【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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 大変おまたせしました
 ようやく過酷労働も一区切りついたので次はもう少し早く出せるよう努力します



 朽木様よりFAを頂きました!


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 ユウキちゃんのビフォーアフターです
 いやあ必死な顔がとても可愛いですね
 どうしてこんなチクショーが似合う顔になってしまったんでしょう


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 店長と瑞西刑事のFAを頂きました!
 まさかの瑞西刑事までついにイラストに!
 本当にありがとうございます!!



六十一話 ライフを支払うことは失うことにほぼ等しい

 

 

 それはあまりにも突然だった。

 ユウキちゃんが飛び出して病院の中へと入っていってしまったのは。

 

「ユウキちゃん!?」

 

 走り出していった彼女に手を伸ばして慌てて追いかけるが。

 

「私が!」

 

 ボクよりも早く駆け出した瑞西刑事が追い抜いていって、病院の中に入った。

 そこまでは見えた。

 

 次の瞬間だった、破られたはずの扉が黒くなって現れたのは。

 

 いや違う。扉じゃない、壁だ。

 ほ(・)ぼ(・)物(・)質(・)化(・)し(・)た(・)闇(・)の(・)障(・)壁(・)が(・)出(・)入(・)り(・)口(・)を(・)塞(・)い(・)だ(・)。

 

「くっ」

 

 デッキケースに手を伸ばして、それに意味がないことを思い出すのに数秒時間がかかった。

 今のボクにはレガシーがない。

 あの子がいなければ闇の障壁に立ち向かえない。

 

「セト! ユウキは」

 

「ダメ、もう入って行っちゃった」

 

「瑞西、全く無茶を」

 

「ファイトポリス。彼女の腕前は?」

 

「瑞西刑事は四課でも指折りの武闘派です。そこらの闇ファイター程度なら動く前に対処します」

 

 安藤刑事が安心させるためだろうか、そんな事を言ってくれるけどボクにはわかる。

 気休めだ。

 だって、この障壁の厚み、領域の濃さは……

 

「それが顔差し(ネームド)でも?」

 

 ボクの言葉に安藤刑事やサレンちゃんの顔が強張る。

 不安がらせたいわけじゃないけど、間違いない。

 

「この領域の濃さ、ただの闇ファイターじゃない。間違いなく顔差し(ネームド)だ」

 

 顔差し(ネームド)。

 闇のファイターの中でも固有名詞で呼ばれるファイター。

 災害でしかない人面獣心の怪物共。

 闇のカードはアンティで敗者に言うことを聞かせられる、賭けたものを支払わせ、守りたかったものを奪われる。

 そう奪わせる。

 それは具体的に形のあるものに限らない。

 

 誰かが考えた。命すら捧げられるのならば寿命を奪うことは出来ないのか?

 実行した。答えは出た。寿命を奪えた。

 誰かが考えた。自由意志すら捧げられるのならば、それが生み出すものを予約出来ないか。

 実行した。答えは出た。それが生み出す作品を、子供を、その運命さえ縛れた。

 闇のファイター共は欲望のままに、闇へと身体を沈めていく、やっていいこととやってはいけないことの境界線を嗤って踏み躙っていく。

 五感を、寿命を、手足を、肌を、顔を、名前を、財産を、それらが所有するものを賭けさせて巻き上げて、毟り取る。

 そうやって得た者共が人間であるものか。

 人間であることを投げ捨てた化け物ども。

 あのあまりの悪行に同じ闇ファイターでも別格、共通の忌み名、同類というにはおぞましすぎる連中。

 それが名指しならぬ顔差し(ネームド)。

 

 ”傾国蜘蛛”

 ”教授(プロフェッサー)”。

 ”断札王(だんさつおう)”。

 ”剥ぎ剃り嬢手(はぎとりじょうず)”。

 ”ドレスリーブ”。

 ”採集パージ”。

 

 教授だけは強すぎての有名が強かったが、それ以外は誰も彼もがろくでなしという言葉では生ぬるい化け物共。

 各々が独自のカード結社を立ち上げ、さらにはあの裏世界ネットワーク【ソリティア】に与していた人類の敵。

 

 まあそれらも全部あの聖座一位が壊滅させたんだけど。

 あと二位。

 

 かつて暗黒時代と言われた時代とそれを支えていた組織はもういない。残存勢力でさえも二位が叩き潰した。

 残ってるのは身一つで逃げ延びたネームドだけ。

 それでも確かそのうち二体は一位と二位に討伐されて、あと”傾国蜘蛛”は一位が旅行先で遭遇して過重労働の果てに過労死させられたはず。

 だから残ってるネームドは残り二体以下。

 あと”101人目”。

 スカーさんが言っていたネームド、あの化け物。

 目(・)玉(・)で(・)出(・)来(・)た(・)怪(・)人(・)。

 

「まさか……やつがここに?」

 

 だとしたら、まずい!

 

「ユウキちゃん!」

 

 あの子はレガシーを持っている。

 だけどそれでもあいつが敵ならまずい。

 

 壁を叩く。

 けれど闇の障壁はボクの手を通さない。

 

「セト! 障壁は壊せない! ユウキならレガシーがある、あの子なら」

 

「ユウキちゃんでも危ないの!!」

 

 あいつは、あの101人目は!

 

 もしもファイトをさせられているのならばまずい。

 あいつは。

 

 ――あの一位と四位でさえ殺しきれなかったヒトデナシなのだから。

 

「っ、マリカがいれば……なに?」

 

「なんだ?」

 

 サレンちゃんと刑事さんが不意に顔をそらして、ボクも気付いた。

 

 外から聞こえるファイトゾンビたちの声が大きくなっている。

 同時になにか響き渡る唸り声のような音。

 

「上から……?」

 

 それがなにか耳を澄ませようとして、次の瞬間その必要がなくなった。

 音の発信源が現れたからだ。

 

 跳んで。

 

 それは病院の上、高所の道路から跳んできた大きな車だった。

 前面に金属板とパイプを捻じ曲げたようなバンパーをつけたオフロード車(ランドクルーザー)だった。

 そして、それは前面になんか大きなクリーチャーを巻き込んでいて。

 

「スピード!」

 

「ふぁいとぉ!!」

 

 そのクリーチャーに蹴りを入れている見覚えのある男女があった。

 

「「イグニッション!!」」

 

 そんな叫びを上げて、上げて。

 真っ黒に染まった病院の壁に突っ込んでいった。

 

 ……ナンデ?

 

 

 

 ◆

 

 

「GO! ブレイブ、勇気斬!!」

 

「ロぉおおおおおおおおおす!!!」

 

 勇者王の一撃がそのライフを消し飛ばした。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 これなら……

 

「ロス、ロス、ロス」

 

 気持ち悪い鳴き声がまた聞こえた。

 

「まだ?!」

 

 化け物……目玉怪人(マン)が巻き戻るような動きで起き上がってくる。

 

「勇者王(レガシー)でもダメなの!?」

 

 闇のカードを砕いた感触と音はある。

 だけど、この目玉マンは倒れない。

 いや、倒れるけど蘇ってくる。

 これで斃すのは3回目だ。

 何度も倒してわかったことがあった。

 一つは頭の光、それが明確に弱まってる。

 削ったライフのダメージとあの光が連動してる。回復をすれば少し強まって、削られれば弱まる。

 3回の合計60点分も削ってかなり弱まっているけど、それでダメージを相殺してるのかまったく怯まないし、痛みを感じてないみたい。

 もう一つはあいつのデッキ。

 最初の1回目と2回目はライフドレインとハンデスを主体にした黒デッキ。

 3回目のデッキは青と黒の遅延カウンターデッキだった。

 狙いはわかってる。

 遅(・)延(・)と(・)デ(・)ッ(・)キ(・)情(・)報(・)を(・)抜(・)く(・)た(・)め(・)の(・)も(・)の(・)だ(・)。

 こっちのデッキに何が入っているのか、どういう動きをするのかを見極めるための動き。

 一回倒して、二回目に対応した動きをしてきて確信した。

 そういう動きをしてくる相手には覚えがある。

 具体的に言うとモブさんとサレンさんがやってくる。

 あの2人、ミラー対決じゃないとデッキ複数用意して来るんだよね。

 3戦マッチとかいう変則なテーブルファイトで、よくハンデスとかライフ回復での露骨な遅延をしてくるデッキを使ってくる。

 サレンさんは1戦目とか2戦目とかにデッキの構築抜いてくるためとか、長伸ばして集中力削ってくるし。

 モブさんは逆に用意したデッキを適当にダイス振って選んで、遅延デッキかな? と思ったらアグロとかバーンので速攻で殺しにきたり、三戦目でこっちのキーカード――マスカンだっけ? とかを抜いたりしてボコしてくるし。

 ひどくない? 卑怯じゃない? こっちデッキ一つしか使えないのに人でなしだと思うんだよね、二人とも!

 人の心ないんじゃないかな!

 

 なんて考えながらも、頭が痛い。

 胸が痛い。

 肺が痛い。

 段々とカードを出すのがきつくなってきた。

 普通のファイトとは比べ物にならない消耗がある。

 苦しくて、そんな場合じゃないのに違うことを考えてしまう。

 苦痛からの逃避というやつだ。

 そんなことまで考えて連想して思い浮かぶのはモブさんの教えだった。

 

 モブさん曰く――苦しい状態でどれだけいつも通りにファイトが出来るかどうかは大事じゃない。

 必要ではあるし、緊張とかでいつも通りのパフォーマンスが発揮出来る人は優秀だ。

 けれど一番大事なのは平時でどれだけ強くデッキを使いこなせるかだって。

 

 ――安定して強くプレイできる人は強い。

 ――けれど、それも高いプレイングがあってこそだ。いつだって調子が崩さなくても出せる点数が100点中30点じゃあ、調子が悪くて80点しか出せない人に勝てる道理はない。

 ――同時に、とても調子が良くて100点が出せるけれど、殆どの場合10点しか出せないプレイでは意味がない。

 ――平時で出せる点数を、繰り返す中で1点ずつでもいいから上げていけ。

 ――強くカードを切れる。その精度を磨き続けて、身体で覚え込ませて、頭で考えていることを経験で身につけるんだ。

 ――気持ちでカードは強くならない、怒りで基本的にカードのテキストは変わらない。ルールを捻じ曲げる事は出来ない。

 ――変わらない選択肢の中で最善だと思えるものを選び続ける力。

 ――それが君の実力になる。

 

 だから、私は思考が少しずつぶれていても、身体が憶えているままにカードを選ぶ。

 選んだ上で、それが使えるかどうか少しだけ考える余裕がある。

 だからまだファイトが出来てる。

 

「”その祈りに光亡く(PRAY MATTE)”」

 

≪また!≫

 

 また奇妙な構えと共に闇が濃くなる。

 周囲の廊下がネジ曲がっていき、逃げられない世界に取り込まれる。

 倒れてる刑事さんと社長ちゃんは見えるけれど、それ以外は全部真っ黒。

 人の声も、姿もなにもない。

 

「ロスロスロス」

 

 目玉の化け物が、頭に手を入れてぐちょぐちょと動かしてまた違うデッキを取り出した。

 その間にこちらもサイドボードからカードを入れ替えた。

 同じブレイバーデッキでも、使うブレイバーを二種類も入れ替えれば動きがかなり変わる。

 こちらのデッキに合わせての動きを取るだけなら普通に倒せる。

 

 ま(・)だ(・)戦(・)え(・)る(・)。

 

「……いくよ!」

 

 あくまでもまだ――

 

 

「ふぁい」轟音「と?」

 

 

 声が詰まった。

 

「え?」

 

 驚いて音がした方角をみた。

 

「あ?」

 

 目玉マンも見てた。

 音がした方向には亀裂があった。

 真っ暗な黒い闇の中に白く光る亀裂が浮かんでいて、また音がした。

 連続で音がして、亀裂が大きくなっていく。

 

「え? え? え??」

 

 

「殺ぁー!!」

 

 

 ドゴンっていう音がこんなにぴったりな光景を生まれて初めてみた。

 そこにはいつものチャイナ服に突き出した足を纏う赤い具足のマリカちゃんがいた。

 その後ろには光指す外の光景があった。

 

 あと壁を突き破って、なんか車っぽいのがあるんだけど。

 

「ユウキ!!」

 

「マリカちゃん!?」

 

 手にはレガシーカード。

 闇の障壁を外から解除したの?

 

「ファイト中じゃないみたいだねぇ! ならここからは我(わぇ)が!」

 

 まずい!

 マリカちゃんがファイトする気なのをみて、私は声を上げた。

 

「まって! こいつは普通の闇ファイターじゃない!」

 

「じゃあ、二人がかりで!」

 

「それなら……!!」

 

 それなら問題ないね!

 入れ替えたデッキをボードにセットしながら、目玉マンの方を見た。

 

「目玉マンは!?」

 

 いたはずの場所にいなかった。

 慌てて奥を見る。

 

 そこに目玉マンがいた、その手には社長ちゃんが。

 

「まずい! 逃げる気だ!」

 

「逃げるな、ファイトしろ!」

 

 

「ロス!」

 

 

 こいつ、中指を立てた!

 化け物のくせにむかつく仕草を――

 

「!」

 

 目玉マンの肩から火花が散った。

 

「刑事さん?!」

 

 目を覚ました刑事さんが倒れたまま銃を撃っていた。

 そのまま何度も火花が散った。

 

「彼女を!」

 

「はい!!」

 

 何発も撃たれて目玉マンが倒れた。

 その前に私は飛び出して、社長ちゃんをキャッチした。

 まだ目を覚ましていないのか。

 返事はないけど、呼吸はしてる。

 

「良かった、生きてる」

 

 

「まだだ!」

 

 

 どこかで聞いたような男の声に、顔を上げる。

 !?

 え、あれだけ撃たれてて死んでないの?!

 真っ黒な血をあちこちから流しながら目玉マンが跳ね起きていた。

 

「ろぉおおおおすぅ!」

 

 社長ちゃんを咄嗟に抱きしめて庇う。

 そうして私たちに飛びかかっきた目玉マン――は横(・)か(・)ら(・)伸(・)び(・)た(・)巨(・)大(・)な(・)爪(・)に(・)殴(・)り(・)倒(・)さ(・)れ(・)た(・)。

 

「剣虎掌!」

 

 マリカちゃんの伸ばした手から現れたディアホーンの爪だった。

 ゴシャリと文字通り怪獣に殴られた一撃。

 車に撥ねられたような錐揉みをしながら見えない壁にぶつかってどぷんと消えた。

 

「やった?」

 

 ……消えた?

 

「殺った?」

 

「どうだろう……あ」

 

 パラパラと周りの黒ずんだ世界が剥がれていく。

 

「倒せた?」

 

「――残念ながら逃げただけだ」

 

 外から亀裂……いやまって? よくみたら車の戦闘部分が突き刺さってる部分から声がした。

 ブロロと音を立ててバックして、開いた隙間から真っ黒い格好の男の人。

 

「”奴”は闇の領域を解除したドサグサに紛れて逃げただけだ。ネームドはあの程度では殺しきれん」

 

 スカーさんがエアバックの広がった車内から出てきた。

 あの車……ちゃんとエアバックあるんだ。

 

「ネームドって」

 

「奴の名は101人目」

 

「ッ、その名前って……」

 

 

「俺が追っている人間を辞めた悪鬼外道のクズだ」

 

 

 そうスカーさんが呟いたのとまもなく、声が聞こえてきた。

 それは叫び声でも、恐怖の悲鳴でもない。

 戸惑いに満ちた声と、看護師さんや医者を呼ぶ誰かたちの声。

 

「この声は」

 

「闇の領域が解除されて物質世界に戻ってこれたか……消化される前でよかった」

 

「病院はちょっと壊しちゃったけど、闇の領域に囚われてただけだから怪我はしてないよぉ」

 

「よかった」

 

 二人の言葉に安堵する。

 そして、思わず膝から崩れそうになって慌てて抱えていた社長ちゃんのことを思い出してぐっと堪えた。

 

 よかった……

 

 

 

 今(・)度(・)は(・)私、守れたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか空からモブが落ちてきた件について」

 

「いやあ死ぬかと思ったぜ」

 

「どうして車から飛び降りてクリーチャーを足場に墜落してくるの??」

 

「そういう流れだったんです」

 

「どういう流れなんだよぉ!?」

 

「あの少女……やはり気雲流か」

 

 

 

 だから私は外のほうでそんなへんてこな会話を店長さんたちがしていることを知らなかった。

 

 





 冷たい風と共にそれは突然訪れる
 不幸の訪れと一緒だ

                    ――魂啜の吸嘴鳥
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