決めよ、そこにあると信じて撃て」


                     ――秘境の唸り手ゼツジン(<百歩芯拳>より)

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