銀河辺境戦記 〜鋼鉄の使徒と剣の惑星〜   作:モイクス・カルヴス

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正午の酒場

必要な移動用品はだいたい買った。

街道沿いには宿場町もあるので、量はある程度で十分だった。

あとはフィロを待つだけだ。

というわけで酒場で昼食片手に昼間から酒を飲む。

 

「隊長、どうするんです?これから」

「どうもこうもない。フィロを待つ」

「そうじゃありませんよ」

「じゃあロムルスへ行く」

「そうじゃないんですって!」

 

喧騒にまみれた暗い室内に声が響く。

そうは言ってもなぁ。

戦術目標はあっても戦略目標はない。

 

「わからん!エド少佐に聞け」

「そんなぁ!隊長は、ウォルター隊長は何がしたいんです?」

「なんも無いな。飯が食えればいい」

 

自分で言ってその通りだと思う。

ただし!死ぬのはいいが、殺されるのはごめんだ。

仲間も、自分もだ。

 

「そういうお前は何をするんだ?」

「みんなで幸せになりたいです」

「お前にゃ無理だよ」

 

まず能力がない、経験がない、モノを知らない。

あどけなさが残る顔はまっすぐとこちらを見ている。

 

「自分は未熟者です。それでも私のできることをしたいのです」

「では聞こう。貴様のできる事とは何だ」

「わかりません。しかし、私はやりたいのです」

「ま、いいんじゃないか?やってみろ」

 

兵士は思想を持つべきではない、とは言わないでおこう。

真剣な顔だ。絶望することも経験だな。

ふと気になって聞く。

 

「みんなとは誰の事だ?」

「この星に生存する生命全てです」

「そうか、努力するんだな」

 

圧倒的な科学技術でこの星の奴らを家畜化するのか?

それとも帝国に編入するのか?

 

「お前は帝国に帰りたいか?」

「そりゃもちろんですよ、家族もいますから」

「そうなのか?」

「ええ、妹と母がおります」

「それで何故軍に入った?」

「自分の先祖は皆軍人でしたので」

 

軍人家系か、わからんな。

 

「隊長は何故軍に?」

「もとは星系軍だったんだよ。半ば徴兵でな、それがいつの間にやら帝国軍の正規軍だ」

「では故郷は?確か地球という星でしたよね?」

「俺の家族は脱出中の輸送船に乗っていた。俺は敵と船団の間で戦っていた」

「...」

「地球は守ったよ。半包囲で船団は壊滅、まぁ昔の事さ」

 

そうだ。昔のことだ。俺にはもう関係ない。

ハンスは黙り込んで覗うようにこちらを見ている。

 

「帝国がどうだが、臣民がどうだが、俺には関係ない。俺はこれしか飯を食う方法を知らん」

「僕も同じですね」

「僕も家族に流されるままに軍学校に入りました」

「俺だってそうだ。周りに流された」

「首席にはなったものの、そこで得たものなど......」

「俺も失ったもののほうが多い」

「ま、こんなとこで傷の舐め合いしてもしょうがないな」

 

コイツと俺の差は経験と持ち物か。

少し不貞腐れながら酒をあおる。

 

「お待たせしましたか?」

 

後ろからフィロに声をかけられた。

同時にフィロが席に座る。

上等な外套に身を包んでいるようだ。

 

「首尾はどうだ?」

「とりあえず、馬車を一台と馬が二頭。それから少し小物を」

「完璧だな。明日の早朝に移動開始だ」

「午後はどうするんです?」

 

珍しくハンスに口を挟まれる。

考えてなかったな、フィロはどうかな?

フィロに目線を向ける。

 

「特にするべきこともありませんし、飲みますか?食べますか?」

 

驚いた、まさかフィロからそんな言葉が出るとは。

そんなタイプじゃないと思っていた。

 

「ハンス、酒とつまみ持って来い。一番よさそうな奴だ」

「了解であります」

 

駆けていくハンスを見ながら考える。

ハンスを見るのは考えるのにいい。

さて、こんな冬場には移動は最小限にしたい。

ましてや雨や霧は生身の人間や馬には大きな制約になる。

うーん、ロムルスへ行く理由が今更怪しくなってきたぞ。

 

「なぁ、フィロ。ロムルスに行って何をするんだ?」

「そうですね、マグヌス様にお会いしたいです」

「そのマグヌスというのは?」

「ロムルスで最も権力を持つ勢力の長です」

「会ってどうする?」

「交渉します」

 

はぐらかされるか、何がしたいんだ?

考えながら酒をあおる。

その銀眼にまっすぐと睨まれている。

 

「私は祖国のために戦います」

 

祖国か、コイツ何をする気だ?

 

「必要ならば、ロムルスの内情とあなた方を最大限利用します」

「我々が協力する義理はねぇな」

「あなた方は我々の文明に干渉なされました。その責はいずこに?」

「お前が言うか?ま、見るだけならしてやる」

 

責任?弱者への責任はあっても敵への責任などない。

やっぱりこの星の酒は不味いな。

 

「見るだけで結構です。ただし、必ず見ていただきます」

「いいだろう」

 

戻ってきたハンスの持っていたチーズをつまむ。

 

「お前ら、どこ行く気だ?」

 

反射神経でホルスターから銃を抜く。

が、抜きかけたところで止まる。

 

「お前、真昼間から飲める身か?」

 

なんで門衛のトサカがここにいるんだ?

立ったままコップで酒を飲んでいる。

鎧は着ていないから休日らしい。

 

「今日は休日だよ。家族もいない、酒だけさ」

「俺もだよ。景気はどうだ?」

「景気?景気って何だい?」

「そろそろ大仕事があるんじゃないか?」

 

どうだ、踏み込みすぎたか?

その三白眼で一瞬睨まれる。

 

「ま、用意はある。柔軟に対応するさ」

「行き当たりばったりかよ」

 

言い終わる前に入れる。

つまみを出しながら次の言葉を考える。

 

「それを言うなよ」

「でもよ、時間の問題なんだろ?」

「そうだな。でも俺はどっちにしても仕事はないと踏んでる」

「何故だ?」

「この国はそこまでの内戦には耐えられんよ」

 

ふとフィロを見ると、随分と考え込んでいるようだ。

 

「フィロ、お前はどう思う?」

 

静かに流れる時の中で、フィロの口が動き始めた。

 

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