もともと俺は、未来に降ってくる隕石の魔人と宇宙の神格に対処するためには、七大魔人の討伐が必要だと考えていた。
正確に言うと、その対策を大々的に取るための権限を手に入れるためには、七大魔人討伐の実績が必要なのだ。
実績がないと、未来で隕石が降ってくるとか宇宙に神格がいるとか言っても、信じてもらえないからな。
そして現在、こちらから討伐しに行ける七大魔人は白面金毛しかいない。
だからこそ、俺がこの世界に生まれてから今に至るまでの時間は、すべて白面金毛を対策するための時間だった。
正直、最後の対策がまほろば学園の機材を使わないと間に合わない状態だったので、かなりギリギリだったけれど。
それでも、すべて間に合わせた。
いや、もし間に合ってなかったら生ける炎での討伐はせずに、撃退、ないしはこちらの撤退にとどめて時間を稼ぐ予定ではあったけど。
その場合、白面金毛にこちらの手札をさらすことになるので、やはり初見で討伐できるのが最善だ。
「――そして、兄様も知ってると思いますけど、白面金毛は以前に一体討伐されています。討伐が必要な残りの白面金毛は七体なんです」
「いや、まて、まてまてまて」
原作でも、この世界でも、白面金毛の『九尾之狐』による九日之死は魔祓師に知られている。
これはすなわちすでに白面金毛が一体討伐されているということであり、それによって犠牲になった魔祓師がいるということだ。
このあたり、原作だとあまり語られなかったけど、続編あたりで盛られてそうだな。
ともあれ。
「その七体を討伐する準備はすでにできているんです。そして、
「ふー……ふー……お前な……本当にな……お前な……!」
兄様は、何やら言いたいことを色々と飲み込んで、深呼吸をしながら落ち着こうとしている。
頑張れ兄様、負けるな兄様。
俺が心の内でそんなふうに応援していると――
「……どうすれば勝てる?」
「もともと、その白面金毛の能力は兄様と相性がいいのです。今の兄様なら正面からでも勝てます」
「――それは、間違いないんだな」
どうしてそんなことを知っている、とか今更兄様は聞いてこない。
もともと原作知識をごまかすために解郷があるんだから、それで見たと言い張ればいいだけなんだけど。
聞いてこないのは、兄様の俺に対する信頼と受け取るべきだ。
だから俺も、それに必要な言葉を返すべきだろう。
「――もちろん、兄様なら勝てますよ」
「……わかった。準備が終わったら言え」
「はい」
俺がそう応えると、もう兄様は医務室から立ち去っていた。
多分、楠木先輩あたりと特訓するのだろう。
自分の最善を尽くすために。
もともと、原作の頃から兄様は完璧主義だったからな。
そこは今でも、変わっていない。
――さて。
「……シュリ先輩。いるんですよね?」
俺は呼びかける。
先程から、医務室の外でこちらの様子を伺っていたシュリ先輩に。
さっきから、なんとなーく扉のところで隠れている事はわかっていたのだ。
「キ、キノセイジャナイカシラ」
「髪が少し見えてますよ」
「っ!?!?」
さっきからちらちら、特徴的な赤髪が視界の端に映っていたのである。
俺の指摘を受けて、シュリ先輩は恐る恐るといった様子で、医務室に入ってきた。
「え、ええと……まずは、無事で良かったわ。あのまま起きなかったらどうしようかと」
「白面金毛の呪いは健在ですから、後二日で死にますけどね」
「しゃ、シャレにならないわよ!?」
「――だから、これから白面金毛を討伐しにいくわけです」
俺の言葉に、シュリ先輩は困惑しきりだ。
まずうっかり俺と兄様の会話を聞いてしまったことに困惑して、俺が本気で白面金毛を倒すつもりであると理解したことで、さらに困惑している。
まぁしかし、そんなシュリ先輩に俺はある頼み事をしないといけないのだ。
向こうから来てくれたのはある意味でタイミングがよく、そして運が悪い。
「まぁその、えっと、いろいろな覚悟の上でセオくんが決めたことなら、私はこのことを誰かに話さない――」
「――そこで、シュリ先輩の力を借りたいんです」
「……へ?」
どうやらシュリ先輩は、このことを他の人間が知ったら止められると思っているのだろう。
実際、多くの人は止めるだろうが俺の周囲の人間は止めることはあるまい。
母様ですら諦めてため息をついてから、絶対に生きて帰るよう俺に言い含めるはずだ。
そして、そう考えていたからこそ――他人事だったからこそ、俺の発言は寝耳に水のはず。
「まず、これは隠密の概念が付与されたマントです。これをまとったうえで七大魔人に近づかなければ見つかることは
「え? え?」
「効果はミホノが先日の白面金毛戦でテストしてくれました」
俺はベッドの隣に置いてあるバッグの中からマントを取り出す。
ミホノにはシュリ先輩の魔祓刃で転移脱出した後、現場に戻ってもらって、マントを被っていれば白面金毛に気付かれないかどうか、試してもらっていた。
結果は成功、だからシュリ先輩にはこのマントを使ってもらうことにしていた。
「これを使って、俺を白面金毛の居場所まで先輩の魔祓刃で運んでほしいんです。場所はすでに特定しています」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………正気で言ってる?」
「はい。安全は保証しますから」
シュリ先輩は、視線をあちこちに彷徨わせる。
いろいろなことを考えているのだということが、手に取るようにわかる動きだ。
「こいつならやりかねん」、「多分本当に安全なんだろうな」、「やらないとセオくんが死ぬ……いやしかし」、といった感情が見て取れる。
「……!?」
――が、ふとシュリ先輩はあることに気がついた様子でマントを手に取った。
その目は、なんというか、輝いている。
「……ね、ねぇ、これって、さ」
「なんでしょう、先輩」
「――セオタード仮面様の服と同じ素材?」
「……ああ、まぁそうですね」
ミホノが招来空間で作ってるから、素材は概ね同じと言っていいだろう。
俺がそう応えると、シュリ先輩の瞳は――より一層
「やりましゅう!」
――かくして、シュリ先輩の作戦参加が決まった。
本来はミホノの招来空間でなんとか転移しようと考えていたのだが、これで大幅に楽ができるようになる。
なので実は隠密マントを試した理由は白面金毛とは関係がないのだが、ちょうどよかったので採用した。
俺がサトリを討伐したことが、巡り巡ってこのような形になるのだから、人生とはわからないものだ。
その後、シュリ先輩とは少し打ち合わせをしてから別れた。
作戦決行は明日なので、今はゆっくり休んでもらおう。
と、そんなことをしていると、さらなる客人が医務室にやってきた。
「あ、え、お、起きてる……!?」
――奈留島ニイアだ。
俺が起きていることを知らなかったのか、めちゃくちゃそのことにびっくりしている。
んで、それからホッとした様子で胸を撫で下ろしてから――
「はっ」
はっとなって、それからニンマリとこちらをからかうような笑みを浮かべた。
「いやぁー、セオくんって無茶しすぎなんじゃないのぉー?」
誤魔化せてないぞ。
「白面金毛と正面から戦うなんて、無茶すぎるよぉ! っていうか、そもそも
そういえば、奈留島は俺とは別の班だったし、俺が生ける炎を視る前にシュリ先輩が転移させてる。
だから、また俺が生ける炎の力を借りていると気づけなかったんだ。
「この炎も、なんで未だに燃えてるのかしらないけどさー」
で、今俺にまとわりついている炎は、生ける炎の残り火とでも言うべきものだが、この残り火から生ける炎に結びつけることは化身の奈留島でも難しいらしい。
そりゃ、もし気付けるならこの炎が生ける炎に接続してるってことだから、他の人がみたら発狂しかねないもんな。
それはそれとして、やっぱりそのことに気付けないのはアレの愉悦入ってるだろ絶対。
「それで、寿命が後二日しかないセオくんはどうするつもりー? ミホノちゃんとイチャイチャして命に未練を残さないようにするのかなー?」
ふむ。
ここで俺は少し考える。
奈留島に、これから白面金毛を討伐しに行くと明かすべきか、否か。
明かした場合、奈留島はまず間違いなく介入してくる。
それがいい方向に転ぶか、悪い方向に転ぶかはなんとも言えないが――
「――これから白面金毛を倒しに行くんだ」
「…………はぇ」
俺は少し考えて、明かすことにした。
どうせ明かさなくても本体は知ってるんだから、隠す必要はないや、という話。
まぁ、奈留島は変な顔をして、放心したわけだが。
「奈留島、大丈夫か」
「だいじょうぶです」
また変な社畜みたいになったな……そしてそのまま医務室を出ていってしまった。
まぁ、別に奈留島だし、いいか。
さて――
「――ミホノ」
それまで、すぅすぅと寝息を立てていたミホノに声を掛ける。
「……ん、セオ様」
すると、すっとミホノは目を覚ます。
寝たふりをしていたわけではない、俺が声を掛けるとミホノは絶対に目を覚ますのだ。
そうして目を覚ましたミホノは、無言で俺に頭をこすりつけてくる。
それは、先程まで俺がシュリ先輩や奈留島、それから兄様と話していたことに対する嫉妬。
それと――
「……あまり、無茶はしないでほしい、です」
「ごめんな。でも、俺はどうにかして白面金毛を倒したいんだよ」
だってそれは――
俺は、胸のうちに秘めた思いを、改めて噛みしめる。
そして、ミホノに答えた。
「だから、力を貸してほしい。無茶じゃなくなるように、ミホノの力を」
「……セオ様、ずるい、です」
むくれるミホノの頭を撫でながら、俺は告げる。
「――だから、白面金毛を倒しに行こう」
その言葉に、ミホノは俺の体をぎゅっと抱きしめることで、答えた。
次回「白面討伐RTA」、よろしくお願いします。