遊戯王0D’s ナリキリボーイと青き眼の精霊王 作:GT(EW版)
【セティア:LP1800 遊星:LP600】
セティアの切り札たる究極のシンクロモンスター、
「不動遊星」のライフはライディングデュエルのセーフティーラインを割ったため、ここでセティアがスピード・ワールド2の【スピードカウンターを4つ消費することで手札のスピードスペル1枚につき、相手に800ポイントのダメージを与える】効果を発動した場合、敗北は必至である。
そして今のセティアのスピードカウンターは7つ。彼女の手札は0枚だが、次のターンで手札にスピードスペルカードを引き込めば、その時点で彼女はこのデュエルに終止符を打てるということだ。
「やはりスピード・ワールド2は傑作ルールだな。最初にバーンを発動していたら私のスピードカウンターは3となり、サモン・スピーダーを発動できずアルティメットを呼び出すことができなかった。このバーン効果の「4」というコストは、つくづく絶妙な数値だと思うよ。「妖怪1足りない」とはよく言ったものだ」
「…………」
800という効果ダメージに対してカウンター4つというコストは一見軽いようで、軽すぎてはいない。気軽に発動すれば手札のスピードスペルそのものが腐ってしまい、それが敗因となって逆転負けする者も多く、200年経っても色褪せない奥深いルールとなっていた。
「これで私の手札は0だが、ここでドロー効果を使うと次のターンでバーンを放つコストが足りなくなる。ならばここは究極の竜を信じてターン・エンドとしよう。──エンドフェイズ時、このカードの効果で上がった攻撃力は元に戻るが、「
【
「…………」
「いずれにせよ貴様のエクストラに眠る最強のモンスター、「コズミック・ブレイザー・ドラゴン」でも歯がたたないステータスというわけだな」
これ見よがしに説明口調で語る彼女の場には、圧倒的なステータスに加え1ターンに1度フィールドで発動する相手の効果を無効化する
故にバックに伏せカードが無くとも、その守りは盤石であった。
TURN8
【セティアSp8 遊星Sp2】
「……俺のターン!」
こちらに許された最後のチャンスかもしれない、「不動遊星」のターンが巡ってくる。
神の如き圧倒的な威光を示す光の竜と白き少女の疾走を追いすがりながら、彼は自分が自分のあるがままに、そのデッキを信じてカードを引き抜いた。
これで「不動遊星」の手札は二枚。
一枚のカードが奇跡の大逆転を生むデュエルモンスターズでは、心許なくはあるが十分に反撃の余地がある手札枚数であった。
特に、そのドローで幾度となく逆転勝利を納めてきた「不動遊星」ならば──
「──!」
ドローフェイズで自らが引いたそのカードのテキストを確認した瞬間、バイザーの裏で「不動遊星」の目の色が変わり、今一度互いの盤面を見比べる。
「……む」
セティアの表情が変わる。
最強の決闘者として培ってきた数多の実績から成る「不動遊星」の胆力と気迫は追い込まれれば追い込まれるほど力を増し、それ自体が対戦相手にとって得体の知れないプレッシャーを与えるものであった。
そんな彼のドローを見届けたセティアは息を呑むようにその出方を窺う。
しばしの沈黙を置いた後、「不動遊星」は──
「……ターン・エンドだ」
何もせず、自らのターンを終了した。
その行動に対して、誰よりも驚いたのは彼の対戦相手であるセティアだった。
「……スピードカウンターは僅か2つ。手札は二枚で一枚はアルティメットで無効化されるとなれば、流石の貴様も動きようがなかったか」
「…………」
「無理も無い。ああ、無理も無い。しかし……所詮は亡霊か」
呆気に取られたようなしばしの沈黙を返した後、自らのターンが数秒で返ってきたことに失望した様子で彼女は呟く。
心なしかその様子には、この状況を覆す奇跡の一手を「英雄」に対して期待していたかのような落胆ぶりであった。
それこそ……「不動遊星」が自分自身にそれを求めていたように。
TURN9
【セティアSp9 遊星Sp3】
「……私のターン」
小さく息を吐いた後、セティアはデュエルを続行しカードを引く。
そのカードがスピードスペルならばスピード・ワールド2の効果ダメージで、それでなくても青眼の究極霊竜のダイレクトアタックを以てすれば彼女の勝利は揺るがなかったが……彼女の判断に慢心は無かった。
何も召喚せず、何も伏せない。状況から見て、先ほどの「不動遊星」のターンは勝負を捨てたように受け止められたが、それでも「彼が不動遊星ならば、まだ何かあるのではないか?」という疑いを捨てきれないのは洗練された
故に、彼女はデュエルが終わるその瞬間まで気を緩めることはなかった。
打てる手を全て打って、完璧に勝つ。それだけである。
「私は墓地から
深淵の青眼龍をデッキから呼び出した太古の白石には、もう一つ墓地から発動できる効果がある。
既にフィールドを我が物顔で占領している青眼の究極霊竜だけでもライフを削りきるには十分であったが、セティアは「不動遊星」の手札にかの「クリボー」のような一回分のダメージを無効化するカード、或いはこちらのバトルフェイズ中に特殊召喚できる何らかのモンスターの存在を警戒し、自らのフィールドに二体目のモンスターを追加したのである。
「青き眼の護人を召喚!」
【青き眼の護人】
星1/光属性/魔法使い族/チューナー
攻撃力800/守備力1300
「青き眼の護人」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。
手札から光属性・レベル1チューナー1体を特殊召喚する。
(2):自分フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを墓地へ送り、手札から「ブルーアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。
「このカードは自分フィールドの効果モンスターを墓地へ送ることで、手札からブルーアイズモンスターを呼び出す。私はこのカード自身を墓地へ送ることで、今墓地から回収したこのカードを特殊召喚する。再び現れろ、白き霊龍!」
このドローフェイズで彼女が引き込んだのはスピードスペルではなく、ブルーアイズを呼び出す為のモンスターカードであった。その効果によって再び白き霊龍が降臨し、セティアの神々しい盤面はより絶対的なものとなった。
──それは仮に先ほどのターンで「不動遊星」がミラー・フォースのような逆転の罠カードを二枚伏せていたとしても、一枚は究極霊竜の効果で無効化し、もう一枚は白き霊龍の効果で除去し、確実にダイレクトアタックを通す算段がついていたということである。
並び立つ二体のドラゴンを前にして、「不動遊星」は改めて彼女の引きの強さとデュエルタクティクスに唸った。
しかしそれでも、彼は臆さない。
もはや粛々と処刑を待つだけとも言える絶望的な状況となってもなお、「不動遊星」は己が不動遊星であることを貫き通していた。
そんな彼を見て──セティアはその青き眼に、隠しきれない苛立ちの色を浮かべた。
「引導を渡してやろう……
このデュエルの幕を引く一撃が、攻撃力4500の
残りライフが僅か600の相手に浴びせるには、あまりにも過剰な威力であった。
──しかしその瞬間、英雄が動く。
「俺は手札から
「何!? 手札からトラップだと……!」
「このカードは自分の場にモンスターが存在しない時、手札から発動することができる──そうだ、フィールドからではなく、手札からだ!」」
今まさに「不動遊星」のDホイールが究極霊龍の放ったブレスに飲み込まれそうになったその瞬間、
「女教皇の錫杖の効果により、このダイレクトアタックのダメージは無効化され、500ポイントのダメージを君に与える!」
【セティア:LP1800→1300】
「……っ、これは……!」
そればかりか次の瞬間、攻撃した筈のセティアのライフが減少したのである。
【女教皇の錫杖】
通常罠
このカードは自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札から発動する事ができる。
モンスターの攻撃を無効にしバトルフェイズを終了する。
モンスターの攻撃を無効にされたプレイヤーのライフポイントに500ポイントのダメージを与える。
ダメージを0にするどころか、相手のバトルフェイズを強制終了した上で効果ダメージを与える攻防一体のカード。
唐突に手札から発動する
それも当然だろう。発動した「不動遊星」自身でさえも、このカードの存在を認知したのはドローしてからのことだったのだから。
そのカードは記録上の英雄不動遊星の使用カードリストにも載っていないものだった。
「私が知らないカードだと……? アルティメットが無効化するのはフィールドで発動する効果のみ……それを掻い潜るとは!」
「どんな状況でも諦めるつもりはない。世界の運命も、このデュエルも!」
「……っ」
先ほどのターンで彼が何もせずにエンド宣言をしたのは、打つ手が無くなったからではない。デュエルが始まってからも……始まる前からもずっと、「彼」が目の前の窮地に対して諦めたことなど一度も無かった。
フィールドで発動する効果の発動を無効化する
「くっ……は、ははは!」
……が、すぐに立ち直り、驚きの中にどこか安心したような笑みを浮かべながら、セティアは女教皇の錫杖の効果により強制的に移行させられたメインフェイズ2でもはや使う必要が無くなったと思っていたスピード・ワールド2の効果を発動したのだった。
「……私はスピード・ワールド2の効果を発動。スピードカウンターを7つ取り除き、一枚ドローする」
【セティアSp9→2】
これでセティアの手札は0枚から1枚へと回復する。それと引き換えにスピードカウンターを大きく消費することにはなったが、彼女に次のターンが回ってくる頃にはバーン効果の発動が可能な「4」に載るため、それで十分という判断だろう。
そして今しがた引き込んだ一枚もスピードスペルではなかったようで、セティアは真顔でそのカードを魔法罠ゾーンにセットしていった。
「……カードを伏せて、ターン・エンドだ。
──だがな、英雄。状況はさっきと変わっていない。寧ろこの伏せカードが追加された分、さらに私の盤面は強固になったと言えるだろう。それでも貴様は、この状況を巻き返せると信じているのか?」
手札は0枚だが、彼女のフィールドには「
それに対して「不動遊星」のフィールドは未だ空、手札は1枚という有様だ。このターンのダイレクトアタックを凌いだところで、状況は何も変わっていなかった。
それこそ先ほど彼女が「時間稼ぎ」と指摘した、「不動遊星」の英雄的行為を皮肉るように。
「不動遊星」はそんな彼女のはっきり言って性格が悪い意図を汲み取った上で、頑なに言い返した。
「ああ、信じている。一人の人間にも、一枚のカードにも、未来を照らす希望が込められている。その希望がある限り、俺は絶望などしない」
「…………」
「不動遊星」の表情に悲嘆の色は無い。
かつて不動遊星がそうであったように、彼の胸には常に潰えることのない絶対的な希望があったのだ。
「貴様は……」
そんな彼とのデュエルが佳境に入った中で、対戦相手であるセティアには感じ入るものがあったのだろうか。
何かを言いかけては言葉を止め、「ちっ」と舌打ちしながら直近のコーナーを曲がっていく。
そして「不動遊星」もまた、このデュエルを通して彼女の真意を掴みかけていた。
TURN10
【遊星:LP600 セティア:LP1300】
「そうだ……「不動遊星」である限り、俺は諦めない」
ライフも盤面も完全に追い込まれた中で、「不動遊星」は一縷の希望をかけ、その手をデッキトップに添える。
そしてこれが自分自身の未来だと示すように──カードを引いた。
【セティアSp3 遊星Sp4】
「──来た」
今手札に手札に抱えている一枚のカード──彼が引き込んだのは、その効果を最大限に活用できるカードだった。
そしてそれもまた、「不動遊星」がデッキに入れた憶えの無いカードである。
それはまるで、かつて地縛神との戦いで赤き龍がシグナーに授けてくれた「救世竜セイヴァー・ドラゴン」のカードのように……何か、この世界を見守ってくれている大いなる意思のような存在を感じるものだった。
だからこそ、彼は──
「俺たちは誰も、見捨てられていない! 現れろ、時械天使!」
「……! そのモンスターは……」
今しがた引き込んだモンスターカードを、「不動遊星」はこの絶望的状況を打開する唯一の切り札として召喚する。
場に現れたのは、かつて不動遊星が扱っていたどのカードとも関連性が無い異質な姿をした、機械仕掛けの天使の姿だった。
「攻撃力0だと……?」
攻撃表示で召喚されたそのモンスターの攻撃力は、セティアの扱う青き眼のチューナーたちと同様のゼロ。故に彼女は驚きながらも安易に見下すことはなく、その青い瞳に警戒の色を浮かべた。
だが……と彼女は自身のフィールドに佇む最強のドラゴンの姿を一瞥して語る。
「ふん……何か策があるのだろうが、私の
「それはどうかな?」
「なに……っ」
無論、「不動遊星」は究極霊竜の妨害効果は承知の上である。その上で、今召喚したこのモンスターならばこの状況を打開できると確信したのだ。
彼はレベル1の攻撃力0モンスター「時械天使」を召喚した後、このカードをシンクロ召喚やコストに消費することもせず──そのままバトルフェイズへと移行した。
「バトル! 俺は時械天使で、
「馬鹿な……貴様のライフが消し飛ぶだけだぞ!」
攻撃力0のモンスターで攻撃力4500のモンスターに攻撃する。その結果がどうなるかは、デュエルを始めたばかりの子供でもわかることだ。仮に彼のライフが開始時点の4000ポイントだったとしても、その失策だけで全てのライフが消し飛ぶほどの自傷ダメージである。
歴史上には自傷ダメージを相手に与える特別なモンスターを所持していたというレジェンドデュエリストの存在もあるが、不動遊星にはそのようなカードを扱ったという記録は無い。故にこのデュエルを見ていた誰もが無謀な特攻と思うだろう。
──だが、「不動遊星」は時械天使が青眼の究極霊竜に返り討ちにされる瞬間、手札に抱えていた最後の一枚を切った。
「この瞬間、俺は手札から
「──!? なんだ、そのカードは……」
【愚者の裁定】
通常罠
このカードは自分のターンの場合、手札から発動する事ができる。
自分への戦闘ダメージを0にする。
先のターンの「女教皇の錫杖」と同じく、フィールドではなく「手札で」発動する罠カードである。
時械天使は青眼の究極霊竜のブレスに呑み込まれ跡形も残らず消え去っていくが、その効果によって「不動遊星」は自傷のダメージを受けなかった。
そして予定調和のように破壊された時械天使のカードが、フィールドから送られた「墓地で」その効果を発動したのである。
「時械天使の効果を発動! このカードが戦闘で破壊された時、フィールド上に存在する全てのモンスターを手札に戻す!」
「……!!」
【時械天使】
星1/光属性/天使族
攻撃力0/守備力0
表側攻撃表示のこのカードが戦闘で破壊された場合、フィールド上に存在するモンスターを全て持ち主の手札に戻す。
時械天使の効果は、この一枚で相手フィールドのモンスターを一掃する効果だったのである。
その効果にセティアが息を呑み、なす術もなく淡い光に包まれていくドラゴンたちの姿を見て理解する。
「時械天使が効果を発動した場所もフィールドではなく、墓地……自ら墓地に飛び込んだことでアルティメットの眼から逃れたというのか……!」
これも究極霊竜の妨害効果に対する、完璧な解答の一つであった。
絶対的な裁定者の審判を嘲笑うかのように掻い潜っていく「不動遊星」の手口に、セティアはこのデュエルで初めて動揺を露わにする。
「この局面で引き込んだ三枚全てのカードが、アルティメットの妨害を潜り抜けたと言うのか? 馬鹿な……そんな奇跡が………!」
「確かに奇跡的な確率だろう。だがどんなに低い確率でも、諦めない思いが信じられない結果をもたらすことはある! 俺はそうやって引き寄せることができた奇跡のほんの少しでも、今を必死で生きているみんなに分けてやりたい。そう思って、今日まで旅を続けてきたんだ」
「……それが、貴様の信じる希望か」
「だから俺は、この世界で行うこと全てを無意味にはさせない」
「不動遊星」は語る。その希望がある限り、自分は絶望することはないのだと。
たとえそれが40枚のデッキから1枚の切り札を引き込むより遥かに難しい可能性であろうとも、彼は未来を諦めないと誓った。
「ブルーアイズが消えていく……」
墓地に消えた時械天使の力によって、フィールドの青眼の究極霊竜、白き霊竜の姿が一斉に消え去っていく。シンクロモンスターである究極霊竜はエクストラデッキに、白き霊竜は手札に。
破壊された場合墓地からブルーアイズモンスターを蘇生させる青眼の究極霊竜の効果も、エクストラデッキへのバウンスに対しては無力である。
今この瞬間を以て、次のターンで勝負を決める筈だった盤面は白紙に戻ったのだ。時を巻き戻したかのように。
「……何故だ」
セティアがその光景と今の世界を照らし合わせたように、英雄に問い掛ける。
「何故貴様は、そうも希望を抱ける? 前の世代のクズ共に押し付けられた負債に今も苦しめられ、精霊との絆すら断ち切られたこの世界で……貴様は何故、そうも未来を信じられる!?」
デュエリストとしてではなく王としてでもなく、一人の少女として問い掛けたような縋るような叫びだった。
この世界を取り巻く理不尽に対して激しく憤る声……そこからは何か、彼女の抱えているこの世界そのものへの絶望と──心なしか、蘇った英雄「不動遊星」に対して共感を求めているような想いを感じた。
「貴様はもう十分戦ったじゃないか! 地縛神の時も、精霊界の時も! なのにこんな時代に蘇ってまで、何故貴様はそうも見知らぬ誰かの為に戦い続ける!? こんなどうしようもない、酷い世界で!!」
かつて不動遊星と会ったことのある口ぶりの彼女だが、「不動遊星」にはその記憶が無い。故に今の彼には彼自身、彼女の言葉に対してどれほど真摯に受け止められるかわからなかったが……その言葉が「不動遊星」という一人の人間に対する思いやりが込められていることに、彼は気づいていた。
確かに側から見ていれば、彼のしていることは正気の沙汰ではないだろう。自らの幸福や人格さえも度外視し、ただ世界を救済する為の聖者として人々を導く──人ならざる「精霊」から見れば、その在り方はあまりに歪で不気味にすら感じていたのかもしれない。
だが、「不動遊星」は思うのだ。
もはや以前の自分の人格がどうだったのかさえ朧げだが、英雄を蘇らせた一人の科学者の想いは、その根源は人に対する「優しさ」から来たものであると。
だから、彼は応えた。
「君と同じだ」
互いのDホイールで並走しながら、再び視界に飛び込んできた群衆の姿を見渡して言い放つ。
それはこのデュエルに対して笑顔の声援を送りながら、ただ純粋に、無邪気に楽しんでいる子供たちの姿であった。
「あの子たちに安心して暮らしていける未来を与えてやりたい。それは、君も同じだろう?」
「…………ふ」
「不動遊星」は自分自身のことを、己を犠牲にして見知らぬ人々に幸福を与える聖者だとは思っていない。無論、神だとも。彼自身の心はただ一人の人間として、未来を生きる子供たちが幸せになれる未来こそを望んでいたのだ。
セティアの真意を探る為に切り出したこのデュエルだったが……彼自身もこのデュエルを通して、自分自身の望みについて改めて見つめ直せたような気がした。
「このデュエルで打てる手は全て打った。俺はこれでターン・エンドだ」
手札はゼロ。
フィールドもゼロ。
全ての手を打ってセティアのモンスターを一掃した彼に今できるのは、デッキトップがモンスターカードであることと、再び自分のターンが回ってくることを信じるのみだった。
……なのに何故か、もはや運に頼ることしかできなくなったその瞬間が「不動遊星」には楽しくてたまらなかった。
TURN11
「私のターン。まったく……」
【セティアSp4 遊星Sp5】
このデュエルで初めて楽しそうな表情を浮かべた「不動遊星」の姿に、セティアは呆れ返ったような顔でカードを引く。
彼女のスピードカウンターは4。このドローでスピードスペルを引ければスピード・ワールド2の効果で、或いは攻撃力600以上の下級モンスターを引けていれば召喚からのダイレクトアタックで彼女の勝ちが決定する。
まさに運命のドロー……しかし、彼女はそのカードを場に出すことも、効果の発動を宣言することもなかった。
できなかったのだ。
「……今はこの男を信じろと……そう言っているのか、ブルーアイズ……」
彼女の手札では、新たに手札に加わった光の龍の青き眼が星々のように煌めいていた。
セティアが今デッキからドローしたカードの名は「ブルーアイズ・ソリッド・ドラゴン」。スピードスペルでもなく、下級モンスターでもない。通常召喚するには二体のリリースが必要な、レベル8の最上級モンスターであった。
時械天使に戻された白き霊龍の姿も相まって、二枚のドラゴンを手札に抱えた彼女はまるでブルーアイズの精霊から「もう休め」と言われているようだったと、デュエル後の反省会で彼女は語る。
「……わかったよ。キサラ、セト……」
観念したように──或いは両親から自身のイタズラを咎められた幼子のように投げやりに呟きながら、セティアは宣言した。
「私は何もせずターン・エンドだ。さあ来い、不動遊星!」
TURN12
「俺の……ターン!」
【セティアSp5 遊星Sp6】
信じた結果、再び巡ってきた自分のターン。
「不動遊星」は勢い良く振り抜いたカードの剣を、そのままフィールドへと振り下ろした。
「スピード・ウォリアーを召喚! このカードの攻撃力は召喚されたターン、1800となる!」
「……ここで、スピード・ウォリアーとはな!」
【スピード・ウォリアー】
星2/風属性/戦士族
攻撃力900/守備力400
このカードの召喚に成功したターンのバトルフェイズ時にのみ発動する事ができる。
このカードの元々の攻撃力はバトルフェイズ終了時まで倍になる。
記録に残る不動遊星の英雄伝説の中で、彼のデュエルを最初期から支えてきたとされるカードの一枚。
それはどれほどレベルが低くとも、攻撃力が低くとも、彼に希望を与え続けてきた。
「バトル! スピード・ウォリアーでダイレクトアタック! ソニック・エッジ!」
ライディング・デュエル……それはスピードの世界で進化したデュエル。
そこに命を賭ける伝説の痣を持つ者を、人々は──
「私はこの瞬間、フィールドに伏せていた唯一のトラップを……発動できない! このカードは「リフレクト・ネイチャー」。貴様がこのターン、スピード・ワールド2の効果で私のライフを削りに来るような舐めた真似をしたら、反射してやるつもりだったのだがな……」
「……恐ろしいことを考えていたんだな」
「ふっ……ルールという名の上位者の力ではなく、貴様自身の手で掴んでみろという助言さ」
【リフレクト・ネイチャー】
通常罠
このターン、相手が発動したライフポイントにダメージを与える効果は、相手ライフにダメージを与える効果になる。
最後にここまで発動しなかった伏せカードのネタばらしをしたのは、何てことのないただの負け惜しみだと後に語る。
そんな彼女は「不動遊星」を象徴するモンスターに敗れることを、実に満足した様子で受け止めたのだった──。
「貴様が古い時代を破壊する新たな伝説となることを……せいぜい期待しておこう」
【セティア:LP1300→0】
──かくして、この時代で行われた
ブルーアイズ・ソリッド・ドラゴンの効果が時械神メタ、白き霊龍の効果が虚無界アインメタになってることに謎のエモさを感じていくスタイル。