なんとか、サトリをマナミキサーの罠にかけることができた。
勝算はかなり高いと思っていたが、それでも本物の殺し合いは肝が冷える。
そもそもなぜ俺がサトリの精神空間だかマナ空間だかに乗り込む必要があったかと言えば単純で、俺の腕の中で気絶している少女を見てしまったからだ。
まず、結構な時間をかけてもサトリが見つからなかったことで、俺はサトリが現実にもまほろばにもいないのではないかと考えた。
じゃあどこにいるのかって、サトリは自分自身の一部をマナとして切り取れるんだから、その中に潜むことだってできるよな。
途中、うまくサトリの精神世界とピントを合わせられず向こうに”視られている気配”だけが伝わってしまって少し冷や汗を流したものの。
どうやら、それをサトリは恐怖体験として認識していたらしく、そこは少し命拾いした。
原作じゃこんな能力一度も見せなかったけれど、多分何かしらの方法で原作開始前に看破されていて、二度と使わないことにしたからだろう。
その証明とも言えるのが、俺の助けたこの少女。
明らかに原作でサトリと因縁のあった魔祓師”
髪色と、顔つきはだいぶそっくりだ。
原作では、サトリがこの娘を殺し、朱馬ソウジがサトリの精神空間に突入して色々あったのだろう。
俺の知らない原作が、久々に襲いかかってきていた。
ともあれ、そこからは簡単だ。
場所さえわかってしまえば、サトリのマナはミホノが”サトリは俺のもの”だと思い込んだうえで凄まじい量を吸い出している。
もはやサトリは俺と言っても過言ではない。
なので以前兄様を捕まえる時に使った転移の応用で、俺はこの精神空間に突入した。
本来なら、俺みたいな子供が一人で突入する必要はないだろう。
だが、俺が解郷でサトリの精神空間を見つけた時、今まさにこの娘が殺されそうになっていた。
これで流石に、突入するなっていう方が人の心がない。
しかもサトリに対して勝算があって、この娘が殺される前に精神空間に突入できる人間は俺しかいなかった。
ミホノは自分で自分を転移させることはできないからな。
もし仮に、百鬼の家に兄様がいればもっと安全に倒せたのだろうが、いないものは仕方がない。
慌ててミホノと準備をして突入することになった。
お陰でミホノデザインの謎タキシードを着て突入することになったが、まぁこの娘も気絶してるし問題ないだろう。
そこからはまぁ、見ての通り。
ミホノがマナを吸い取りまくったことで、本人も気づかないうちに上級魔人程度にまでマナを減らしていたサトリと互角に渡り合い、隙を見せて魔装を使わせた。
結果、俺が使用していた具現化による精神の壁は解体。
その中に隠していたマナミキサーが俺とサトリのマナをめちゃくちゃにした。
――ただし、俺はそのマナミキサーによる精神の撹拌は対策済み。
一方的にサトリだけがマナをめちゃくちゃにされ敗北する――はずだった。
『そう、か。……わかったのさ! お前、もう一枚精神に壁を作っているな!?』
まずいことが起きた。
サトリが俺のミキサー対策に気づいたのだ。
俺がマナをめちゃくちゃにされているはずなのに、全く効いた素振りを見せなかったことで気づいたのだろう。
そう、俺は精神の壁を二枚作っていた。
正確に言うと、壁、ミキサー、壁という構造だ。
結果的にめちゃくちゃにされる俺のマナはごく一部。
俺に対するダメージはほとんどない。
別にミキサーされても俺の精神が耐えられることは事前に実験済みだが、サトリのマナと俺のマナが混ざるのは魔人化の危険があってまずいからな。
――が、サトリに気づかれてしまうのは、まずい。
『お前の精神の壁を……解体すれば……! お前は無事じゃ済まないのさ!』
「ぐ……!」
サトリが、両腕で俺の首を掴む。
魔装を起動したことで、サトリは身体能力が向上していた。
故に、俺はもうサトリに抵抗することはできない……!
「やめ……ろ……」
『やめるわけないのさ! 見ての通り、サトリはもう結構な時間お前のミキサーに耐えているのさ! お前がそれと同じ時間、ミキサーに耐えられるとは思わない……!』
「やめて、くれ……頼むから、このまま……ミキサーで殺されて……くれ!」
『何を言っているか理解できないのさ!』
――まずい。
まずい、まずい!
サトリに俺の精神の壁を壊させるわけにはいかない!
だって、だってそれは――
『殺されるのは! お前なのさ! ――”覚胎心象”ッ!!』
それは――――
『――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あ』
俺の心を通して、俺が見てしまった”神格”に、サトリが接続するということなのだから。
――結局。
俺の心を読んだ瞬間、サトリは意識が完全に停止し、俺の体も手放してしまう。
だが、サトリの魔装と心を読む能力は停止していない。
どこか視点の合っていない瞳が虚空を覗き、そして思考は完全に停止している。
やがて、どさりとサトリは膝をつき――そのタイミングで、俺は拾い上げたミホノの刀を構える。
「……せっかく俺が、
いくらサトリが外道で、畜生みたいな精神をしていても。
流石にこんな死に方はあんまりだろう、と思ったのに。
結局、俺は力不足だった。
まだまだ、格上と戦うには準備も能力も足りていない。
そう思いながら――せめてもの介錯として俺は刀を振るい、サトリの頸を切り落とした。
◇
それからは大変だった。
俺とミホノが二人だけで最上級魔人を討伐したことで、魔祓師界隈は大騒ぎ。
父様も母様も、それから兄様も無茶をするなと大目玉。
それでも俺が助からないはずだった少女の命を救ったことで、なんとか皆矛を収めてくれたものの、次からは周囲に相談してことを進めろと念を押された。
ミホノ以外に説明すると、SANチェックが必要になってしまう案件も多いから、説明できないことも多いのだが。
まぁ、大事な家族を心配させるよりはいいだろう、なんとか説明できるように俺が頑張らないとな。
魔祓寮は、今度こそ俺が最上級魔人を討伐したことで、色々と揉めたりなんだりしているらしい。
なにせ俺は、才能という面に関して言えば落ちこぼれもいいところだ。
それがどういうわけか、ミホノの協力ありきとはいえ最上級魔人を討伐してしまった。
前回は魔祓刃とも違うおかしな力を使っていたから……という理由もあったが、今回は完全に魔祓師としての能力での討伐である。
最後になんかおかしなことが起きたけど、それ以前は完全に魔祓師の力だけでサトリを完封していたからな。
なので、どうも魔祓師の中で俺が「使える」か「使えない」かで揉めているそうだ。
ミホノにしても俺にしても、はっきり言って魔祓師の中では家の家格が最底辺に近い。
兄様みたいに、視るだけで天才とわかるマナ総量をしていれば、また話は違うのだけど。
ミホノはともかく、俺に関してはマジでマナ総量に関してはゴミもいいところだからな。
「こんなやつに最上級魔人が討伐できるわけがない」と思うモノがいるのも当然だろう。
まぁ、俺から言えることは一つ。
――原作でよくあったやり取りだぁ!
主人公の風魔コウタロウにしてもそうだが、それ以外にも様々なタイミングで才能のない魔祓師が魔祓寮のお偉いさんにバカにされることが原作ではあった。
大崩壊後は組織が壊滅状態だったので、そういう人間もかなり減ったけど。
大崩壊前の回想だと、だいたいそういう描写があちこちで挟まったものである。
いやぁ自分がその洗礼を受けるとは、この世界に転生してみるものだなぁ。
最終的に、俺はミホノとともにまほろば学園卒業前でも中級以上の魔人を討伐していいという許可。
通称「特級」の称号を与えられることになるのだが、これもまたまほろば学園で俺が周囲のやっかみを受ける種になりうる。
あの原作の雰囲気を生で堪能できるとか、今から学園入学が楽しみだなぁ!
なんてことをしているうちに、あれよあれよと時間は過ぎていく。
俺が悪路王を討伐してから、ついに六年が経過しようとしていた。
六年、六年だ。
長いようで、あまりにもあっという間な六年だった。
これから俺は、ミホノと共にまほろば学園へ入学する。
まず間違いなく、様々な事件に巻き込まれるはずだ。
特に、もう数年後に控えた大崩壊――隕石の魔人の襲来は無視できない事態である。
叶うことなら、そこで失われる命を一つでも減らしたい。
俺はそのために――強くなることを誓ったのだから。
この世界に降りかかる無数の理不尽に対する怒りが、俺の原動力なのだから。
ああそれと……やっぱり”あいつ”にも、気をつけないといけないよなぁ。
本当に、どこから
後、あるものを俺は紛失してしまったので、現在はそれをなんとか捜索している。
ミホノに預けていたはずなのだが、忽然と消えてしまったそうだ。
いやマジでどこに行ったんだ。変なところに紛れ込んでいるとまずいぞ――
◇
一人の少女が、命を落とそうとしていた。
死因は笑い過ぎによる過呼吸。
先程から観察していた光景は、彼女にとっておもしろすぎたのだ。
しかし流石に、こんなことで死ぬわけにもいかない。
少女はなんとか一命を取り留め、呼吸を整える。
最初は単なる思いつきだった。
あのサトリとかいう百鬼セオの天敵すぎる魔人をセオにぶつけてみてぇ~~!
そんな思いから、サトリの上司である七大魔人「白面九尾」のフリをしてサトリに命令を出した。
結果は大成功。
サトリはそれはもう盛大に踊ってくれたし、セオのあれやこれやは少女の腹筋を大崩壊に導いた。
ただ、観客の誰もが望んでいた
「いや、ほんと……完璧すぎぃ……ぶふぉ」
少女は思い出し笑いを始めた。
「やば、死ぬ……息……呼吸……だれか、たす――」
またしても命を落としかけた。
「……これもう飽きたなぁ」
そして秒で飽きて死にかけ演技をやめた。
そもそも誰も見ていないのに死にかけても面白くないのだ。
とにかく、少女は色々と準備をしなくてはいけない。
あれもしたいし、これもしたい。
だがまず何よりは――
「ささ、さっさと始めないとね――入学準備」
まほろば学園への入学準備を終えないといけない。
ついに、自分も盤上へ
――そして、入学準備中に変な触手を見つけて、「なにこれぇ?」と首を傾げるのだった。
というわけで、日記編終了となります。
最後の方は全然日記じゃありませんでしたが、まぁ日記モノってそういうところありますし……
次回からはまほろば学園編……というか、ある魔人との対決編に入ります。
なにはともあれ、日記編お読みいただきありがとうございました。
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よろしくお願いいたします。