推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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十二 百鬼セオの日記 三年目

・■月■日

 あれから色々考えた。

 とりあえず、そもそも俺とミホノの婚約については、かなり前から動いていた話らしい。

 具体的に言うと、俺が悪路王を倒すその前から。

 随分早いな? と思ったが、そういえばその頃に一度瀬戸場の家の人がうちに来たことがあったな。

 ただまぁ、その時はあくまで「そういう話もある」程度のもので。

 俺が悪路王を倒した後に生死の境を彷徨った時、一旦話は流れたらしい。

 まぁ、そもそも命が助かるかわからなかったからな。

 で、その間にミホノが俺に対する信仰心を強め、ああなった。

 もともと瀬戸場の家としては、ミホノの才能を開花させた俺を大きく買っていた。

 そこにミホノ自身がああなったのだから、目を覚ました俺に「なんとかしてくれ」と思うのも無理はないというか。

 後、俺が本部から幼いながらに宇宙のまほろばに関する調査を任されたのも、決定的な理由の一つらしい。

 魔祓師としての才能は乏しいかもしれないが、将来的に研究畑で俺が活躍すると踏んだのだろう。

 そういうわけもあって、いよいよ本格的にミホノとの婚約の話が進み始めたというわけ。

 

 しかしこう、なんというか。

 いろいろと思うところがないわけじゃない。

 これが正しいのか、とか。

 俺がミホノをこうしてしまった以上、その責任は取るべきだ、とか。

 ミホノの感情は、すでに分かり切っている。

 なんでも俺が今使っているこの日記帳は、ミホノの家に代々伝わるものなのだという。

 瀬戸場家の女性が七歳――人の子になると、家族から渡され、

 大切な人に贈ることで、その人とともに生きることを神に誓うのだそうだ。

 原作だとそんな話は一切なかったが、きっとどこかのソシャゲとかで語られたんだろうな。

 ともあれ、だからこそ俺は迷っている。

 俺は、俺がどうするべきかわからない。

 

 ……そもそも、だ。

 俺は前世の頃から恋愛とは無縁のオタクで、生まれ変わってもある意味でオタク街道をまっしぐらにひた走っている。

 そんな人間が、恋愛のアレコレを語れるわけがないのだ。

 なんなら、ミホノの方が恋愛観に関しては俺より大人びている可能性すらある。

 ここはきちんとミホノと話をして、それで答えを出すべきだろう。

 というわけで、俺はミホノの部屋の掃除のついでに、ミホノと話をするために瀬戸場の家にやってきたのだが。

 

 なんか、ミホノの奴さらに野生化してないか?

 野生化というか……本能が丸出しになっているというか。

 俺に対する言葉遣いも、ここ最近は大きくなって割としっかりしたものになっているのだが。

 数年前の、ちょっと舌っ足らずな感じに戻っている。

 普段が、

 

「セオ様。私セオ様とずーっと一緒にいたいです。いへへ……だめ……ですか?」

 

 とかそんな感じなんだが。

 今は、

 

「セオしゃま、セオしゃま、いっしょ、いっしょがいーです。いへへ」

 

 とかそんな感じ。

 この感じ、なんかどーっかで見た覚えがあるんだよな。

 現実ではなくて、原作のなにかのワンシーンで……こう……

 そう思って、日記をつけ始める前の内容――原作知識のメモを見返してみる。

 すると、見つけた。

 ああ、なんというか、やはりこっちの世界で何年も暮らしていると、記憶が曖昧になってしまうな。

 どうやら、ミホノが野生化している原因は――魔人の仕業によるものらしい。

 

・■月■日

 最上級魔人「サトリ」。

 これもまた、原作の本編時空で第七魔人の一体に数えられる魔人だ。

 一般的に……というか、妖怪としてのサトリは相手の心を読んでそれを口に出し、相手を不快にするという妖怪だった。

 魔人としてのサトリは、直接戦闘だと心を読んでくる。

 もしくは人に自分の一部のマナをとりつかせて、心の内に秘めた本能を引きずり出して、それによって人を暴走させる魔人だ。

 ただ、おそらくサトリはミホノ個人を狙って暴走を引き起こしているわけではないだろう。

 サトリの被害はここ最近、各地で報告されているらしく、そのうちの一例がミホノだったというわけ。

 ……今まで誰も気づかなかったのは、俺に対する信仰心がノイズになってたからですね、はい。

 多分これ、知らない原作案件なんだろうな。

 この時期に、サトリが原作キャラと因縁を持つような何かが起こったのだ。

 そしてそれに、ミホノが絡んでいるわけではないだろう。

 俺がやるべきは、とりあえずサトリの影響からミホノを救い出すことだ。

 それであの祭壇が解体されるかは未知数だが、俺以外の人間が祭壇の掃除をできるようにはなるだろう。

 ともあれ、問題はサトリの影響を排除する方法だ。

 色々と道具を本部に手配してもらわないといけないだろうな。

 

・■月■日

 道具の手配は、普通に許可が下りた。

 用意するのに時間がかかるとのことだったが、一ヶ月もかからなかったのはかなり急いでもらったと言えるだろう。

 なんでも、こないだ解郷の複数回使用で見つけた魔人のアジトらしき場所を報告したことで、本部は俺に対する評価を良くしているらしい。

 思った以上に、この子供は使えるかもしれないぞ……と。

 道具の手配だけでサトリの影響を取り除けるなら、それを他の人間にも使えるかもしれない、と期待しているのだろう。

 具体的な方法は――原作の知識を悪用させてもらうことにした。

 ミホノに対する魔改造と違って、こっちは使えばそれで助かる人がいるのだ。

 ためらう理由はどこにもない。

 

 取り寄せた道具は、マナを一箇所に固めてその動きを封じるというものだ。

 ようするに、ミホノの中にはサトリのマナが入り込んでいる。

 これを取り出して、この道具で固めて捕まえようというわけ。

 これ自体は非常に簡単な方法なのだが、どうして今まで使われなかったのかといえば、単純。

 まず中に入り込んだマナを取り出すことが大変なのだ。

 そして取り出したら、殲滅自体はそこまで難しくないから。

 所詮はあくまでサトリの一部だしな。

 中級魔人程度の性能である。

 俺の場合、それすら対処できるか怪しいので、こうして安全に捕まえる手段を用意したわけだが。

 で、どうやって取り出すのか。

 ミホノが俺の行動に抵抗しないというのがポイントだ。

 

 まず、最初にティッシュを用意します。

 それをこよりにします。

 ミホノのハナにシューッ! 超! エキサイティン!

 後はミホノからサトリが出てくるまでくしゃみをさせればいい。

 どうも、サトリのマナは頭の方にあるらしく、くしゃみで断続的に衝撃を与えることで取り出すことができるらしい。

 原作だとこれ、完全にギャグ回の流れだったな……

 

 というわけで、ミホノからマナを取り出し、道具で拘束。

 そこから俺は拘束したマナを光弾でボコボコにするわけだが――

 

 ――一時間くらいかかりました。

 

 おのれ中級魔人。

 どうやら俺の今のスペックは、下級魔人くらいなら問題なく倒せるけど中級を倒すのがほぼ不可能くらいの実力らしい。

 四年近く修行してそれかぁ……と思うものの、大崩壊まではまだ結構ある。

 修行の効率を更に上げて、なんとかしていこう。

 

 ……それはそれとして、正気に戻ったミホノは、俺に何かとこよりでくしゃみをさせるようせがんでくるようになった。

 サトリの影響を受けている間は、記憶が残らないはずなんだが。

 体が覚えてしまった、ということだろう。

 なんかこう……性癖の扉を開いてしまったみたいだな。

 どうしよう。

 

・■月■日

 あれから、本格的に俺とミホノは婚約することになるわけだが。

 結局、どういうふうに接すればいいのかは、よくわからなかった。

 ミホノは暴走する前と同じように信仰心たっぷりで接してくる。

 それが嫌というわけではないのは、本人の雰囲気を見ればわかる。

 将来的には、慣れていくことなのだろうか。

 

 さて、他にも問題はある。

 ここしばらく、ミホノが俺すら部屋にいれなかったことで、祭壇はとんでもないことになっていた。

 冷静になったミホノは、祭壇を解体して縮小することを提案。

 とんでもないことになっている祭壇の前で、あわあわしているミホノは素直に可愛かった。

 というわけで、祭壇の掃除を始めたのだが……

 よくわからないもの、たまりすぎである。

 まずもって、俺とは関係ないアイテムまで溜まっている。

 この魔法少女のグッズって、この世界で最近流行ってるやつだよな?

 日曜朝の、プリティでキュアキュア相当の。

 と思って眺めていると、

 

「み、みないでセオ様ぁ! み、みちゃだめぇ!」

 

 とミホノが叫んで――直後、グッズは跡形もなく消滅した。

 ミホノはどうやらこの魔法少女が偉くお気に入りらしく、毎週欠かさずテレビで見ているのだという。

 そう考えると、他のよくわからないグッズも、どうやらミホノが好きなものばかりで構成されているようだ。

 お菓子(食べられない)とか、ぬいぐるみとか、おもちゃの鉄砲(!?)とか、俺の写真とか、俺の日用品とか、俺の髪とか。

 そこで俺はピンと来た。

 

 ――この祭壇、ミホノの魔祓刃なんじゃないか?

 

 魔祓刃は魔祓師の強い意思で覚醒することは、前にも書いた通り。

 すると、ミホノは俺が死にかけている間に、「自分の大好きなものを具現化する」能力に目覚めていたわけだ。

 それも本人の無自覚に、ほぼ際限なく。

 ミホノはここ最近、マナの成長が著しい。

 その原因が、無自覚に魔祓刃を使い続けていたからだとしたら?

 

 そしてこの能力――ふと、思いついた。

 二つほど、有効活用できる方法を。

 なお、そんなことを俺が考えていると、ミホノは俺に恥ずかしいところを見られたと思ったのか、ずっと頬を膨らませて俺をポカポカしていた。

 かわいい……

 

 ともあれ、そうとわかればこの祭壇の解体は容易い。

 ミホノを宥めて、おちつかせて、少しずつ祭壇を構成するいろいろなものを一旦消してもらう。

 最終的にこれが自分の好きなものの山だとわかると、ミホノは少し消すのを渋ったが、いつでも出せるんだから好きに出せばいい、と説得した。

 

 そうして二人で祭壇を解体していると――

 

 

 なかから、うにょうにょした触手が出てきた。

 

 

 これ、元カメラです。

 ええ……一体どこから紛れ込んだの……ミホノの能力は好きなものを具現化するだけでなく、召喚する能力まであった?

 いや、触手は怖くて好きじゃない?

 じゃあなんなんだよこれ……とりあえず、動かすのも危ないだろうしここに封印して後で母様に見てもらおう……

 

 結局ミホノとの関係は、今すぐ答えを出すものではないのだろう。

 ここ最近は、ミホノと話をしようといろいろためしていた。

 そのたびに、俺とミホノの関係は、大枠こそ変わらないけれど細かいところがどんどん変化していったのだから。

 というか、今の年齢の子どもが答えを出すことじゃないですよね、はい。




最上級魔人「サトリ」
マナの一部を人間にとりつかせることができる。
このマナは各地で「本能を暴走させる現象」を起こすことができる上に本体ではないので敵として扱いやすいやつ。
直接戦闘になると、相手の心を読んで有利に立ち回ってくる。
次回は日記ではなくミホノ視点回です。
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