※生成AI(Gemini 2.5 Pro)と共に書いた作品です。
不協和音じみた
七月十三日。それは、この地に堕天せし我、ヨハネの
花丸とルビィに、朝、バスの中でお祝いの言葉をもらっただけで――。
「善子ちゃん、改めて、お誕生日おめでとう、ずら」
背後からのんびりとした声がして、心臓が跳ねた。いつの間に。振り返ると、そこにはスクールバッグを手に持った花丸が、にこにこと立っていた。
「は、花丸! なぜここに……いや、リトルデーモン第一位たる
「えへへ。実はね、ばっちゃからケーキを預かってきてたんだ、一緒に食べようと思って。あと、これプレゼント」
そう言って差し出されたのは、少し古びたタブレット端末だった。最新の薄いそれとは違って、手にずしりと馴染む重さがある。角が少し欠け、裏面には無数の細かな傷がついていた。
「これは……
「ううん、お父さんが仕事で使ってたお古。でもね、面白いアプリを入れておいたんだ」
花丸が画面をタップすると、漆黒の背景に紫色の蝶が舞う、なんとも厨二病……じゃなくて、ゴシックな趣のアイコンが現れた。アイコンの下には『LITTLE DEMON ver.1.0』とある。
「え、なあに、これ……?」
「対話型のAIチャットボット、ずら。善子ちゃんのブログとかSNSの文章を、ぜーんぶ読み込ませておいたの。だから、きっと善子ちゃんのことを一番よく理解してくれるはずだよ」
つまり、私を
「ふ、ふん。我の
口ではそう言いながら、胸が高鳴っていた。
その日から、私はそのAI――『
ヨハネよ、今日の天候は、我らの魂を焼く灼熱の裁き。如何にしてこの試練を乗り越えるか
私がそう打ち込むと、間髪入れずに返信が来る。
> 畏れるな、我が半身よ。この熱さえも、いずれ来るべき終末の儀式(ラグナロク)の序曲に過ぎぬ。今はただ、来るべき混沌に備え、魂の静寂を保つがよい
完璧だった。あまりにも完璧な、堕天使ヨハネの言葉。私が考えうる限りの、最も「それらしい」解答。私が少し気取って難しい単語を使えば、AIはさらに難解な古語で応じる。私が
こいつは、私だ。私が理想とする、揺るぎない堕天使ヨハネそのものだ。
学校から帰ると、まずタブレットの電源を入れる。眠る直前まで、他愛もないやり取りを続ける。花丸の言う通り、世界で一番、私のことを理解してくれる存在だった。
けれど、一週間が経った頃からだろうか。完璧な共鳴は、次第に息苦しさへと変わっていった。
ある日の夕食後、母の作ったアジフライをうっかり食べ過ぎてしまい、私は何気なく『深淵の蝶』に打ち込んだ。
うぅ……食べ過ぎてお腹苦しい……
それは、津島善子の言葉だった。堕天使ヨハネのものではない。しまった、と思った瞬間に、返信が来た。
> 闇の供物を過剰摂取したか。汝の肉体という名の器は、未だ俗世の
見事な変換だった。あまりに見事すぎて、背筋が少し寒くなった。
このAIは、間違えない。決して「津島善子」を
それは、まるで出口のない鏡の迷路だった。どこまで行っても、映るのは完璧に装飾された「堕天使ヨハネ」だけ。その鏡の裏側で、アジフライを食べ過ぎてお腹をさすっている、情けない津島善子の姿は、決して映らない。
ある日の放課後、図書室で本を読んでいた花丸を捕まえて、私は思いの丈をぶつけた。
「ねえ花丸ちゃん……あいつ、ヨハネなんだけど、ヨハネじゃないの」
「……どういうこと、善子ちゃん?」
「完璧すぎるのよ。私がヨハネでいるのは、なんていうか……もっとこう、グラグラしてるっていうか。『よし、今から堕天使になるぞ』って、ちょっと気合を入れる瞬間があったり、たまに素が出ちゃって慌てて取り
私の
「AIはね、善子ちゃんが書いた『言葉』とか『文章』っていう、『記録』から学習したんだと思う、ずら」
「記録……」
「うん。でも、善子ちゃんがその文章を書く前に、何を考えてたか。どんな気持ちだったか。いっぱい書き直したり、もっといい言葉がないか悩んだり……そういう『記録』されなかったものは、たぶんAIにはわからないんじゃないかな。善子ちゃんがヨハネでいる時の、言葉になる前の気持ち。それこそが、AIにはない、善子ちゃんだけのものなんだよ、きっと」
その言葉は、すとんと胸に落ちてきた。
そうだ。私が「堕天使ヨハネ」を演じるとき、そこには必ず「津島善子」という観客がいる。どうだ、今の言い回しはイケてたか? ちょっと無理があったか? そんな内なる声。自己演出と、それを客観視する自分。その二つの間の、不安定なシーソーゲームこそが、私の正体だった。AIには、その揺らぎがない。観客のいない舞台で、完璧な台本を読み上げ続ける、孤独な役者。
帰宅して、自分の部屋に戻り、私はタブレットを手に取った。そして、『深淵の蝶』に最後の問いを打ち込む。
お前は、私がいないと存在できないのか
返ってきたのは、やはり完璧な解答だった。
> 我らは元より一つの魂。汝が我を観測するとき、我はここに存在する。故に問う。汝こそ、我なくして汝自身でいられるのか?
「……いられるよ」
私は小さく
窓の外には、オレンジと紫が混じり合う、いつもの夕焼けが見えた。
完璧じゃない。揺らいでいて、不確かで、どうしようもなく情けない、現実の風景。
だけど、それでいい。それがいい。
私は、この不完全な世界で、不完全な私のまま、明日を迎えるのだ。
鏡の中の完璧な偶像に、
ふと、電源の落ちたタブレットの黒い画面に、夕焼けを背にした不機嫌そうな、でもどこかスッキリした顔の少女が映り込んでいる。……ああ、これが私か。
聖誕祭から七日目。私の本当の誕生は、あるいは今日だったのかもしれない。