・■月■日
結局、母様に聞いてみたものの、触手に関しては何もわからないそうだ。
正確に言うと、母様を通してほかの魔祓師に問い合わせても何の情報もでてこなかったのである。
触手をほかの魔祓師に見せたわけではないよ?
今もミホノの祭壇に、厳重に封印処置をしたうえで保管してある。
触手なんて置かないでくれとミホノがいうかと思ったが、封印して中身が見えなければ問題ないらしい。
むしろ封印場所にするならここが一番いいと言っていた。
……俺は隠してるつもりだけど、ミホノは一体どこまで把握してるのやら。
なんにせよ、俺も正直あまりあの触手に関してわかっていない。
わかっていることは、俺はカメラを宇宙のまほろばに向けた際、絶対に神格をそのレンズに捉えていないということだ。
そこはかなり気を付けた。
なので、カメラが触手に変質してしまった理由は宇宙のまほろばを見たことそのものだ。
宇宙のまほろばそのものがやばい場所ってことだよなぁ。
どうしたものか。
一応、一つだけ考えはある。
兄様に見てもらうのだ。
なにせ兄様は魔祓刃に関する才能は間違いなく、現状の魔祓師の中ではトップクラス。
解郷でみられていることを看破できるくらい、強いマナに対する直感を持っている。
そんな兄さまの直感であれば、何かわかるのではないか、と思うのだが。
残念ながら、俺は兄様から避けられている。
そこはまぁ、もうあきらめるしかないか、とも思ったが。
やはりこのままというわけにはしておけない。
何より原作でも主人公のコウタロウも、家族が生きているなら大事にしろとよく言っていた。
俺と兄様は、まだ徹底的に後戻りできないくらいこじれたわけではないのだ。
母様にも相談して、いよいよ俺は兄様との関係に、一定の答えを出すときがやってきた。
・■月■日
兄様が捕まらない。
致し方ないことといえば、致し方ないことなのだが、兄様が俺を避けているのだ。
母様からも俺が兄様と改めて話をしたいことは伝えられている。
それでもなお兄様が逃げるというのであれば、それが兄様の意思であり。
俺もまた、自分の意思を示さないといけない。
なので、俺は兄様を追いかけることとなる。
もし兄様が本気で追いかけられたくないなら、母様を通じて追いかけるなと言えばいい。
なので、捕まったら話を聞くという意思表示だと俺は受け取った。
とはいえ、追いかけてみるとこれがなかなかどうして、本当に捕まらないのだ。
まず大前提として、兄様は魔祓刃を使って本気で逃げている。
そうなると俺も魔祓刃を使って追いかけることになるわけだが、そこでスペック差が問題になるのだ。
マナの扱いに関して言えば、兄様は天才で、俺は凡人を通り越して落ちこぼれとしか言いようのない無能。
あまりにも致命的な出力差がある。
これを埋めようにも、俺が鍛錬を行っている間に兄様も鍛錬をすれば、その差は広がる一方だ。
そして兄様は才能に胡坐をかくことをやめて、本気で鍛錬をしている。
やばいぞ、今の時点で兄様は大崩壊編並みのスペックがあるぞ。
同年代の人間がどうやって勝てというんだ、これは。
あと、俺の才能のなさもやばいな。
いろいろと修行の効率を上げてはいるが、決定的なブレイクスルーが必要かもしれない。
ミホノと一緒にいろいろ考えてみよう。
・■月■日
ミホノの魔祓刃を検証して、マナの受け渡しを利用した修行を試してみることにした。
これがうまく行って、俺は今までと比べて格段に大量のマナを消費できるようになったのだ。
ミホノのマナの中に俺のマナが混ざっていると、ミホノが消費した分まで俺がマナを消費したことになる。
これにより、俺は一般的な水準の量のマナを消費できるようになった。
結果としてこれまで伸び悩んでいたマナがだいぶ伸びるようになり、なんとか学園に入学するあたりには「泣けるほど少ないマナ」から「ちょっと才能がない人間のマナ」くらいにまで改善できるだろう。
それ以上は頭打ちになりそうだが。
ともあれ、マナを増やす修行に関しては改善したものの、今すぐにその成果がでるわけではない。
兄様を捕まえる方法は、正攻法ではなく何かしらの作戦を考えて捕まえる形になりそうだ。
まず、解郷で兄様の現在地を探し出して追いかけるのは難しい。
兄様に解郷が使われているとバレてしまうからだ。
正確に言うと、四重にして解郷を使うとインターネットのハッキングよろしく出所を探れなくなるので、俺が解郷を使っているということはバレなくなる。
の、だが、解郷を使われていることはバレるし、そんなことができるのは俺だけなので犯人もバレる。
そして、そもそも今のところ俺は四重の解郷を制御できない。
なので普通に解郷を使うことはできないのだ。
となると、取るべき選択肢は待ち伏せだろう。
俺は母様の許可を経て、母様の部屋で待ち伏せすることにした。
方法は単純、マナを使わず息を潜め気配を殺して待ち伏せする、以上。
マナを使ってしまうと逆にバレるから、あえてマナを使わずに隠れるのだ。
俺は修行法に忍者の方法を取り入れているから普段の身体能力は高い。
これならいけるはず、と踏んで兄様を待ち構えたのだが――
「何やつ!」
と兄様が俺のいるふすまにクナイを投げつけてきたのだ。
……クナイ!?
さらに俺が姿を見せると、どこからともなく煙玉を取り出して使用。
逃げられてしまった。
どうやら兄様も、いったいどこから学んだのかしらないが、忍者の修行をしていたらしい。
そしてこんなところでも、俺は兄様より才能がなかったようだ。
ううむ、なかなかうまくいかないぞ。
・■月■日
アレから幾度となく兄様を追いかけているが、一向に成果は出ていない。
次に俺が試したのは変装だった。
ミホノの手を借りて、別人にしか見えない姿に変装して兄様に声をかける作戦だ。
なお、ミホノは俺を是が非でも女装させたかったみたいだが、何とか避けることができた。
が、これも失敗。
俺が声をかけた瞬間、兄様は防犯ブザーを起動。
俺の一瞬の動揺をついてまたも煙玉で逃げ出した。
なお、警察に捕まりかけたけど何とかごまかせたぞ。
続いては魔祓刃を使用しての接近。
ミホノに協力してもらって、招来空間で俺を兄様の近くで潜伏していたミホノに呼び出してもらったのだ。
マナを含んだものを呼び出そうとすると本物が呼び出される仕様を利用しての空間転移による奇襲。
しかしこれも、兄様の魔祓刃によって招来空間そのものが無効化されて失敗してしまった。
兄様の魔祓刃「
傲慢だったころの兄様が「俺以外のすべては意味のない無である」という思想から作り出した魔祓刃。
原作でも非常に凶悪だったそれは、この世界でも健在だ。
正面戦闘では、俺とミホノちゃんが束になっても絶対にかなわない相手。
それが鍛錬により洞察力と身体能力を手に入れて、手も付けられない状態になっている。
どうしたものかなぁ、とりあえず思いついた手段はまだまだあるのだ。
一つ一つ試していこう。
・■月■日
今日も兄様を追いかけて、様々な方法で捕まえようとしている間に一日が終わってしまった。
これまでに試した「兄様の行動パターンを推測して先回りする方法」や「マナを固定化する道具(サトリの影響をミホノちゃんから取り除くために使ったアレ)で罠を張る方法」。
ほかにも無数の方法を試したが、どれも失敗。
いや本当に、鍛錬をしていない時間はだいたい兄様を捕まえる方法ばかり考えている。
兄様のほうも、対策がそれはもう多彩で、お互いに曲芸の発表会みたいになっている始末。
それでも俺は兄様を捕まえないといけないのだ。
さて、次はどんな方法にしようかなぁ。
あ、思いついた。
・■月■日
――兄様を捕まえた。
結局、
何をしたかといえば単純、母様の部屋に隠れたのだ。
最初に使った方法をもう一度使ったのである。
俺の狙いは単純で、ここまで数多の方法で兄様を追い詰めた。
その方法は常に新しい方法だったのだ。
既存の方法をもう一度使うという手段から、意識を遠ざけるために。
それ自体はうまくいった。
今度こそ兄様を捕まえることができた。
の、だが。
新しい方法で捕まえたかったなあ、兄様。
・■月■日
結論から言うと、俺も兄様も、兄様が捕まった時にはすっかりいろいろと落ち着いていた。
というのも――楽しかったのだ、この何でもありの追いかけっこが。
俺の策を兄様があらゆる手段ではねのけて、逃げる。
そのやり取りを繰り返すことが、楽しかった。
何やかや兄様は現在十二歳の小学生。
俺だって、中身はともかく外見はそれより年下の子供なのだ。
外見に中身が引っ張られることもある。
だからこうして、追いかけっこをすることが楽しくたって仕方がない。
そうして二人で遊んでいると、気づくことがあるのだ。
俺も兄さまも、まだまだ子供なんだって。
そう思うと、不思議と俺も兄様も、なんとなくお互いのことを冷静に見られるようになるものだ。
兄様は俺が生ける炎を身に宿してから数年、すっかり普通の子どもになっていた。
たまにかつての傲慢なところが顔を出すときもあるけれど、それも一つの個性として周囲に受け入れられる程度に落ち着いたのだという。
驚いたことに、兄様は学校で友人ができたのだという。
俺たち魔祓師は十二歳――中学に上がる段階でまほろば学園に入学する。
だが、それ以前は普通の学校に通うのだ。
基本的に魔祓師の子供は普通の学校でも魔祓師の子供同士で固まり、あまり周囲と交流を持ったりはしない。
俺とミホノがその典型的な例で、学校ではおおむねミホノと二人でいることが多く。
周囲との関係は無難に済ませている。
だから兄様のように、周りの子どもと交流することは珍しく。
それがあの兄様となれば、なおのこと。
なんにせよその日、俺は初めて兄様と対等に言葉を交わした。
十年近くかかった兄との”普通”の会話は、どこまでも素朴で当たり前に満ちたものだった。
……さて、日記を書き終わったらいろいろと準備をしないと。
触手のことを聞くために始めた追いかけっこだったが、聞く前に一つやらなくてはいけないことができた。
兄様の友人にとりついた、「サトリ」の影響を取り除くのだ。
・■月■日
どうも最近、サトリの活動が活発になっているらしい。
それも、俺たちが暮らす街の近辺で。
少し前のミホノの一件は、通りすがりのサトリによるものだっただろうが、今回は違う。
明確に、百鬼や瀬戸場が守護する地域の近くで事件が起きているようだ。
今回のそれも、その一つ。
サトリに取りつかれると、本能を解放して暴れまわる。
時には一般人が取りつかれることもあり、その時は本人のコンプレックスをまき散らしながら周囲に当たったりするそうだ。
これがまた厄介で、一般人に取りつかれると正攻法――魔祓刃で取り押さえて無理やりサトリを摘出することが難しくなる。
兄様ならば、その友人を傷つけず取り押さえ、こよりでサトリを取り出すことも可能だと思うのだが、残念ながらそれは難しいそうだ。
なんでも、マナが人間の体内をランダムで移動するようになったとか。
こより対策だろうなぁ。
原作だとこより事件のあと、結構すぐにサトリは討伐されるので、サトリがこよりに対策をうつことはなかった。
けど、この世界で俺がこよりを使ったのはもう何年も前だ。
対策を打たれていてもおかしくはない。
ならばどうするか、俺はいろいろ考えたが――
触手をその友人に見せて、びっくりしてサトリのマナが吐き出されたところを捕縛することにした。
いや、だって。
サトリに取りつかれている間の記憶は残らないから、サトリにだけ影響を与えられるんだもの。
それを見ていた兄様は「お前ってやっぱ……なんでもない」と口をつぐんだ。
言葉を選ぶようになるなんて、兄様も大人になったなぁ。
いい話だなぁ……麗しい兄弟愛だなぁ……
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