なんて日だ! のあの人がアイドルをプロデュースする話。


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最近学マス始めました。


売れっ子コント師ならトップアイドルをプロデュースできる説

 

 

初星学園

 

 天川市にある中高一貫+専門大学の私立校である。1950年に建学され、現在では国内最大のアイドル養成校となっている。

 

 

 そんな学校のとある一つの教室で、一人の男がパソコンのキーボードをたたいていた。

 彼は初星学園大学プロデューサー科1年の学生にして、新米プロデューサーである。とは言ってもすでに年齢は30台に差し掛かろうとしているのだが。

 

 

 彼の本職は芸人だ。ではなぜプロデューサーになったかというと、番組の企画である。

 

 

 即ち、《売れっ子コント師ならトップアイドルをプロデュースできる説》

 

 

 バカみたいな企画だが、学園長も乗り気になったものだから笑えない。

 所属事務所もスケジュールを調整したものだからさらに笑えない。芸人なのに。

 

 

 彼は反発した。

 そんな片手間に芸人がアイドルプロデュースなんてできるわけがないと。当然だ。

 

 

 彼は学園長/十王邦夫に直談判した。

 

 

「お言葉ですけどね、学園長。僕は芸人なんですよ。アイドルのプロデュースなんてできないと思います」

「まあまあ」

「自分で言うのもなんですけどね、それなりに忙しいんですよ。アイドルに割ける時間があまりないんです」

「まあまあ」

「それに企画で~とか、そういう感じだとアイドルにも失礼だと思うんです」

「まあまあ」

「お前『まあまあ』しか言わねえな!」

 

 

 思わず突っ込んだ。

 

 

「大体、アイドルの娘たちも僕なんかにプロデュースされるのは嫌でしょう」

 

「そんなことはない」

 

「そこは『まあまあ』じゃねえのかよ!」

 

 

 

「君はブレイクまでかなりの時間があったね。15年以上、長い下積み時代があった。」

「まあそうですけど……」

「そして今は大人気芸人だ。それは才能だけじゃない、売れたいという強い気持ち、諦めない忍耐力があったからだ。その部分を私は買ったんだ。そしてその経験はきっとアイドルたちの成長に繋がると思うんだ」

「はあ」

「勿論学園からもサポートは行っていく。どうかよろしく頼むよ」

「そこまで言われたらまあ、やりますよ」

 

 

 

 

 

 

 

 蓋を開けてみれば、意外と何とかなるものだった。

 ノートPCとモニターの2枚の画面にはそれぞれアイドルのプロフィールと、今後のスケジュールが記載されている。

 初めのころは「納得できない指示には従わない」とつっけんどんな返答をされたものだが、今ではある程度素直に話を聞いてくれている。

 

 

「今日はボーカルトレーニングの日だな」

 

 

 すでにトレーニングルームの予約とトレーナーへの連絡はすませてある。あとは当のアイドルを待つだけなのだが……。

 そこで、ガラリと教室の戸が開かれた。

 

 

「おはようございます、プロデューサー」

 

 

 明るく鈍い、緑青色の髪にライトグリーンの瞳の少女が教室に入ってきた。

 月村手毬。中等部の頃はナンバーワンユニット『SyngUp!』で活動していた元エリートである。

 

 肩で風を切って歩く姿はまさに高いプライドを象徴しているかのようだ。

 

 

(スカウトしたときはどうなるかと思ったけど、態度によらず良い子で良かった)

 

 

 ストイックで上昇志向が高い。真摯に指示やプランの理由を話せば従ってくれる。良い子だ。彼女の調子が落ちた原因、食事量も事前に細かく説明したうえでこちらで食事を用意したことによって体の維持も出来ている。

 トレーニングの内容によっては前後の食べ物も厳密に調整する必要があるのだが、バランスを整えることで「好きなものを食べられない」というモチベーションダウンは回避できている。

 

 

 そのおかげか、今の手毬の様子を見てもこれから行われるトレーニングに対する高い集中力が……

 

 

 ニンニクの香り。

 

 

「あ?」

 

 

今、アイドルからしてはいけない臭いがしなかったか?

 

 

「月村さん、今……」

「な、何? プロデューサー。準備できてます。すぐに行きましょう」

「いやいや待って月村さん。あなた……ラーメン食べたろ?」

「………………………………………………………………食べてないです」

「いやニンニクの臭いがするんだよ」

「気のせいです」チャラチャラ、パク

「今ブレスケア食ったろ。ラーメン食べたろ!」

「そうやって臭いで指摘するのスメハラですよ!」

「加害者が何言ってんだよ! ラーメン食べたろ!!」

「しょ、証拠はあるんですか」

「お前から漂う殴りつけるようなガーリックだ!」

 

 

 顔どころか禿頭の頭部を全部真っ赤にしてプロデューサーが叫ぶ。

 

 

「それセクハラです!」

「おち〇ち〇じゃねえんだよ!」

 

 

 

 息を整えると、プロデューサーは冷静に言った。

 

 

 

「あのー、俺が昨日用意したものにここまでニンニク入った料理はなかったと思うんですよ。正直に何を食べたか言ってくれませんか」

「………………………………本当に怒らない?」

「怒りません」

「………………………………ニンニクアブラフルフル/バスター」

「…………………………月村ァァァァァァァァァァァァ!!!! 何喰ってんだ月村ァァァ!!!!」

 

 

 耐えられるわけがなかった。

 

 

「だから、ニンニクアブラフルフル/バスターです」

「ニ郎かよ! 若者たまんねえな!!!」

 

 

 

「月村……そのラーメン、カロリーいくつよ」

「え?」

「カロリーいくつよ!」

「3000キロカロリーくらい」

「血管ちぎれちゃうよ!!」

 

 

 

 息が切れたので再び落ち着かせる。

 

 

「もー……いつ食べたの」

「夕食の前」

「おやつか! 胃袋裂けちゃうだろ!!」

 

 

 ひとしきり叫び、プロデューサーはゼイゼイと息が荒ぶる。

 手毬は申し訳なさそうに、指をいじいじと弄りながらポツポツ話し始めた。

 

 

「昨日の帰り、おなかがすいちゃって……ちょうど開店したばかりのラーメン屋さんがあって……ちょっとくらいいいかなって……」

「いや……もうよく食べれたねェ」

「ラーメンも、プロデューサーのご飯も美味しかったから」

「愛しすぎるんだよ!」

 

 

 いじらしさにプロデューサーは再び叫ぶ。そしてどこかに連絡を始めた。

 スマホをしまうと、プロデューサーは鞄を引っ掴んだ。

 

 

「月村さん。今すぐジャージに着替えてください」

「え?」

「ボーカルレッスンの時間をずらしました。先にダンスレッスンです」

「急になんで? レッスンメニューを変更するってどういうこと?」

「ニンニクの臭いは汗で流せます。このままではボーカルレッスンは出来ない。思い切り踊ってください」

「………ごめん。プロデューサー」

 

 

「食べてしまったものはしょうがないです。美味しかったですか?」

「はい!」

(はいって何! 私怒られたのにウキウキで返事しちゃった!)

「ならよかったです」

 

 

 プロデューサーは気にも留めなかった。

 

 

 

 

 

「ところでプロデューサー。その手に持ってるもの何?」

「ジャンベです」

 

 

 その後、手毬は少々激しめなダンスレッスンをこなし、授業を挟んでからボーカルレッスンを行った。

 

 その間プロデューサーは

 

 

「踊り狂え!!!!」

 

 

 情熱的にジャンベを叩き続けた。そのおかげか、手毬の動きにはこれまでにはない苛烈さが加わっていた。

 

 

 

 夕刻。

 

 

「プロデューサー。今日はその、ごめん」

「もう終わったことですから。大丈夫です」

(う~怒ってるよお……そりゃそうだよね……)

 

 

 そっぽをむいて不貞腐れながら謝意を示す手毬の胸中は激しい罪悪感が渦巻いていた。

 

 そしてプロデューサーはその真意に気づいていた。流石はベテランコント師、目の前の人間の表情を読むことなど日常茶飯事だ。

 

 

「あの、今度からは先に食べたい日を教えてください。それに合わせてメニューも変えますから」

 

 

(も~なんでそんなにしてくれるの?)

「なんでそんなにしてくれるの?」

 

 思わず心の声が出てしまった。

 

 

 プロデューサーは少しためらってから、

 

 

「歌に、惚れたから」

「え?」

「歌に惚れたからです」

「ごめん、よく聞こえ……」

「お前の歌に惚れたからだよ!」

「な、何急に大声で」

「力強いボーカル、伸びのあるビブラート、癖になる息継ぎ。完璧だよ……。お前のこの歌は全人類が聞くべきだよ!! オレはお前の歌の虜です!!」

 

 

 エンジンがかかったプロデューサーはまくしたてる。

 

 

「そのためならなんだってするよ。トップアイドルになったお前の歌をずっと聞くためならな!!」

 

 

 プロデューサーが叫ぶと、手毬はそっぽを向いた。

 

 

「なにそれ、バカみたい。私、先行きます。汗流したいので」

「月村さん?」

 

 

(ずっと聞くためって……それってもうプロポーズじゃん! プロデューサーってば私のこと好きすぎるでしょ~~~~~!!!!)

 

 顔がにやけ、心臓がバクバクと鼓動する。手毬は心臓が推し進める限り走り続けた。

 

 

「なんだったんだ、いったい」

 

 

 プロデューサーは手毬に置いて行かれて立ち尽くしていると、スマホが鳴った。

 

「はい」

『お疲れ様です、プロデューサーさん』

「ああ、あさり先生。今日はありがとうございました。急にスケジュールを替えるの手伝ってもらって」

『いえいえ、プロデューサー君のためならこのくらい』

「ほんとうにすみません」

『だから大丈夫ですって! それよりですね、少し相談したいことがありまして』

「相談?」

『ええ、新しいアイドルのプロデュースについてです』

「……あの、僕一応芸人なんで。あんまり何人も面倒見れませんよ」

『何言ってるんですか! 今日の素早いリスケ能力やアイドルのレッスンに付き合える器用さは武器ですよ! それじゃあ、詳しい話はまた明日!』

 

 返事も待たずに電話は切れてしまった。

 

 ただでさえ今日は大変な一日だったのに、さらに今後の仕事まで増えてしまった。

 

 

 

「なんて日だ!!!」

 

 

 

 芸人とアイドルのプロデューサー。彼の二足の草鞋の生活は、これからも続くのだった。


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