学園に入学してすぐのイベントに、魔祓刃を披露するというものがある。
これは入学前に魔祓刃を習得している優秀な生徒が、それを周囲に見せるというもの。
なんというか、漫画的に非常に助かるイベントで、ここで魔祓刃を披露した人物が今後メインキャラになっていくんだなということを想像させるイベントだ。
原作だと一人出落ちするけど。
二次創作でもここで魔祓刃を披露して生徒たちを驚かせるのは定番で、人気イベントである。
まぁ、結果としてここで満足してエタを量産するイベントでもあるけど。
ともあれ、そんな魔祓刃披露イベント。
学園の運動場で行われるそれに、今年の新入生が全員集められていた。
今年の披露者はなんと三人。
俺、ミホノ、そしてニイアの三人だけだ。
少なくないか? と思うかもしれないが、これは現在の時間軸が大崩壊前であることに起因する。
というのも「まほろば境界」と呼ばれる結界によって、凶悪な魔人が現世に出現できなくなっており。
平和ボケによって、多くの魔祓師の一族が学園入学前の修行にそこまで気合をいれなくなっている時代だからだ。
まぁ、その境界が大崩壊によって崩れた後は、どこもこぞって魔祓師の育成に力を入れるんだけど。
何にせよ、今日この時、魔祓刃を披露するのが俺達だけであるということに変わりはない。
「それではまず一人目、百鬼セオ。魔祓刃を披露するように」
「はい」
教師の呼びかけに俺が応じて、立ち上がる。
周囲の視線が一斉にこちらへ向けられて、その中に敵意や嫉妬が多く混じっていることを確認した。
くぅ~この感覚、これですよこれ!
なんか思ったより俺に対する評価が高くて、あまり日常生活だと実感しないけど。
こういう創作特有の劣等生を見下す感覚はなんとも、自分がそこにいるのだということを実感させてくれる。
そんな彼らに向けて、俺はこれまで練習してきた魔祓刃を披露するのだ。
披露する魔祓刃は――
「――光弾!」
王道をゆく光弾以外にないだろう。
まぁ、返って来る反応は明らかで――
「光弾? 特級生徒が、人前で披露する魔祓刃にしては地味すぎないか?」
「やっぱりあいつ、才能がないんじゃないのか?」
失望の色が多く見られた。
なお、半数はミホノの威嚇によって萎縮して、何も言わなくなる。
というか、俺が普段普通に生活できているのはミホノが四六時中引っ付いて、周囲に威嚇してくれてるからだよな。
手を出さないのは本当に偉いと思う。
ともあれ、本番はここからだ。
俺の魔祓刃は、発動してからそのままずっと動いていない。
普通、光弾は狙った場所にまっすぐ飛んでいくものなので、これは異様だ。
がやがやと、生徒たちはそのことを不思議そうに見ている。
――そして、光弾に変化が起きた。
白いマネキンみたいになって、俺の前に立っている。
「人型に変化した!?」
「光弾って形を変えられるものなのか!?」
生徒たちが口々に疑問を呈する。
俺のやっていることは、光弾としては不可思議な現象だ。
一体どうしてこんなことになっているのか、理屈としては単純で、俺が光弾をそのような形に操っているから。
光弾はただ光の玉を放つだけでなく、光を自在に変化させることができる。
形さえ変化させるのは非常に難易度の高い技だが、習得すればこんなこともできる。
俺は光弾の前に立つと――
「……あいつ、光弾と踊ってるぞ!」
光弾といっしょに、優雅なダンスを披露した。
これぞ俺の編み出した光弾ダンス、略して光ダンス。
習得するのに一ヶ月を要した高等テクニック……なのだが。
「……なんか、地味だな」
「すごいことやってる気はするけど、地味だよね」
――しまった、ここにいる生徒は全員魔祓刃の素人。
俺がどれだけ高難易度の操縦テクを見せているか、正しく理解できる人物はいない。
一部、光弾の練習をしたことがあるらしい子どもたちは顔面を蒼白にさせているが、それはほんのごく一部。
俺のやったことがどれくらいすごいかっていうのは、どうやら生徒たちには伝わらなかったらしい。
おのれ……将来的にこれがすごいことだったと理解するときが来るのだ。
その時を覚えているがいい……!
なんてことを考えながら、魔祓刃の披露を終えて元の場所に戻る。
俺に対する周囲の評価は、正直あまり変わらなかった。
ちょっと選んだ魔祓刃が地味過ぎたな。
いやでも、具現化で概念を具現化するよりは、まだ派手だったと思うんだよ。
とにかく。
「次! 奈留島ニイア!」
「はーい」
次に指名されたのは奈留島だった。
少し意外だな。
こういう時、本命というか、落ち担当は最後に回されると思うんだが。
ちらりと俺はミホノをみる。
さっきのダンスを自分も踊りたいとせがんでくるミホノ。
……ミホノが最後かぁ。
俺はなんとなく、嫌な予感がした。
「じゃあ行きまーす! アタシの魔祓刃――獣応無人!」
そんな嫌な予感はさておき、奈留島の披露した魔祓刃は非常にわかりやすいものだった。
自分の姿を任意の姿に変化させる、というもので。
今、奈留島はミホノへ変身している。
「えへへー、どうですかセオ様ー、私、そっくりですか?」
見た目は確かに、ミホノそっくりに変身している。
ただ、俺の知っているミホノは今も俺の隣で座っていて、自分のマネをする奈留島にむくれている。
それはもうむくれまくって、ほっぺたが風船みたいだ。
対する奈留島は――似てはいるけど、別人だとはっきりわかる感じだな。
「悪いけど、マナの形から本物のミホノじゃないことは一目瞭然だ。それに喋り方も、普段のミホノと少し違う」
「そんなぁー、せっかくミホノちゃんの真似してみたのにぃ」
まず、笑い方のイントネーションが違うんだよなぁ、とか考えつつ。
同時にこれ、人に変身するのが本命じゃないだろう、とも思う。
なんたって獣応無人だし(メタ読み)。
「じゃあ次に、真生生物に変身しまーす」
そして実際、その読みは当たっていたようで。
奈留島の宣言に、生徒たちはにわかに騒がしくなる。
真生生物に変身する魔祓刃など誰も聞いたことがないからだろう。
しかし――
「じゃじゃーん! 獣応無人! 人魚の姿のアタシでーす!」
驚くべきことに、奈留島はどこかのスライムみたいな掛け声とともに
人魚といえば真生生物としては非常に貴重な種族で、本物の人魚を見たものはおそらくこの場にはいないだろう。
ただ、写真は出回っていて、眼の前の奈留島の魚の尾はその写真の人魚そっくりだった。
「おお、すげぇ!」
「人魚って食べると不老不死になれるんだっけ」
「だから魔人がこぞって人魚を探してるんだよ」
なんて声が聞こえてくる。
いやはや驚いた。
奈留島が人魚に変身できること――ではない。
変身したことで、奈留島の体内のマナが
どうやら奈留島の変身は、ある程度自身の体内にあるマナの形すら変化させられるようだ。
つまり、奈留島が変身する相手を強力なものにすればするほど、奈留島自身の出力も高まっていく。
それなら――
「――あの、ところでなんですけど」
と、そこで奈留島がなにやら申し訳なさそうにこっちを見てくる。
具体的には、俺とミホノを。
え、何?
「実はそのぉ、この魔祓刃なんですけど……ええと、その」
なにやら、奈留島は口ごもっている。
はよ言えや、という感情が少しずつ高まってくる中――
「はよいえやー」
「はい……」
あ、ミホノが言った。
こほん。
とにかく奈留島は何やら――
「実はこの魔祓刃、自力で元にもどれないんですよ……」
魔祓刃にとんでもない欠陥を抱えているようだった。
ええ……
いやその能力、ニャルの化身として身につけたものじゃなかったの?
なんか、俺の重要な情報を聞かされていない件といい、色々と奈留島が不憫に思えてくるな……
なお、解呪という名前通りの魔祓刃か、それ同等の効果を持つ魔祓具で比較的簡単に元に戻れるらしい。
じゃあ最初から常備しなさいよ……と思いつつ、俺はミホノを説得して招来空間で解呪の魔祓具を招来して奈留島を元に戻すのだった。
――さて。
「で、では最後、瀬戸場ミホノ」
どこか疲れた様子で、教師がミホノの名を呼ぶ。
俺の変態光弾操作技術でドン引きし、奈留島の欠陥魔祓刃に頭をいためていたからな。
疲れているんだろう。
頼むぞミホノ、どうかこれ以上先生をつかれさせないでやってくれ。
「あいー」
のんびりと挨拶をして、すくっと立ち上がりとてててっと中央に躍り出る。
そのどこかほんわかした空気に、教師と生徒たちが「これは行けるんじゃないか」という空気になっていく。
ミホノの魔祓刃はすでに先程実質披露されており、その能力は折り紙付きだ。
しかし俺にはそれがフラグにしか思えないが、ミホノは――
「招来空間です! えい!」
これまたあざとい掛け声で魔祓刃を起動した。
勝った。
教師の顔が勝利を確信して笑みを浮かべる。
そして――
出現した俺の祭壇を見て、死んだ目をした。
まぁ、はい。
ミホノがこの場で招来するものなんて、最初から決まってますよね。
「ええと、瀬戸場くん、これは?」
「ミホノはセオ様の婚約者なので、セオ様で世界を満たします!」
俺の写真とか、私物で構成されたいつものミホノの祭壇。
部屋の中ではないからか、サイズは通常の三倍になっている。
凄まじい威圧感だ。
一部の生徒が、俺に「お前婚約者にナニしてるんだよ」みたいな視線を向けてくる。
いや違うんですよ、なんかいつの間にかこうなってただけなんですよ。
「でも今日は、せっかくなのでこの素敵な祭壇以外にも招来をおこなおーと思います! いへへ!」
その言葉に、周囲が「おお」とどよめく。
今度こそ、まともなものを呼び出してくれるのではないか、と期待して。
結果――
――めちゃくちゃ美化された俺の銅像が招来されて、この場にいる者たちの目は死んだ。
なんなら俺もちょっと死んだ。
え、俺ミホノに普段こんな美化された状態で見られてるんです?
やばぁ。
――なお、最終的に。
銅像があまりにも美形過ぎたからか、一部の女子から俺に対して黄色い悲鳴が上がるようになった。
それでいいのか、それで。
なんかめっちゃキラキラしていて物理的に目が死んだらしいです。