推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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十九 まほろば学園の奈留島さん

 ――俺は、この世界が好きだ。

 魅力的な物語と、個性豊かな登場人物の織りなす物語が好きだ。

 拡張性が高く、好きな異能を思うがままに作り出せる魔祓刃という能力が好きだ。

 そして、だからこそ未来に待ち受ける理不尽には怒りを覚える。

 

 大切な人を、守りたい世界を、俺はどうにか守りたい。

 だから、そのためには――

 

 

 ◇

 

 

 まほろば学園、魔祓師の子どもが全国各地から集められ、教育を行うための機関。

 全6年制で、中学と高校を魔祓師の子どもはこの学園で過ごすことになる。

 これにはまぁ色々と理由があるんだけど、メタ的には世界観をこの学園にぎゅっと集中させて物語を動かしやすくするための舞台装置みたいな場所だ。

 そのため学園には学園モノっぽいイベントが盛り沢山。

 正直、割とこれが楽しみでまほろば学園に通っているところがある。

 ただ、それを素直に楽しむためには色々と問題があった。

 

 一つは俺自身の面倒な立場。

 まず俺は、入学前の功績から特級の称号を与えられている。

 学園において、最も優秀な生徒たちに与えられる称号に対して、俺の才能はカス以下だ。

 もう周囲から妬まれてくれと言わんばかりの立場である。

 まぁ流石に二体も最上級魔人を倒しているから、そこまで周囲から実力を疑われたりはしないだろうけど。

 それでも、一定以上のトラブルは間違いなく発生する。

 

 もう一つは、二年後に迫った大崩壊だ。

 現在俺は特級の称号を与えられるくらいには、魔祓師として信用されている。

 しかしさすがに、二年後に隕石が降ってくるだとか、宇宙には強大すぎる真生生物”神格”がいるだとか。

 そういうことを語っても、「またおかしくなったのかこいつは」としか思われないだろう。

 これを本気で大人たちに信じさせるには、今以上の実績がいる。

 そのための準備が、非常に忙しいのだ。

 

 何にせよ、やるべきことは多い。

 今は原作の舞台であるまほろば学園の生活に思いを馳せつつ、できることを一つずつやっていくしかないだろう。

 

 

 ◇

 

 

「――アレが、今年特級として認められた()()の新入生」

「あっちの女の子は……なんかすごいわね、雰囲気が。まさに別格って感じ」

「だけどあっちは――」

 

 ガヤガヤと、俺達に周囲から視線と言葉が向けられている。

 今はまほろば学園の入学式が終わったタイミング。

 俺とミホノは、これから自分たちが一年間お世話になる一年の教室に向かっていた。

 

「いへへ、セオ様、セオ様ー」

「ミホノ、周りの人が見てるからあんまりひっつくと恥ずかしいぞ。あと、髪の毛がもこもこで……もあ」

 

 周囲は、完全に俺とミホノに注目を向けていた。

 ミホノには畏怖の視線を、俺に対しては懐疑的な視線を。

 ただ、ミホノ本人はそんなこと気にもとめずに俺に頭を擦り付けている。

 相変わらずかなりの毛量で、俺の顔が一部髪に埋もれた。

 

「……アレが本当に特級? マナの量は私達とほとんど変わらないし」

「見掛け倒しって感じだな。何だってあんなのが特級になれたんだか」

 

 出会ってからかれこれ七年が経過し、ミホノはすっかり色々と大きくなった。

 同年代の平均身長からすればかなり小柄だが、髪の毛の量とか一部の発育とかは結構すごいことになっている。

 そんなミホノの毛量に埋もれながら、俺は周囲の言葉に耳を傾けていた。

 

 案の定、というべきか。

 俺に対する視線は色々とキツイものが多い。

 嫉妬が大半で、才能の無さに対する侮蔑や実績に対する懐疑的な視線も見受けられる。

 ただ、なんというか――思ったほどではないのだ。

 原因として考えられるのが――

 

「――でも、あの百鬼ルトの弟なんだろ?」

「ルト様が常々、”弟には気を付けろ”って言ってたよね」

「ルト様ってなんだかんだツンデレだからねぇ」

 

 兄様の存在だろう。

 言うまでもなく、兄様もまほろば学園の特級生徒である。

 俺もまた、そんな兄様の弟として注目を集めているのだ。

 何より、兄様が周囲に俺のことを「気を付けろ」って言って回っているらしい。

 仮にも現在、この学校で最強の一人と目される兄様の言葉だ、結構な生徒がそれを信じているようだ。

 ところで兄様がツンデレって、何の冗談だ?

 しかし、俺に対する視線はそれだけではない。

 

「見ろよ、あの眼帯……アレが例の眼帯の騎士だ……」

「かっけー……!」

 

 なんか、俺の眼帯に対してやたらと熱い視線を向けている者たちがいる……!

 なんなの!? 中二真っ盛りなの!?

 間違いなく、眼帯に対する注目は兄様から発生したものではない。

 一体どこから眼帯ブームが発生したんだよ!

 

 しかもしかも、それだけではない。

 

「……ミホノちゃん可愛すぎる、天使すぎる」

「なのに何だあの隣の奴……ミホノちゃんに擦り寄られてゆるせねぇ……!」

「あいつ、ミホノちゃんの婚約者らしいぞ! マジゆるせねぇ……!」

 

 嫉妬は嫉妬だけど、俺の能力じゃなくて立場に対しての嫉妬が向けられている!

 そりゃミホノは美少女だし、俺の立場は羨ましいかもしれないけどさ!

 お前らがミホノに注目してるのはミホノが特級生徒だからだろ!?

 原作のミホノが目立たない生徒だったこと、俺はまだ覚えてるんだからな!

 

「いへへー、いへへー」

「……ミホノ?」

「んいー、なんでもないですよ。いへへー」

 

 さて、更にミホノが頭をすりすりさせてくるのをなんとか受け止めつつ、俺は教室に向かって歩いていた。

 この混沌とした状況で、俺の新しい青春が始まるのだ、と思うとなんだかワクワクして――

 

 

「セオくん、お待たせ~♪」

 

 

 一人の少女から、声をかけられた。

 一体いつからそこにいたのか。

 俺とミホノの後方に、少女は立っている。

 青みがかった黒髪を二つ結びにして、顔には特徴的な泣きぼくろとどこか胡散臭い笑み。

 背丈は中学生女子の平均程度。

 そして、まほろば学園の制服をやたら着崩したギャルみたいな着こなし。

 見たことのない少女が、そこにいた。

 

「……おい、誰だあいつ。あんな奴知ってるか?」

「ううん、誰かしら」

 

 周囲の人々が、突然の乱入者に不思議そうな視線を向けている。

 見たこともないような人物であり、なおかつまほろば学園の伝統ある制服をここまで着崩す人間もそう居ない。

 だから、視線は自然と彼女に集まるわけだが――

 ふと、脳裏にノイズが走る。

 直後。

 

「――アレが、今年特級として認められた()()の新入生」

 

 誰かが先程の焼き直しのようにそんな言葉をこぼす。

 まるで、眼の前の少女が存在しないはずの三人目の特級生徒であるかのように。

 ――いや、待て。

 俺は何を言っているんだ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 名前は――

 

「改めて、今日から同じまほろば学園の生徒としてよろしくね? ――アタシ、奈留島」

 

 俺は頭を抱えながら、脳裏に入り込んでくる洗脳まがいの情報に顔をしかめつつ。

 

 

「――奈留島ニイア」

 

 

 眼の前の女――突如として俺の前に()()()()()()()奈留島ニイアを、睨むように見た。

 なるほど、やってくれる。

 登場といい、名前といい、雰囲気といい。

 

「あはは、そんな怖い顔しないでよ。これから一緒に特級として頑張る仲でしょ? 仲良くやろうよぉ」

「むぅ……」

「ミホノちゃんもそんなに睨まないの。別に彼氏さんを取ったりなんてしないからさ」

 

 この、胡散臭すぎる言動といい。

 何から何まで――テンプレすぎる這い寄る混沌の化身だ。

 わざとやってるのか? ってくらいニャルニャルしすぎている。

 ミホノも何かを感じ取ったのか、俺に体を押し付けて奈留島ニイアから俺を遠ざけようとしていた。

 ところで、なんか柔らかいものがあたってるのと、髪の毛がもこもこ過ぎて俺の体が埋もれそうなんだけど、助けて。

 

「もご、もごご、もごご」

「……ミホノちゃん? あんまり強く抱きしめてるとセオくん呼吸できなくなっちゃうよ?」

「はぅ! せ、セオしゃまー!」

 

 きゅっぽん! 俺はミホノのもこもこ髪から救出され、人心地つく。

 とにかくこいつは、疑いようもなくアレの化身だ。

 ただ胡散臭いだけならともかく、周囲の認識を改変して俺達の同級生になりすましてるんだから疑いようもない。

 ミホノは耐えられているようだが、俺は異質濃度が低いからかまだ若干意識が混乱している。

 

 ただ、気をつけなくてはいけないのは、這い寄る混沌の化身がこいつだけとは限らないこと。

 一体どこに、見知らぬ化身が紛れ込んでいるかわかったものではないのだ。

 この学園生活、色々と気をつける必要があるだろう。

 と、思っていると――奈留島が俺に近づいて、耳元で何かを囁く。

 

「――あんまり、”神格”の力を過信しないほうがいいよ?」

 

 うお……と思わず息を呑む。

 こちらの正体はすべてお見通しだと言わんばかりの一言。

 あまりにも、黒幕っぽいムーブだ。

 正直、どこまで本気で言っているのかはわからないが、そこを悩ませるところまで含めてニャルニャルしている。

 ところで、さっきから隣でミホノがめちゃくちゃ奈留島を威嚇していて怖いです。

 と、思っていると――

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、神格の力は、人の手に余るものなんだから」

 

 

 そう言って、奈留島は俺から離れた。

 ――ちょっと待て?

 

「じゃあ、また教室でね。ふたりともばいばーい」

「うみゃー!」

 

 笑顔で手を振って去っていく奈留島と、それを威嚇するミホノ。

 しかし俺はそんな二人をよそに、先程の発言を反芻していた。

 ”どんな神格から力を借りてるかは知らない”と奈留島は言う。

 けど、ありえるのか? そんなこと。

 俺が力を借りたのは()()()()だぞ?

 這い寄る混沌の宿敵、這い寄る混沌絶対殺す神格。

 他の神格なら、まだわかる。

 意図的に知らないフリをしてこちらを幻惑している可能性もあるし、本当に知らない可能性もある。

 けど、生ける炎を知らないってことは、ありえないだろ。

 すなわち、このことから考えられる理由はただ一つ。

 

 

 ――多分この子、俺が生ける炎の力を借りてると本体から教えてもらえてない。

 

 

 ああ、うん。

 自分自身すら玩具でしかない……ということだろうな。

 そう考えると、先程ミホノがうっかり俺を殺しかけたときに、なんか冷静になってたのも頷ける。

 奈留島ニイア。

 俺が警戒しなくてはいけない存在としては、間違いなく最上位に位置する厄介な女だ。

 でも、同時に――テンプレニャル行為をしてから去っていく彼女の背中に中間管理職感を感じてしまうのは、俺だけだろうか。




というわけで学園編開始ですにゃ。
本格的ににゃるにゃるした人も出てきたのでクトゥルフ神話のタグをつけます。
ここから一章後半です。
応援してくださると幸いです。
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