次回からはまた考えます。
灼熱と白金が踊っていた。
片や、怪物としか言い表せない金毛の九尾。
片や、化物としか言い表せない灼熱の怪人。
どちらも、あまりにも人というには恐ろしすぎた。
白面金毛の振るう鉤爪は、その一振りで森を禿げ上がらせる。
荒れ狂う木々と大地。
それらすべてを、
あらゆるものが”溶けて”地面に転がり、それでもなお燃えている。
お互いにもはや異常というほかなく。
――それは、死闘と呼ぶにふさわしかった。
『なんだ、何だ何だ何だ貴様はぁ! その力! 魔祓刃でもなければ魔装でもない! 狂っているのか!?』
両者の拳がぶつかり合う。
それらは驚くべきことに、半ば拮抗していた。
灼熱が上回っているが、白面金毛が蹂躙されると言うほどではない。
『己の膂力に匹敵する……否、下手をすれば上回る膂力など。貴様の脆弱なマナではあり得ないだろう!』
「この力を……使っても! 七大魔人、相手、には……こっちが有利って……程度なのかよ……! しかも白面金毛だぞ……!? クソ、制御ができてないからか……!」
ただ、驚愕していたのは両者だ。
白面金毛も、灼熱の怪人も互いに相手の力に驚愕している。
押しているのは灼熱の方だ。
白面金毛にとって、それはありえないこと。
だが灼熱にとっても、自身の実力不足を痛感させられる結果だ。
何せ、本来ならば蹂躙できるだろう出力を、制御できていないが故にここまで劣化させているのだから。
『クハハ! 己は七大魔人ぞ! どのような絡繰かは知らぬが、この程度でぇ!』
「ぬ、おお!」
――拳の打ち合いは続く。
山を破壊と業火で滅茶苦茶にしながら、両者は全力をぶつけ合う。
互いに、戦略など考えていないただの純粋な激突だ。
驚愕に染まっていた白面金毛の瞳に、段々と悦楽が混じってくる。
『しかし、これは……なかなか悪くない! 下級の魔人にすら苦戦するような輩が、己と互角に打ち合うか。世界とは広いものだなぁ!』
純粋な出力で言えば、灼熱は白面金毛を上回っている。
だというのに、白面金毛は実に楽しげだ。
白面金毛の鉤爪が灼熱の腕に防がれても――
『一瞬でも拮抗してしまうと、そこから己の体を燃やされてしまうなぁ。それは拙い』
冷静に自身の腕が燃やされ、溶かされようとしている様を観察する。
『だが、魔人の再生力を舐めるでない! この程度、即座に再生してくれる!』
しかし即座に距離を取って、腕の回復に努めると打ち合いを再開した。
今度は拮抗ではなく、相手の攻撃を弾くようにして凌ぐ。
一度として、まともに灼熱をぶつかろうとはしなくなったのだ。
『――”ひれ伏せ”!』
続けて白面金毛は自身の能力を発動させる。
マナを乗せた言霊による強制命令。
しかしそれは、当然のように灼熱には通用しない。
『やはり効かぬか。しかし先程とは違い、壁のようなものを作って言霊を”防ぐ”のではなく、そもそも効いていないような形だ。すなわち、存在の格が己より貴様のほうが上であるということか!』
本来であればプライドを刺激されるような事実に対しても、白面金毛は何一つ動揺してはいなかった。
『貴様とて想定済みだろう、小童。言霊の使い方はただ命じるだけではないと!』
「……っ!」
『”大地よ、蠢き奴の足を止めろ”!』
途端、灼熱が足場にしていた地面が
まるで大地が水になったかのように足を飲み込み、更には周囲の大地が灼熱を覆い隠そうとしてきた。
それを灼熱は――
「この程度!」
燃やし尽くして、突破する。
しかし、
『この程度ではないと、わかっているだろう!』
突破した先の地面も同様に、崩れて灼熱を飲み込もうとしてきた。
慌ててそれすらも突破するが――逃げ場はない。
「あらゆる……地面が、俺を……絡め取ろうとして、くるッ!」
『言霊が命令を聞かせられる相手は、人だけではない。魔人も、真生生物も、そして世界そのものも己の手足となるのだ!』
結果として、灼熱は不安定な足場を逃げ回ることを余儀なくされる。
一秒でも、一瞬でも足を止めたら即座に大地に足を絡め取られるのだ。
とてもではないが、まともな足場など存在しないだろう。
「さすがは……白面金毛、俺にとって……一番相性の良い“言霊”ですら……ここまで厄介なのか」
灼熱は、吐息からマグマのような火炎を零しながらも、白面金毛を睨む。
周囲の大地をすべて熱で溶かして溶岩に変え、なんとかギリギリ足場を確保しながら――
「お、らぁ!」
白面金毛に突っ込んでくる。
足場が存在しない? ならば身体能力でゴリ押せばいい。
たった一歩で、白面金毛に灼熱は肉薄してみせた。
『まだ疾くなるか!』
「もっとだ……もっと見せろ……!」
その瞳は、常に煌々と灼く輝いている。
ここではないドコかを見ながら、同時に白面金毛を射抜くのだ。
「これで……どうだってんだよ!」
『ぐう!』
純粋な力負け、正面からの打ち合いで白面金毛は灼熱に打ち負けた。
明らかに、先程より出力が上がっている!
『……っ! だが、その状態。長くは続かないのだろう!? 随分と……苦しそうだな!』
「それが……どうしたぁ!」
打ち負けたがゆえに白面金毛は、全速力で灼熱から距離を取る。
時間切れで倒れることがわかっている相手に、正面からぶつかるほど白面金毛は愚かでもなければ傲慢でもない。
足場のない状態で、逃げる白面金毛を追いかけるのは容易ではない。
『ならば、己は時間切れを狙うまでよ。追いつけぬだろう、その足場では!』
「足場なら――」
直後。
逃げを選んだ白面金毛の元へ。
「ある……だろう、ここに!」
――灼熱が空から降ってくる。
一瞬だけ脚を止めて、力をためてから飛び込んできたのだろう。
当然、即座に白面金毛は飛び退くが――
白面金毛の命令は、地面全体に影響を及ぼす。
すなわち、普通にしていると白面金毛すらぐちゃぐちゃに溶けた地面に足を取られるのだ。
流石にそこから拘束されることはないけれど、不安定な足場で戦うのは不利になる。
故に、白面金毛は自分が地に足をつけている時だけ、その場所を安定した足場に変える。
無論、白面金毛がそこをどけば一瞬でまた地面はぐちゃぐちゃになるが――
「――一瞬、アレば……十分!」
今この瞬間、白面金毛と灼熱の戦いは音速レベルの戦いだ。
故に――
『貴様……!』
「つか、まえ……たあ!」
そこでようやく、灼熱の拳が白面金毛に届いた。
『ぐおおおっ!』
「これで!」
それからすぐに、灼熱は白面金毛に取り付く。
基本的に、この戦いに足場はない。
例外は白面金毛が立っている場所と――白面金毛そのものだ。
「燃えろ――――ッ!!」
『小童、貴様ァあああ!』
白面金毛を足場に、灼熱は自身の炎で白面金毛を焼き尽くす。
逃げようにも、スペックは白面金毛より灼熱の方が上。
一度取りつかれたら――そこでチェックメイトだ。
かくして、山中に巨大な火柱が上がり――白面金毛は焼き尽くされた。
◇
――セオが、ゆっくりと地面に倒れる。
すでに白面金毛の”命令”はキャンセルされており、倒れてもセオが地面にうずもれることはない。
その体には無数の炎がまとわりついており、今もセオを焼き尽くそうとしている。
時折うめきながら、セオはなんとか目を開けて――それを見た。
燃え尽きようとしている、白面金毛だ。
『――見事、実に見事』
倒れたセオを、笑みとともに見下ろしている。
セオにしてみれば、それは意外な反応だ。
もう少し、退屈そうにしているかと思ったのだが。
少なくとも、原作で
だけど今は、そうではない。
『よもやここまで、おかしな戦い方をする魔祓師は初めて見た。なればこそ、惜しくて仕方がない』
とはいえ、白面金毛の語る内容は原作とそう変わらない。
セオを惜しんでいるか、そうではないかの違いだけ。
すなわち――
『――貴様は、九日後に呪われて死ぬ』
死の宣告を、セオに告げるのだ。
セオは、答えない。
解りきっていたことだから。
『そして己は、これが終わりではない』
続く言葉も、セオは知っている。
『己は、九つに分かたれた白面金毛の一側面に過ぎぬ』
白面金毛は、「まほろば境界」をすり抜けることができる。
その絡繰は非常に明確。
自身の魂を九つに分け、境界をすり抜けられる大きさにしているだけなのだ。
そしてこの魂を一つでも討伐すると、魂は討伐した人間に呪をかける。
九日後に死ぬという、非常に明確な呪いを。
――これぞすなわち、白面金毛の魔装。
『九尾之狐』。
『さあ、楽しみにしているぞ小童! 貴様に残されたか細い魂が、如何に踊るのかを!』
白面金毛を討伐するには、生ける炎の力を借りなくてはならず。
そして前回、生ける炎の反動によって数ヶ月死の淵を彷徨ったセオにとって。
これ以上最悪の相性を誇る敵は――そういない。
戦闘中にセオの出力はどんどん上がってまして、最初だと白面金毛よりちょっと上程度だったのが、最後あたりは一方的にボコれるくらいになっています。