銀河辺境戦記 〜鋼鉄の使徒と剣の惑星〜 作:モイクス・カルヴス
国際治安支援部隊や独立国家連合軍は関係ありません。
リボン付きは出てきませんのでご安心ください。
「止まれ旅人! 名、出身、そして目的地を述べよ! 関税対象となる積荷があれば申告せよ!」
石造りの巨大な城門に半開きの戸。
その前に立つのは槍を持った兵士が何名か。
鎖帷子に刃渡り50cmほどの剣を携行している。
これなら俺一人で十分だな。
「海兵隊第一師団所属ウォルター・フェン中尉! 太陽系第3惑星地球出身! 目的地はロムルスだ! 関税対象はわからんからそっちで見てくれ!」
しまった。
今は大佐だし分遣隊隊長だった。
いや辺境銀河域探査任務群司令か?
「ケントゥリオを、お呼びしろ!」
フィロパトルをチラリと見ると、特に何も気にしてなさそうなので多分大丈夫なんだろう。
上官らしき人物が部下と一言二言話してこちらに来た。
でっけぇトサカを付けている。
「……その腰の物、見たことのない作りだな。どこの工房の作だ?」
「M22、I.S.A.F.という工廠の作だ。軽い! 扱いやすい! ちょっと高い! の3点セットだ」
「アイサフかぁ、聞いたことないなぁ。ま、今度売ってたら買ってみるよ」
まぁ、もう目にすることはないと思うがな。
「さて、取り調べは終わった。行っていいぞ」
「いいのか?」
「ああ、これ以上引き留めても意味はないだろう? 違うか?」
「ええ、そうですね。ありがとうございます」
フィロパトルが割って入って小銭を渡す。
ま、迷惑料だわな。あとで返しておこう。
っとそうだ!
「すまん、1つ忘れていた」
「どうした?」
「ハンス・シュトレロヴ少尉と名乗るやつがいたら仲間だ。通してやってくれ」
「はいよ、お安い御用だ」
「ま、待て! このヴォルシニイを通過する全ての富は記録され、そして納税されねばなりませぬぞ!」
なんだこのデブ。
「なにせこのエトリア属州の税収は全てあの偉大なるグナエウス・ポンペイウス閣下の管理下にあるのですからな」
「よろしいですか? 徴税官殿。私が責任をもって確認したのを信用できないと。私が信用できないとおっしゃるのですか?」
「む、そういうわけではありませぬ。しかし法は法です。つまりはそういう事ですぞ」
「そうですか、そうでありますか。おい! 徴税官殿はご乱心だ! 独房へぶち込んどけ!」
「な、なに! 貴様らァ! この事は必ずや――ム、ムグッ!」
ぱっぱと兵士に取り押さえられて連れ去られていった。
あれでいいのか?
汚職は不味いが軍部の増長はそれ以上にマズイ。
だから内政改革が大事だとあれほど。
ま、いっか。
「フィロパトル。すまんが迷惑料を増やしといてくれ。あとで必ず返す」
フィロパトルは何も言わずに渡しに行き、何か話して戻ってきた。
「さ、行こうか」
「そうですね、行きましょうか」
ここがヴォルシニィか。
独特な雰囲気だな。
なんだか明るいんだか暗いんだかわからない。
狂気をはらんでいるような気もする。
「もういい時間です。宿と食事を用意しましょう」
「むぅ。金が無いんだなぁ」
「遠慮なさらずに、いいですよ」
「ありがとう、フィロ」
フィロは何も言わずにずけずけ歩いていくので付いていくと、2階建ての酒場についた。
すげぇ匂いだな。
ワインやら香辛料やら家畜の糞尿やら。
こんなもんなのかな?
にしても喧騒にまみれたパブだな。
所々で喧嘩さえしている。
「宿と何か食べられる物を二人分」
フィロが青銅貨を何枚か叩き付けた。
店主は何も言わずに食器を用意している。
「はいよ、煮込みとパンだ。部屋は二階の大部屋を使いな」
「釣りは無しか?」
「景気が悪いんだ、なんでも高い」
「わかった、すまない」
フィロは端的な会話を済ませて飯を食べ始めた。
「あんなもんなのか?」
「実際物価は高い。しょうがないだろう」
そういう事じゃないんだが、まぁいいか。
にしてもあれだな、言葉遣いをよく変えるな。
「うっ」
何だこりゃ、塩っ辛くて味がない。
パンは死ぬほど固い。
こりゃ戦闘糧食と変わんないな。
ハンスには堪えるかもな。
* * *
あと10分ほどで目的地だ。
大佐は忘れん坊だ。
通貨もコンバットスーツもライフルさえ忘れていった。
おかげで僕はコンバットスーツの最大負荷ギリギリの不整地を時速80kmというアナポリスでは絶対にやらない無茶をやらされている。
でもそれほど悪くないとも思う。
みんなヒドい事はするけど悪い人じゃない。
小隊のみんなは先に死んでしまった。
僕はこれからどうなるんだろう?
こんな星で何をするんだろう?
ここではアナポリスで教わったことは何一つ通用しない。
首席なんて意味がない。
そうだ、みんなは何をしようとしてるんだ?
艦の被害は、復旧は絶望的だって言うじゃないか。
もう帝国には帰れないんだ。
家族にも会えない。
僕は、僕は何のために生きてるんだ?
祖国と平和と家族を守る為だった。
この場において何が平和だ?
家族も、祖国もいないこの星だ。
気が付くと、立ち止まっていた。
やるせない、気だるさだけが身体を這ってゆく。
水音がする?
湧き水だ。
歩きながら近づくと、岩の間から静かに水が流れ出ていた。
僕は衛生的なリスクを忘れて水をすすった。
おいしかった。
僕は生きていた。
さぁ、走ろう。
走りながら考えを巡らせる。
僕はただ一つ、このささいな幸せを他人と自分で享受できる世の中を作りたい、と思った。