推しの少年漫画に転生した件   作:暁刀魚

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二十三 魔人襲撃とセオタード仮面

「セオ様ー、しょーらい空間を広げて探知してますけど、魔人がこっちにまっしぐらですよー」

「ああ、俺の解郷でも視認できてる」

 

 普通に考えれば、魔人の狙いは真生生物だ。

 一応、マナを身体に有する魔祓師を食べることでもマナは補給できる。

 一般人に真生生物の血を飲ませて魔人にしてから食べるほうが効率がいいので、食事目的で魔祓師を狙う魔人はほとんどいない。

 なので、俺達の元へ一直線に突っ込んでくる魔人の挙動は不自然だ。

 ついさっき、警報で真生生物はあちこちに散ってしまっているからな。

 

「狙いは……俺達か?」

「多分そうです、部分的にそうです」

 

 曖昧なミホノの返答。

 この時、見ての通り俺達は平静を保っていた。

 しかし問題は周囲。

 新入生たちは怯えた様子で俺達と先輩を見ているし、先輩も困惑した様子で外部に連絡を取っていた。

 

「……ダメだわ、外部との連絡が取れなくなってる」

「先輩、確認したところ襲撃してきた魔人は中級の魔人です。規則に則り、こいつの相手は特級の俺とミホノがします。いいですか?」

「え? あ、そ、そうね……ふたりとも特級だものね」

 

 先輩は、俺に呼びかけられて心配そうにしながらも俺の言葉に頷いた。

 基本的に中級以上の魔人と戦えるのは特級の生徒だけ。

 無論、その場に特級の生徒がいなければ仕方がないが、いるのであれば任せるのが無難だ。

 だけど先輩は、年下の俺達に任せるのが心配なのだろう。

 いい人だ。

 

「それと、いくつか質問があるんですけど――」

「え、ええと、何かしら」

 

 そこから俺は先輩といくつか相談をする。

 魔人は直ぐ側まで迫っているので、大したことはできないが。

 それでも、聞きたかったことと先輩の名前は聞くことができた。

 朱馬シュリ先輩。

 やっぱり、あの朱馬ソウジの娘らしい。

 

「よし、ありがとうございますシュリ先輩。――じゃあ、やろうミホノ」

「あいあいー! 招来くうかーん!」

 

 相談を終えた俺が、ミホノに頼んで武器と装備を用意してもらう。

 すなわち――

 

「タキシードセオ様! かっこいいです! いへへ!」

「何度着ても、若干慣れないな」

「――――ッ!!」

 

 サトリの時に身にまとった、タキシードっぽい服装と各種武器だ。

 眼帯があるので、顔は特に隠していない。

 隠す必要もないしな。

 正直、これを着るのは結構恥ずかしいのだが、何故かミホノにいろんな装備を招来してもらった結果。

 これが一番身体を強化できたのだ。

 どういう理屈なのかは、正直未だによくわかっていない。

 ところで――

 

「――ッ!! ッ!! ~~~~ッッ!!」

「……さっきからシュリ先輩がおかしくなってるんだが」

「タキシードの魅力に当てられてしまいましたね。いへへ」

 

 まぁ、うん。

 シュリ先輩は俺がタキシード姿でサトリを倒すところに居合わせてるからな。

 この姿に脳を焼かれていても仕方がない。

 さっきからチラチラ見てた原因は、やっぱりこれか。

 

「……とりあえず、長引かせると先輩が尊死しそうだ。早めに片付けよう」

「あい!」

 

 ……ところで、シュリ先輩の尊死には嫉妬しないんだな?

 ミホノの嫉妬の基準が謎だ。

 ――さて。

 

『ッォオオオオオオオオオ!!』

 

 準備を終えたところで、木々をなぎ倒しながら魔人が迫ってくる。

 身体は数メートルに膨れ上がり、額には角を生やした大男。

 すでにその意識は正常なものではなく、暴走している。

 面倒な状況だな。

 

「ミホノ、”血抜き”は一旦こいつを叩きのめしてからだ」

「わかってますよぉ、セオ様!」

 

 さて、もうまもなく魔人がミホノの”射程”に入る。

 怒り狂った形相でこちらに迫ってくる魔人、やはり狙いは俺とミホノのようで、後方にいる先輩達には目もくれていない。

 

「じゃらきーん!」

 

 ミホノが格好つけて自分の口で効果音をつけながら、あるものを取り出す。

 それは――機関銃だ。

 

「装備が現代的すぎる!?」

 

 生徒の誰かが叫んだ。

 そう、全く以てその通り。

 時代錯誤な魔祓師が扱うとは思えない装備を、ミホノは何一つ遠慮せず持ち出してくる。

 招来空間によって生み出された機関銃だ。

 色がピンクでファンシーである。

 しかし、なんというかとんでもないことになってしまったなあ。

 原作のミホノはファンシーな斧とか振り回すタイプだったのに。

 本質は変わってないけどさ。

 ともあれ、ミホノが引き金を引くと――

 

「だらららら!」

 

 ()()()穿()()()()()、魔人を襲う!

 拳銃一発で壁を破壊できるなら、それをばらまけば地面が穴凹だらけになるのは必定。

 通常の機関銃の弾丸と比べて、あまりにも高威力なそれが魔人に叩きつけられた。

 魔人はそれを、片手でなんとか受けながら突っ込んでくる。

 その速度はせいぜい時速百キロ程度といったところ。

 これが上級、最上級になってくると普通に見てから弾丸を避け始めるので、中級くらいなら人知を超えた速度にはならない。

 ただ、耐久性は高い。

 

 これはマナをまとった存在全体に言えることだが、マナを纏うと攻撃力と耐久性が著しく向上する。

 中級の魔人程度でも、ミホノの強化した機関銃の弾丸をなんとか――めちゃくちゃ痛そうにしてるけど――受けられるし、それと同じ威力の一撃を生み出せるのだ。

 代わりに、速度はあまり向上しない。

 結果として、強くなればなるほど速くなるというのが、マナを纏う生物同士の戦闘における基本である。

 

『オオッ!』

 

 鬼の魔人はミホノの弾幕をなんとかするため、飛び上がって一息にミホノを狙う。

 射程を修正してしまえば、ミホノはこれに対応できるのだが――ここからは俺の出番だ。

 俺も同じように飛び上がると、迫りくる鬼の魔人にミホノの招来空間で生み出した刀をぶつける。

 二つは拮抗した。

 とはいえ、それは一瞬のことだ。

 ミホノの強化のおかげで俺は上級魔人とも打ち合えるようになっている。

 暴走しているとはいえ、中級に遅れを取ることはない。

 勢いよく鬼の魔人を地面に叩きつけた。

 

 結果、地面にクレーターが発生する。

 

「威力が高いから、簡単に地形を変える攻撃が発生するよな、魔人との戦いって」

 

 まぁだからこそ、疑似まほろば結界があるんだけど。

 ともあれ、俺はそのまま鬼の魔人に追撃するべく刀を構えながら接近し――

 

『オオオオオオッ!』

 

 鬼の魔人が、咆哮を上げる。

 それはタダの咆哮ではない、マナを伴った咆哮。

 すなわち、魔装の一種だ。

 鬼はこの咆哮で、俺に何かをしようとしている!

 ――ならば。

 

「――具現化」

 

 俺の中に、それを阻む”壁”を作ればいい。

 基本的に俺の身体能力はほぼミホノの強化によって成り立っている。

 クソみたいなマナ総量と、一向に成長しない瞬間放出量。

 それを補うためには、外付け以外の選択肢はなかったのだ。

 加えて、ミホノの強化は俺にしか効果はないものの、その強化量は下級魔人相手にすら苦戦する俺を、このように中級魔人を圧倒できるまでにパワーアップさせる。

 そして、出力さえ外付けで手に入れてしまえば、後は俺の強みが生きてくる。

 

 一つがこの概念具現化。

 その効果は様々だが、一言で言えば「精神系のデバフやバステは完全無効」と思ってもらえれば問題ない。

 今回、なにやら鬼の魔人は俺の精神に干渉しようとしているみたいだが、そんなもの関係なく俺は鬼の魔人に斬りかかれる。

 そしてもう一つが――

 

『オオオオッ!』

「そら!」

 

 戦闘技術。

 幼い頃から忍式鍛錬術で鍛え続けてきたことで、俺みたいな凡人でもプロ顔負けの技術を手に入れることができた。

 その恩恵は非常に大きく、俺は鬼の魔人が放つ拳を軽々と捌いていく。

 戦い慣れた強い魔人相手だとそうもいかないが、こういう中級の魔人はたいてい違法薬物に混ぜられた血などで強制的に魔人へ変貌させられた成り立てだ。

 ただ暴力を振るうことしかできない魔人に、俺が遅れを取る道理はない。

 結果として、一方的に魔人を制圧。

 俺は魔人の頭を踏みつけながら、その首筋に刀を当てた。

 本能だけで行動しているからか、命が惜しいらしくこの状態に持ち込めば大抵の魔人は動かなくなる。

 

「今だ、ミホノ」

「あいあいー」

 

 俺が呼ぶと、その隣に出現したミホノがどこからか取り出した注射器をぶすっと魔人に突き刺す。

 血を抜き取っているのだ。

 一瞬、魔人がうめき声をあげるも――やがて動きが大人しくなり、最終的には沈静化した。

 基本的に魔人は、いくつかの条件を満たしていなければ人間に戻ることができる。

 最上級の魔人になっていなかったり、人を喰っていなかったり、真生生物を喰いすぎていなかったり。

 んでまぁ、戻してもたいていは反社のヤーさんだったりして、結局警察に突き出すことになるんだけど。

 まぁ、殺さずに済むならその方がいいですからね。

 ともあれ、無事に俺達は中級魔人を討伐することができた。

 そうして二人で櫓のある場所まで戻ってくると――

 

 

「セオタード仮面様ばんざーい! セオタード仮面様かっこいい!」

 

 

 何やら、一部の生徒が盛り上がっていた。

 シュリ先輩は言わずもがな、俺の眼帯を「かっこいい」と形容していた連中だ。

 全員がバンザイをして、まるで最上級魔人を倒した時のような盛り上がりっぷりだ。

 関係ない人たちが引いてる……というか、セオタード仮面ってなんだよ!?

 語感を優先した結果、俺がレオタード姿の変態みたいになってるぞ。

 しかも仮面つけてることになってるし。

 まるで意味がわからん。

 

「セオタード仮面様……! セオタード仮面様……ああ!」

「ええい、俺はただのセオだってば! そんな大層なものじゃない!」

 

 特にシュリ先輩の変貌ぶりったら凄まじいものがある。

 完全に俺……というかセオタード仮面を信仰していて、俺に祈りを捧げているくらいだ。

 んで、そうしているとシュリ先輩の横にミホノが並ぶ。

 こ、これはまさか――

 

「セオ様、セオ様、いへへー」

 

 ミホノも祈りを捧げている!

 そうか、ミホノにとって俺に恋愛感情を向ける奴は敵だけど、信仰心を向ける相手は味方なのか。

 何よりセオタード仮面の衣装はミホノ制作。

 自分も信仰されていると感じるのか、ミホノは上機嫌だ。

 とにかく、後は魔人化が解除された男をふん縛って、逃げてしまった真生生物を可能なら呼び戻したい。

 とはいえ、緊急事態だからこのまま下山することになって、真生生物を呼び戻す時間はないかなぁ。

 なんて思っていると――

 

 

『退屈だ、つまらん』

 

 

 ――――――――不意に、声がした。

 

 地を震わすような声。

 警報は鳴らなかった。

 突如として、そこにいた。

 まるで最初からそれが自然であるかのようにこちらを睥睨し。

 退屈そうに、俺達を見下ろしている。

 それは狐だ。

 体中に独特な紋様を這わせ、想像を絶するほど美しい白金の毛並み。

 そして、先程の鬼を優に超える巨体。

 ――ただそこに在るだけで、周囲の心臓をすりつぶすかのような存在感。

 俺は――俺達は、その狐の名を知っている。

 

 

()()()()

 

 

 まるで雑談のような気軽さで放たれたその言葉に。

 俺以外のすべての人間が地に伏せる。

 

 ――狐の名は、白面金毛。

 

 七大魔人の一角だ。




割と真面目な戦闘シーンでした。(なぜか正式名称になったセオタード仮面から目を逸らす)
今のセオは基礎スペックこそ上級魔人程度ですがサトリ戦のように対策取れれば最上級魔人とも戦えます。
次回は月曜のうちに今回に章のラストバトルが書き上げられたらいつも通りに投稿します。
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