【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

8 / 103
夏コミにて配布予定の同人版の先行品です

全5~6話予定
ネタバレ注意なので、レガシー編の最新話まで読了推奨です





TURN1 色彩をセットし、オドを生み出す【劇場版先行品】

 

 

 走る、走る、疾走る。

 

「はっ、はっ、はぁ!」

 

 しゃがむ。

 背後から迫っていた影が掠める。

 最新の建築技術で作られたはずの壁に爪痕。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「”ドク”! ドク! 聞こえてる?!」

 

『聞こえて__る!』

 

 走る、走る、耳に当てた通信機から聞こえる声に叫び返す。

 

「なんなのあのカード!?」

 

『わからん! 私も知らないカードだ!』

 

「それってレガシーってこと!?」

 

『不明だ。しかし複数あ__ ̄ザザ』

 

「ドク? ドク!」

 

『_ ̄ザともザ――彼の_もザザザ――』

 

 通信機からの雑音、そして音が途切れた。

 なにかあった!?

 そう考えた瞬間、後ろから気配。

 

「ッ」

 

 踏み出していた爪先に集中した力を溜めて、高く跳ぶ。

 跳躍。

 グルンと回る。

 先生(マスター)のように無駄なく、丹田から力を込めて廻る。

 

 夜空、星、月、そして膨らんだ闘麗装(ドレス)の裾、自分の爪先。

 

「ふぅ!」

 

 着地。成功!

 息を吐きながら振り返る。

 

「……しつこいっ!」

 

 振り返った先にあったのは立ち並ぶビル群。

 夜間消灯の敷かれたものと未だに明るく輝く光の塔、巨大な壁に覆われた町並み。

 ()()()()()()()()()()()

 

 けれど、そこに見慣れないものがいた。

 

「ケケケ、逃げ回るだけか?」

 

 美しく輝く満月を汚すように佇むのは、姿勢の悪いジャンパー男。

 夜更けなのにも関わらず被るオレンジ色のバイザー、合わせたつもりらしいオレンジと黒のメッシュのジャンパー。

 日に焼けていないなまっちょろい肌、ダボついたダメージジーンズに銀色のベルト、そして黒いマスクを鼻下にまでずらした意味のない付け方。

 

「ファイトをよぉ」

 

 本来は高いだろう背丈が、猫背のせいで低く見える姿勢で。

 

「ファイトをしようぜぇ! お前らの大好きなさぁ、ファイトを!」

 

「うるっさい!」

 

 鳥みたいに甲高い声を上げる帽子男(バカ)に叫びながら――機導剣を振り抜いた。

 金属音。

 迫っていた刃を叩き落とした。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 マナーが本当になっていない!

 

「なんでおゥれぇに気持ちよくワンキルさせねえかなぁ?!! オレのたたーん!!」

 

 バカが叫びながら左手を振る。

 真っ黒で、ゴテゴテの趣味の悪いバトルボード。

 なんでか虹色に光ってる

 

「ドドロー! 色彩をセットしぃ、2コスで”スタロ”を召喚!」

 

 ギラつき光るボードに叩きつけられて、現れたカードを見て、息を呑む。

 感じる威圧感となによりも性能(スタッツ)は。

 

2コストで、3/1?!

 

「さらにここからぁ記録カウンターを2つセット! +1/+1修正が2つ重なる!」

 

 上昇する。

 そのステータスは……

 

「5/3!?」

 

「こいつは速攻・貫通を持つ! さらに通常魔法<スパイダーリフト>で、もう一枚の”スタロ”も場に戻すぜ! こいつはコストが2以下なら蘇生する!」

 

 引きずり出されるのはもう一枚の異形。

 金属であり、真っ黒に流星のような文様を描かれた――翼を持つ機械。

 

「場に出る効果でこいつも強化! バトル! 今度こそ死ねよ! 5・5の2つだ!」

 

機装防鎧(アームズアーマー)! 機装右腕(アームズライト)!」

 

 手をかざす。

 纏う鎧にコスト――精命力(オド)を流し込む。

 

起動(ウェイクアップ)!」

 

 励起。

 実体化させた武装(カード)を維持しながら、息とともに言葉(コマンド)を吐いた。

 

「<機装防鎧(アームズアーマー)・獣甲ネメーア>でどちらもブロック! さらにブロックに<機装右腕(アームズライト)つらぬきの丸剣(スティング)>を加える! 丸剣は【機先】がある!」

 

「馬鹿が! 1/1の骨董雑()モンがスタロに効くか!」

 

「足りないなら増やせばいい――墓地起動!」

 

 左手で指を鳴らす。

 

「墓地の魔石<ザ・スタンディング>を除外! これは瞬間発動で、クリーチャー1体のパワーを+2する! 右腕を強化、3/1に!」

 

 迫る異形に踏み込んで、機導剣(スティング)を振り抜く。

 

星描く翼(スター・ロード)()()()()()!」

 

 機先にて切り捨てる!

 

「くそが! もう一体は生き残る! 5点ダメ、全部ネメーアに!」

 

装甲(タフネス)3で軽減し、2点受ける!」

 

 衝撃。

 纏っていた獣甲が紙くずのように千切れ飛ぶが、歯を食いしばって色彩を回す。

 

「コスト2支払ってネメーアを【再生】! さらに……ダメージチェック! 色彩、呪言<戦の呼び声>発動! 次のターン、僕の【機装】が1増加する!」

 

 残りライフはわずかだが、まだ生きてる。

 まだだ。また戦える!

 

「ゴミが……! 生き残りやがって……!」

 

 ガンガンガンと苛つくように地団駄を踏む帽子男。

 

「さっさと死ねよ! なんで死なねえ!! あ゛あ゛!!?」

 

「死ぬためにファイトするやつなんているもんか……!」

 

()()()()()()()さっさとデカパイ晒して負けろや!!」

 

「はぁ?」

 

 なにいってんだこいつ?

 あまりのならず者、いやこちらでは変質者? いやならず者でいいやな仕草に、怒るより先に引いた。

 

「いきなり襲いかかってきて、なんなんだよお前たちは!!」

 

「うっせ、うっせ、うっせえ! もういいわ」

 

 こちらの問いを無視して、帽子男が趣味の悪いボードを掲げた。

 

遊び(ゲーム)は終わりだ。ガチで殺す」

 

「素直にやられるとでも?」

 

「ほざくな時代遅れ、型遅れの雑魚デッキが!! メインフェイズ、ツゥー!」

 

 来る。

 機動剣を構えて、少しでも息を整えるために吸って。

 気づいた。

 

 聞いたこともない音が響いてきた。

 

「あ゛?」

 

「なんだ?」

 

 なにかおかしい。

 どこから……上?

 

「なっ!?」

 

 上空を見上げる。

 そこにあったはずの満月は、血のように赤く染まっていた。

 

「月が!?」

 

 ビシビシとなにかが割れる音。

 

「ちっ、時間切れか」

 

「なにがお」

 

 帽子男の声に目を向けようとして、それは出来なかった。

 眼の前の光景が、歪んでいた。

 

 いや何もかもがぐにょぐにょに歪んで――

 

「き」

 

 声が出せない。

 何も聞こえなくて。

 最後に思ったのは。

 

 

 ――会いに行こうと考えていた人のことだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 走る、走る、走って駆けつけた影があった。

 

「くそ、どこだ!?」

 

 スピードを殺すようにアスファルトの地面を靴底で滑らせる。

 纏った羽織りの裾を翻しながら旋回。

 風のように舞いながら、周囲を見渡して、腰だめに鯉口を切った――刀を構えていた。

 

「どこだ?」

 

 それは少女だった。

 文明の明かりに照らされた小麦色の髪、それを結い上げた髪型に、凛々しい目つきを周囲に散らしている。

 普段ならば整った顔つきで見惚れるほどの美貌だが、その表情は焦りに歪んでいた。

 

「はぁ……はぁ、はぁ」

 

 羽織りに覆われた肢体は、普段ならば分かりにくいメリハリの取れた体を汗で吸い付けて、荒い呼吸と共に震えていた。

 その少女の側へと遅れて、もう1人人影が追いついた。

 

「セイラちゃん、はやすぎぃ、はぁ、はぁ」

 

「お前が遅過ぎる、シャトア」

 

「はぁ、普通だとおもうなぁ~~!」

 

 赤みのかかった金髪を汗ごと掻き上げて、無数のバレッタで止めた髪を揺らす少女。

 シャトアと呼ばれた眼鏡を付けた少女は上を見上げてから、息を整えながら周りを見る。

 

「いません、ねぇ?」

 

「何もわからないか?」

 

「はぁ……何か、スピリットの残滓は感じるんですが」

 

 絵の具で汚れた白衣のポケットを漁り、取り出したのは手のひらサイズの機械端末。

 そのライトを付けて眼鏡の少女は掲げた。

 

「これが一番やばいですね」

 

 ライトに照らされた壁は深い傷跡が刻まれていた。

 

「人間業じゃないですよ、これ」

 

 カシャカシャと音を立てる端末。

 

「……さっきまでの連中だと思うか?」

 

「でしょうね。私たちが襲われたのはあくまでもクリーチャーだけ、でも彼女は」

 

「わかってる。あの騎士道馬鹿め、1人だけ無茶をしおって……己たちをなんだと思っている」

 

 歯を食いしばる。

 羽織りの少女は息を吐きながら再度周りを見渡し……何の音も気配もしないそれに、頭を振った。

 

「これだけの騒ぎだ。すぐに”テンプル”がくる」

 

「噂をすればぁーなんか聞こえてくるー」

 

 遠くから聞こえるのはサイレン。

 やがてこちらにもくるだろう音に、息を吐きながら……未だに納めるきっかけを掴めない刀を握りしめて、羽織りの少女は呟いた。

 

「あの馬鹿め、どこに行ったんだ」

 

 

 

 

プレア

 

 

 

 

 

 

 






 打ち鳴らせ、戦いのゴングを!
 打ち震えろ、戦の呼び声に!

 これは生き残るための戦いなり!

              ――戦の呼び声
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。