【書籍化】俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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 朽木様より ドロシーのFAを頂きました!


【挿絵表示】


 いつの間にか呼び方が変わって。
 多分学校帰りとかに「あ、フツオくんって呼んでいいですか? ドアも苗字じゃなくて名前でいいですよ」
 とかってさらっといってやがったんですよ、この子。
 流石に呼び捨てだとまずいからってちゃんづけで 妥協したつもり(させた)んだ
 恐ろしい子!



六十七話 土地は基本と変容の二種類がある

 

 

 

 うーむ、考えていた流れとは変わってきたな。

 

「では、こちらが当店のバトルフィールドになります! BGMとか設定出来ますけど、なんか希望あります?」

 

「カタログはあるかの?」

 

「はい、こちらです」

 

 あるんかい!

 てっきり口頭注文ぐらいかと思ったがすっと取り出してきたカタログを受け取って、それを眺めながら考える。

 

 ……ちょっと見極めるつもりぐらいじゃったんだがな。

 

 カードショップMeeKing。

 セトの始めたこの店はここ数ヶ月で凄まじく様変わりした。

 去年の年末、見に来た時には相変わらずの様子で、掃除ぐらいしろとケツを引っ叩き、毎度やり忘れそうになる確定申告への税理士への連絡をするように叱りつけた。

 プロファイターとしての得ていた財産は一人で慎ましく生活するだけなら十分なだけあるはずじゃが、儲けることもせぬ道楽経営ではジリジリ目減りしていくのが目に見えていた。

 あれは完全に自分の人生を半ば投げ出していた。

 人刹の小僧と吾から口酸っぱくなるほど繰り返した説教も、発破を掛けても変わることがなかった。

 時が癒やす時間になればと放り込んだ学校にも義務的な知識と最低限の社交性を得ただけで、その本質は変わらなかった。

 友人と言える友人の一つも作らず、卒業をして家に引き籠もっていた。

 体だけが元気で育っているだけの半死体。

 

 それがかつての地柩セトじゃった。

 

 そのセトが事件に巻き込まれていた。

 メガバベルの日本支部の崩壊の一件は報告書で知って驚き、それにあの名高い教授(プロフェッサー)が関わっていたと聞いた時には止まりやしない心臓が止まるかと思った。

 それもあのセトが倒したという報告に驚いたもんじゃ。

 

 それからなんとかスケジュールと口実を作って見に来た時には、更に驚いたもんじゃ。

 まるで別物のようになった店のレイアウト。

 ネットでのカードショップ評価もきちんと良店評価で口コミもあり。

 部下の一人を覆面調査で送り込んだらなんかホクホク顔でコモンデッキとやらを買ってきたと聞いた時は、闇カードで洗脳でもされたかと疑ったが、渡されたコモンデッキには何の気配もなかった。精霊が宿ってるものもなし。

 調査用の提出品以外に、私物で買ったというコモンデッキ四種類もチェックしたが問題なかった。

 それがいっそ不気味じゃった。

 

 普通、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()

 簡単な素組み、並べて入れただけの雑多な紙束ならば殆どないが、意図して組み上げて、カードの選別に、ファイトで使ったものであれば強く染み付く残り香というべきものがある。

 それがなかった。

 ”覇手”の奴が組んだ殺意と楽しさの入り混じった気配でもなく、”魔王”の奴が意図的に濃度を変えて染めたデッキでもない。

 近いとすれば”魔王”の奴があえて手袋とスリーブを付けて造り上げた【プレーンデッキ】。

 あれが素組みと呼ぶ代物に近い、が。

 そんなものを意図的に量産する理由があるか?

 

 そして、この店のレイアウトの変更、売り上げ、レンタルデッキになによりも……セトの変貌。

 全てがこの少年。

 茂札普夫(もふだ ふつお)がバイトとして入ってきたことから始まっておる。

 

「起動完了しました。BGMは決まりましたか?」

 

「む、少し待て」

 

 その少年から掛けられた声に慌ててカタログを見直す。

 むむむ、結構あるな……カラオケ屋か? しかしファイトでのBGMサービスは悪くない。

 大会だと入場での曲ぐらいは決められるが、ファイト中での曲は大体大会ごとでの選定じゃし。

 ううむ、これはわりと流行りそうなサービスじゃな。

 と、いかんいかん。

 

「和風ロックの03……いや、メルヘンの02で頼む」

 

 思考がよそにいこうとしていたのを切り替えて、曲を選ぶ。

 

「メルヘンですね、よろしいですか?」

 

「うむ。普段なら和風ロックが好きなんじゃがな、TPO(てぃーぴーおー)じゃ」

 

 この格好で和風ロックというわけにもいかんじゃろう。

 ()()()()()

 

「ボードはいかがしますか?」

 

 チラリと少年の視線が、吾の左手を見たのが見えた。

 

「レンタルでの貸し出しも出来ますけど」

 

「問題ない」

 

 左袖をめくり、嵌めた腕時計に触れる。

 

「吾のボードはここにある」

 

 起動する。

 展開する。

 腕時計に仕込んだ投影映像――式盤。

 地を司る円環の方陣、記した12の方位、刻んだ10の天干、吉兆を司る東西南北の4門。

 

「吾は古い人間でな、レトロなやり方が性に合っておる」

 

 この上に、天となる専用のデッキケースを重ねて成り立つ。

 今は古き時代のファイターの祭器。

 

「わお、ファンタジー」

 

「なんじゃ、少年。上のファイターというのは大小なれどもこんなもんじゃよ」

 

 一位と二位は違うベクトルでふぁんたじーじゃがな。

 

「さて。始める前に言っておく」

 

「なんでしょう」

 

「吾のデッキはメインデッキではない、サブデッキじゃ」

 

 ポーチから取り出したデッキケース。

 

「さすがに一般人相手に、それも公式試合でもないのに使うと色々問題での」

 

 その中身を取り出して、シャッフルしながら告げる。

 

気軽(カジュアル)に遊ぶ用のデッキじゃが、気を悪くするでないぞ」

 

 十二聖座(ラスール)に限ったわけではないが、プロのメインデッキというのは神秘に満ちておる。

 構築を秘匿し、切り札を覆い隠し、どのように戦うかいざという時まで磨き上げる。

 それがプロというものだ。

 

 まあ吾やあの一位(どアホ)やあの二位(くそぼけ)は別段気にはしないが。

 それでも吾には一応立場というものがあり、率先して無視するわけにはいかない。

 故に気楽なファイト用のデッキというのは必要で、持ち歩いている。

 

 少なからずファイターとしての誇りがあるならば、少なからず不快感を覚えるような通達。

 

「いえ?」

 

 それを何故か少年はコテンと首を傾げて。

 

「気なんて悪くするわけないですよ。いやさすがにそこらへんでサクッと買ってきたカードで作った即席デッキで! とかなら色々考えますが」

 

「共鳴任せのデッキもまあまあ悪くないがの?」

 

「それでも最低限調整はして欲しいですよね」

 

「それはの」

 

 

 


 

「う、何故か胸に痛みが!」

 

「成長痛?」

 

「そうかなぁ、そうかな!? やったー」

 

≪騙されちゃだめだよ!≫

 


 

 

 

 なんか遠くから聞こえた気がするが、それは置いといて。

 

「どんなデッキであれ、プロ(貴女)が作ったデッキなら――全霊で挑ませてもらいます」

 

 そう。

 少年はとても楽しげに言った。

 

使い手(ファイター)が貴女ということには変わらない」

 

「ふむ、嬉しい事を言ってくれるのぅ」

 

 まあ使うデッキで織り手(ファイター)()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは共鳴を意識せぬ一般人からすれば差はわからんか。

 

 まあだからといってこれは手を抜いて作ったデッキではないがの。

 

「吾は強いぞ。あまり凹まんでくれよ?」

 

「大丈夫です! 容赦なくギタギタにしてください、ぜひとも! 全力で!」

 

「お、おう……そろそろ始めるか」

 

 シャッフルを終えたデッキを展開したケースにセットし、グルリと回す。

 方位よし、今日の吉兆は……ふむ、こちらか。

 

「こちらも大丈夫です」

 

 同時に少年も行っていたシャッフルを終えて、展開したバトルボードにセットした。

 ボードの機種は何の変哲もない市販品。

 改造の類は……ないな。

 ただよく磨かれておるし、展開もスムーズ。きちんと手入れをしているようじゃ。

 評価が少し上がる。

 

「では、バニラ! BGMを流せ!」

 

「あいあいさー」

 

 ポチっとフィールドの外で見守っておったバニラが、リモコンを振った。

 同時に吾の指定したBGMがフィールドに流れ始める。

 

「では」

 

「それでは」

 

 

「「ファイト!」」

 

 

 闘争(ファイト)の宣言と同時に吾のボードに、光が宿った。

 

「吾のターンからじゃ」

 

 手札を引き抜く。

 

励起(レディ)維持(アップキープ)抽出(ドロー)

 

 手順を口述し、流れを理解する。

 

「メインはなし、ライフのみ2枚引く」

 

 手札を確認。

 まあいつも通りか。

 

「土地<冷たき白波>をセット」

 

「ッ、ダメージランド」

 

「如何にも」

 

 少年の反応に、頷いて返す。

 

 吾が出したのは変容土地と言われる特殊な土地。

 これの利点は基本的な土地と違って複数の色が選んで出せる。

 デメリットは基本土地と違ってダメージを受けても場に出せず、墓地に送ること。

 

「<冷たき白波>を起動、(白)を生成」

 

 そして。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 バトルフィールドによって軽減された衝撃に従い、ライフデッキ(生命の識層)の上1枚が飛び出し……場に降り立つ。

 

「チェック。基本土地じゃ」

 

「土地が2枚か」

 

 少年は鋭く吾の場を見る。

 ……ふむ。相応に場馴れはしているか、当然か。

 下調べでは幾つかのカードショップの大会、公認のものを含めても優勝、準優勝経験がある。

 アマチュアとしては間違いなく強者。

 

 だがまだ始まってすらいない。

 

 手札から引き出した力札(カード)に、息吹(コスト)を込める。

 

「1コストにて、<ハイステア・スレイブ・ハンド>を召喚」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「場に出たことによりデッキトップから2枚墓地に送る」

 

「……懐かしいカードですね」

 

「? まあ古いカードじゃからな」

 

 このカードを知っているのか?

 ハイステアシリーズは、今どきのカードシリーズとしては収録されていない時代遅れ(アンティークカード)だ。

 ステータスこそ高いが、当時としてはデメリットがでかく、可能性であるメインデッキを削るリスクがあった。

 企業共が生み出している現行のカード類と比べても他に能力がなく、複雑な挙動は出来ない。

 

 が。

 

「まだ動くぞ――誰彼(たそがれ)にて(0)を宣言する」

 

「たそがれ……」

 

 手札より抜いたカードを場に配置し、唱える。

 

「手札より<別れの紙船>を召喚。代償に()()()()()()()()()()()()()

 

 墓地のカードを一枚引き抜き、除外の領域に移動する。

 これで除外は1枚になった。

 

「――未亡人形(ウィ・ドール)ですか」

 

「ほぅ。博識じゃな」

 

 少年の言葉に、少しだけ口の端を上げる。

 ダメージランドといい、知識はあるな。

 評価をまた少し上げる。

 

「今年になって56位まで上げた小娘が使っておってな。動きも面白く、真似させてもらっておるのよ」

 

 とはいえ表立って褒めることではない。

 

「バトルはなし、エンドフェイズまで進む」

 

 どこぞで今口に出した56位の試合記録を見たのかもしれない。

 

「どうぞ。エンドまでありません」

 

 百命が使っているデッキのカードぐらいは当然知っておるべきだし、そこからどう戦うのか、それが知りたい。

 

「では、エンドフェイズにスレイブハンドの維持コストとしてデッキトップから1枚墓地に送るぞ」

 

 デッキトップから引き抜いたカードを墓地に重ねながら、考える。

 

「これにて、今度こそ展開終了(ターンエンド)じゃ」

 

 場には0/4のスレイブハンド、1/1飛行の紙船に、土地は2枚。

 そして、除外が1枚とメイン墓地にカード()が2枚。

 吾としては馴染みのあるいつも通りの展開。

 もう少し()は増やしていくが、そういつも通り。

 

 縛り手の少年よ。

 

 呪われし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 お主の目的はなんだ。

 お主は何故ここにいる。

 

 そして。

 

 あの子(セト)の保護者として、あやつが欲しいならば相応の価値を見せてみろ。

 

「お主のターンだ」

 

 さもなくば――吾は許さぬぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ハイステア+未亡人形。

 ――アンティークフォーマットでの白黒デッキの定番の一つ。

 ――それに白と青の変異土地。

 ――ダメランでの切腹ターボに、出た土地は赤。

 ――詰め込みめいた土地の出し方。

 ――次はペインランド辺りで無色オドと基本土地でも追加出ししてくるか。

 ――トッププロならではの運命力前提。

 

 理不尽極まる動き。

 

 紙船は0コスで出せるから判断材料にならないが、これで黒赤の変異土地をいれてるなら4色備えているか?

 未亡人形をメイン軸に採用してるならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 秘宝などでの色変換もなしで、変容土地と出した土地だけで全色揃えるつもりか。

 いいね。

 この理不尽。

 たまらねえ。

 

「俺の」

 

 見せてくれ。

 今世のLifeの、カードのトッププロ。

 観せてくれ。

 理不尽を魅せてくれ。

 ギタギタにされるぐらいに絶望させてくれ。

 えげつない高みを見せてくれ。

 

「ターン!」

 

 それでこそ。

 

 紙でしばき合う甲斐がある!

 

 





 それをめくれば知る自分になる。
 それをめくれば知らない自分を失う。
 得るとは失うことである。

             ――始まりの表紙 
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