・■月■日
魔人、この世界の人類の敵。
その始まりは、まほろばに迷い込んだ人間が真生生物を食べたことだ。
現代だと真生生物が違法薬物に混ぜられることが多く、ヤクザや半グレが魔人にされてこき使われることが多い。
その中で、魔人には下級、中級、上級、そして最上級の区別がある。
このうち下級から上級までは、真生生物を食して魔人となった際のスペックによって判断される。
要するに、才能のあるやつは上級に、ないやつは下級になるのだ。
仮に俺が魔人になっても、間違いなく下級魔人にしかなれないだろうな。
しかも魔人になると狂暴性が増し、真生生物を食べ続けないと最終的に理性を失って怪物になる。
あまりにコスパが悪すぎるな、俺の魔人化。
なお最上級魔人は、真生生物を多く取り込み続け”寿命を超越する”ことでなることのできる存在だ。
だから最上級魔人は基本不老、中には千年以上生きている魔人もいる。
サトリは猿のような巨体の魔人だ。
他者に精神を暴走させる自身のマナ――分体を植え付け、暴走させることを好む。
これはサトリの趣味であると同時に、植え付けたマナによって精神に生じた負の感情をサトリの栄養とするためのものでもある。
要するに、心の闇を食う魔人で、そのために絶望を振りまく奴ってことだな。
原作においてはとある魔祓師に執着していた。
大崩壊以前からそれは続いていて、執着されている魔祓師の方もサトリに妻を殺されたという因縁がある。
お互いに、宿敵と呼べる関係だったわけだ。
しかしなんだって、サトリは百鬼や瀬戸場が守護する領域を狙うのだろう。
これまでサトリがこの領域を狙ったのは、魔祓師の記録によれば数年前のミホノの一件だけだ。
少なくとも、百鬼を襲う理由はどこにもないはず。
強いて言うなら悪路王が討伐されたことを調査するため、という理由が挙げられるが、あいつが討伐されたのはもう数年も前のことだ。
何にしてもサトリが俺を狙っている以上、俺はそれを倒さなくてはならない。
無論、生ける炎の力を借りずに、だ。
アレは危険すぎるし、制御の目途も未だ立っていない。
そして、だからこそ周囲は俺が戦うことを止めた。
ミホノちゃんにとりついた中級魔人程度のマナを倒すのに一時間かかる俺が、最上級魔人を倒すのは無茶だと、母様がいう。
またいつもの頭のおかしい作戦を立てるのだろうが、自分を捕まえるのにかなり手間取っていた俺には無理だと、兄様がいう。
それでも、準備をするのに越したことはない。
本部のほうでも、強い魔祓師――というか、サトリの宿敵である魔祓師――を派遣できるよう整えておくとのことだが、何もしないというのは性に合わないのだ。
・■月■日
そういえば、兄様がまほろば学園に入学した。
俺ももうすぐ入学するわけだが、相変わらず俺の魔祓師としての能力は低いままだ。
とにもかくにも、マナ総量が足りないのである。
本来、俺くらい魔祓刃を習熟していれば、少なくとも中級魔人は難なく倒せるはずだ。
なのに俺は、ソロだと下級魔人と戦っても若干苦戦してしまう。
これは今の普通の魔祓師の子どもと同程度の水準だ。
アレだけ色々やって、ようやく平凡な魔祓師と同程度の才能しかない、というのはなんだか色々と情けないなぁ。
これでも最近は改善傾向にあるのだが、やはり何かしらの方法でこれを補う必要はある。
サトリ襲撃の準備、それは単純に俺が強くなることだ。
これならば誰も文句は言えまい。
まず一番簡単な方法はミホノの具現化した武器を使うこと。
拳銃はいまいち打点が出なかったものの、それ以外の武器の効果は有用だ。
ミホノ曰く「シュババ」ができる程度には身体能力も向上する。
普段から刀の類は常備させてもらって、ミホノと二人でいるときはさらにほかの武具も具現化してもらう。
特に服なども具現化してもらって全身ミホノコーデにできれば、かなり戦闘力を高めることができるだろう。
問題は、ミホノが趣味で俺の衣装を魔法少女にしようとしてくるところだが。
せめてタキシードとか黒コショウな感じで頼む、な?
戦闘スタイルも、魔祓師ではなく忍者を主体にする。
もともと忍者はマナを直接体に取り込まず、真生生物からの影響によって手に入れるから、マナ総量は低くなりがちで。
鍛えた身体能力と武術が彼らの武器だ。
俺は身体能力でも兄様に劣っているが、それは単純に兄様が天才すぎるだけ。
同年代と比べたら、圧倒的に俺のほうが身体面では有利だろう。
ここまでやれば、ミホノのフルコーデを身にまとえばなんとか中級魔人と戦える。
対策を完璧にすれば、上級魔人相手にも時間稼ぎはできる、……はず。
なおミホノが同じことをすれば普通に上級魔人を相手取れるはずだし、今の兄様は上級魔人を悠々と倒せる。
上を見ると……先は長い。
そして最後に、直接のサトリ対策。
サトリは心を読む。
であれば、心を読まれないようにする必要がある。
原作では主人公が忍術の奥義で心を無にして戦うことで対策していたが、俺はその境地へ至ることは難しい。
なので俺は、心に壁を作ることにした。
方法は単純、具現化で心を覆うように透明な壁を作るのだ。
具現化は想像することさえできれば、マナか生命を伴わないものなら何でも創造できる。
俺は
兄様に「心に壁を作る」と言ったら、「お前はまたそういう……」みたいな反応をされたが、やはりできると知っているか否かで、難易度は大幅に変わるのだ。
こういう意識の違いによる魔祓刃成功率の違いは、やはり面白い要素だなぁ、と思う。
・■月■日
いよいよもって、サトリの攻勢が強まってきた。
ついには父様もサトリの毒牙にかかり、俺は泣く泣く父様に触手を見せてサトリを取り出す。
この触手、俺とミホノ以外の人間が見ると正気を失ってしまうが、それ以外に危険はないようだ。
兄様曰く「まほろばの影響を受けて変質したのなら、生命の意思が介在していないということだ。ならば、これ以上別のものに変化することはないだろう」とのこと。
よかったぁ。
とはいえ、やはりサトリに対する対策は必須のようだ。
ここまでくると、俺に対してサトリが襲撃を仕掛けてくるのは時間の問題。
比較的安全なところからやっていくことにしよう。
まずは、ミホノに頼んで招来空間を使ってもらう。
呼び出すものは――
これを「俺のもの」と言い張ってミホノに呼び出してもらうのである。
結果として、マナは具現化することができないから、サトリから直接転送されてくるのだ。
一発でごりっと持っていくとさすがにバレるので、少しずつ、少しずつ、ばれない程度に。
どうせ最近は頻繁にマナを使って人々を暴走させている。
ちょっとくらいこそっと盗んでもバレないはずだ。
盗んだマナは、固定化する道具で固定して、ミホノと二人でぼこぼこにする。
これを毎日一回、ちょっとずつ進めていった。
次に俺は、触手を封印している
触手ではない、あっちを再現したらどうなるかわかったもんじゃないからな。
ついでに言うと、ミホノが触手を招来するのだけは嫌とのことなので、箱だけにしたのだ。
ミホノと二人で
ここまで俺はサトリのマナを撃退するためにさんざん触手を使い倒してきた。
これにより、サトリは無意識に触手へトラウマが発生しているようなのだ。
そこを突いて、各家庭に箱を配ることで、サトリが箱のある家庭を避けるようになる。
これでサトリの出現位置を誘導するのだ。
んでもって最後に、サトリの居場所を特定するべく俺は解郷を使用する。
ただ、現実世界にサトリがいる場合、二重の解郷では隠ぺいに不安が残るので、四重解郷を使えるようになっておきたい。
そこで俺はあるものをミホノに作ってもらった。
まほろば学園の教材を使った祭壇だ。
魔祓刃の上達は、使用者の意識を鍛えることが必須。
俺は俺が現状もっとも愛着のある道具であるまほろば学園の教材を、四重解郷で見るという目的をモチベーションとした。
前世から大好きだった作品のグッズにして、長年使い倒してきた道具の祭壇だ。
これ以上に興奮……もとい集中できる祭壇はない。
というわけで早速、俺は四重解郷の練習を始めた。
最初のうちは変な場所に視線が飛ぶこともあったものの、少しずつそれも安定していく。
最終的には、二回に一回は祭壇を解郷できるようにまで成長した。
しかし、結局最後まで二回に一回しか祭壇を解郷できなかったのだ。
制御はほぼ完ぺきといっていいのに、なぜ?
答えは簡単。
制御に失敗したから二回に一回は別の場所を見ていたわけではないからだ。
じゃあ何を見ていたかっていうと、あれだ。
ミホノだ。
そりゃそうだよな、ミホノは俺の前世における推しで、今の人生では下手すると家族より一緒にいる時間の長い相手で、婚約者である。
これで見るなって方が難しい話で。
まぁ、その、なんだ。
検証によると、学園の教材を意識して解郷を使っているから確率的に半々になるだけで。
ミホノを意識して解郷を使うと、教材にブレる確率はガクッとさがった。
特にミホノがあざといポーズをとっていると、ミホノに意識が向く確率が高いらしい。
おのれ俺……単純な奴……
・■月■日
久々に兄様がまほろば学園から帰ってきた。
話の中でサトリ対策を兄様に話したら、
「お前、俺の時はそこまで悪辣な手は取らなかったのに、魔人相手になるとよくそこまでポンポンえげつない手を思いつくな」
とのこと。
話し方は敬語から以前のものに戻った兄様。
ただ随所にあった棘はなくなっており、今ではちょっとぶっきらぼうで善良な兄様である。
俺に対しては辛らつだけど、そこは仕方がない。
で、兄様の指摘はもっともで、俺としても対兄様より明らかにやってることのアレさは向上していると思う。
けどこれには理由が二つあって、一つは兄様の時は目的が捕獲だったためだ。
捕獲以外の手段をとれるなら、もう少しやれることは増えていたはずである。
そういうと、兄様は遠い目をしながら「だろうなぁ」と返す。
で、もう一つ。
これはさらに単純な理由で、兄様の対応力が高すぎるのだ。
すさまじく鋭い直感を持つ兄様は、俺の作戦に的確に対応してしまう。
特にマナを使用したものへの嗅覚はすさまじく、ほぼすべて効果を発揮する前に対処されてしまったのだ。
ようするに、兄様がすごすぎるのだ……と話をしたら、兄様は崩れ落ちた。
「いつの間にか俺はセオに毒されていた……」
だそうだ。
まぁその……はい、その通りだと思います……
・■月■日
今日も今日とて、いろいろと対策を打ちながら解郷でサトリを探す日々。
もうすでにサトリが活動を開始してから数か月が経っているというのに、いまだサトリ本体の動きはなし。
これはもしかして、俺を襲うつもりはないのだろうか。
俺を特定できていないということはないだろう。
あんだけ触手を振り回して、サトリを妨害してきたんだから。
と、すると問題はいったいどこにあるのだろう。
そんなことを考えるも、答えは出ず。
今日も成果はなかった。
・■月■日
マナの総量が、鍛錬はじめと比べてかなり上昇した。
感慨深いところがある。
まだまだ水準としては低いほうなので、これからも努力を続けたい。
サトリはいまだ発見できていない。
・■月■日
おおむね、対サトリ戦の準備が完了した。
問題はそのサトリと戦えるか、というところなのだが。
そもそも戦う必要があるのか、という話でもある。
ミホノちゃんと協力して、もうずいぶんマナを削っているのだ。
案外、もう俺でも撃退できるくらい弱っているかもしれない。
だが、サトリはいまだ発見できてはいなかった。
・■月■日
今日もサトリはみつからなかった。
これだけマナを削っていれば、さすがに気付くと思うんだがな。
・■月■日
サトリの発見には至らず。
向こうから襲撃してくる気配もなし。
いっそマナが削れていると気付いて、向こうから襲撃してくれた方が楽だ、ここまでくると。
・■月■日
成果なし。
何か見落としがあるのかもしれないな。
・■月■日
みつけた。
みつかったことでSANチェック(1d6/1d20)です、どうぞ。