白面金毛。
七大魔人の一角で、名前の通り九尾の狐をモチーフにした魔人だ。
その特性は非常にわかりやすく「まほろば境界」が存在する今の時代において、唯一現世を自由に闊歩できる存在。
結果、ここ数百年は江戸時代に起きた「百鬼夜行事件」を除いて、常に魔祓師は白面金毛と争ってきた。
それが今、どういうわけかここにいる。
――原因は、まぁ十中八九俺だろう。
白面金毛は、声にマナを乗せたのだ。
先程の鬼と同じく。
ただ、範囲と効果はあまりにも違いがありすぎて、それを同じものだとは認識しがたい。
――言うまでもなく、俺は概念の壁でそれを無効化している。
だというのに、思わず慄いてしまうほどに眼の前の魔人の言葉はおもすぎた。
『流れ行く日常、怠惰に貪られる時間、変化を受け入れようとしない傲慢、――これがあの愚か者どもの求めた未来か? 嘆かわしいことだ』
その言葉は、聞いたことが在る。
原作で、似たようなことを言っていた。
ああ、間違いない――こいつが白面金毛だ。
『一体何時から、魔祓師の小童は己のこの程度の言霊を防げぬようになってしまったのだろうな?』
「……」
現在、俺以外の人間は完全に地に倒れている。
それはミホノやシュリ先輩も例外ではなく。
俺だけが、正面から白面金毛と対峙しているのだ。
『――その点、貴様は及第点だ小童。サトリを屠った異常なる魔祓師よ』
「……お褒めに与り光栄だな」
『ようやく貴様を喰ろうてやる時が来たぞ、光栄に思うが良い』
やはり、原因はサトリを倒した俺のようだ。
サトリが倒されたことはともかく、それを倒した俺に対し興味がある、といった感じだ。
しかし、白面金毛が興味を持つ? どういうことだ?
「サトリを倒してから、もう一年くらい経過してるんだが……随分悠長だな」
『クハハ、己は気が長いのだ。この世は退屈がすぎる、楽しみは取っておくべきだろう?』
まぁ、白面金毛ならそう言うと思っていたよ。
こいつはこの世界をとにかく「退屈でつまらない」と思っている。
だから楽しみは先延ばしにしておくし、その間に相手が強くなることも許容しているのだ。
まぁ、こういう強敵にありがちな舐めプだな。
おかげでこっちとしては大助かりだが。
そしてだからこそ、俺に対して興味を持っている今のこいつに違和感がある。
「――セオ様、やっぱりやるんです、か?」
「……ミホノ」
ふと、俺の足元で倒れているミホノが声をかけて来た。
俺はミホノに手を貸して、なんとか立ち上がらせると、安心させるようにその頭を撫でる。
白面金毛は動かない、こういう「茶番」を見逃すのは奴の習性だ。
「ミホノは、心配です。あまりにも危険すぎます」
「それでもやるしかない。……そうだろ?」
「……あい。でも、でもでも」
ミホノは、顔を陰らせてうつむく。
当然だろう、これから俺のやろうとしていることはあまりに危険だし――
「……絶対に、死なないでくださいね、セオ様」
「ああ、
――無謀すぎる行為だ。
『――クッ、ハハハハハ! 倒す!? 我を!?
白面金毛が、俺の言葉を心底楽しそうに嘲笑する。
それまでの退屈そうな雰囲気とは打って変わって。
本当に心の底から楽しそうな笑みを浮かべていた。
『――いいな、やはり貴様はいい。小童、サトリを倒したその手腕。見せてみるが良い』
「さっきから聞いていて思うが、随分と俺を高く買ってるみたいだな」
『クハハハハ! そうか? そうだな! 己は貴様のような奴は嫌いではないぞ』
――やはり、こいつは俺の知る白面金毛とは思えない言動をしている。
俺の知る白面金毛は、他者に対して極端に興味がなく、暇を持て余し、そして何より七大魔人という驕りから周囲を常に下に見るような存在だ。
それがどうして、俺に対してここまで関心を向けるのか。
『なにせ、そうやってその小娘との茶番や、我との会話で時間を稼いでいるうちに――』
そんな俺の疑問など気にもとめず、ちらり、と白面金毛は俺の後方に視線を向けた。
『――その雑魚どもを逃がす算段を立てているのだろう?』
「……っ! シュリ先輩!」
こちらの狙いを読まれている……!
とはいえ、読んだうえで放置したのだ。
なら、ありがたくそれに乗らせてもらうとしよう。
「
「で、でも! 相手は白面金毛よ!? セオタード仮面様一人に任せるなんて……無茶よ!」
このタイミングでもセオタード仮面様呼びなの!?
いやまぁ、それなら説得の余地は十分あるか。
「――セオタード仮面は、サトリだって倒してみせたんだぞ? そのセオタード仮面が白面金毛を倒すって言ってるんだ。それを信じてはくれないか?」
「――――ッ!! は、はひっ!!」
限界オタクみたいな反応をしたシュリ先輩が、顔をとろとろにしながら頷いた。
これに限る。
……ところでミホノさんは俺の腕を強く抱きしめないでくださいます?
これには嫉妬するんだ……
あと白面金毛は腹抱えて爆笑しないで。
「――こほん!」
そんな中、シュリ先輩が咳払いをして――
「夜行招来!」
自身の魔祓刃を起動する。
直後。
――その場にいる、俺と白面金毛以外の人間が、すべて掻き消えた。
それは転移だ。
まず前提として、シュリ先輩はサトリの精神空間で殺されかけていた。
あの時、俺が介入しなければシュリ先輩はサトリに殺されていたわけだが、そうなっていた場合はシュリ先輩のお父さん――朱馬ソウジがあの場に介入していたんじゃないか、と思うんだよな。
理由は単純で、サトリの精神空間は非常に厄介だ。
もし使えるなら、原作でも使っているに決まってる。
なのに使われなかったということは、サトリがもう精神空間を使わないと決めた理由があるはずだ。
それが
そして、サトリに殺されかけていたというところまではこの世界においても状況が同じだった。
だから似たような魔祓刃をシュリ先輩が覚醒しているんじゃないかと、俺は踏んだんだ。
結果は、見ての通り。
先輩いわく、別の場所にいる奈留島達の班もまとめて転移させられるそうだ。
とんでもない効果である。
ただ名前からして、完全に原作と同じ効果じゃないだろうけどな。
招来はミホノ曰く「せおらい」だし。
……またしても俺は原作キャラを魔改造してしまったのか!?
シュリ先輩は知らない原作のキャラだけど。
ともあれ――
「……これで、心置きなく戦えるな、白面金毛」
『ク、ハハ、ハハハ! 戦う前から、貴様はどれだけ己を愉快にさせるつもりだ、小童』
「小童じゃなくて――セオだよ、百鬼セオ」
こうして、俺は白面金毛と二人きりになった。
ミホノがこの場を離れたことで、櫓もマナに変換されて消えている。
後には先程の戦闘で少しだけ破壊された山と、俺と、白面金毛だけ。
倒された魔人からもとに戻った男もまとめて転移している。
シュリ先輩の魔祓刃の効果を考えると、先程あつまった真生生物も転移していることだろう。
白面金毛があいつらを食べるためにここへ来たということはないだろうが。
食べられると、白面金毛を回復させてしまう。
それは避けたい。
『――貴様は面白い、これまで出会ってきた多くの退屈な人間とは違う。しかし、しかしだ』
「しかし?」
『まだ、貴様の価値は己を揺るがすほどではない。名を呼ばれたくば――己を超えてみせよ』
「……上等!」
正直、わからないこともある。
今このタイミングで白面金毛が襲いかかってきたのは、本当に単なる気まぐれだろう。
だからこそ、俺は何時白面金毛が襲撃してきてもいいように”準備”を進めていたわけだし。
そしてそれ故に、原作と逸脱している今の白面金毛に対する違和感が拭えないのだ。
ああ本当に、俺の知らない原作では何が起きているというのか。
答えは出ない、なら……やるしかない!
俺は――
俺の瞳は、あの時以来。
今も煌々と
『貴様……何だ? その瞳は』
「見ていればわかるさ!」
言って、俺は空を見上げる。
そして手を瞳にかざして、その隙間から星を見た!
「解郷ッ!」
さぁ、まほろばを通じて、宇宙へと視界を広げるのだ。
『……ッ!』
何かを感じ取ったのか、白面金毛が目を見開く。
その視界の先で、俺は変化を受け入れていた。
――それは、火だった。
意思を持って燃えている、星の怒り、燃える狂気そのものだ。
瞳なき凝視に触れた瞬間、俺の心の内側が焼け落ちる。
言葉ではない。
音ではない。
――――ただ、観察すること自体が、宇宙の条理を焼却する。
ああ、俺は視た。
ただ、目前の敵を、不条理を、理不尽を、破壊し、冒涜し、燃やし尽くすという願いを――――
途端。
俺の体が炎におおわれる。
紅く、朱く、灼く。
どこまでも赤い、憤怒の炎。
『ハ――――! 何だそれは……何だそれはぁ!!』
驚愕の中に、一抹の”楽しさ”をにじませながら白面金毛は叫ぶ。
さぁ、七大魔人相手に出し惜しみはなしだ。
俺の全力を……白面金毛にぶつけるぞ!
二回目からは省略される変身バンクみたいな変身シーンですね。
一話で戦闘終了まで収めたかったんですが、長くなったので次回に続きます。
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今後とも宜しくお願いいたします!